【逆説の日本史】「シベリア出兵」が多くの日本人にとって「影が薄い」のはなぜか?
NEWSポストセブン / 2024年10月31日 11時15分
アメリカでも南北戦争という内乱があったが、もし北部と南部の間にウラル山脈のような天然の障害があったら、話はかなり違っていただろう。戦争はもっと長引いたかもしれない。一方、この「ロシア内戦」は日本人にとってこんなに都合のいい話は無い。日本人は天皇家を戴く体制であり、イデオロギー的には白軍におおいに近い。しかも、幸いにして日本寄りのバイカル湖以東に主に展開するのは赤軍では無く、白軍である。ならば、白軍に軍事的に肩入れする形でロシア帝国の「再興」に協力すればいい。
こうして恩を売っておいて、日本の盟友となった「新ロシア帝国」から、その代償として北樺太およびウラジオストクのある沿海州を獲得すればいい。そうすれば、日本の防衛は万全になる。おわかりだろう。当時の日本人の気持ちになって考えれば、あの元老井上馨が第一次世界大戦勃発のときに「天佑!」と叫んだように、ロシア革命いや内乱はまさに「天佑」だったのである。
さすがにバイカル湖以東を日本がすべて領有することは不可能にしても、この形なら日本の西隣に盟友としての「新ロシア帝国」が誕生するわけだから、日本は二つの防壁(沿海州と新ロシア帝国)によって守られることになる。しかし、ここで読者は大きな疑問を抱くだろう。なぜ、現在の日本人はシベリア出兵に対する認識がこれほど薄いのかと。ここで冒頭述べたことを思い出していただきたい。
私は、「『見果てぬ夢』が叶うかもしれないと思ったからこそ、日本人は狂喜乱舞したのである。しかし、『狂喜乱舞したと言うが、そんな「痕跡」は無い』という反論が返ってくるかもしれない。たしかに『痕跡』は残されていないのだが、それにはちゃんとした理由がある」と述べた。
いまこそ、その理由を述べよう。このような見方を現代の歴史学者は否定する。その理由は、おわかりだろう。史料絶対主義である。たとえば、ロシア革命勃発のころに有力政治家が「天佑」などと叫んだ事実は無い(史料で裏付けられない歴史上の事実は無い)、という言い方である。こうした考え方がいかに幼稚で歴史の事実を追究するのに障害となる考え方であるか何度も指摘したが、その史料絶対主義の弊害が如実に表れているのが、この「シベリア出兵」なのである。
まず、井上馨の「天佑」発言がなぜいまも伝えられているのか考えてみよう。それは結局、井上馨がそのことを妨害しなかったということなのである。つまり、なんらかの拍子で「天佑」とつぶやいてしまい、それを誰かに聞かれてマズかったという状況であったら、元老という大権力者である井上馨はその事実を抹殺しようとしたはずなのである。難しいことでは無い。このことは豊臣秀吉の「朝鮮出兵」のところでも指摘した。
この記事に関連するニュース
-
脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員が従軍経験者
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月30日 19時56分
-
【逆説の日本史】「天皇信仰」がもたらした「野蛮にして極悪」なソビエトに対する強い反感
NEWSポストセブン / 2024年10月24日 11時15分
-
日本で問われる「リーダーと国民の関係」【私の雑記帳】
財界オンライン / 2024年10月22日 11時30分
-
平均零下20度の極寒に15頭置き去りの南極越冬隊…生き残った兄弟犬「タロとジロ」奇跡の生還のその後
プレジデントオンライン / 2024年10月11日 10時15分
-
モンゴル出身者が感動した親日派中国教師の教え 先生が歴史の教科書を「これは全部ウソ」と否定
東洋経済オンライン / 2024年10月10日 19時30分
ランキング
-
1北朝鮮の弾道ミサイル 飛行時間は過去最長、飛行高度も過去最高 専門家「新型と言える」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年10月31日 16時27分
-
2米マラソン・オイル、テキサスで500人超削減へ コノコによる買収で
ロイター / 2024年10月31日 11時25分
-
3バイデン氏、トランプ氏支持者を「ごみ」呼ばわりか ハリス氏は距離置く
AFPBB News / 2024年10月31日 11時9分
-
4韓国、北朝鮮に新たな輸出規制 固体燃料型ミサイルの材料が対象
ロイター / 2024年10月31日 15時13分
-
5ドジャー・スタジアム近くでファンの一部が暴徒化か バス炎上との情報 目撃者「バスの内側から花火」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年10月31日 18時19分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください