【逆説の日本史】「シベリア出兵」が多くの日本人にとって「影が薄い」のはなぜか?
NEWSポストセブン / 2024年10月31日 11時15分
いまの歴史学者は、「朝鮮出兵には日本国中が反対した」などと言う。バカな話だ。いかにヒトラーのような絶対的独裁者でも、国民の大部分が反対する戦争を挙行するのは絶対に不可能だ。あたりまえの話だが、戦争は個人でやるものでは無い。豊臣秀吉のときも多くの国民が、少なくとも武士の大部分は戦争に賛成したのである。
では、なぜ賛成したかと言えば、「朝鮮出兵」つまり中国侵略が成功すれば大名や武士たちはもっと所領が増えるからだ。つまり成功すると思ったから、初めはみな秀吉についていった。しかし、結果は大失敗に終わった。となると人間はどうするかと言えば、たとえば「この戦は必ず勝てるから北京で百万石もらうんだ」と日記に書いた大名がいたとしたら、彼はその日記を必ず抹殺するだろう。
一万人に一人、いや百万人に一人ぐらいは子孫への教訓として残しておくという人間もいるかもしれないが、そんな殊勝な人間はきわめて少ない。誰だって子孫や後世の人間に「あの男はなんてバカだったんだ」と思われたくないから、証拠になる「史料」は廃棄してしまうのだ。
同じことで、井上馨の発言が伝えられているのは、結果的に日本軍がドイツ軍に勝って膠州湾を占領することができたからである。もしこの試みが失敗に終わっていたら、それを可能にした第一次世界大戦勃発を「天佑」と評した井上馨はバカだったということになるから、彼は全力を挙げてその発言を記録から抹殺したはずである。つまり、史料には残らないということだ。
冒頭に述べたように、「シベリア出兵」は惨めな失敗に終わった。となると、まさに現金なもので当初それを熱烈に支持していた人間も、まさに手のひら返しで「オレはもともと反対だった」などと言う。大ハシャギした人間であればあるほど、できるだけその事実を歴史から抹殺しようとする。つまり、具体的には証拠となる史料を消す。それが人間社会の常である。
だから歴史の研究は史料絶対主義ではダメで、まず「当時の人々の気持ちになって考える」ことが一番重要なのである。
(第1435回に続く)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。
※週刊ポスト2024年11月8・15日号
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