元銀行マン、エリート養成校をつくる【2】 -対談:IGS代表 福原正大×田原総一朗
プレジデントオンライン / 2013年12月8日 17時45分
福原正大 慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、バークレイズ・グローバル・インベスターズを経て、2010年、グローバルリーダーを育成するInstitution for a Global Society(IGS)設立。近著に『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』。
グローバル教育の必要性が叫ばれ、文科省も英語教育の早期化を推進。しかし、日本人が世界で活躍するためには、ほかにも足りないものがある。未来のグローバルリーダーを育てるIGS(Institution for a Global Society)の福原正大代表は、「答えが1つしかない問題ばかり解かせる教育が問題」と指摘する。日本の教育が抱える課題の深層に、田原氏が切り込んだ!
■自分の頭で考え、議論する
【田原】福原さんが教育を変えるための第一歩として取り組んでいるのが、IGSという学習塾です。生徒は何人ぐらいですか?
【福原】いま教室以外に、eラーニングやスカイプで受講する生徒を含めると、小中高校生で70名ほどです。
【田原】具体的に、どういう教育を?
【福原】1つはリーダー教育です。月に2回ぐらい、世界で活躍をされていらっしゃる日本の方にきていただいて話をしてもらいます。子どもたちにロールモデルを見せるのは、とても大事なことなので。それと私が先生になって哲学的な教育といいますか、子どもたちに自分の頭で考えて議論させる授業をしています。こうした授業が『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』という本にもなりました。今日も、この対談の後は授業です。
【田原】ちなみに今日のテーマは何?
【福原】今日は、「女性のキャリアにおいて、女性はどれぐらい自由があるのか」について議論する予定です。
【田原】それも面白いね。アメリカやヨーロッパの企業は、女性役員が十数%はいる。日本は1%程度しかいません。これはどうしてですか?
【福原】やはり日本の男尊女卑的なカルチャーが大きいのではないでしょうか。
【田原】男尊女卑かな? だって家へ帰れば、たいていはどこも奥さんのほうが偉いんだよ(笑)。
【福原】家庭では、そうですね。ただ、いまの役員の人たちが就職したころは、一般職と総合職に分かれていて、女性は総合職として採用されませんでした。そうしたカルチャーで育った人が上に残っているあいだは、難しいのかなと。
【田原】それはもったいないよね。僕は男性と女性を比べると、女性のほうが優秀だと思っています。女性は妊娠して出産できるけど、男性は空っぽでしょう。カマキリだって交尾の後はオスがメスに食べられるし、雪山で遭難しても、だいたい男は死んでしまう。女性のほうが強いんですよ。
【福原】じつは私たちのスクールの生徒も、女性のほうが多いです。彼女たちに理由を聞くと、「日本で働くと、女性というだけで不利になる可能性が高い。将来はフェアな世界的な企業で働きたいから、大学の時点から海外に出たい」と。
【田原】僕は、女性がどんどん海外に行くことに大いに賛成です。でも、優秀でやる気がある女性が次々に海外に行くと、日本はどうなるのだろう。
【福原】そこは楽観しています。私が海外留学したときも、日本を出てはじめて気づいた日本のいいところがたくさんありました。たとえば安全であることや、個人よりも集団を思いやる気持ちは本当に居心地がいいですし、四季にもとづいたきめこまやかな美意識もすばらしい。海外に行った女性たちは、海外で暮らすことでそれに気づき、また戻ってきてくれると思います。
■教員免許のない人が教えられる仕組みを
【田原】話を戻します。福原さんはIGSを通してグローバルリーダーを育てたいと言います。どうすれば本当のエリートを育てられますか。
【福原】まずは、答えが1つで5択から正解を選ぶというような大学入試を変えることからでしょう。具体的にはぜんぶ論述式にして、さらにテストを一発勝負ではなく、中学、高校時代に何をやったのかという積み重ねをすべて評価するような仕組みに変えていく。それによって現場も変わっていくかと。
【田原】ただ、仕組みを変えると現場の教師がついていけないという話もあります。かつてのゆとり教育が批判されていますが、狙いはよかったと僕は思う。総合学習の時間で生徒たちに主体的に学ばせるのだから、1つの答えを教える勉強よりずっといい。でも、小学生がパソコンを使って自分でいろいろ調べたりすると、教師のほうがついていけない。入試の仕組みを変えるだけだと、また同じことが起きる可能性もある。これはどうすればいい?
【福原】教師がなかなか変われないのであれば、教える人を教員免許を持っている人に限らなくてもいいのではないでしょうか。たとえば企業を定年退職した人や、子育てのために主婦になっている人が自分の得意分野について子どもたちと一緒に考えてあげるような環境ができれば、答えが1つだという教育も変わっていくはずです。
【田原】でも現状は、免許のない人は授業ができない。そこを変えるアプローチはしているのですか。
【福原】文部科学省の方々は入試制度の問題点や教員の質の問題に気がついていますし、実際に変えようとしているキャリアの方を何名か知っています。
ただ、仕組みが変わったら対応できないだろうという先生たちが何割かいらっしゃる。そこのバランスが変わっていかないと、難しいかもしれません。
■目指すは教育を通したコミュニティづくり
【田原】僕は、杉並の和田中学で民間人校長をやった藤原和博さんをとっても尊敬しています。彼はフランスの試験みたいに、「自殺はいいか悪いか」「親が離婚するのはいいか悪いか」といったテーマで子どもたちにディスカッションさせた。すると、子どもたちだけじゃなくて親も興味を持って参加しはじめたんです。公立学校の崩壊は地域の崩壊から始まるのですが、藤原さんは逆に学校から地域をつくっていったんだよね。こういう取り組みがもっと広がっていけば、世の中は面白くなると思う。
【福原】じつは私たちが目指しているのも、教育を通したコミュニティづくりです。私たちは、コミュニティをつくれるリーダーを育てるだけでなく、ここで学んだ子どもたちや、世界で活躍している日本人の子どもたちを含めたIGSのコミュニティというものをつくっていきたい。藤原さんや私たちの動きでかつてのコミュニティが再生されたり、新しいコミュニティが生まれたりすると、日本も元気になるのではないかと。
【田原】教育は、コミュニティづくりのきっかけになると。
【福原】アメリカのリベラルアーツカレッジを訪問したときに、ある学長さんが「コミュニティをつくれる人間を育てることが、大学のあるべき姿だ」と話していて、非常に印象に残りました。コミュニティは上から与えられるものではなく、一人一人が教育を通して考え、つくっていくものだと思います。
【田原】コミュニティは「公共」と言い換えてもいいですよね。民主党は「新しい公共」と言って結局できなかったけど、福原さんたちの活動には期待しています。頑張ってください。
■田原総一朗が見た福原正大の素顔
福原さんはもともと外資系の金融機関にいたが、会社を辞めて自分のスクールをつくった。金融業界にいればリッチな生活を送れたはずだが、その道をあっさり捨てて、次世代を担う子どもたちに向けて教育を行っている。
じつは最近、福原さんのように理想の学校をつくる若い人が増えている。背景には日本の教育への不満や不安があるのだろう。日本の学校では、正解のある問題の解き方をひたすら教える。一方、欧米では正解が複数ある問題や答えのない問題を出して、生徒に自由に討論させる。それによってコミュニケーションや発想力を養っていくわけだ。福原さんも、こうした違いに危機感を抱いて独自のスクールをつくった。ぜひ成功させてほしい。
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1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、バークレイズ・グローバル・インベスターズを経て、2010年、グローバルリーダーを育成するInstitution for a Global Society(IGS)設立。近著に『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』。
田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。活字と放送の両メディアで評論活動を続けている。『塀の上を走れ』『人を惹きつける新しいリーダーの条件』など著書多数。
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(IGS代表 福原 正大、ジャーナリスト 田原 総一朗 村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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