セクハラ通報される管理職の「手と口」
プレジデントオンライン / 2018年4月27日 9時15分
■メガバンクや外資系は「女性部下と1対1で飲む」でアウト
テレビ朝日の女性記者に対するセクハラ問題で財務省の福田淳一事務次官(58)が辞任した。官庁のセクハラ体質の根深さに今さらながら驚きを禁じ得ない。
民間企業では、男女雇用機会均等法の定めるセクハラ指針に基づいて管理職に対しセクハラ防止研修が定期的に開催されている。
もちろん、公務員も同じだ。
人事院規則によると「各省各庁の長は、セクシュアル・ハラスメントの防止等を図るため、職員に対し、必要な研修等を実施しなければならない」と定めている。
今回は、研修を指示する長たる事務次官がセクハラ行為に及んだとされる。そう考えると、その下の管理職にまでセクハラ防止が徹底されていたとはとても思えない。ましてや、局長や次官クラスは民間企業でいえば役員に相当するような重職である。民間企業ではセクハラ疑惑でも命取りになるのが普通だ。
▼「役員は1回でも解任されます」
IT企業の人事部長はこう語る。
「セクハラのレベルにもよりますが、まずアウトでしょう。本人がそうと意識しないでセクハラまがいの発言をした場合、一般社員の場合は1回ぐらいは大目に見ても、スリーストライク、3回もやったら完全にアウト。懲戒処分は免れません。特に役員には厳しく、1回で解任されることもあり得ます。役員がセクハラ問題を起こせば、対外的に会社の信用を失墜させるだけでなく、株主から経営者の任命責任も問われますから」
もちろん役員昇進を検討する際にも、「セクハラがあったかどうか」は重要なチェック項目だ。とりわけ外資系企業は厳しいようだ。外資系医療機器メーカーの人事担当役員はこう指摘する。
「役員候補者は必ず“身体検査”をしています。過去の懲戒歴をさかのぼってチェックし、過去にセクハラ問題など女性に関する不祥事を起こしていれば候補者から外します。男女関係のウワサは社内調査の対象ですし、そこで疑惑がのぼればやはり候補者から外します」
■2次会、3次会で女性部下と1対1になる可能性
セクハラ研修で常に言われる禁止事項が、「上司と部下との1対1の飲み会」だ。上司が部下の仕事上の相談に乗ること自体は問題ではないし、むしろ推奨されるべきだが、そこにアルコールが入るとトラブルの原因になる。
IT企業の人事部長はその理由についてこう語る。
「異性の部下との1対1での飲み会禁止は今では企業の常識です。管理職のコンプライアンス研修でも繰り返し、そのことは伝えています。1対1で飲みに行った場合、たとえ何もなくてもセクハラを訴えられれば抗弁できません。リスク管理の観点からも飲みに行くのはよくありません。部下の相談に乗るのであればランチ程度に控えるように指導しています」
日本企業でも銀行は、異性との1対1の飲み会に厳しいようだ。大手メガバンクの元人事課長は「出世にも響く」と指摘する。
「部下の女性と飲みに行くことは、銀行では完全にアウトです。もし2人でいるところを別の社員に見られれば、すぐにウワサのネタになりますし、そのウワサは人事の耳にも届くでしょう。そうなれば管理職として脇が甘いと判断され、昇進は見送られます。セクハラ行為があったかどうかではなく、そうしたリスク行為をすることがマイナス評価されるのです」
▼「もう1軒」と誘う上司がセクハラ通報されやすい
いくらリスク管理とはいえ、何やら窮屈な感じもしないではない。もちろん上司と複数の女性の部下、あるいは複数の男女の部下との飲み会であれば特別に問題視されることはない。しかし、その場合でも注意が必要だ。1軒で終わるのであればいいが、2次会、3次会の流れで1対1になる可能性があるからだ。しかも酒量も相当増えている。
前出の外資系医療機器メーカーの人事担当役員はこう注意する。
「月に1回程度、社員の懲戒案件を裁いていますが、セクハラ事案のケースでは職場の2次会、3次会で上司と女性部下が1対1になって発生することが多い。上司も最初はおとなしくしていても、酒の量が増えるとつい気持ちが緩んで、『もう1軒行かないか』と誘うようです。その結果、女性社員から『セクハラをされた』との通報を受けます。上司本人は『覚えていない』などと言うのですが、一緒にいた事実が確認できればアウトです」
誰でも酒の量が増えるとどうしても言動が緩みがちになる。その勢いで女性の肩に手をかけたり、下ネタを口に出したりするのだろう。「キャバクラ通い」を趣味にしているような男性上司はかなり危ない。
■面倒見のいい上司とセクハラ上司の相関関係
筆者は長年、人事担当者に企業内のセクハラ案件の取材をしているが、セクハラをする人とパワハラをする人は似た傾向があると聞く。
大勢の前で部下を怒鳴り散らす上司ほど、相手の立場に立って考えようとしない。こうしたタイプの中には、仕事はできて、リーダー的な存在という人もいる。部下の面倒見がよいという場合もあるようだ。しかし、その本性はあくまで自分優先で、周りの迷惑を省みることはない。
取材先の花見に同席したとき、新入社員の女性に対して「君はかわいいね」とか「いつ結婚するのか」などとセクハラ発言を平気で言う上司がいた。周囲に聞くと、この上司は独善的で、部下がミスをすると徹底的に叱りつけるタイプだということで納得した。他人の気持ちに配慮することがないパワハラ因子を持つ人は、確実にセクハラ因子も持っている。
そのような「いじめっ子」の因子を持つ人はどこの職場にも存在する。だからこそパワハラ、セクハラは絶対に許さないという企業風土が大事になる。会社が厳しい態度で臨めば、パワハラ因子を持つ人も行動が抑制される。パワハラ因子をもつ人間は、強い者には従いやすいからだ。
新入社員が入社し、研修を終えて各職場に配属される頃だ。歓迎会を開催するところも多いと思うが、今年の新人は労働環境には極めて敏感な世代だ。酒を飲んでのパワハラやセクハラまがいの発言にはくれぐれも注意が必要だろう。
(ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)
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