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なぜ中国は"朝鮮戦争の終結"にこだわるか

プレジデントオンライン / 2018年5月22日 9時15分

中国は北朝鮮という「防波堤」を必要としている――。1975年の訪中時、中国の毛沢東主席と握手する北朝鮮の金日成主席(写真=AFP/時事通信フォト)

韓国と北朝鮮が休戦状態である朝鮮戦争の「終結」に動きはじめた。その背景には北朝鮮に強い影響力をもつ中国の思惑があるとみられている。著述家の宇山卓栄氏は「中国は終戦協定をテコに半島への介入を強め、在韓米軍を朝鮮半島から追い出そうとしている」と分析する――。

■南北「終戦協定」協議は中国の好機

4月27日の南北首脳会談の共同宣言には、「朝鮮戦争を終結させるための協議を行う」との声明が盛り込まれました。これは、休戦状態である朝鮮戦争を終結させるということであり、法的な意味以外に、何の実質的な意味がないように見えます。

しかし、中国にとっては大きな意味があります。中国は終戦協定のための協議をテコに、半島への介入を強めてくるでしょう。このことに関し、中国の習近平主席は3月に電撃訪中した金正恩委員長に何らかの指示を与えたはずです。中国は朝鮮戦争という古いネタを再利用し、何を画策しているのでしょうか。

かつて中国は1950年からはじまる朝鮮戦争に介入し、北朝鮮を支援しました。中国にとって、アメリカの影響力が朝鮮半島に及ぶことは脅威です。中国はアメリカに対する「防波堤(緩衝地帯)」として、北朝鮮の存在を必要としていましたし、今もなお必要としています。

■朝鮮半島を中国に丸投げしたスターリン

国共内戦の末、1949年、毛沢東らにより中華人民共和国が建国されます。建国早々の中国には、朝鮮半島問題に介入する余裕などありませんでしたが、アメリカの影響力が朝鮮半島で拡大することは放置できません。この時、中国が朝鮮戦争に介入する唯一の重大な基準としたのが、アメリカの動向でした。

朝鮮戦争が起こる前、金日成は中国に参戦を依頼しています。毛沢東は条件付きで、参戦を認めます。その条件とは、「中国は鴨緑江に軍を配置するが、アメリカが38度線を越えなければ、中国は半島に干渉しない」(*1)というものでした。

第2次世界大戦後、朝鮮半島は北緯38度線を境に北部をソ連軍に、南部をアメリカ軍に分割占領されることになりました。朝鮮半島が米ソ両勢力の最前衛線となっており、本来ならば、半島でアメリカに立ち向かわなければならないのはソ連でした。

しかし、ソ連のスターリンの関心は東ヨーロッパに向けられていました。スターリンはアジアに触手を伸ばせば、アメリカが黙っていないということを理解しており、アメリカとの直接対決を避けるためにも、アジアには関わりたくないと考えていたのです。

毛沢東の中国が建国されたことで、スターリンは非常に喜び、厄介な朝鮮半島問題を中国に丸投げすることができると考えました。1950年2月、中ソ友好同盟相互援助条約を締結し、スターリンは毛沢東を矢面に立たせるよう仕向けました。

■金日成は嘘つきだと気づいていた毛沢東

北朝鮮の金日成が南進攻撃の承認を求めに、スターリンを訪問した時、スターリンは「中国が参戦するならば良い」という返事をしています。「中国と相談してくれ、自分は知らない」というのがスターリンの姿勢でした。

次に、金日成は中国を訪問して、中国参戦の承認を得ようとしました。毛沢東は朝鮮戦争に最初から積極介入しようとしていたとよく誤解されますが、実際には、この時、毛沢東は介入に慎重な姿勢を示しています。

金日成は「スターリンが南進を承認した」という嘘(うそ)を毛沢東に言っていましたが、中国は早々にモスクワに電報を打ち、ソ連の真意を確認していましたので、金日成の嘘を見抜き、信用できない相手だと思っていました。しかし、アメリカの脅威が半島で拡大することも見過ごせず、毛沢東は前述のように、「アメリカ軍が38度線を越えれば参戦する」と金日成に約束したのです。

こうして、金日成は条件を整え、1950年6月25日、韓国へ奇襲攻撃をかけ、朝鮮戦争を引き起こします。

■アメリカ軍の北進はないという大誤算

アメリカが38度線を越えるかどうか、そこが毛沢東にとっても大きな賭けでした。毛沢東は「アメリカは越えないだろう」と予測していました。建国間もない中国がアメリカと事を構えるのはあまりにも危険であり、アメリカも無謀なことをしないだろうという希望的な予測が先行していたのです。しかし、マッカーサーは毛沢東の予測を見事に裏切ります。

朝鮮戦争が勃発した当初、北朝鮮は快進撃を続け、半島南端の釜山まで占領する勢いでしたが、アメリカが介入して形勢が逆転。アメリカ軍と韓国軍を含む国連軍はソウルを奪還し、北朝鮮軍を38度線より北へ、押し返します。

本来、ここで戦争は終わるはずでしたが、韓国軍が単独暴走し、38度線を越えて北へ進撃しました。韓国の李承晩(イ・スンマン)大統領は北進統一を狙っており、軍に38度線を越え、平壌(ピョンヤン)を占領せよと指示していました。これに引きずられる形で、マッカーサー率いるアメリカ・国連軍も38度線を越えました。

中国は結局、軍事行動を取らざるを得なくなります。中国はアメリカとの全面衝突を避けるために、朝鮮への派遣軍を正規の「人民解放軍」とせず、私的な「義勇軍」としました。「義勇軍」はソ連から支給された最新鋭の武器で武装し、100万人規模の強大な軍隊でした。
「義勇軍」の奮闘で、最終的にアメリカを中心とする国連軍を38度線より南へ、押し返すことに成功します。

■中国は北朝鮮の核保有を是認する

北朝鮮は朝鮮戦争で多くの中国兵の血を流して、ようやく築き上げた「防波堤」です。中国はこの「防波堤」をどんなことをしても守ります。今日、中国が国際社会と協調して、北朝鮮に対し経済制裁をかけているのは、うわべだけのポーズであり、実際にはズブズブの関係が続いていると見るべきです。

北朝鮮はこうした状況を踏まえ、核開発を行い、最終的には、中国もそれを黙認せざるを得ないことをわかっています。核戦力は体制を維持するのに不可欠です。中国が北朝鮮という「防波堤」を必要としている限り、中国は北朝鮮の核保有を最終的には是認します。

4月の南北首脳会談後、中国は「環球時報」社説を通じて、「国際社会が北朝鮮に、核兵器が不要と実感させるような環境づくりをしなければならない」と表明しています。これは在韓米軍2万8500人が撤退するべきだということを暗に示しているものと思われます。中国は北朝鮮の暴走を制御するという名目で、極東アジアにおいて、大きな外交的プレゼンスを発揮しようとしています。

■文在寅は「在韓米軍撤退」に動くのか

中国は、「朝鮮戦争が終結すれば、在韓米軍がとどまる根拠が失われる」とするロジックをアメリカ側に押し付けてくる可能性があります。中国にとって、半島におけるアメリカ軍の脅威を取り除くことが朝鮮戦争時代からの一貫した国策であり、これについて譲歩することはありません。

どう転ぶかわからないのは、モンロー主義者のトランプ大統領でしょう。在外米軍の縮減は大統領の公約です。日本は警戒しておかなければなりません。

文在寅大統領は5月2日、「在韓米軍は韓米の同盟関係に関する問題であり、平和協定とは一切無関係」と述べ、仮に朝鮮戦争の終結が決まった場合でも、在韓米軍撤退にはつながらないとしました。一方、大統領府の統一外交安保特別補佐官は外交専門誌フォーリン・アフェアーズへの寄稿の中で、「平和協定が締結されれば、陸海空全ての米軍兵士の韓国駐留に疑問が生じる」と述べました。(*2)

文大統領の側近が、中国や北朝鮮の狙いに沿って発言しているという事実を踏まえ、文大統領の本音がどこにあるのか見極めるべきでしょう。

(*1)朱建栄『毛沢東の朝鮮戦争―中国が鴨緑江を渡るまで』(岩波現代文庫)2004年
(*2)文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官が4月30日に寄稿したアメリカの外交専門紙「フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)」の記事より

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宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『「民族」で読み解く世界史』(日本実業出版社)などがある。

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(著作家 宇山 卓栄 写真=AFP/時事通信フォト)

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