1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

日本人の9割は「歩き方」が間違っている

プレジデントオンライン / 2018年9月14日 9時15分

田中尚喜氏(理学療法士)

健康維持には適度な運動が必要といわれている。なかでもウォーキングは誰でも自分のペースで始められる手軽な運動として人気が高い。しかし、正しい歩き方に対する知識が不足していると、けがや運動器の障害を招くことになりかねない。正しい歩き方のコツとそのために必要な筋肉について、ノンフィクション作家のかじやますみこ氏が、理学療法士の田中尚喜氏に聞いた――。

※本稿は、かじやますみこ『人生100年、自分の足で歩く 寝たきりにならない方法教えます』(プレジデント社)の第2章「正しく歩けば寝たきりは防げる」の一部を再編集したものです。

■なぜ3歳ぐらいの子どもは「小股」で歩くのか

【かじやますみこ(ノンフィクション作家)】普段から、自分の歩き方について深く考えている人はあまりいないのではないでしょうか。そもそも「正しい歩き方」の何たるかを知らない人が大半だと思うのですが、わたしたちは「正しい歩き方」をしているでしょうか。

【田中尚喜(理学療法士)】日本人はもちろん、世界中のほとんどの人は、きちんと歩けていないと思いますよ。日本人の9割は、間違った歩行をしています。

【かじやま】えっ、世界中の人がダメなんですか。

【田中】はい。ヒマラヤ山脈やペルーのマチュピチュなど山岳地帯に住んでいる人たちを除けば、それ以外の人の歩き方は基本的におかしい。

【かじやま】具体的に、どこがおかしいのでしょう。

【田中】まず大股で歩いている。そこが根本的におかしい。歩幅を広くすると、足が地面に接地しているときに膝を伸ばし切ることができません。そのため膝が曲がってしまうのです。小股で歩くのが正しい歩き方だし、3歳くらいの子どもは、誰に教わるでもなく、そうやって歩いています。おそらく本能のままに歩くと小股になるのでしょう。

【かじやま】なぜでしょう。運動会の行進などで大股歩きを教わるからでしょうか。

【田中】教育も無関係とは言えないかもしれませんが、それ以上に影響しているのが、歩かなくてもすむ便利な生活環境です。「食事」と「睡眠」と「歩行」は、人間にとって必須の活動です。取りすぎはいけないけれど足りないのも問題がある。必須の活動ですから、本来、歩くことはエネルギーをそれほど消費せずに行うことができるはずです。日常生活で歩く機会が減ったために、現代人は歩くために使う筋肉が弱くなってしまった。歩行能力が衰えた結果、しっかりと歩くことができないし、歩くとすぐに疲れてしまうのです。

【かじやま】筋力が衰えているから、歩くとすぐに疲れる。疲れるからさらに歩かなくなって、ますます筋力が落ちる。悪循環ですね。

【田中】鴨長明の『方丈記』にも、「つねに歩(あり)き、つねに働くは、養生なるべし」とある。いつでも、どこでもできる活動が「歩行」であり、それが健康、長寿につながるのです。近年は、「歩かない」という傾向にますます拍車がかかっている気がします。人間の必須の活動として「食事」「睡眠」「歩行」の3つをあげましたが、「食事」「睡眠」とくれば「運動」だと思った人もいるかもしれません。でも、「運動」ではなく「歩行」だというところに注意してください。「運動」は、必須の活動である「歩行」の先にあるもの。ベースとなる「正しい歩行」もおぼつかないのに、それを飛び越して「運動」をするのは問題があるのです。

■大股で歩くことにまったく意味はない

【かじやま】多くの人は、「運動は身体にいい」と単純に思い込んでいる。そこが危険ですね。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Connel_Design)

【田中】実は、大股歩きが広まった背景に、ジョギングブームがあるのです。30年ほど前に、ジョギングで突然死する人が増えて社会問題になったのをご存じですか。それを機に「ジョギングは危険だ」という認識が広まったけれど、運動をまったくしないのも健康によくない。そこで、「ウォーキングというムーブメントをつくろう」という機運が生まれたのです。

そのとき「正しい歩き方」とされたのが、広い歩幅で腕を振って歩くこと。着地するときはかかとから、そして、つま先で蹴り上げて前に進むことが推奨され、以降、「大股で歩くことが正しい」とされてしまった。

【かじやま】確かに最近のウォーキングの本にも、「できるだけ大股で歩きましょう」なんて書いてありますね。

【田中】これは日本だけの傾向ではなく、今や世界中に広まっているのです。しかし、大股で歩くことにまったく意味はない、というのがわたしの意見です。

その理由を説明しましょう。筋肉の分類方法のひとつに、筋線維の収縮のし方に着目して、瞬発力のある「速筋」と、持久力のある「遅筋」に分ける、という考え方があります。速筋は身体の表面に多く存在し、すばやく収縮することができますが、疲れやすく、筋肉痛の原因にもなりやすい。一方、遅筋は身体の奥に多く、収縮はゆっくりですが、疲れにくい“省エネタイプ”の筋肉です。

「立つ」「歩く」「坐る」といった日常の動作に必要なのは、遅筋を中心とする筋肉です。つまり、中高年の場合、速筋ではなく、身体の奥にある遅筋を主に鍛えたほうがいい。それが、死ぬまで自分の足で歩き、健康寿命を延ばすことにつながります。

ところが大股歩きでは、(ももの裏側にある)ハムストリングスなど速筋を中心とした筋肉が使われる。速筋は疲れやすく、肉離れを起こしやすい。わざわざ大股歩きをして速筋を使うメリットはないのです。

【かじやま】肉離れを起こしたら、歩くことがさらに嫌になってしまいます。ロコモ対策としても逆効果かもしれません。

【田中】もちろん、姿勢もよくありません。立ったときに、重心が左右の足の中心に落ちるように、また、横から見ると、耳のうしろ、肩、膝の皿のうしろ、そしてくるぶしが一直線上になることが重要ですが、この姿勢を保つには小股で膝を伸ばして歩くことが基本です。歩幅を大きくすると、姿勢が崩れ、歩き方もおかしくなってしまう。姿勢と歩行は表裏一体。正しい姿勢は正しい歩き方の前提条件なのです。

■胸より肋骨のほうが前に出ていることの危険性

【かじやま】姿勢といえば、リハビリに通っていたときに、胸を開いて体幹を意識しお尻にギュッと力を入れて立つことを教えてもらいました。そうすると、まっすぐな姿勢になりますね。

【田中】おしりの筋肉である大臀筋を意識することは正しい立ち方のポイントです。大臀筋は立つときに姿勢を支えるだけでなく、歩くときにも非常に重要な役割を果たします。加齢や歩行不足などでこの大臀筋が衰えると、骨盤が前傾するなど姿勢が崩れてくる。姿勢が崩れると、横から見たとき、胸より肋骨のほうがせり出してしまうこともある。特に若い人にはそういう姿勢の人が増えています。

【かじやま】女性でも、胸より肋骨のほうが前に出ているのですか。なぜ、そんな姿勢になってしまうのでしょう。

【田中】歩行不良や運動不足で筋力が落ち、身体のバランスが崩れるからです。骨盤が過度に前傾すると、背中が反って肋骨が開き、前に飛び出してしまう。逆に、骨盤が後傾して、猫背になる人も多いですね。

【かじやま】姿勢が崩れると、腰痛や膝痛、肩こりにもつながりますね。

【田中】そのとおりです。ロコモの危険性が高まるのはもちろん、お腹がぽっこり出るなど、体形も崩れます。代謝が悪くなって生活習慣病のリスクが高まるほか、冷え症になったり、疲れやすくなったりと、身体にさまざまな悪影響が出るのです。

■大臀筋、大内転筋、ヒラメ筋を鍛える

【かじやま】先ほど、遅筋と速筋の話が出ましたが、歩くときにはどんな筋肉が使われているのでしょう。100歳まで歩き続けるためには、どの筋肉を鍛えるべきなのか教えてください。

かじやますみこ『人生100年、自分の足で歩く 寝たきりにならない方法教えます』(プレジデント社)

【田中】歩くという動作は「支持」と「推進」で成り立っています。片方の脚に重心を載せて身体を支え、もう一方の脚で後ろから前へと重心を送り出して前に進める。さらに細かく言うと、後ろの脚の親指(母趾)の腹のあたりで地面を押して、重心を前方に送り出し(推進)、反対の脚で身体を支える(支持)。すると、後ろの脚が振り子のように前に振り出され、かかとから着地する。このとき膝は伸びており、脚は身体よりも前に出ない。この動作を繰り返すことが、わたしの考える「正しい歩行」です。

歩行とは「重心を前に運ぶこと」であることを考えると、推進するという側面は非常に重要ですが、一方の脚が推進している間、支点としてしっかりと身体を支えるという役割も大切。その「推進」と「支持」の両方で、大臀筋が働いているのです。

くわしく言えば、「支持」では、大臀筋と内ももの筋肉である大内転筋が、「推進」では、大臀筋の上部線維とふくらはぎの奥にあるヒラメ筋が、主動作筋(推進力となる筋肉)として使われます。歩くために重要なのは、大臀筋、大内転筋、ヒラメ筋の三つの筋肉ですから、これらの筋肉を重点的にトレーニングしたほうがいい。1日5分程度でかまわないので、毎日続けることが肝心です。

----------

田中尚喜(たなか・なおき)
理学療法士(運動器専門理学療法士)
1969年、青森県生まれ。1987年、岩手リハビリテーション学院卒業後、89年、東京厚生年金病院(現・JCHO東京新宿メディカルセンター)リハビリテーション室勤務。94年、ローマ世界水泳選手権日本選手団チームトレーナーとして帯同。98年、法政大学第二経済学部卒業。2005年、技師長、14年よりJCHO東京新宿メディカルセンターリハビリテーション室リハビリテーション士長。『百歳まで歩く 正しく歩けば寿命は延びる!』は20万部のロングセラーに。その他『腰痛・下肢痛のための靴選びガイド~からだにあった正しい靴を履いていますか?』『図解 百歳まで歩く』など。


かじやますみこ(梶山寿子)

ノンフィクション作家、放送作家

神戸大学文学部卒業。ニューヨーク大学大学院で修士号取得。経営者、アーティストなどの評伝のほか、ソーシャルビジネス、女性の生き方・働き方、教育など幅広いテーマに取り組む。主著に、自らのリハビリ体験をもとにした『長く働けるからだをつくる ビジネススキルより大切な「立つ」「歩く」「坐る」の基本』のほか、『トップ・プロデューサーの仕事術』『鈴木敏夫のジブリマジック』『紀州のエジソンの女房』『35歳までに知っておきたい最幸の働き方』『そこに音楽があった 楽都仙台と東日本大震災』などがある。

----------

(理学療法士(運動器専門理学療法士) 田中 尚喜、ノンフィクション作家、放送作家 かじやますみこ 写真=iStock.com)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください