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シリコンバレーで成功に一番近い日本企業

プレジデントオンライン / 2019年2月1日 9時15分

大企業とベンチャーがサービスを競う 新興企業との協業や買収で新サービスを拡大する欧米企業。フォードはMotivateと提携し、自転車シェアサービスの展開を進める(上)。また、通勤乗り合いバスのChariotも買収(下右)。Uberは「JUMP Bikes」を買収した(下左)。ボルボと自動運転の開発も進める(下中)。

日本の大企業が新技術を求め、米国シリコンバレーに続々と拠点を開設している。研究開発に加え、豊富な資金を元にスタートアップ企業への投資も拡大中だ。果たして、日本企業の取り組みは現地の投資家や企業から、どのように見られているのか──。

■ベンチャー買収で、成長し続ける5大テック企業

――かつては自前主義だった日本の大企業も、近年新技術を求めて、スタートアップへの投資を積極的に行うようになりました。シリコンバレーにCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の拠点を置く企業も増えています。この流れをどのように見ていますか。

大企業がベンチャーと組むのは、歴史の必然です。米国の株式時価総額ランキングトップ10のうち、アップル、アルファベット(グーグル)、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトと、5社は45年前にはなかった企業です。では、これらの会社はどうやって成長してきたのか。それはスタートアップの買収です。たとえばユーチューブはグーグルが買って大きくなった。つまりテック系のベンチャーがスタートアップを買うことで成長を遂げてきたわけです。

この動きは、ベンチャーだけのものではありません。たとえば米国の製造業でシンボル的な存在であるGMは、27歳の若者がつくった自動運転の会社を約1000億円で買いました。また、ユニリーバも、ひげ剃りのEコマースの会社を約1000億円で買った。テック系ベンチャーのやり方を見て、アメリカやヨーロッパの既存の大企業もやり方を変えたのです。

同じことは日本企業でも起きています。変革のスピードがゆっくりなのでなかなか目立ちませんでしたが、ここにきてようやくシリコンバレー進出の動きが活発になってきたと感じています。

――日本のCVCのシリコンバレー進出が一種のブームになっている印象もあります。今後もブームは続くでしょうか。

残念ながら2018年後半から19年にかけて撤退するCVCが相次ぐでしょう。ベンチャーへの投資は波があります。2001年にネットバブルの崩壊があって、逆に08年のリーマンショックではシリコンバレーからもさっと資金が引きました。直近でいうとピークは15年で、ネットバブル以降で最大の投資額を記録しました。いまはその過熱感からは減速気味ですが、日本のCVCはちょうどそのタイミングでシリコンバレーにやってきた。成果が出ず、「無駄な投資はやめよう」と見直しするところが増えるのではないでしょうか。

――いま進出、加速するのは得策ではない?

ベンチャーが失速したからといって、ネットで買い物をしていた人たちが百貨店に戻ることは考えにくい。遅かれ早かれ変化は起きるのですから、時期が悪くてもやり続けるべきです。もともとベンチャー投資は失敗のほうが多い世界。投資を長いゲームとしてとらえて、失敗を重ねつつもレッスンとして学ぶ企業が最後には成功するはずです。

■成功する会社と失敗する会社の見極め方

――失敗を前提にしなければいけないというと、尻込みする会社も多そうです。

シリコンバレーの中心、スタンフォード大学 起業家だけでなく、エンジニアの供給源にもなっているスタンフォード大学。大企業との共同研究やベンチャー企業支援を積極的に行う。広大なキャンパスの面積は、東京の杉並区とほぼ同じ。周囲にはVCが拠点を構え、次の巨大ベンチャーに投資しようと躍起になる。

失敗を織り込むことはCVC成功の条件の1つです。昔は商品開発に時間がかかったので、1度で成功することが求められました。しかし、いまは商品開発のスパンがものすごく短くなった。たとえばこの場で何かアイデアを思いついたら、1時間でアプリをつくれて販売もできる。失敗を恐れていては、とてもベンチャー投資はできません。

――シリコンバレーで日本のCVCが成功する条件は、ほかにもありますか。

外部の人材を活用することも重要です。いまビジネスのパラダイムはハードウエアからソフトウエアに移りつつあります。端的な例が自動車。いまはまだ「トヨタに乗っている」「ニッサンを買った」とメーカー名で語りますが、10年後には「ウーバーで来た」というようにサービス名で語る時代になります。こうした変化は、たとえるなら野球からサッカーにゲームが変わるようなもの。野球選手にサッカーをやれといってもできるはずがないので、外からサッカー選手を連れてくるべきです。

――現時点で成功の条件を満たしている日本の大企業はありますか。

注目しているのはトヨタです。2年前にTRIという研究所を1000億円の予算でつくり、トップには外部から著名なロボット研究者を連れてきた。それとは別に、17年100億円以上のファンドをつくり、投資をしています。ほかにはパナソニックや損保ジャパンもそれに近い動きをしている。実際に成功するかはわかりませんが、成功の法則に沿った動きをしていることはたしかです。

■大企業トップは「インスタ」を使っているか

――成功の条件を満たす会社と、そうでない会社はどこが違うのでしょうか。

スクラムベンチャーズ 創業者兼ゼネラルパートナー 宮田拓弥氏

トップ次第でしょう。CVCを成功させたければ、10億~50億円の投資ではダメ。企業規模にもよりますが、トヨタのように100億~1000億円の予算はほしいところです。このレベルの変革は、トップの決断が必要になります。

残念ながら、現時点でその決断ができるトップは多くありません。日本の大企業は足元の業績が悪くないので、危機感が薄いのです。ガラケーがスマホに代わってシャープの業績が急降下したように、いま業績のいい会社も5~10年後には滑り落ちるおそれがある。トップが危機感を持っていれば、もっと本気で取り組むのではないかと思っています。

――パラダイムシフトが起きていることはみなさん理解しているはずです。それなのに、どうして危機感を持てないのでしょうか。

新しいサービスを自分で使っていないというのが大きいかもしれません。アメリカのトップ10に入っているサービスを使った経験があるかどうかを大企業の経営者に聞いてみたら、せいぜいグーグルで検索して、iPhoneを使っている程度ではないでしょうか。おそらくインスタグラムのアカウントはないし、アマゾンのAWSにいたっては存在すら知らないかもしれない。それではパラダイムシフトが起きていることをリアルに感じられない。

――シリコンバレーのスタートアップから見て、日本のCVCはどのように映っていますか。

基本的には魅力的な相手だと思っていますよ。ただ、日米でビジネスのロジックやカルチャーがあまりに違うため、一緒に仕事はしづらいとも考えています。たとえば米国だと初回のミーティングは電話会議。移動のコストがかかるから、意味のあるときしか会いません。一方、日本は顔合わせでも1時間のアポを取って実際に訪問します。そうした作法の違いがわかっていないと、シリコンバレーの起業家たちからは煙たがられてしまう。CVC成功の条件として外部人材の活用をあげましたが、とくにシリコンバレーの作法を心得ている外国人の登用は必須でしょう。

■過去の取引実績を求める時点で出遅れている

――将来性の高いスタートアップには世界中から多くの投資が集中します。その中で日本のCVCは、どのように存在感を発揮していけばいいでしょうか。

アピールする以前に、将来性豊かなスタートアップと出合えていないのが現実です。シリコンバレーはオープンなようでいて、じつはインサイダー(内側の人)にならないと有益な情報が回ってこない閉鎖的な世界です。魅力的な投資先と出合いたければ、まずインサイダーにならなくてはいけません。

最新機器が売られるガジェットショップ サンフランシスコにある最新ガジェットショップ「b8ta(ベータ)」。ベンチャー企業などがつくった商品が並ぶ。電動のスケートボードや、スマホと連動する電動歯ブラシ、手の動きに反応するスクリーンなど見たこともない商品に触れることができる。

ところが日本のCVCは、シリコンバレーに来ても日本人がいるところばかりにいってしまう。たとえば米国には有名なアクセラレーター(スタートアップ支援企業)がいくつかあります。トップはYコンビネーターで、日本の大学にたとえれば東大です。そこに入れなかった起業家は、テックスターズや500スタートアップスにいく。ここは早慶。そこにも漏れた起業家はMARCHクラスのアクセラレーターに落ち着きます。じつはMARCHクラスのアクセラレーターにとって、日本のCVCはいいお客様。居心地がいいから、日本のCVCはついそこに通ってしまいます。しかし、トップクラスの起業家には、なかなかそこで出会うことはできません。本当に優秀な起業家と出会いたければ、日本人がいないところにいかないとダメです。

――出会えたら、どうやって関係性をつくっていけばいいですか。

手を組みたいスタートアップの製品を使うことが大事です。スタートアップのピッチにいくと、「うちのサービスはグーグルで使われている」とアピールする会社が案外多い。有名な企業がファーストカスタマーになってくれたことは、彼らにとっていい宣伝材料なのです。一方、日本企業はスタートアップの製品をまず導入しません。どちらに親近感を覚えるかといったら、自社製品を使ってくれる会社のほうです。

アメリカのCVCは、自分もベンチャーのエコシステムの一員で、一緒に成長しようという意識が強い。だからまだ実績のないスタートアップの製品であっても、積極的に使おうとします。日本のCVCも、一緒にエコシステムをつくる意識を持ったほうがいいでしょう。

――宮田さんは大企業とベンチャーのかけ橋としてさまざまな取り組みをされています。日本の大企業の可能性について、どう考えていますか。

18年3月にパナソニックと「BeeEdge」を始めました。これは今日お話ししたことと逆のアプローチです。パナソニックは社内のR&Dにお金をかけていて、可能性を持った技術がたくさんある。ただ、それを外に出すノウハウに欠けています。そこで私たちと組んで、それらの技術を事業化するスタートアップに出資をします。また18年4月には任天堂と組んで、「Nintendo Switch」を活用した新たなテクノロジーを発掘するプログラム「Nintendo Switch+Tech」を始めました。ただ、両社のように、世界が注目する技術やサービスを持っている企業はそう多くない。基本的には会社の外にそれらを探しにいくことになるでしょう。

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宮田拓弥(みやた・たくや)
スクラムベンチャーズ 創業者兼ゼネラルパートナー
1972年、神奈川県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科薄膜材料工学修了後、日米でソフトウエア、モバイルなどのスタートアップを複数起業。事業をmixiに売却し、mixi America CEOを務める。2013年にサンフランシスコにスクラムベンチャーズを設立。これまでに40社を超えるスタートアップに投資する。2018年にはパナソニックと新事業を創出する新会社を設立、任天堂との共同プログラムも開始した。

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(スクラムベンチャーズ 創業者兼ゼネラルパートナー 宮田 拓弥 撮影=大槻純一、プレジデント編集部)

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