"男好き"と嗤われる泌尿器科女医の無念
プレジデントオンライン / 2018年11月16日 8時45分
※本稿は、『プレジデントFamily 医学部進学大百科2019完全保存版』の記事の一部を再編集したものです。
■大学病院の知名度が高い医師から偉そうな態度をされる
雑誌「プレジデントFamily」編集部は2018年9月、40歳以下の現役医師600人(※男性485人、女性115人、開業医を除く)を対象にアンケート調査を実施した。
【医師に直撃質問その1】
出身大学による“格差”を感じることはあるか?
その結果、出身大学の医学部について「満足しているか」とたずねたところ、卒業した大学に「満足している」「やや満足」と答えた医師は89.9%と高水準だった。
医学部受験は昔も今も狭き門。大学を選ぶ余裕はなく、アンケートのフリーアンサーでは「受かるところを受ける」という意見が多かった。せっかく合格をいただいた大学に自らケチをつける医師は少ないということだろう。
長年、医師専任キャリアコンサルタントを務めている中村正志氏は「大学の医局の力が強かった世代とは異なり、40歳以下は、初期研修先を選べて、出身大学の医局で研修しなくてもいい世代。しがらみがない分、母校の悪いイメージが少ない」。
母校愛あふれる若手医師だが、出身が「国公立大か私大か」「旧帝大か新設医大か」といった区分によってヒエラルキー(差別)を感じたことがあるかと尋ねると4割近くが「感じる」と答えた。
「学会などで他大出身の医師と交流する際、大学病院の知名度が高い医師から偉そうな態度を取られることもあり、ストレスがあると聞きます」(中村氏)
だから、「入学時の偏差値より、社会的知名度や認知度の高い大学がおすすめ」「関連病院が多い大学が得」といった声もあった。
■整形外科が最高、属する診療科で「満足度」が天と地
【医師に直撃質問その2】
現在担当する「診療科」に後悔はないか?
内科、外科、精神科……。現在、担当する診療科に「満足している」(「まあまあ満足」を含む)と答えた医師は96%だった。満足度の高さは診療科によって大きく異なり、満足率(「満足」の回答のみ)が最も高かったのは整形外科で、その後、眼科、総合診療科と続く。「整形外科や総合診療科は診療の幅が広いのも満足度が高い理由かもしれません」(中村氏)
例えば、整形外科。骨や関節、筋肉、神経など運動器の機能的改善を目的として治療する科だが、守備範囲は広く関節外科、リウマチ外科、スポーツ外科といった分野もカバー。ニーズの高いリハビリ科も分野としては近い。
診療科による良い点・悪い点はそれぞれだ。マイナーな診療科の一つの病理科は全診療科の知識を身につけられる一方、外勤先が少なく割のいいアルバイトが少ないという声も。
「他の医師に、『顕微鏡を見てばかりで汗をかいていない科だ』と言われるケースもあります」(中村氏)
では、「今後需要が伸びる診療科」は何か。ベスト3は内科、総合診療科、リハビリ科だった。
「高齢化で今後も内科や総合診療科、リハビリ科のニーズは高まる。特に、内科は医師の五感で、患者の疾病の原因を探る。AI(人工知能)が医療に導入されても、この分野は医師の診察力がものをいうのです」(中村氏)
■40歳以下の医師が遭遇した「コワい患者、ヤバい上司」
【医師に直撃質問その3】
モンスター患者やセクハラ、パワハラに遭遇するのか?
日に何十人もの患者を診ることもある医師。問題ありの患者に悩まされることも。モンスターペイシェント(患者)に遭遇した率は約6割に達した。例えば、こうした事例だ。
「睡眠剤を必要以上に要求してくる」(31歳、男性、内科)
「訴訟を起こして金をせびろうとする」(34歳、男性、整形外科)
「酔っ払った患者に殴られた」(33歳、男性、産婦人科)
「予約なのに待たされたと言って初診患者の親に襟元をつかまれてすごまれた」(39歳、男性、小児科)
「理不尽な言い分で入院費用を払わない」(33歳、男性、外科)
「上の医者の言うことしか聞かない。診察にならない」(37歳、女性、小児科)
「患者さんが亡くなった時、会ったことのない患者家族から何度も金銭を要求され恫喝を受けた」(40歳、男性、精神科)
また約35%が上司などからパワハラを受けた経験があるという。被害の内容は以下の通りだった。
「他の病院で働けなくすると言われた」(40歳、男性、内科)
「殴られた」(35歳、男性、泌尿器科)
「医局をやめたいと言ってもやめさせてくれない」(38歳、男性、整形外科)
「ありもしない男女関係の噂をまき散らされた」(32歳、女性、麻酔科)
「論文を書いたが理由なく投稿を反対された」(36歳、女性、形成外科)
「蹴られる。断れない仕事を押し付ける」(34歳、男性、整形外科)
「態度が気に入らないと手技、手法を私に教えるなと周りの医師に働きかける」(34歳、男性、皮膚科)
いずれも卑劣な行為だが、専門家はこう分析している。
「特に40代以上の医師は先輩から怒鳴られたり、時に嫌がらせのようなことをされたりしながら育ったので、自覚のないまま後輩に同じことをする可能性は高い。今も、命に関わる症状に直面することが多い外科系診療科にそうした体育会系カルチャーが強くあります」(中村氏)
■「泌尿器科を選択し、“男好き”と飲み会のたびに言われた」
セクハラはどうか。経験者は約8%だったが、男女別にみると女性の3割近くがセクハラの被害を報告している。
「中年女性の患者にお尻を触られた」(35歳、男性、脳神経外科)
「泌尿器科を選択したことを、“男好き”と飲み会のたびに言われた」(38歳、女性、泌尿器科)
「言葉や触られるなどは日常茶飯事」(39歳、女性、内科)
「上司から胸やお尻を触られた」(33歳、女性、内科)
「上司の発言が必要以上にセクハラ的」(34歳、女性、放射線科)
「泌尿器科を選択したことを、“男好き”と飲み会のたびに言われた」というコメントについては、医師としての見識を疑うが、診療科別に分類すると、泌尿器科の医師が最も被害に遭っていた。コメントのような事例は特殊ではないのかもしれない。
なお、東京医科大が入試で女子志願者を実質、一律減点した不祥事については、「理解できる(「ある程度理解できる」を含む)」が66%。ハードな病院での働き方が問題の根本にあるのかもしれない。(後編に続く)
※[調査に協力いただいた600人の医師が属する診療科の内訳]
内科32.5%(195人)/外科9.0%(54人)/整形外科7.5%(45人)/小児科7.3%(44人)精神科5.0%(30人)/麻酔科4.8%(29人)/放射線科4.3%(26人)/皮膚科3.3%(20人)/脳神経外科3.2%(19人)/眼科3.0%(18人)/泌尿器科3.0%(18人)/産婦人科2.3%(14人)/耳鼻咽喉科2.3%(14人)/総合診療科1.7%(10人)/病理科1.3%(8人)/救急科1.3%(8人)/形成外科0.8%(5人)/リハビリ科0.3%(2人)/その他6.8%(41人)
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(プレジデントFamily編集部 取材協力=医学部専門予備校YMS アンケート協力=m3.com)
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