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"戦後最長景気"でトクをしたのは誰なのか

プレジデントオンライン / 2019年1月20日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/stella_photo20)

日本の景気回復が戦後最長を更新しそうだ。だが国民の多くは景気のよさを実感できていない。なぜズレているのか。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「家計の支出は減っていて、街角景気もそれほどよくないが、インバウンド消費があったため、景気指標が上振れしている。消費増税が実行されれば、景気は後退する恐れがある」と指摘する――。

■「戦後最長の景気回復」でいったい誰が恩恵を受けたのか

2012年12月に始まった「景気回復」は昨年12月で73カ月目を迎えました。これを受け、茂木敏充経済財政・再生相は「戦後最長期間に並んだ可能性が高いとみられる」と語りました。

これまでの最長は、2002年2月から2007年2月までの73カ月間でした。今年1月まで成長が続くと、それを超え戦後最長となります。ただ、2002年~2007年にかけての景気と同様に、今回も多くの人は景気回復を実感できていないようです。その理由は成長率が1%程度と低いからでしょう。

このところ日経平均株価が大きく動いています。これは戦後最長となる景気拡大が、そろそろ終わりを迎えようとしているのでしょう。今後の動向には注意が必要です。

■そもそも何をもって「景気拡大」というのか

景気拡大の判断は、専門家を集めた政府の判定会議が行っています。多くの要素を加味した上で、景気の底(谷)とピーク(山)を判定しているのです。判定には1年以上の時間がかかり、実務的には、実質GDP(国内総生産)が2四半期連続でマイナスとなったときに、景気拡大は終わったと判断することが多くなっています。

GDPには名目と実質があります。名目は実額の国内で作りだされた付加価値(=売上高-仕入れ)の合計ですが、実質は、それを2011年の貨幣価値で調整したものをいいます。つまり、インフレやデフレを考慮した上での経済成長を見るのが実質GDP成長率です。

ここで2018年の実質GDPは、1-3月はマイナス1.3%。4-6月がプラス2.8%、7-9月がマイナス2.5%でした。10-12月の数字は2月半ばに発表されますが、多くのエコノミストはプラスになると予想しています。その場合、2四半期連続でマイナスとはなりませんから、先に説明したように2018年12月までは景気拡大が続いていると言われているのです。

GDPは四半期ごとに発表されますが、成長率の計算は、「前年同期比」ではなく「前四半期比年率換算」で行われます。前の四半期と比べるわけですから、前の四半期がマイナスだと、低いところからスタートするのでプラスになりやすいという傾向があります。逆に前四半期が伸びれば、次の四半期は伸びにくくなります。

景気拡大にも強弱があります。力強い景気拡大の場合には、プラスの成長が続くことが多くなります。一方、2018年のようにプラスとマイナスが入り混じる状況は、景気に力がなく、景気後退期に入る兆しだと理解されています。

■今回の景気拡大で儲けた人・企業とは

多くの人には実感がないようですが、今回の景気拡大期に、「しっかり儲けた人・企業」もいます。例えば、米国や中国など海外で活躍した企業です。

中国経済はここにきて減速傾向を鮮明にしていますが、それでも最近までは輸出や現地生産などで、利益を確保してきました。自動車メーカーやそれに付随する工作機械メーカー、そして、現地で店舗を展開する流通業も業績を確保してきました。さらには、それらの企業の国内での工場や機械設備などの設備投資や、東京オリンピック関連で恩恵を受ける建設業なども比較的調子が良かったと言えます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/lisegagne)

もうひとつ業績が良かったのはインバウンド関連です。少し指標を見てみると面白いことが見えてきます。

GDPの5割強を支えているのは、家計の支出(個人消費)ですが、これは、この長い景気拡大期でも、まったくさえませんでした。とくに消費税増税があった2014年度の落ち込みはひどく(実質でマイナス5.1%)、15年度、16年度もマイナスが続きました。この結果、8%から10%への消費税増税が2回延期されたのです。

17年度に入って、家計の支出はようやく0.2%とわずかにプラスになりましたが、18年度も前年比マイナスの月が多くなっています。繰り返しますが、GDPの5割強を家計の支出が支えており、それに力強さがないので、多くの人が成長を実感できないのです。

■訪日外国人によるインバウンド消費で潤った業界

一方、売る側の統計を見ると意外な事実が浮き彫りになります。「小売業売上額」の伸びを見ると、2014年度は消費税増税の影響で比較的大きなマイナスですが、15年度、16年度、17年度ともに個人消費の伸びの数字を上回っているのです。家計の支出は総じてマイナスなのに、なぜ小売業売上は上向いたのでしょうか。

その理由はとても興味深いものです。家計の支出には、小売り以外の通信費や教育費、医療費なども含まれます。このところ通信料金が下がっていますが、それも家計支出が減少した原因となっているのです。

もうひとつの原因は、「インバウンド消費」です。旅行者など訪日外国人が買うものは、日本に住む人の「家計」の支出には含まれませんが、小売業販売額には加算されます。訪日客の消費額は2017年で約4兆4000億円と言われており、日本経済に大きなインパクトがありました。

ただし、もうひとつの景気指標を見ると、違う側面が見えます。「全国百貨店売上高」です。2014年度は消費税増税の影響もあり、前年比マイナス4.6%と大きく落ち込みましたが(その前年度は駆け込み需要もありプラス4.0%)、2015年度はプラス1.8%と従来に比べても大きく上昇しました。これは、この頃に、インバウンド消費が急拡大したからです。百貨店では高級時計などが飛ぶように売れた時期です。

しかし、その後は、2016年度マイナス2.9%、2017年度プラス0.4%、2018年度は前年比で総じてマイナスです。これは、2015年度あたりから中国の経済状況が減速傾向を見せ、海外での人民元の売りが増えたことにより、中国政府が人民元防衛のために、外貨の持ち出し規制や関税の強化などを行ったためです。

それでも訪日外国人は、順調に増え続け、2018年にはとうとう3000万人を超えました。そのおかげもあり、東京や大阪だけでなく、京都や福岡、札幌などの地域では主に訪日客向けのホテルが次々と建設され、ホテル業界、建設業界も活況を呈しました。

■ほとんどの人の肌感覚は「景気はよくない」

また、高額品の売上は減少傾向ですが、ドラッグや化粧品は、リピートの訪日客が増えたことなどもあり、堅調に推移しました。こうしてインバウンド消費が小売業売上額を後押ししたのです。

しかし、米中貿易摩擦などにより、中国景気のさらなる減速傾向は鮮明で、訪日客の伸びや消費に急ブレーキがかかる懸念もあります。また、活況を呈しているように見えるインバウンド消費ですが、その恩恵を受けているのはごく一部だからでしょうか、内閣府が毎月発表している「景気ウォッチャー調査(街角景気)」を見ると、実際に現場で働いている人たちの景況感はそれほど良くはありません。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/UygarGeographic)

この調査は、タクシーの運転者さんやホテルのフロントマン、小売店の店頭にいる人など、景気の状況を敏感に感じる人への調査で、「50」が良いか悪いかの分かれ目なのですが、直近も含めて、ここ数年間は「50」を切る月が多かったのです。とくに2016年は「40」程度まで落ちたことがあり、2017年は年末にかけて少し持ち直しましたが、2018年の1年間でも、「50」を超えている月は11月だけしかありません。12月も「48」という状況です。結局のところ、ほとんどの人の肌感覚での景気はそれほど良くないということなのでしょう。

■消費税増税は景気にどのような影響を与えるか

今年10月に消費税率が2%上がります。2014年4月の増税時には、個人消費が先ほども述べたように、大きく落ち込み、その後もマイナスが続きました。今回はその轍を踏まないように、ポイント還元などで景気刺激策を行う予定ですが、全体の景気が危うい中で、果たして増税を行うべきでしょうか。

消費税増税には、当然、政治的な思惑も絡みます。安倍晋三首相が政治家として、また総理大臣在任時に最も行いたいことは消費税増税ではなく、憲法改正です。今の通常国会での憲法改正議論は先送りしましたが、4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙を乗り越えれば、首相は一気に憲法改正に動くでしょう。野党が弱体化しているので、場合によっては衆議院との同時選挙の可能性もありますが、いずれにしても選挙を乗り越えれば、一気に憲法改正へと向かうと考えられます。

そうした中での10月の消費税増税。景気が悪化する中、消費税の増税を行うことは、国民の反発も強いでしょうし、憲法改正にも影響が出ます。私は消費増税のさらなる延期もあってしかるべきなのではないかと思っています。いずれにしても、今年の景気は予断を許しません。これまで比較的景気が良かった業種でも、相当の注意が必要でしょう。

(経営コンサルタント 小宮 一慶 写真=iStock.com)

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