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花粉症予測を「600万カ所」で出せるワケ

プレジデントオンライン / 2019年3月15日 9時15分

「ポールンロボ」の概要。目の色で花粉の量を知らせる(画像提供=ウェザーニューズ)

■48.8%の人が悩む「花粉症」の対策とは

通勤電車の中や街を歩くと、マスク姿で表情がさえない人が目立つ。この時期なので多くは「花粉症患者」だろう。関東・関西地方のスギ花粉ピークは3月上旬といわれたが、スギ花粉の後は、ヒノキ花粉の飛散が増え、5月上旬まで花粉症の人にはつらい日々が続く。

花粉症の患者数は正確なデータが少ないが、2017年12月に東京都が発表した数値では、都内の「スギ花粉有病率は推計48.8%」だった(平成28年度・花粉症患者実態報告書)。

各業界では「予防用のマスク」や「花粉症に効くといわれる食品」などの開発が進む。気象情報大手のウェザーニューズ(以下WN社。コンテンツ名は「ウェザーニュース」)からも新商品が登場した。

■約1000カ所で「飛散量」を測定

「ポールンロボ」という、ヒトの顔を模したIoTの円形ロボットがある。

WN社が開発した花粉観測機で現在7代目。2005年に初代を開発して以来、代を重ねるごとに性能は進化した。2019年に本格稼働した最新型では、専用アプリを使えば1時間ごとの飛散量が計測できる。ロボの目の色が、花粉の量によって5段階に変化するのも特徴だ。

「現在は全国で約1000カ所に設置され、計測結果は当社のサーバーに1分ごとに送られます。ポールンロボを設置される方を“さとおや”と呼んでいますが、北は北海道から南は鹿児島県まで。一般家庭、企業もあれば、学校や医療機関もあります」

ウェザーニューズの執行役員(BtoS事業コンテンツ運営主責任者)の森田清輝氏はこう話す。もともと宮城県石巻市出身で、祖父が漁業関係者。少年時代から海の状況など気象情報に興味を持ったという。入社以来、気象情報のコンテンツ設計・製作に携わり、同社が放送する「ウェザーニュースLiVE」のお天気キャスターも務めた。

ウェザーニューズの森田清輝氏。同社執行役員でBtoS事業コンテンツ運営主責任者を務める(撮影=プレジデントオンライン編集部)

「ポールンロボを置いてくださる方には条件があり、花粉症であることもその1つです。さとおやの中には、耳鼻咽喉科医院もあります。生活圏内の花粉飛散量を知ることで、患者さんの診療につなげる側面もあるのでしょう」(森田氏)

ちなみに場所代・設置代・通信費は自己負担だという。実は、同社の強みは全国各地にいる“サポーター”だ。これまでも「雲の様子」などを送信してもらいデータ蓄積を続けてきた。

■ポールンロボの情報をもとに細かな予測を提供

アプリ「ウェザーニュースタッチ」の「花粉Ch.」のイメージ図(画像提供=ウェザーニューズ)

一般の人は、どのように「花粉情報」を知ることができるのか。

たとえばWN社のアプリ「ウェザーニュースタッチ」に会員登録し、スマホにアプリをダウンロードすれば、詳細な情報を知ることができる。無料会員と有料会員があり、サービス機能は異なるが、無料会員もダウンロード後に「メニュー」→「自然・季節」にある「花粉Ch.」(花粉チャンネル)にアクセスすれば、同社提供の「花粉情報」が見られる。

「花粉情報」のトップ画面は日本地図で、札幌、仙台、新潟など全国10の主要都市だが、「マイタウン」を設定すれば、東京都なら都内23区、都下の市・町・村、大島や三宅島などの島しょ部の設定も可能だ。

自宅や勤務先の場所を設定するのが一般的だが、出張先や旅行先を「マイタウン設定」して花粉情報を把握することもできる。この「設定」は簡単に変えられ、外出前に変更もできる。

■38万カ所だった予測エリアが600万カ所に

情報環境の変化に伴い、花粉観測の手法もかなり進化した。

「従来の花粉の計測方法は、ガラス板に付着した花粉を顕微鏡で数える『ダーラム法』と呼ぶやり方でした。私も神経を使いながら、採取した経験があります。それがデータ採取も一括操作できるようになり、手法も進化していったのです」(森田氏)

この間の通信環境の進化も大きいようだ。たとえば、以前は無線LANを使用していたが、現機種は通信モジュール「SORACOM(ソラコム)」を活用して無線LANを使わずにすむ。通信費も2005年に比べれば驚くほど安くなった。

昨年11月にも「ポールンロボ」設置者を新たに公募しており(現在は終了)、観測地点も2005年の約10倍。そもそも観測地点を広げる必要はあるのだろうか。

「現在の気象は、局地的なゲリラ雷雨など狭い地域で起きることも増えました。また、人間の活動する時間帯や移動距離も広がり、気象情報ニーズは十人十色。同じ人でも、日によって欲しい情報も変わります。そうした詳細な予測にはデータの多さが必要で、多い方がよいのです。ただし、ヒトの目で直接観測することは少なくなり、データ収集はロボットが担う時代となってきました」(同)

250mメッシュのイメージ図。エリアごとの飛散量を1時間ごとに予測する(画像提供=ウェザーニューズ)

前述した「ウェザーニュースタッチ」の「花粉チャンネル」では、花粉飛散量(予想)を“やや多い”“多い”“非常に多い”というエリアを、250m単位で地図表示している。この結果、従来の1km単位では38万カ所だった予測エリアが、16倍の608万カ所に増えた。また、特に注意が必要な地域も、1時間ごとから1日半(36時間)先まで確認できるようになった。

■花粉情報を「仕事」で必要とする人も増えた

「日本は気象情報の先進国」といわれる。地震や台風などの天災が頻繁に発生し、狭い国土に1億2000万人もの人が暮らす国土の成り立ちもある。先進国の中でも国家予算は多い。

花粉情報も、個人の予防だけでなく仕事で必要とする人も増えた。かつては「花粉情報」と一括でくくられていたが、現在は「スギ花粉」や「ヒノキ花粉」と細分化されるようになった。それだけ花粉症状の原因実態が判明した結果ともいえそうだ。

進化を続ける「ポールンロボ」だが、実は「ブタクサ」などには対応していない。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/TAGSTOCK1)

「もともと春の花粉シーズンに向けて開発した経緯があり、ブタクサやヨモギといった秋に症状が表れやすい花粉には対応していません。でもお客さまのニーズも細分化してきたので、鋭意開発中です」(同社)

花粉症で悩ましいのが、人によって症状が異なること。たとえば同じ家で暮らし、その日は、一緒に買い物して外食するなど、ほぼ同じ行動をした家族やカップル(花粉症患者同士)でも、「今日は結構つらい」「私はそうでもない」という会話が交わされることだ。

何年も前から「国」も、環境省や文部科学省、厚生労働省が連携して、花粉症の実態把握や原因究明、対応策に乗り出すが、これはという決め手はない。個々人の予防とクスリを飲むなどの対応策に頼っているのが実情だ。

■花粉症のせいで「お花見を楽しめなくなった」

これからの季節は、日本各地で桜の花が見頃を迎える。だが、花粉症の人同士では「(花粉症になる前に比べて)お花見を楽しめなくなった」という話も出る。

WN社が2年前の3月に前述の「ウェザーニュースタッチ」を通じて、「お花見」について調べた結果(有効回答数9733人)、「行く予定が約74%」だったのに対して、「行く予定なしが約26%」となった。

「『行く予定がない』と答えた人の理由としては、『花粉症なので外に出たくない』『仕事が繁忙期で』『人ごみが苦手』といった回答が多く挙がりました」(同社)

実際に、桜の木の下で「マスクをしながらお花見」をする人も多い。飲食の時はマスクを外して飲んだり食べたりする。確かに、心から楽しめなさそうだ。

とはいえ、かつては不可能だったことが実現できるのもIoTの未来像だろう。いつの日か、“花粉症の救世主”となる役割にも期待したい。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之 画像提供=ウェザーニューズ 写真=iStock.com)

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