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星野リゾートの接客が"常にいい感じ"な訳

プレジデントオンライン / 2019年5月15日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/phototechno)

星野リゾートの施設は、どこへ行っても一定以上のサービスレベルを保っている。なぜなのか。ホテル評論家の瀧澤信秋氏は「フラットな組織づくりと現場責任という人事システムに秘密がある」と指摘する――。

※本稿は、瀧澤信秋『辛口評論家、星野リゾートに泊まってみた』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■現場に責任を持たせるフラットな組織

星野リゾートはメディアからの注目度が高く、筆者のもとにも星野リゾートに関連した仕事のオファーは多い。テレビでいえば単なる施設紹介というよりは、利用者目線のホテル評論家ならではの視点で星野リゾートを分析してほしいといったものもある。

2017年には、あるテレビ番組から“星野リゾートで働くヒト”をテーマとした企画オファーをいただいた。既に本書(『辛口評論家、星野リゾートに泊まってみた』)に絡み、さまざまな施設で現場取材をすすめていたので好機でもあった。放送では3人のスタッフにスポットを当て、日々奮闘する現場に密着するという内容だった。

番組内では、星野リゾートの大きな特徴として各施設への権限委譲を挙げた。運営特化戦略を取ったことが星野リゾートの成長要因であることは本書でも触れているが、それは同時に全国各地へ拠点が拡大する要因にもなっている。現場責任を重視することは自然な成り行きだったのだろう。

諸々の意思決定は、本部からの指示ではなく現場で行えるということを番組で紹介した。現場に責任を持たせたことは星野リゾートがフラットな組織を意識しているという点にも起因する。運営会社として勝ち残っていくという強い覚悟が、オリジナリティある組織作りに自ずと影響を与えてきたことも容易に想像できる。

■顧客満足度のポイントが成果として返ってくる

「フラットな組織」という言葉からは、公平や民主的といったイメージを想起するが、実際の現場を取材して見えてきたもののひとつにシビアさがある。「フラットな組織づくり」と「現場責任」を持たせたことは星野リゾートという組織における成功の両軸と筆者は捉えている。

フラットな組織とはいえ現場責任においては当然評価軸がある。評価軸は顧客満足度調査がベースになっており、顧客満足度のポイント(査定という表現が当てはまるかわからない)が、自身の成果として返ってくるという。これは現場のスタッフにとってはかなりシビアなのではなかろうかと思料する。

モチベーションを持ち続けることが前提なのは言うまでもないが、そうした反面、現場責任の下では自らなしたサービスが直球で跳ね返り、サービスの跳ね返り方が自分の成果に直結する。明確明白なロジックともいえる。

■魅力づくりの基本には「ヒト」がいる

そのような組織の仕組みを最初から作っていったことが星野リゾート成長の下支えをしてきた。つまり、スタッフの意識をしっかり共有できていることが各施設の魅力に繋がっているということだ。運営を続けていくために多くのゲストを呼ぶことは絶対条件だが、同時に魅力づくりで顧客満足度を高めなくてはならない。

星野リゾートの魅力づくりの基本にはやはり“ヒト”がいるのだ。マーケティング、ゲストの意見を汲み取る人間力、ゲストが喜ぶための過ごし方の提案にも常にヒトがいる。滞在する客室、アメニティや料理などステイには多様なアプローチがある中で、土地の文化や食材、自然環境なども含めトータルで提案することを“魅力”とし、スタッフ自らが現場で考えて行動している。このことが、多くの星野リゾートファンの心をつかんでいる理由の一つだ。

■ベンチャーのやり方で都市型ホテルを作った

各地にある星野リゾート施設に対する分析をしてみたが、都市型ホテルでも興味深い傾向が見られる。前出の番組では星野リゾートの新たな都市観光ホテルの開業準備にも密着していた。筆者は他の都市型ホテルの開業プロジェクトへ参画した経験もあるが、2018年5月にグランドオープンした都市観光ホテル「星野リゾート OMO5 東京大塚」の開業準備の取材で目にしたものは、一般的な都市型ホテルの開業プロジェクトとは異色の内容だった。

一言で表現すればベンチャーのやり方。過去、さまざまな施設の魅力づくりを経験してきた現場スタッフが立候補・集結し、自ら考え演出するという、あくまでも現場スタッフが考えた魅力の提供。自信がなければできないだろう。多様なケーススタディから大小さまざまなスケールの部品を組み立てていくような大胆な作業。都市型ホテル作りの常識では考えもつかないことだ。

■全社員に公開で行う「立候補」

フラットな組織の実際も気になる点だ。フラットな組織とはいえ、サービス、マーケティングといった内容で業務は分かれているが、顧客満足を実現するために目標を設定することは共通しているという。それぞれにユニットディレクター(チームのリーダー)がおり、全員が立候補制というのも興味深い。各施設の総支配人への取材でも“立候補”というワードがたびたび聞かれた。立候補というのは“私はこういうことをやりたい”という表明をネット配信なども含め“全社員に公開”で行う。会社にとってというよりは、お客様にとって良いという視点で表明(提案)し、皆が選ぶということになる。反面、これは当人にとってかなり厳しい場面であることも想像に難くない。

本書の取材に際しては、星野リゾートを辞められた方の話を聞く機会も得た。“選ばれる選ばれない”という不満をきっかけに離職したという人もいた。離職した人々が口にするのは、少し特殊な組織であるという点だ。良い悪いではなく向き不向きとでも言おうか。“合わないと感じる人がモチベーションを保っていくのは難しい”と語る退職者もいる。フラットな組織や現場主義は、既にシステムとして機能し仕組みとしても確立しつつある。星野リゾートが展開していく中でこの人事システムも組織の成長要因といえる。

■合わない人は辞め、向いている人は頑張れる

前述した顧客満足度は五段階評価でしっかり反映され、ボーナス査定などにも影響するという。頑張れば多くもらう、頑張らなければもらう量は少ない、“Pay for Performance”の考え方だという。フラットの中に競争原理を働かせることで、社員たちはよりよい発想をしていこうと能動的になるのかもしれない。普通に働いていれば普通にお給料をもらえる、という意識とは異質な空気が社内にあることは想像できる。

ゆえに合わない人はサッと辞めていくし、向いている人はとことん頑張れるのは事実であろう。

現役のスタッフから聞こえた声で多かったのが「人材教育に特色がある」という点。特色といってもスパルタ的という意味ではなく、星野リゾートスタッフのホスピタリティを支えているともいえる教育機関のことを指す。その名を「麓村(ろくそん)塾」といい、サービス研修もあればマネジメントのためのサポート研修などもあるという。モチベーションを支える機会として貴重だという現場スタッフの意見が目立った。

他方、星野リゾートのさまざまな施設を訪れた知人と「星野リゾートのスタッフの人たちってどこへ行っても同じ笑顔というか表情をしているよね」と話題になったことがある。とはいえ、洗脳するような厳格なサービス教育を行っているということはなく、「先輩の姿を真似る中でそういう傾向になるのかもしれない」と話す総支配人もいた。

■社員教育でも求められる「自主性」

星野リゾートの施設は、どこへ行っても一定以上のサービスが提供されているという印象を持つ人は多数を占める。実際星野リゾートのゲストとして訪れたことがきっかけで入社する人も多い。また、これだけのサービスをするのだから厳しくトレーニングされているのだろうというイメージを持つ人もいる。

瀧澤信秋『辛口評論家、星野リゾートに泊まってみた』(光文社)

元スタッフに採用について尋ねた際、「エントリーしてくる時点で星野リゾートに対する思いを個人個人が持っており、中には、“実際に泊まって良かったから”など、宿泊体験をきっかけに志望してくる人もいる。そういう意味ではエントリー時点で星野リゾートに関する知識がある人が多い」という。

新卒の人材教育の仕組みとしては、新入社員研修で戦略や接遇などを学ぶという。これには各地で多様な施設を運営し、多くの現場を知るスタッフがいる星野リゾートのグループ力が生かされている。社内にはビジネススクールがあり、サービス全般についても勉強できるプログラムがあるというが、「教育という点でも、自主性がかなり求められたことはイメージと違った」と前出の離職したスタッフは語る。

星野代表をテレビ番組で見たことがきっかけでエントリーしたという人も多かった。「星野さんにもっと直接相談できると思ったけれど、それだけに期待を持って来た人たちにはモチベーション維持が難しいかもしれない」という声もあった。

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瀧澤信秋(たきざわ・のぶあき)
ホテル評論家
コストパフォーマンスの高い国内ホテルを徹底取材、宿泊者目線で評論活動を行う。ホテル業界全般や、サービス、ホスピタリティ、クレーム対応、ホテルグルメなどについて、ホテル経営者やスタッフなどへの綿密な取材の上、各種媒体を通じて情報を発信している。また、旅行作家として、ホテルや旅のエッセイなど多数発表、ファンも多い。著書に『ホテルに騙されるな!』(光文社新書)、『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『最強のホテル100』(イースト・プレス)がある。

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(ホテル評論家 瀧澤 信秋 写真=iStock.com)

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