NGT48問題を無視し続ける秋元康の無責任
プレジデントオンライン / 2019年4月29日 18時15分
1月14日、AKB48グループの成人式に出席した「NGT48」の(左から)中村歩加、荻野由佳、加藤美南。このイベントは1月10日に山口真帆さんがNGT48劇場で謝罪させられた直後のことだった。(撮影=時事通信フォト)
■「私はアイドル、そしてこのグループが大好きでした」
「ここには私がアイドルできる居場所がない」
新潟を中心に活動しているNGT48の山口真帆(23)が、4月21日、新潟市で開かれたNGT48劇場の公演の舞台でこう話し、「NGT48から卒業」することを宣言した。
昨年12月、アイドルハンターといわれる不良たちに待ち伏せされ、帰宅直後に襲われた被害者である山口が、なぜ、NGT48から追われるように退団しなくてはいけないのか。
誰が考えても理不尽なこの結末に、ファンばかりではなく、各方面から憤りの声が上がっている。山口の言葉を続けよう。
事件のことを発信した際、社長には不起訴になったイコール、事件じゃないことだと言われ、そして今は会社を攻撃する加害者だとまで言われていますが、ただ、メンバーを守りたい、まじめに活動したい、健全なアイドル活動ができる場所であって欲しかっただけで。何をしても不問なこのグループに、もうここには、私がアイドルをできる居場所はなくなってしまいました。
目をそらしてはいけない問題に対して、そらさないなら辞めろ、新生NGT48は始められないというのが、このグループの答えでした。だけど、この環境を変えなければ、同じ事が繰り返されると思い、今日までずっと耐えて、最善を尽くしましたが、私にできたことはほんのわずかなことでした」
(朝日新聞デジタル<「ここにはアイドルをできる居場所ない」NGT山口さん>2019年4月21日21時56分)
そして山口は、「NGT48のために自分ができることは卒業しかない」というのだ。
「正しいことが報われない世の中でも、正しいことをしている人が損をしてしまう世の中ではあってはいけないと、私は思います」
5月5日と6日が最後の「握手会」になるが、そこでは握手をせず、話だけをするそうだ。
山口の批判の矛先は、アイドルハンターたちに帰宅時間などを教えたメンバーだけではなく、こうした事件が起きてしまったのに、何ら有効な手を打たず責任も取らない運営会社AKSと、こうした危ういAKB商法の生みの親であり、NGT48のプロデューサーでもある秋元康に向けられていると、私は思う。
■「暴行を受けた」と告白したら、会社側に謝罪を要求された
これに対して、HKT48の指原莉乃(26)がこうツイッターでつぶやいている。
「本当だとしたら未成年の子も預かっている会社としておかしい。大人数を預かっておいてその感覚の人とは思いたくない。(中略)いま預けられている人の不安さ不信感がわかっていないような、全体的に怖いしおかしい」
山口真帆は何という勇気のある女性だろう。
事務所側が事件を公にしないことに憤り、自身のツイッターで「自宅玄関でファンの男2人に顔をつかまれるなどの暴行を受けた」と告白したことで、事は公になった。
しかし、AKSの松村匠取締役からは逆に、謝罪を要求されたというのである。山口真帆はツイッターにこう書いている。
私が謝罪を拒んだら、
「山口が謝らないのであれば、同じチームのメンバーに生誕祭の手紙のように代読という形で山口の謝罪のコメントを読ませて謝らせる」と言われました。
他のメンバーにそんなことさせられないから、私は謝りました。
このAKSというのは、山口がいうように、正しいことが何かということが分からないデタラメな組織なのであろう。
■未公開の音声データに「まだどこにも出ていない核心」が
その後も、AKSは形だけの第三者委員会をつくったが、警察が違法性はないとしたことをいいことに、処分者を出すこともなく幕引きを図ろうとした。
週刊文春(5/2・9号)によれば、暴行現場に駆け付けた村雲颯香(21)と、山口を襲った2人の男たちがいい争いになった時、村雲が録音していたデータが存在するという。
実際に聞いた人物は、山口が日頃とは違う厳しい声で犯人を追い詰めるところが録音されているという。
「あのテープにこそ、まだどこにも出ていない核心がある。あれを聴けばいろいろと見えてくる。ここまで問題が大きくなった以上、公開すべきだと思います」(聞いた人物)
これは第三者委員会にも提出されているそうだが、いまだに公表されていない。
■「特定のファンとの私的交流」には回答できず
山口は3月22日、運営会社のAKSの松村取締役が事件について会見している間に、5回ツイッターで投稿して、「なんでうそばっかりつくんでしょうか」「記者会見に出席している3人は、事件が起きてから、保護者説明会、スポンサー、メディア、県と市に、私や警察に事実関係を確認もせずに、私の思い込みのように虚偽の説明をしていました。なんで事件が起きてからも会社の方に傷つけられないといけないんでしょうか」と書き込み、それをもとに質問する記者を使って、松村たちAKS側を追い詰めるという見事な戦術を繰り広げたのである。
AKS側は山口の謝罪を要求されたというツイッターに、「要求はしておりません」と否定したが、続く「特定のファンとの私的交流はメンバーのみならずファンも知っている」との指摘に対しては、回答できなかった。
たまりかねたAKS側は、この事件の真相を葬るためだろう、NGT48のチームNIII(9人)、チームG(11人)をそれぞれ解散し、山口真帆、長谷川玲奈、菅原りこの3人を除く17人を「1期生」「研究生」と分けたうえで、再スタートを切ると発表。そして先の山口の「卒業宣言」になるのだ。
■新潟県も「スペシャルサポーター」の再契約は見送りへ
被害者である山口と、彼女と仲のいい2人のメンバーを"追放"して、事態を収拾しようというのかと、ファンからの反発は激しく、スポンサーなども離れていった。
大手アパレルのアダストリアが、自社のファッションブランド「ヘザー(Heather)」のプロモーションにNGT48の荻野由佳を起用することを4月17日に発表した。だが、「なぜこの時期に起用するのか」という、荻野起用を疑問視する声が同社のSNSなどに殺到して、このプロモーションは中止に追い込まれたのである。
9月に地元で開催する「国民文化祭」「全国障害者芸術・文化祭」のスペシャルサポーターにNGT48を起用していた新潟県も、再契約しないといわれている。
新潟県には、今年の1月以来、県の内外から3000件近い苦情のメール、電話、手紙が来ているという。
これではNGT48を再結成しても、以前のような熱い感動は生まれはしないだろう。まさに初期対応を間違えた運営側、AKSの完敗である。
■アイドルを夢見る女の子を、男たちに触れさせる商法
「会いに行けるアイドル」をうたい文句に、手の届かない存在ではなくなった彼女たちを、自分の彼女にしようという不逞の輩が出てくるのは必然だった。
そのため、彼女たちを預かっている大人たちには、彼女たちのプライバシー保護や身辺の警護、多感な年頃の心のケアなどに十分配慮することが求められていたはずである。
アイドルを夢見る若い女の子たちを集め、カネさえ払えば彼女たちと握手できる、触れられると、男たちを集める商法は、キャバクラやガールズバーと変わるところがない。
東京スポーツ(4月24日付)は、このアイドルハンターたちが、「山口らが卒業発表したことで、ハンター集団が"勝利宣言"して大騒ぎ。(中略)素性が判明している数人の悪質ファンはグループから出入り禁止処分になっていますが、出禁になっていない者も多い。さらに、顔バレしていない者を募集して、"刺客"として新潟に送り込もうと盛り上がっている」(ハンター集団に詳しい関係者)と報じている。
■「AKB商法」を生み出した秋元康は、なぜ発言しないのか
こうしたさまざまな問題が噴き出ているのに、AKB商法を生み出し、大儲けしてきた秋元康が、表立って発言しないのはなぜなのか。
さらにいえば、AKB人気に便乗して、メンバーの写真集を何冊も出したり、総選挙などというバカ騒ぎをあおって、この商法の根にある深刻な問題を報道してこなかった週刊誌やテレビ、新聞の責任も追及されなくてはいけないはずだ。
タレントのスキャンダルを売り物の柱にするフライデーやFLASHは、AKB48のスキャンダルを進んで自ら封印して、彼女たちをグラビアに出し、写真集を何冊も出版して儲けることを最優先した。FLASHの編集長が、「オレの仕事はAKBだ」と豪語していると聞いたこともある。
講談社や小学館のように、女性誌や少年少女雑誌を多く出している出版社の週刊誌は、元々ジャニーズ事務所のタレントのスキャンダルはやりにくかった。だが、それでも、何とか工夫してSMAPや嵐の熱愛、密会などをスクープしてきた。
部数が低迷してきたことが背景にあるのだろうが、見事なぐらい、先の2誌に週刊現代(講談社)、週刊ポスト(小学館)にAKB48のスキャンダルは載らなかった。
■メディア合同で秋元康に記者会見を求めてはどうか
文藝春秋は女性誌が少ないということもあり、一時、彼女たちのスキャンダルは文春の一手販売だった。ようやくAKBを含むグループの人気が下降線になり、今回のNGT48問題も各誌載せるようになったが、その前に、AKB商法についての見解を誌面で発表するべきではないのか。
提案がある。各誌が合同で秋元康に、NGT48問題とAKB商法について質問状を出し、秋元に会見を開いてもらったらどうか。
もちろん、テレビや新聞にも入ってもらって、ニコ動かAbemaTVで生中継したらいい。それでも逃げるようなら、秋元康神話は一気に崩れる。
■山口真帆さんは、たった一人で戦い、男たちに勝利した
それにしても、このところ女性の活躍が目覚ましい。安倍首相と親しいだけが売りだった元TBSの記者に、酒を飲まされて性的虐待を受けたことを、名前も顔も出して告発した伊藤詩織。
大林組の幹部リクルーターに就職を餌に性的関係を結ばされたと告発した新入社員や、在イラン日本大使館公使室で、駒野欽一イラン大使から強制ワイセツ行為を受けていたと女性外務官僚が3月に刑事告訴をしたが、伊藤の行動が、そうした女性たちに勇気を与えたのではないか。
秋篠宮佳子さんが、大学を卒業するにあたって記者の質問に答えた中で、姉の眞子さんと小室圭との結婚を支持すると表明、さらに、今のメディアの報道のあり方に疑問を呈したのも、勇気ある行動だった。
週刊新潮(5/2/9号)によれば、宮内庁関係者が、佳子さんの書いた内容を宮内庁の担当職員が見て、佳子さんに修正をお願いしたそうだ。
「一個人」という表現や、あからさまなメディア批判だったから、物議を醸すと判断したからだそうだが、佳子さんは「父もしていることなのに、なぜいけないのですか」と押し通したという。
あっぱれではないか。山口真帆は、たった一人で秋元康の威光を笠に着て、自分たちのことなど金儲けの手段としてしか考えていないAKSと戦い、勝利したのである。
東大の新入生歓迎の祝辞で、上野千鶴子名誉教授は「社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています。東京大学もまた、残念ながら例外ではありません」と、まだまだ女性にとって生き難い時代だと話し、大きな話題を呼んだ。
上野教授、こうした若い女性たちがこれからの未来を切り拓いていくのだから、そんなに心配しなくても大丈夫だと思う。心配なのはふがいない男たちのほうだ。(文中一部敬称略)
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)、『編集者の教室』(徳間書店)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦 写真=時事通信フォト)
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