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"社員は仲間"を掲げる会社はなぜヤバいか

プレジデントオンライン / 2019年7月2日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SetsukoN)

企業の採用サイトで「みんなで意思決定する」「仲間を大事にする」などの文言を見かけることがある。人事・戦略コンサルタントの松本利明氏は「こういった経営理念を掲げている会社は要注意。行きたい会社の組織文化を知るには、経営理念の『裏取り』を欠かさないことが重要だ」と指摘する――。

※本稿は、松本利明『「いつでも転職できる」を武器にする』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■優秀な人も評価されなくなる「カルチャー」の怖さ

転職先でちゃんと貢献できるかという不安はビジネスパーソンにはつきものです。今までの経験から、ある程度仕事はできる自信はあるけど保証はない。営業職から経営企画職に変わるなど、仕事内容が変わる場合、その期待と不安は日増しに大きくなるものです。

しかし、あなたの新しい会社や仕事(転職でなく社内異動含みます)との相性は、実は事前に8割以上は掴めます。「仕事」と「会社の価値観」とあなたの資質がマッチするかをみればいいのです。

A社で優秀だった人が、同業のライバル会社のB社に移ったら結果が出ず、評価されず、普通の人になってしまったという話はよく聞くものです。

仕事と本人の資質はフィットしているはずなのに、なぜこんな事態が起きるのか? それは、その会社のカルチャーと合わないからです。会社のカルチャーは経営者の哲学、ビジネスモデル、歴史などから形成されていくものです。

カルチャーとは、言わば「空気」。無色透明の壁になります。元からいる社員は、壁を無意識にかわすことに慣れ過ぎて違和感に気づきません。外からくると、その壁にぶち当たるのですが透明で見えないゆえに成果が出せないのです。

■会社と個人の関係は“結婚”に近い

会社のカルチャーは経営理念(ビジョン、ミッション、バリューなど)としてまとめられていますが、ちゃんと掴むにはコツがあります。そもそも、会社のホームページ、会社案内、採用案内、ブログ、メディア実績には「いいところ」しか書いていないことは、あなたもわかっているでしょう。

会社と個人の関係は結婚に近いものがあります。立場も対等です。結婚期間中はお互い幸せな関係でいるために、努力しましょうというスタンスです。

ここで質問です。あなたは、これから付き合おうと思う初対面の相手にいきなり自分のダメダメなところをPRしますか? 普通はしないですよね。

嘘は言わないけど、まず、いいところを見せよう。気に入っていただき、お付き合いが始まったら徐々に本当の姿をみせていくという手順になるはずです。会社の場合、インターンなど、実際に内部で一定期間仕事をしない限り、転職後、配属されてから、本当の姿を知ることになるのですが、ご安心ください。ここを見抜く方法を伝授します。

■経営理念がハッキリしているアップル

会社のカルチャーを知るには経営理念の癖を知りましょう。日本の会社の9割以上の経営理念はA社からB社に変えても全然気づかないくらい曖昧です。

経営理念には、実は実現できていない理想を書いているケースも多いからです。

その実態を見抜くためには、経営理念を読むだけでなく、「YES/NO」の判断基準に落とし込んでみましょう。会社の経営理念は、その会社の物事のYES/NOの判断基準をもとにつくられているのが本来の姿だからです。そして、その判断基準を、

①自分の資質にあっているか
②本当にその判断基準どおりに意思決定をしているか

この2点から裏を取るのです。こうすれば、その会社の本当のカルチャーがあぶりだされます。

経営理念がハッキリしている会社は外から見ても判断基準が明確です。アップル社の故スティーブ・ジョブズが出した経営哲学は「Think Simple」です。「シンプル」をYESにすると、反対のNOは「複雑」になります。

確かにスティーブ・ジョブズ氏の時代のアップルはシンプルでした。iPhoneのデザインもシンプルでボタンの数は最小限。マニュアルもなしで操作可能。iPhoneのラインナップも少数に絞り込み、その世界観や性能、デザインで世界を圧倒する反面、シンプルな分だけ生産ラインも絞り込み、コスト削減や在庫リスクを減らすことにも成功していました。

これを「複雑」にしてしまうとブランドイメージにブレが生じ、ファン離れに繋がり、生産コストも在庫リスクも高まってしまいます。機能、デザイン、生産、販売までシンプルで一貫することで競合にない価値を生み出していたことはあなたもご存じの通りです。

■経営理念を分解する3段手法とは

このように、会社の経営理念を取り出し、それをYESとするなら、反対のNOは何かを書き出せば、その会社が何を是とし、何を非としているかというカルチャーの背骨がハッキリみえてきます。

何がYESかNOかがわかれば、それがあなたの資質とフィットするかみえてきます。

私はわたし。会社は会社で経営理念に沿って判断すればいいと割り切るのもいいですが、自分の資質とフィットした方がストレスは激減します。コツは3段階で分解することです。

最初は経営理念の項目を書き、YESと置きます。例を出して解説しましょう。

「みんなで決める文化」(YES)

次に今書いた経営理念の項目のNOを書きます。反対の意味のキーワードを置けばOKです。

「みんなで決める文化」(YES)→「トップダウンの決定はない」(NO)

最後に、「ゆえに、どんなことが実態でありそうか」を書きます。

「みんなで決める文化」(YES)→「トップダウンの決定はない」(NO)
→ゆえに「権限を与えてくれないのでは?(いちいち決済承認が必要では?)」「みんなで決める分だけ意思決定のスピードが遅いのでは?」

など、思いつくものを書き出していくと「ベンチャーと言うが、実は堅実なカルチャーなのではないか?」などと仮説が立ちます。これを全ての項目で実施し、つじつまがあうように一本背骨が通っているか、矛盾がないかを精査します。

■面接で率直に聞き、反応をうかがってみよう

その上で、この判断軸で実際に意思決定が行われているかを聞けば、実態のカルチャーが見えてきます。面接で確認する時は直球で質問するといいでしょう。直球を投げた時の相手のリアクションで嘘か本当かがわかります。

組織のカルチャーはYES/NOの判断の積み重ねで生成されます。カルチャーになる判断は「瞬時」です。無意識レベルの判断基準なので空気になるのです。ゆえに、相手がYES/NOで判断しやすいように直球で投げるのです。直球を投げてデッドボールになるのが懸念される時は、ひと工夫すれば大丈夫です。

「ふと、思ったのですが……」と前置きすると角が立ちません。そして、一度ポジティブに解釈していることを伝えた上で聞くのです。

さらに、特に注意すべきは矛盾点です。「みんなで決める文化」なのに「一人ひとりがイノベーションを起こす」も経営理念としてあったら、矛盾しているように見えるのでチェックが必要です。

■組織文化が「仲間を大事にする」なら注意

折角なので、転職候補先の会社のホームページで実態を見切る例をお出ししましょう。

組織のカルチャーを示す言葉に「仲間を大事にする」という表現があったら注意が必要です。考えてみてください。一緒に働く仲間は大事に決まっています。仲間を大事にしないことを売りにする会社は成り立ちません。仲間をメインに強調する会社には、2つのリスクがあります。

1つ目は売りになるものがない、2つ目は、オーナー社長と馬が合う人しかいない集団という可能性が高いです。ランチ、飲み会などで就活生と社員が集まる機会を多くし、仲良くなって「もう、ええやろ!」と口説くのが、社員に人材を紹介してもらうリファラル採用のコツと解説するコンサルタントもいるくらいです。

他社と比較して、会社としてのウリがない会社は、チャンスや報酬の条件が合わずに退職する確率が高い“意識高い系”ではなく、文句を言わず、普通に長く働いてくれるフツーの学生の採用がキーになります。ある採用担当者は「理屈でも条件でもなく、仲良くなることが一番」とも言っていました。ここに罠が潜んでいます。

■“仲良しこよし”の会社は報酬水準が低いことも

人事制度の中身をみると「仲間」を一番に強調する組織ほど、実は報酬水準が低かったりします。仲間なので、評価や報酬でキッチリ差をつけないほうが都合いいからです。

評価で差がついたら給料、ボーナス、賞与で差がつくことになり、その瞬間に嫉妬や妬みが出て、仲間の輪が崩れてしまうからです。日本人が「みんな」の同調圧力に弱い点を利用し、報酬水準を他社より低く設定している企業も多々ありました。経営陣とも“仲間”なので「報酬をあげろ」と言い出せなくなり、その現状に馴染んでしまうのです。

会社も、社員も成長する会社は、仲間は大事にしますが、それを一番に掲げることはしません。

仲間の意味も違います。サッカーにたとえるなら、これから勤めるべき企業は、サッカーが好きな同好会レベルではなく、お互いが一流のプロとして自立(技術の高みを目指す態度)と自律(他者との関係性を踏まえ、セルフコントロールする態度)を兼ね備えた日本代表です。仲間内の世界では自立も自律もできません。

■会社の長所を聞いたら、裏取りを忘れずに

松本利明『「いつでも転職できる」を武器にする』(KADOKAWA)

「子供の組織」ではなく「大人の組織」に身を置かないと、飼い殺しになり、その会社で一生を終えるしかなくなります。確認する方法は簡単です。面接で、その会社の仲間以外のウリを聞き、その裏を聞けばいいのです。

・「自由な組織がウリです」→「権限はどこまで任されますか?」
・「活躍すればドンドン昇進するよ」→「管理職以上の就任時の年齢と在職期間の平均を教えていただけますか?」「役員は全員オーナーの親戚関係ですか?」

など、質問の裏を取れば、実態がみえてきます。本物の詐欺師は、「悪そう」とか「怪しそう」という雰囲気はないそうです。いたって普通なので騙せるのです。そう、悪魔は神様の顔をしてやってきます。

「いい人ばかりだから働きやすそう」の罠にはまると、あなたの職業人生が、その会社の養分にされてしまうので注意しましょう。実態の真逆を目指す姿勢として経営理念にいれるケースがあるからです。そういう会社が圧倒的なことを忘れないでください。ご注意を!

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松本 利明(まつもと・としあき)
人事・戦略コンサルタント、HRストラテジー代表
日本人材マネジメント協会執行役員。外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。『「稼げる男」と「稼げない男」の習慣』(明日香出版社)、『「ラクして速い」が一番すごい』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(人事・戦略コンサルタント 松本 利明 写真=iStock.com)

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