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10代の恋愛を一生引きずってしまう理由

プレジデントオンライン / 2019年7月12日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/FREEGREEN)

過去を振り返ると嫌な記憶ばかりがよみがえり、人生を肯定的に捉えられない人がいる。MP人間科学研究所代表の榎本博明氏は「こういう人は現状の生活に不満を抱えている場合が多い。中でも10~20代の記憶はよく思い出す傾向があり、今の心理状態で過去の印象が決まりやすい」と指摘する――。

※本稿は、榎本博明『なぜイヤな記憶は消えないのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。 

■アルバムのように更新される「自伝的記憶」

「自分の人生、いったい何だったんだろう?」といった思いがふと脳裏をよぎることがある。何かで行き詰まりを感じるときだ。そんなときは、ほぼ自動的にこれまでの人生を振り返っているものだ。

自分はどんな人生を歩んできたのだろうと自らに問いかけるとき、私たちは記憶をたどることになる。自分の人生は、自分自身の記憶を掘り返すことによってしか理解することはできない。

私たちの記憶の中には、物心ついてからのありとあらゆる出来事やそれにまつわる思いが刻まれている。そこにまた、日々新たな経験を刻み込んでいく。自叙伝というと、著名人にしか縁のないものと思われるかもしれないが、すでに述べたように、じつはだれもが自叙伝を綴るように日々の経験を記憶に刻みながら生きているのである。そのようにして綴られ、日々更新されていく記憶のことを、自伝的記憶という。

アルバムを引っ張り出し、小学生時代の遠足の写真や運動会の写真、家族旅行の写真を見ていると、当時の出来事がいろいろと思い出されてくる。高校時代のアルバムを開くと、当時の友だちとの間の出来事が懐かしく思い出される。アルバムには、自伝的記憶を喚起する力がある。

子どもの頃に使っていた野球のグローブをみると、少年野球をしていた頃の出来事がつぎつぎに思い出されてくる。若い頃に、ひとり旅したときに買ってきた置物や瓶に詰めた砂を眺めていると、旅先で出会った仲間たちとの記憶が蘇ってくる。思い出の品も、懐かしい思いと同時に自伝的記憶を喚起する。

■どこまで記憶をさかのぼれるかやってみよう

若い頃に日記をつけていたという人は少なくないが、大人になって忙しい日々を送るようになるにつれて、いつの間にか日記をつける習慣がなくなっていることが多い。引っ越しで荷物の整理をしているときなど、数十年ぶりに昔の日記を発見し、パラパラめくってみると、自分自身の人生についての再発見があるものだ。

日々の出来事やそれにまつわる思いを綴った日記は、まさに自伝的記憶の素材の宝庫である。自分の若き日の日記を読むのは何とも気恥ずかしいものだが、そこには久しく思い出すことのなかったかつての自分が息づいている。

あなたの人生も、自伝的記憶として心の中に保たれている。そのことを理解していただけたと思う。では、目をつぶって、心のスクリーンにあなたの自伝的記憶を映写してみよう。どんな場面の記憶が浮かんでくるだろうか。

それは、ごく最近のことかもしれないし、若かりし頃のこと、あるいは幼い頃のことかもしれない。そこから連想が働き、つぎつぎに懐かしい記憶が蘇ってくるだろう。懐かしい思いに浸っていたい気持ちもわかるが、そこからさらに記憶を遡ってみることにしよう。映画やビデオのフィルムを映写しながら逆送りするときのように。

映像を逆送りという心の作業は、瞬時にはできないので、根気強く時間を遡るように試みてほしい。しばらくすると、より昔の記憶が浮かび上がってくるはずだ。そのままずっと遡っていくと、いったいどこまでたどり着けるだろうか。それは、「最初の記憶」として心理学の世界で研究されているが、概ね3歳くらいまで記憶を遡ることができることがわかっている。

■最も古い思い出はだいたい3歳のとき

心理学者ダディカたちは、最も早い時期の記憶をたどっていくと、その平均月齢は生後42カ月前後となることを見出した。同じく心理学者ハリデイも、最早期記憶の平均月齢は39カ月程度であると報告している。

私も、さまざまな年代の人々数千人を対象に、最初の記憶について調べてきた。もちろん記憶には大きな個人差があり、小学校時代のことさえほとんど思い出せないし、10歳以前のことなどまったく何も思い出せないという人もいるものの、多くの人の最初の記憶は3、4歳の頃の出来事についてのものとなっている。

たとえば、つぎのようなものが最初の記憶としてあげられた。

「お父さんとお姉ちゃんと私で、原宿を歩いていた。小さかった私は、すぐ足が疲れて、お父さんに『しんどい』と言って迷惑を掛けたのを覚えている。あのときは、せっかく東京に行ったのだから、たくさん観光したかったけど、お父さんとお姉ちゃんについて行くのに必死だった。(3、4歳頃)」
「幼稚園で竹馬が何日練習してもできなかったが、やっとできたときのこと。自分の力でできたという達成感があって、嬉しかった。(4歳頃)」
「母親とデパートに買い物に行き、途中ではぐれ、はじめはすぐ見つかると思い安心していたが、時間が経つにつれてだんだん不安になり、『どうなってしまうんだろう』『母じゃないだれかに育てられることになるんだろうか』とすごく不安になったことを覚えている。一瞬ではあったけど、今後の自分の生き方を考えたのを覚えている。すごく怖かった。今でも、その時のことを思い出すとすごく怖くなる。あの時のすごく困った気持ちが今でも蘇る。(3歳頃、幼稚園に入る前)」

■自分のストーリーを作り始める時期と一致

では、自伝的記憶はなぜ3歳くらいまでしか遡れないのか。それには認知能力の発達が関係しているようだ。心理学者ファイバッシュたちの研究によれば、2歳になると人から尋ねられると以前の経験について思い出すことはできるが、自分自身をひとつの物語をもった存在としてとらえることはない。

自伝的記憶というのは、自分を主人公とする、まとまりをもった物語である。ゆえに、物語を生み出す認知能力の発達と並行して、自伝的記憶は3歳くらいから徐々にできあがっていくというわけだ。私が行った最初の記憶についての調査では、出産のために母親が不在で祖父母のもとで過ごしたときの記憶を、淋しかった気持ちとともに報告するケースが結構多くみられた。

心理学者シャインゴールドたちは、3歳以前に弟妹が生まれた大学生と、4歳以降に弟妹が生まれた大学生に面接調査を行っている。その結果、4歳以降に弟妹が生まれた者で当時のことを覚えていないのは39人中わずか1人なのに対して、3歳以前に弟妹が誕生した者のほとんどが当時のエピソードをまったく記憶していないことがわかった。

ここから、弟妹の誕生という印象的なできごとであっても、3歳になる前に起こった場合は、自伝的記憶に組み込まれにくいことがわかる。この結果は、3歳くらいになると物語を生み出せるようになるという認知能力の発達と一致するものである。

■古いのになぜか覚えている人生の“例外期間”

最近のことほどよく覚えており、昔のことになるほど思い出せなくなる。それが記憶の一般法則だ。実際、自伝的記憶に関する調査を行うと、ある言葉を手がかりとして想起されるエピソードは新しいものが多く、昔のことほど想起されにくい。

たとえば、去年の夏休みにどこに行ったか、一昨年の夏休みにどこに行ったかはすぐに思い出せても、10年くらい前の夏休みにどこに行ったか、20年くらい前の夏休みにどこに行ったかは、なかなか思い出すことができないだろう。

ところが、自伝的記憶には例外があることがわかった。最近のことほどよく思い出されるという一般法則に則った傾向の他に、10代~20代の頃の出来事がそれ以降のできごとよりも多く思い出される傾向がみられるのである。

40歳以上の人たちを対象とした調査結果をみると、最近のことほどよく思い出すという全体的な傾向はみられるものの、例外的に10代~20代の頃のことはよく思い出す。そのため、想起量のグラフを描くと、10代~20代のあたりが盛り上がる。これを自伝的記憶のバンプ現象、あるいはレミニッセンス(回想)・ピークという。

■なぜ青春の記憶はよみがえるのか

なぜ10代~20代の頃のことをよく思い出すのだろうか。それは、今の自分の成り立ちをうまく説明するエピソードがとくに選ばれて自伝的記憶をつくりあげていくという原理があるからだ。10代や20代は、広義の青年期にあたり、自己を確立し、自分を社会に押し出していく時期である。

その時期には、その後の人生を大きく方向づける出来事が立て続けに押し寄せる。ゆえに、10代から20代の頃の自伝的記憶には、人生上の重たいエピソードがたくさん詰まっている。友だち関係がどのようだったか、とくに親友ができたとか、孤立気味だったとかいうことが、その後の人生における対人関係のあり方に大きく影響する。

恋愛や失恋の経験は、その後の異性に対する姿勢に影響するだろう。受験の成否は自信の程度を決定づけるし、どんな学校に通うかは友人関係も含めて価値観や生き方に大きな影響を及ぼすはずだ。

どんな仕事に就くかも、その後の人生を大いに左右することになる。結婚するかどうか、どんな相手と結婚するかといったことも、その後の人生を大きく方向づける。

このように、10代~20代には、親友との出会い、恋愛・失恋、受験・進学、就職、結婚など、その後の人生を大きく左右する出来事が集中している。それらは人生観や人間観を揺さぶり、人生行路を方向づけるものとなり、今の自己の成り立ちを説明するのに不可欠のエピソードとなる。そのためによく覚えているのである。

■今の生活に不満を抱える人の記憶は暗い

私は、多くの人たちの自己物語を聴取してきたが、これまでの人生を悔やんでいる人も少なくない。そのような人は、自分の生い立ちを否定的に語る。

自分は過去の生い立ちが不幸だったから、こんな不甲斐ない人生を送ることになった。過去を振り返っても、嫌な思い出ばかりで、良い記憶が何もないし、こんな暗い過去を抱えた人間が幸せになれるわけがない。そんなふうに開き直る人がいる。

そのように言う人の頭の中には、過去の生い立ちが今の自分を導いている、過去の記憶が今の自分の生きる世界を色づけている、といった発想が染みついている。もちろん私たちの現在、そして未来は、物心ついて以来の自己形成史に負っている部分が少なくない。ゆえに、そのように考えるのは、けっして間違いとはいえない。むしろ、多くの人が共有する常識的な見方といってよいだろう。

だが、私たちは、過去に縛られているだけの存在ではない。逆方向の影響もある。私たちの現在の心のあり方が、私たちの過去の風景を決定するといった側面だ。

心理学者ルイスとフェアリングは、そのことを証明しようと試みた。幼児期に親との愛着関係の状態を評価された子どもたちが成長し、大学生になったときに、現在の適応状態を調べると同時に、自分の幼児期を回想させ、評価させた。

■現在の心のありようで過去の印象は変わる

その結果、青年たちによる自分の子ども時代の評価は、実際に子ども時代に評価された親との愛着関係の良否とは関係がなく、むしろ現在の適応状態と関係していることがわかった。つまり、幼児期に親との愛着関係が不安定とみなされた人物が、安定しているとみなされた人物と比べて、自分の幼児期を不幸だったとか不安定だったと回想するかというと、そのようなことはなかった。

榎本博明『なぜイヤな記憶は消えないのか』(KADOKAWA)

結果をみると、自分の幼児期を否定的に回想する人物は、肯定的に回想する人物と比べて、現在の生活に適応していないといった傾向がみられたのだった。ここからわかるのは、自分の幼児期をどのように回想し、評価するかは、実際に幼児期がどうだったかよりも、現在の生活がどうであるかによって決まるということである。

これは、私たちが現在の視点から過去を再構成していることの証拠といえる。現在の自分自身の心理状態が、過去の振り返り方を決める。

つまり、回想することで引き出された自伝的記憶には、現在の自分のあり方が色濃く反映されているのだ。ゆえに、自伝的記憶を掘り起こすことは、自己理解を深めることにつながっていくのである。

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榎本 博明(えのもと・ひろあき)
MP人間科学研究所代表
心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て現職。『なぜ、その「謙虚さ」は上司に通じないのか?』、『「忖度」の構造』ほか著書多数。

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(MP人間科学研究所代表 榎本 博明 写真=iStock.com)

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