年金を70歳まで繰下げると、本当にお得なのか

プレジデントオンライン / 2019年10月3日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/flyingv43)

年金の受給を繰下げることで受け取れる金額は増えますが、どれくらいお得なのでしょうか。その“お得度”は、私たちが受け取るころもキープされているのでしょうか。家計コンサルタントの八ツ井慶子さんがシミュレーションします。

■70歳まで繰下げで42%アップ

こんにちは、家計コンサルタントの八ツ井慶子です。

今年(2019)8月、5年ごとに実施される公的年金の「財政検証」の結果が厚生労働省から発表されました。その結果も参考にしながら、老齢年金の「繰下げ受給」について、考えてみたいと思います。

現在、老齢年金は原則65歳から受け取れます。

ですが、任意に受け取り開始を選択することができ、早めに受け取る場合を「繰上げ」、遅くする場合は「繰下げ」といいます。繰上げは早くて60歳から、繰下げは70歳まで可能です。

繰上げ・繰下げを行うと、本来65歳時点で受け取るはずの年金額が、受給開始時期に応じて「調整」されます。

繰上げの場合、繰上げるひと月あたり0.5%カットされ、繰下げはひと月あたり0.7%の増額です。それぞれ最大5年(60カ月)ですから、60歳から受給開始する場合は30%カット、70歳まで繰下げれば42%アップする計算になります。また、調整された年金額を一生涯受け取ります。

念のため付け加えると、いつから受け取り開始とすれば、年金の総額が最大になるかは、(寿命は分からないので)“フタを開けてみないと分かりません”。

単純計算をすると、平均余命程度に生存すれば65歳時に受給開始するより、70歳から1.42倍の年金を受給した方が、結果的に多くなります。

ただし、いくつか注意が必要です。

■年金繰下げで損しないための3つの注意点

1.額面であって、「手取り」ではない点

将来、実際に受け取れる年金額は、額面通りではありません。老齢年金は課税の対象であり、社会保険料も納める必要があります。高齢期には自治体ごとの国民健康保険と介護保険料を納める方が多いと思いますが、その場合自治体ごとに保険料は異なりますので、影響は人によってまちまちです。ただし、年金額が増えれば保険料も上がります。つまり、かりに70歳まで繰下げを行っても、手取りベースで考えると、単純に1.42倍にはなりません。とはいえ、現行制度のままであれば、影響額はまだ小さいかもしれません。

ですが、現状社会保険料は少子高齢化などの事情により、右肩上がり傾向にあります。税制も、年金額が多い人には課税が厳しくなる傾向があります。

現時点で65歳か少し手前の方が繰下げするかどうかで悩まれるのは分かりますが、10年も20年も先に65歳を控えている方は、手取り額に影響を及ぼす税や社会保険の動向も気にしておきたいところです。

2.「加給年金」が支給されなくなる

プレジデントウーマン読者の皆さんには、当てはまることはないかもしれませんが、公的年金制度には、いわゆる“家族手当”に相当するものがあります。「加給年金」と呼ばれるものです。

一家の大黒柱がリタイアすると、給与収入から年金になることで世帯収入が減ってしまいます。そこで、大黒柱に養われている配偶者等がいる場合、一定の要件(※) を満たすと大黒柱の年金に上乗せして「加給年金」が支給されます(加給年金は厚生年金加入者が対象です)。

ところが繰下げを行うと、加給年金は受け取ることができなくなります。

加給年金を受け取れる期間は、多くのケースで夫婦の年齢差によるので、支給停止の影響額は世帯ごとにまちまちですが、かりに最大5年間、加給年金を受け取ることができないとすれば、現状200万円近い額になるので、影響は小さくありません。

※「加給年金」支給のおもな要件(夫が大黒柱とした場合)
・夫の厚生年金被保険者期間が20年以上あること
・妻の厚生年金被保険者期間が20年未満であること

3.そもそもの年金額が減額される可能性がある

最後に、「65歳時点での年金額」そのものが、将来的に減額される可能性がある点も挙げておきたいと思います。

公的年金に関しては、冒頭で触れたように5年ごとに財政検証が行われます。いわば公的年金の“健康診断”のようなものです。今年の結果をみると、将来の老齢年金が実質的に目減りしていくことが読み取れます。

■現在44歳の人は、どれくらい年金が目減りするか

財政検証では、経済成長率や物価上昇率などの諸条件を変え、6つのケースを想定した将来の年金額が試算されていました。この際、給付時の現役世代の平均手取り収入に対し、年金額が何%に相当するかという「所得代替率」がさまざまな時期で明記されています。

結果をみると、現状(2019年)の所得代替率は61.7%であるのに対し、6つのケースすべてで2040年(現在、44歳の人が65歳になる年)には、目減りしています。

“目減り度合い”は6ケースでまちまちですが、54.3%(ケースI)~51.3%(ケースVI)でした。試算の諸条件については、ケースIからケースVIにかけて段階的に厳しく見積もられています。

この数値を見ると、何となく10%程度下がっている感じですが(もちろん「差」としてはそうなのですが)、「変化率」で捉えてみると、

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ケースI 54.3÷61.7≒88.01%
ケースVI 51.3÷61.7≒83.14%

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となります。つまり、所得に対し、年金の支給額は実質的におよそ12~17%減と読み取ることができます。

■“繰下げのお得度”の変化をシミュレーション

およそ12~17%減って、それがかりに70歳まで繰下げ受給する(1.42倍)と想定すると、

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ケースI 1×88.01%×1.42倍≒1.25倍
ケースVI 1×83.14%×1.42倍≒1.18倍

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いかがでしょうか。

繰り返しですが、ここから社会保険料を納め、年金額次第では税金も課税されますから、65歳時点での年金額次第では、1.42倍のインパクトは小さくなることが分かります。

ちなみに、財政検証では、さらにその後の所得代替率の試算もありましたが、より低下していました。現在44歳よりも若い方では、より年金額が目減りする試算結果ということです。

ここではおもな注意点を挙げてみましたが、日本の公的年金制度は度重なる改定により、非常に複雑です。人(世帯)によって、細かい注意点はさらにあるかもしれません。

お若い方は繰下げするかどうかを決めるには早すぎるでしょう。目前に控えている方も、事前に年金事務所などで相談をしながらじっくり考えて、ご自身に合った受け取り方を検討していただきたいと思います。

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八ツ井 慶子(やつい・けいこ)
家計コンサルタント
1973年、埼玉県生まれ。生活マネー相談室代表。「家計の見直し相談センター」を経て2013年7月独立。個人相談を中心に執筆、講演を行う。著書に『お金の不安に答える本 女子用』など。

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(家計コンサルタント 八ツ井 慶子 写真=iStock.com)

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