「新規出店」よりも「既存店」に再投資した理由

プレジデントオンライン / 2019年10月15日 11時15分

幹部向けに菊地会長自らが講師となって「経営塾」を開催。受講者は延べ900人に達した。

ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」をはじめ、「天丼てんや」「リッチモンドホテル」などを展開するロイヤルホールディングスは、2年連続の赤字に陥った後、その後業績を回復し、いまは堅調な経営が続いている。長期的視点でグループ事業を展開する戦略に転換したからだ。それを主導してきたのが菊地唯夫会長である。改革をどう進めてきたのか。また、これからの課題とは——。菊地会長に話を聞いた。

■「悪魔のサイクル」から脱するために

——前回に引き続く質問になりますが、2010年にロイヤルHD社長に就任した当時の経営状況をどう見ていたのですか?

【菊地】外食市場がピークだったのが1997年です。ロイヤルの業績を1997年から2010年まで振り返ってみると、3~4年周期で「増収減益」「減収増益」を繰り返していました。なぜそうなるのか。外食市場のパイ全体が縮小しているなかで、既存店の売上高は前年割れが続いている。それをカバーしようと新規に出店をします。新店分、売り上げはアップしますが、しかしすぐには利益に貢献しませんから、増収減益になります。さらに利益が減ると、それリストラだ、となる。不採算店を閉めて、減損処理をし、新規出店をストップする。そうすると、利益は回復しますが、既存店は前年割れ状態なので、売り上げは低下し減収増益になります。その状態が続き、利益が回復するとまた新店を出す拡大路線へと転換する。タイミングよく危機をしのいでいるように見えますが、実は、減損処理をすることで過去に貯めた資本を棄損しているわけです。赤字が続けば銀行からの融資も条件が厳しくなってきます。この増収減益と減収増益を3年から4年周期で交互に繰り返す“悪魔のサイクル”からなんとしても脱却しないといけない状態になっていたのです。

——そういう循環が続いているところを、どうやって赤字体質から脱却したのですか?

【菊地】中期経営計画のスパンで取り組んだのでは、3~4年周期問題は解決できません。そこで、10年間の長期ビジョン「ロイヤルグループ経営ビジョン2020」を掲げました。増収増益体質にするために、ビジネスモデルをゆっくりでもいいから転換していくことにしたのです。まずはグループ全体の方向性を示しました。それがグループビジョンで、柱は2つありました。1つは「お客様の満足」を最大の目標とし、時代の変化にしなやかに対応すること。もう1つは、日本で一番質の高い“食”&“ホスピタリティ”グループを目指すこと。

海ほたるパーキングエリア内のロイヤルマリンコート
コントラクト事業の高速道路では、2019年度にロイヤルマリンコート(千葉県・海ほたるパーキングエリア内)の改装などを行った。

■それぞれの事業が担う役割を明確に

——どういう改革の進め方をしたのか、具体的に教えてください。

【菊地】グループ内の各事業のミッションと戦略を明確にしました。まずはロイヤルブランドの再構築。誇りが持てるブランドに変えていくこと。これをロイヤルホストのミッションとしました。なぜなら、ロイヤルホストの商品とサービスが改善することで、はじめて「さすがロイヤル」と言われるからです。

次の戦略が、成長エンジンの育成。これは外食の天丼てんやとコントラクト事業を担い手としました。天丼てんやは出店モデルを再構築し、また日本だけでなくアジアにも積極的にFC展開をしました。コントラクト事業では、高速道路店、空港ターミナル店に加えて、病院や老人ホームなども受託を広げました。

もう1つの戦略が収益基盤の拡大。機内食やホテル事業が主な担い手となりました。機内食は受託エアライン数が増減はあるものの順調に推移して売り上げを伸ばし、ホテルは確実に出店を続けています。

——ロイヤルブランドの再構築、具体的にはどういう取り組みをしたのですか。

【菊地】ロイヤルホストはこれまで既存店にお金をかけてこなかったので、質の高いファミリーレストランといいながらも、実態は店舗の壁紙は剝がれたまま、床は汚いままという状態でした。これでは、従業員のモチベーションも上がりません。負のスパイラルになっていました。既存店に再投資し、お客様の満足度を向上することを目指したのです。ファイナンス思考でいえば、「お金の使い方」を変えたのです。経営が苦しく、キャッシュフローが数十億円しかない状態でした。その少ない資金を新規出店にではなく、既存店に振り向け、効果を出すことにしたのです。内外装を修繕し、より効率的に調理ができる最新鋭の厨房機器も導入しました。こうした投資によって社員のモチベーションもアップ、2012年からはロイヤルグループ850店舗のうち半分以上が前年を上回るようになったのです。これが増収増益へと結び付いていくわけです。また利益が出るようになるとキャッシュフローも増えてきますから、それを既存店の再投資だけでなく、業態転換投資、新店投資、インフラ投資などにも弾力的に投入することができるようになりました。成長エンジンに位置付けていた天丼てんや、コントラクト事業やホテル事業の成果も上がり、2017年まで6年連続で増収増益が実現できたのです。

「ロイヤルグループ経営ビジョン2020」の進捗
「ロイヤルグループ経営ビジョン2020」の進捗。3~4年周期で「増収減益」「減収増益」サイクルを脱し、2012年以降「増収増益」が基調となった。
従業員向けの決算説明会
2011年から始めた従業員向けの決算説明会。決算の概要と事業戦略の方向性を説明する大事な機会だ。

■経営と現場の壁を取り払う

——もう1つの改革が、社長就任時にメッセージを発した「社内に存在する3つの壁を取り払う」ことでした。「経営と現場の壁」を取り払うためにどんなことを行ったのですか?

【菊地】社長に就任してからは、ロイヤルホストや天丼てんやなどを1店舗ずつ一人で訪ねていき、現場の声を聴くことに努めました。店長会議などの場では、彼らはまわりに気遣いして、本音を言ってくれません。そうした対話から、各店舗の状況やどういう支援が必要なのか、ということがわかってきました。

翌年の2011年から「従業員向けの決算説明会」を始めました。株主というステークホルダーに対しては決算説明会という形で、きちんと話をする機会があります。それと同じように、従業員というステークホルダーに対しても説明をする場をつくることにしました。直近の決算の概要と事業戦略の方向性を説明してみると、「会社の状況が非常によく分かりました」という声とともに「ぜひ店舗の従業員にも聞かせたい」という要望が寄せられました。開催回数は年々増加し、2016年には全国31カ所で開催し1900人が集まりました。その際に従業員から提出してもらう質問にはすべて目を通し、個別にメールで回答してきました。従業員とこうしたやり取りを続けるうちに、ある問題が浮かび上がってきたのです。決算書の中には、ROA(総資本利益率)やROE(株主資本利益率)といった用語も出てきます。例えば「株主はROEを重視しています」と説明しても「ROEって何?」という人も少なくなかった。そこで、こうした専門用語がなぜ重要なのかという背景を教える機会を作らなければと思って、今度は「経営塾」を始めたんです。

——社内で「経営塾」を始めた理由を、もう少し詳しく教えてください。

【菊地】私のなかでは3つ狙いがあります。1つは時間軸と空間軸という言い方をしているのですが、ロイヤルグループの経営事情からすると、各事業の特性を考慮し、時間をかけて、企業の価値を高めていくことになります。ステークホルダーである株主、社員に対して、いまはこの事業に重点投資をしますとか、このタイミングで利益を還元します、というやり方を理解してもらわないといけない。関係者の利害を調整し、全体として最大の効果が出る方向へ進みたい。それを丁寧に説明する場としての「経営塾」です。

2つ目はバランスシート、経営の数字を理解してもらうためです。お店の店長クラスが見ているのは、売り上げと営業利益です。しかし、現在のようにデフレが続いて資産価格が下がっていく時代には、ファイナンス的思考を持ちバランスシートを意識した、経営判断をすることがとても大切なんです。将来、経営陣のメンバーになったときに、会社の判断を誤らないように、経営の数字の読み方、考え方を身に付けてもらう場としての「経営塾」です。

3つ目はステークホルダー経営時代のいま、株主がなにを経営評価の指標としてみているのか、そのためにどういう経営をして指標をクリアするのか。そのことを理解する場としての「経営塾」です。

2011年から始めて、受講者は延べ900人になりました。継続受講者もいて、アンケートに寄せられる意見、質問のレベルが高くなってきたのを実感しています。

GATHERING TABLE PANTRY
2017年11月に開店したGATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング テーブル パントリー)はキャッシュレス、新調理器などを導入した研究開発店舗。

■予測不可能で複雑な時代のリスクとは

——会社が持続的に成長するには、トップのマネジメントは短期間で変わらないほうがいいよう思いますが、業績好調のまま社長を6年で交代されましたね。

【菊地】社長になって1年目に内紛が起きたとき、これだけはやらなきゃいけないと思ったのが「スムーズな経営承継」でした。6年で社長を交代することを自分に誓い、信頼する社外の関係者にそのことを約束し、その時点で後継者にする人物を決め、経営者になるための経験を積んでもらうことにしたのです。それが、現社長の黒須康宏です。ふたりで5年間にわたって経営のことに向き合ってきたので、経営の継承はスムーズにいっていると思っています。会長になってもCEOでしたから、2019年春に黒須がCEOなったところで、経営の実権を継承した、といえるかもしれません。

——これからの経営者に求められることは何でしょうか?

【菊地】最近は「VUCA(ブーカ)」の時代だと言われていますね、VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字から取った言葉です。このような予測不可能で複雑な時代には、過去の成功経験を頼って新しいことは何もしないのが、最大のリスクだと思います。過去の成功体験が通用するなら、経営者は社内のことに通じていればよかった。しかし、これからは圧倒的に未知なることに向かっていかないといけない。経営者自らが社外に出て行って、どんな変化が起こっているのか、学ばないといけない。私どもでいえば、たとえばデジタルトランスフォーメーションをどう進めていくか、日本の人口減少・外食市場のパイが小さくなっていくのにどう対応するか。その際、なぜ新しいことに取り組むのかを、社員に、お客様に、株主に、それぞれわかりやすく説明し、理解を得ていくことが、いままで以上に大切になってきます。なによりも、経営者自らが学び、新しい経験をしていくことが、ますます大事な時代になってきたと思います。私も同じ心境です。

----------

菊地 唯夫(きくち・ただお)
日本フードサービス協会会長・ロイヤルホールディングス会長兼CEO
1965年神奈川県横浜市生まれ。88年早稲田大学卒業後、日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行。2000年ドイツ証券を経て、2004年ロイヤル(現ロイヤルホールディングス)入社。07年取締役総合企画部長。10年社長、16年に会長兼CEO。19年から現職。16年~18年日本フードサービス協会会長。

----------

(日本フードサービス協会会長・ロイヤルホールディングス会長兼CEO 菊地 唯夫)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング