不登校児を東大に合格させた親のスゴい声かけ
プレジデントオンライン / 2019年10月17日 11時15分
■どん底から東大へ。子供を飛躍させる親には共通点があった
子育ては、たいてい親の思うようにいかない。
・習い事は続かず、何事もがんばることができない。
・高い塾代をかけたのに、受験では第1志望校に不合格。
・朝、自分で起きることができず、あげくの果てに何年も学校に行けなくなる――。
わが子がそんな負のスパイラルに陥った時、親はどうしたらいいのだろうか。
雑誌『プレジデントFamily2019秋号』では、特集「東大生184人『頭のいい子』の育て方」の中で、現役東大生4人に「僕たち私たちががんばり続けられた<親の言葉>」というテーマで取材した。彼らは一様に挫折を経験し、優等生とはいえない小中学生時代を送った東大生だ。
中学で不登校になり、英語のbe動詞もわからない、2ケタの筆算もできないという、精神的にも学力の面でも「どん底」を味わった人もいた。
だが、彼らはそこから這い上がった。
このままでは終わりたくないと奮起して、努力を続け、日本の最難関である東京大学に合格。いまは、それぞれに夢を追いかけている。優等生でなかった彼らが、飛躍できた理由は何なのか?
取材をしてみると、その親たちには「共通点」があった。子供をどん底から救い出し、飛躍させた親たちの価値観や接し方を紹介したい。
■POINT1「ダメな子供も、ありのままを受け入れる」
今回、4人の東大生とその親を取材して強く印象に残ったのは、多くの親が「そんなんではダメでしょ」とつい小言を言ってしまいそうな状態でも、わりと放置していたということだ。
小学3年生の頃にいじめをきっかけに人間不信に陥って以来、「ゲームがお友達」状態になった山越遼一さん(文学部4年生)。勉強そっちのけでゲームばかりしていたことを、共働きで忙しかった両親も気づいていたが、ゲームを取り上げたり、頭ごなしに叱ったりしなかったという。
母親は私たちの取材にこう話した。
「親が叱って勉強を無理にさせても、意味はないですよね。『自分の人生なんだから、自分で責任を持って決める』というのが、うちの教育方針。ゲームをやりすぎているなとは思っていましたが、本人が気づくのを待っていました」
教養学部1年生の指原佑佳さんは、飽きっぽい性格で小学生時代、どんな習い事も長続きしなかった。でも本人がイヤになって辞めても、そのこと自体で叱られることはなかったという。その代わり、両親からこんな声をかけられたそうだ。
「続けることで幸せじゃなくなるなら、やらなくていいよ」
勉強をするのも、習い事をがんばるのも、本人次第。父親も母親も、親が押し付けてできることではないという、ある種の割り切りを持っていたのだ。
■「まともに学校に行けないなんて、僕は生きている価値がない」
さらに、学校に行けないという深刻な状態でも、「あなたはそのままでいい」と受け入れてもらったと語るのは、教育学部3年生の小川護央さんだ。もともと母親はしつけなどに厳しい人だったが、中学に進学すると友人との関係がギクシャクしたことがきっかけで学校に行きたくても行けないと苦しんだ。「まともに学校に行けないなんて、僕は生きている価値がない」。そう言って泣き崩れる護央さんを見て、「あなたはあなたのままでいいんだよ。ただ、生きて笑っていてくれればいい」と繰り返し伝えてくれたという。
この言葉は、不登校に苦しむ息子を救いたいという極限状態で発せられたものだ。結局、彼は高校浪人してトータル3年半以上、ほとんど学校に行けずに自宅で過ごすが、その間に母親は登校を焦らせることなく、言葉どおりに「ただ生きて、笑ってくれればいい」と支え続けた。
彼らは皆、このあとに自分自身で「変わりたい」と思ったり、勉強の楽しさに目覚めたりして、アクセル全開で努力するようになる。アクセル全開でがんばるには、心のエネルギーが満タンになる必要がある。
今回取材した親たちは、「ダメ」な状態の子供を必要以上に叱ったり、干渉したりせず、ありのまま受け止めた。だから、ただでさえ落ち込んでいる子供のエネルギーを余計に削ぐような失敗はしなかった。そして、親はただ普通にごはんをつくり、会話をする日常生活を送るなかで、子供たちは努力するための心のエネルギーを、十分に蓄えることができたのだ。
■POINT2「結果ではなく、過程に注目する」
心のエネルギーが十分に貯まれば、子供は自ら「成長したい」「何者かになりたい」と努力をするようになる。
だが、努力をしたからといって、望む結果が得られるわけではないのが人生だ。今回取材した親たちは「結果」より、「努力の過程」を大切にしていることも印象的だった。
医学部5年生の松永尚也さんは、小学校時代、進学塾に通ってがんばって勉強したものの中学受験で第1志望に落ちてしまう。気落ちしている尚也さんに母親は、「精いっぱい、力を尽くしたんだから、いいのよ。これも人生。受かった学校にこそ、縁があるんだよ」と声をかけてくれた。「気持ちがすごくラクになりました。そうか、そういう考え方もあるのかと前向きになれた。発想の転換を教えてもらった気がします」(尚也さん)
習い事が長続きしなかった前出・指原さんも小学校高学年で学ぶことの楽しさに目覚めて、中学受験をすることになったが、6年生の秋頃には「努力しても、落ちてしまったらどうなるんやろ」と急に不安に襲われたという。そんな時、両親は「わたしたちは合格しなくたっていいと思っているんだよ。いままで積み重ねてきた過程が誇らしいから」と言ってくれた。指原さんは、この言葉で「何のために勉強しているのかわかった」という。「大事なのは結果ではなく、努力の過程。合格発表を待たずして、努力が報われた瞬間でした」と語る。
■テスト結果や偏差値「数字」ではなく「努力の過程」に着目
テストの点が悪い。偏差値が下がった。受験で志望校に不合格になった――。
「結果」に注目すると、子供を叱って、発破をかけたくなることが増えてしまう。しかし、「努力の過程」に着目すれば、何かしら認めてやれることがあるはずだ。「ダメ」地点からスタートするなら、なおのこと。成長を感じられる場面は多いだろう。
そうして気づいた時に、子供は親の想像を超えた高みに登っていたというのが今回取材した親御さんの実感だった。自分の子がまさか東大に入るとは思っておらず、心底驚いたという方が多いのも興味深かった。
ちなみに、中学受験で第1志望校に落ちた松永さんは、第2志望に進んだわけだが、入学早々に学年で上位の成績を取ることができた。そこで自信を持つことができ、理系の選抜クラスに入って東大理科Ⅰ類(2年が終わったときの進学選択で医学部へ)に合格した。
こうした経験から、松永さんの母親は「第1志望に落ちてよかったと思っています。運よく第1志望校に入っても、自分より優秀な子たちばかりで自信をなくしていたのではと思うのです」と振り返る。実際、周囲の子が優秀だと、子供の成績は下がるということが研究で明らかになっている。松永さんの母親の直感は、科学的にも正しいのだ。
■POINT3「親が、自分自身の人生を生きる」
「努力の過程」に注目すると言われても、ダラダラ過ごしているのが目に入れば小言の一つもいいたくなるというものだ。であれば、あまり見ないということをオススメしたい。今回取材した東大生の親は、共働きをしている方も多く、付きっきりで子どもを見ていなかった点も良かったのかもしれないと感じた。
指原さんは言う。
「働いたり趣味を楽しんだりする母を見て育ったおかげで、迷うことなく自分の夢を膨らませてこられました。母も共働き家庭だったのですが、その時の寂しさからご飯だけはどんなに忙しくても家族と食べると決めたそうです。そう聞いてから働く母を恨めしく思わなくなりました。子供に依存しすぎず、自分らしく生きることが子どもにとって『大人になりたい』と思える、やる気に繋がるロールモデルになると思います」
子供が転んだ時に、親まで転ばないように、親自身が毎日の生活を楽しんでエネルギー満タンになっておくことが大事なのかもしれない。
(プレジデントFamily編集部 森下 和海)
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