香港デモを嗤う日本人はすぐ中国に泣かされる

プレジデントオンライン / 2019年10月19日 11時15分

9月21日22:18 香港 元朗(ユンロン)。拘束され取り調べを受けるデモ参加者。 - 撮影=的野弘路

■マスク姿の若者たちを次々と捕まえていく異常さ

若者たちのデモが続く香港で10月4日、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は議会の承認なしに長官の権限で法律を制定できる「緊急状況規則条例(緊急法)」を発動した。緊急法の発動は半世紀ぶりである。

これに基づき、翌5日に「覆面禁止法」が施行され、デモ参加者がマスクやゴーグル、覆面で顔を覆うことが禁じられた。この結果、8日までに計77人の身柄が拘束された。

香港政府は「デモの若者たちが顔を隠していることが警察の捜査を妨害し、デモ隊の暴力行為をエスカレートさせる」との説明を繰り返し、マスク姿の若者たちや学生を次々と捕まえている。

これが政府のやることだろうか。異常である。開いた口が塞がらない。

■混乱を収拾するには「話し合い」を重ねるしかない

22年前、1997年8月の香港では、死亡した3歳男児から鳥インフルエンザウイルス(H5N1タイプ)が検出され、人には感染しないと考えられていたこのウイルスが人にも感染することが分かり、世界に衝撃を与えた。その後、香港政府は香港のすべてのニワトリの殺処分を断行し、人への感染を未然に防ぎ、WHO(世界保健機関)など国際社会から大きく評価された。

この鳥インフルエンザ禍のとき、香港政府高官や政府関係者をはじめ、香港のあるゆる人はマスクを付けていた。もしまた大きな問題になったときはどうするのか。

そもそも香港の警察がデモ隊に催涙ガスを浴びせかけるからマスクを着用するのだ。マスクを禁止したところで、デモに香港人口の4人に1人に相当する200万人(主催者側発表)もの市民を動員できるエネルギーを押さえ付けることなどもはやできまい。

撮影=的野弘路
9月21日23:15 香港  元朗(ユンロン)。警告の後、デモ隊に向け催涙弾を放つ警官隊。 - 撮影=的野弘路

中国と香港政府は武力による制圧を国際社会に強く批判されることを懸念し、逮捕者を増やすことでデモを鎮圧しようと覆面禁止法を施行したのだろう。苦肉の策なのだが、中国と香港政府はそこまで行き詰っているのである。

中国も香港政府も何が重要であるかを理解していない。大切なのは市民との対話だ。混乱を収拾するには、何回も話し合いを重ねるしかない。近道はないのだ。

■中国の市場力に、あのNBAもすぐに白旗をあげた

NBA(米プロバスケットボール協会)のチームのひとつ、ロケッツの幹部が香港デモの若者たちに共鳴してツイートした。香港の若者たちが「自由のために闘おう」と既存メディアやネットを通じて海外にも発信しているからだ。

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9月21日23:13 香港 元朗(ユンロン)。市民の頭上で炸裂する催涙弾。煙に曝されるとむき出しの皮膚が焼けるように痛む。 - 撮影=的野弘路

ところが、である。中国当局から強い反発を受け、ツイートの削除を余儀なくされた。そのうえNBAは「発言が不適切で深く反省している」との声明まで出した。

背景にはこんな歪んだ構図がある。いま中国ではNBAのテレビ中継の視聴者が何億人もいる。広告を出すスポンサー企業にとって中国は金のなる大木なのだ。スポンサー企業はそんな中国を大切にする。NBAといえども、スポンサーには勝てない。簡単に言えば、中国の市場力にアメリカのプロスポーツ界が負けたのである。

■香港を「対岸の火事」ではなく、「他山の石」にしたい

自由と民主主義を求める香港。これに共鳴したアメリカのスポーツ界。しかし中国政府が成り上がったその経済力を武器にしてクレームを付ける。

これと同じ構図が日本国内でいつ起きてもおかしくない。いやもうすでに起きているかもしれない。

相手は共産党による一党独裁国家である。人口は14億人と世界第1位、経済規模はアメリカに次ぐ第2位だ。NBAがクレームに屈したように、中国が市場力を背景に頻繁に文句をつける事態となれば、日本の社会から自由が失われ、民主主義そのものが成り立たなくなる。沙鴎一歩はこれを強く懸念している。だから香港の問題をたびたび取り上げているのだ。

撮影=的野弘路
9月21日23:07 香港 元朗(ユンロン)。ガスマスクを装着し、催涙弾の使用を警告する警官隊。 - 撮影=的野弘路

香港の民社派市民や学生、若者たちの中国に対抗する活動は「対岸の火事」ではなく、「他山の石」だ。そう捉えることで、日本は中国と真っ当に勝負できる。あのふてぶてしい面構えの習近平国家主席を黙らせることができるのだ。

■「自治を崩壊させかねない危うい措置は撤回すべきだ」

10月5日付の朝日新聞の社説は「混乱を収拾するよりも、逆にこじらせる恐れが強い。香港の自治を自ら崩壊させかねない危うい措置を撤回すべきだ」とストレートに書き出してこう指摘する。

「これをもとに、マスクなどで顔を覆うことを禁じる『覆面禁止法』が制定された。『暴力行為の抑制』を目的とし、きょうから施行されるという」
「4カ月以上に及ぶ市民デモの本質を、長官はいまだに理解していないのではないか。市民の怒りは、こうした強権による自由の制限に向けられており、反発を増幅する可能性が強い」

朝日社説の指摘するように、香港市民の怒りが「強権による自由の制限」に向けられているのは間違いない。朝日社説は続ける。

撮影=的野弘路
9月21日20:39 香港 元朗(ユンロン)駅直結のショッピングモール。シュプレヒコールを叫ぶ女性。雨傘革命にちなむ傘には「警察の悪行を追求する必要がある。正義を求めて」という意味の言葉が書いてあった。 - 撮影=的野弘路

■暴力や破壊行為は香港政府や中国の思うつぼ

「香港で法律をつくるのは立法会の役割だ。その手続きを省略する緊急法の発動は、『公共の安全に危害が及ぶ状態』などに限定されている」
「前回の発動は、英国の統治に市民が反対した1967年の暴動の際だった。当時は爆弾の使用などで51人の死者が出た。今の香港がそこまでの状況であるとは言いがたい」
「緊張を高めているのはむしろ香港政府側の強硬姿勢である」

朝日社説が書くように、いまの香港の事態が「公共の安全に危害が及ぶ状態」とは言えない。ただここで気を付けなければならないのは、デモが一部で暴徒化し、警察官に暴行したり、空港などを占拠して建造物を破壊したりしている点である。暴力や破壊行為は香港政府や中国の思うつぼだ。香港の民主派が国際社会から批判されることになりかねない。

■たしかに欧米にも「覆面禁止法」は存在するが…

毎日新聞(10月6日付)の社説も「香港の緊急法発動 反発高める強引な手法だ」との見出しを掲げて香港政府を批判する。

「香港政府はデモ参加者がゴーグルやマスクで顔を隠していることで違法行為の追及が困難になり、暴力がエスカレートしていると主張する」
「欧米にも覆面を禁止する法律があることは確かだが、議会を通じた立法措置に基づくものだ。『緊急法に基づく措置と比較すべきではない』という民主派の主張には理がある」

欧米に覆面禁止の法律が存在することは重要な指摘だろう。だが、毎日社説がいうように緊急法で定めるべき法律でない。

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9月21日16:49 香港 屯門(テュンムン)。警官隊との衝突に備え、デモ隊が投石用の石を集めていた。 - 撮影=的野弘路

毎日社説は最後にこう主張する。

「長引く抗議活動は国際金融都市、香港の経済にも深刻な打撃を与えている。民主派も暴力のエスカレートを望んではいまい。ここは林鄭氏が一歩後ろに引くべきだ」

中国の習政権は「一国二制度」を尊重しているというが、それなら言うまでもないことだろう。香港政府や中国は、政治は国民や市民のためにあるという統治の基本に立ち返るべきだ。強権的な統治を続けても出口はみえない。

■「強権に屈しない強い意思の表明であり、支持したい」

「香港の緊急法 実質的な『戒厳令』布告だ」との見出しを付けた10月7日付の産経新聞の社説(主張)はまずこう訴える。

「林鄭月娥長官は『一国二制度』の原則を自ら壊しかねない一線を越えてしまった。事態は極めて重大である」

一国二制度とは、簡単に言えば共産・社会主義を維持しながら資本主義を導入する中国政府が編み出した独自の統治方法で、香港政府に高度な自治も与えている。産経社説は行政長官に大きな権限を集中させる緊急法が、この制度を崩壊させる要因になると指摘しているのだ。さらに産経社説は主張する。

「最初の緊急立法として、デモ参加者のマスク着用を禁じる『覆面禁止法』が制定された。この法律が施行された5日、数千人もの香港市民がマスク姿で白昼堂々とデモを展開した。マスクをとれば身元が簡単に特定されてしまう。強権に屈しない強い意思の表明であり、支持したい」

保守色の濃厚な産経社説としては、「強権に屈しない強い意思」を「支持したい」とするのは、興味深い書きぶりである。その姿勢が香港デモ以外の話題でも共通しているかは、しっかり読み比べていく必要がある。

■私たち日本人なら、中国の圧力にどう応じるか

最後に産経社説は書く。

「無理を承知で言えば、林鄭氏がなすべきは、今からでも緊急法を撤回し、実質を伴った市民との対話に臨むことだ。それができないなら、せめて混乱の責任を取り辞職を検討すべきだろう」
「自由を求める香港市民の声が、さらなる強権で封じられることを傍観してはならない。国際社会は結束して中国の介入を防ぎ、香港の高度自治を訴えるべきだ」

撮影=的野弘路
9月20日16:23 香港 荃湾(チュンワン)駅。学生たちによる「人間の鎖」。約1kmにわたって手を繋いだ学生が駅を取り囲んだ。 - 撮影=的野弘路

「無理を承知で言えば」は余分だが、「緊急法の撤回」や「市民との対話」には沙鴎一歩は大賛成である。私たち日本人は、香港の抗議デモを「他山の石」とする必要がある。中国の圧力にどう応じるか。今後の動きに世界が注目している。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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