橋下徹「ラグビー日本代表の報酬は安すぎる」
プレジデントオンライン / 2019年10月30日 11時15分
■あの平尾さんの母校・伏見工業とノーサイド直前まで同点だったが
今、日本中が2019年ラグビーワールドカップで盛り上がっている。中学、高校とラグビーをやっていた僕としては、本当に嬉しい。
一応自慢しておくと、僕は大阪府立北野高校のときにラグビー部に所属し、全国大会(花園)に出場した。当時、北野ラグビー部は46年ぶりの全国大会出場ということで、大阪では相当盛り上がっていたんだよ。全国大会では2勝し、ベスト16に進出。1月1日にミスターラグビーと称される故平尾誠二さんの母校、伏見工業高校と対戦した。ノーサイド直前までは同点だったんだけど、最後の最後にトライをとられて負けた。さすがの伏見工業だった。
僕はその後、西日本高校代表として、国立競技場において、東日本高校代表と対戦。高校日本代表「候補」にはなったけど、代表には落選。高校3年生の1月15日までラグビーをやっていたよ(笑)
(略)
■外国選手の加入、異質な文化の融合が日本チームを強くした
日本が強くなった理由は、ラグビー専門家から色々指摘があるが、やはり外国人の力だろう。このことは各メディアも盛んに報じている。
日本代表チームには10名を超える外国人選手が属するが、正確に言えば、半数以上は日本国籍を既に取得しているので外国人ではない。まあ法的にはそうなんだけど、外国をルーツとするメンバーが日本代表にたくさん入っていることは事実で、このことが日本代表を強くしたことも間違いない。
体格・体力の違いに日本人選手は驚いただろう。プレーだけでなく思考、文化の違いにも刺激を受けただろう。
やっぱり同質性の組織は強くはならない。
(略)
■合理性にこだわった日本代表の練習とは
今もミスターラグビーと称される故平尾誠二さんたちの時代も、そして僕らの時代も、日本のラグビー選手は、世界のトップクラスから見れば細く軽かった。日本人同士では大柄な者がラグビーに集まってきたけど、世界の中では、つまようじか綿棒みたいなもの。
そこを外国人選手が日本チームにどんどん入ってきて、さらに外国人のコーチも入ってくるようになって、まずは体格の差、体力の差を縮めることが第一となった。それも超科学的なトレーニングによって。
テレビの画面でラグビー選手の背中、首元のところを見て欲しい。小さな四角い箱みたいなものが入っている。これはGPSの発信器なんだ。GPSで選手の動きのデータを全部集めている。あれだけ激しくぶつかり合うラグビーでは、身体に装飾品などは何も付けてはいけないんだけど、GPS発信器は容認されている。これ、最初にやり出したのは日本代表チームらしい。当時はルール上ダメだろうと思われていたけど、一か八かやってみたら、それが容認されてスタンダードになったとか。
現代の科学的練習方法では、楽な負荷も、しんどすぎる負荷も、両方だめらしい。選手個々人に合わせた最適な負荷をかける。各選手の身体の状態を計るためには、GPSで集めて分析したデータが必要だし、さらにそのデータに基づいて作戦を立てる。
今の日本代表チームの選手の体格を見てよ。強豪国の選手の体格と遜色がない。体格、体力に差がなくなれば、細かな技術で勝るのは日本だ。技術の日本の優位性はスポーツに限らずあらゆることに言えるよね。
これから益々日本チームが強くなることを確信している。
■ルールを変えてゲームの面白さを際立たせたラグビー界
何よりも今回、ここまでラグビーワールドカップが盛り上がったのは、日本代表チームが強かったこともさることながら、多くの人にラグビーのゲーム自体が面白いと感じてもらえたからだと思う。
これはルールの変更によって、ゲームを面白くしたんだ。
僕らがラグビーをやっていた頃は、すぐにプレーが止まっていた。そしてスクラムの繰り返し。ボールを持った選手のところにタックルに行けば、そこで団子状態になり、ボールが出なくなる。ホイッスルが鳴って、重なり合った人間を起こしながら、団子状態を解消する。そしてスクラム。この繰り返しだった。
(略)
ボールを持った選手がタックルを受けて団子状態(ラック)ができた後に、ボールがうまく出てくることもあるけど、僕らの頃は、それが続くのは長くても5回くらいまでだった。いわゆる連続攻撃というもので、それはだいたい5回まで。
ところが、今は、連続攻撃は通常は5回以上は続き、長ければ10回、いや15回と続く。ずっとプレーが止まらない連続攻撃の展開になる。
これが決定的にラグビーを面白くした。プレーが止まらないように、団子状態(密集=ラック・モール)になってもボールがまた出てくるように(出さなければならないように)ルール改正が行われたんだ。
(略)
■代表選手の報酬は安すぎる! ラグビー協会は収益化に知恵を絞れ
ラグビーはもともとアマチュアリズムというものを徹底していたスポーツだった。紳士のスポーツだね。もっと言えば、お金に余裕のある人のスポーツ、という感じかな。だから、選手が報酬・利益をもらうことを極端に嫌がる世界だった。
(略)
でもそういうアマチュアリズムに固執していたことによって、選手の処遇が改善しなかったこともあったと思う。ラグビーをやっていても将来が見えない。一部の裕福な者だけが楽しめばいいなんてことにしたら、競技人口はどんどん減って、ラグビーは成り立たなくなるだろう。競技人口を増やすなら、ラグビーをやればきちんと生活ができる、さらには豊かな生活ができるという夢を子供たちに見せてあげなければならない。
(略)
ラグビー協会は、もっと必死になって、選手の処遇が良くなるように努力すべきだ。そのためには徹底して稼がなければならない。アマチュアリズムの良い部分は守るにしても、それに固執していてはダメだ。
(略)
日本選手の日当は1万円。ちょっと前までは2000円で、グリーン車料金やタクシー代も出なかったらしい。今回のワールドカップでは選手1人あたり100万円の報奨金が出るらしい。
これは少なすぎる。
今回はお金がないにせよ、次回に向けて、ラグビー協会は徹底してお金を稼ぐ知恵を振り絞らなければならない。
(略)
とにかく選手ファーストで、選手の報酬を徹底的に上げるためのラグビー協会になって欲しいね。
日本代表の選手の皆さん、本当にお疲れ様でした。本当にありがとうございました!
(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約1万3100字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.173(10月29日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【大成功・ラグビーW杯】これが日本代表の強さとゲームの面白さをもたらした「革命」だ》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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