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自滅する「パクリ企画」にみんなが手を出すワケ

プレジデントオンライン / 2020年1月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SeventyFour

世の中にはたくさんの企画が次々と生まれている。その中にはパクリ企画も多い。しかしほとんどのパクリ企画は失敗しているのが現実だ。マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏は「企画の勝ちパターンが変わったことに気づいていないビジネスパーソンが多い」と指摘する——。

※本稿は、永井孝尚著『超実践マーケットイン企画術 7つのテンプレートで「お客様のニーズ」がつかめた』(PHP研究所)を元に書き下ろしたものです。

■「何かを変えること」が本質である

私は仕事柄、これまで多くの企画を見てきた。日本IBM社員時代は、本社や他事業部の事業戦略。マーケティング専門職のプロフェッショナル認定審査をしていたので、彼らが作る企画を審査することもあった。独立後は、様々な業界のクライアントの事業企画を見ている。

多くの企画は、市場や自社の状況を丁寧に分析している。そして最後はキレイな言葉で締めくくられている。たとえばこんな感じだ。

永井孝尚著『超実践マーケットイン企画術 7つのテンプレートで「お客様のニーズ」がつかめた』(PHP研究所)

「世界ナンバーワンを目指し、新たな顧客を創出し、収益を確かなものにする」

これでは、何をするかがまったくわからない。いくら企画書を読み込んでも、どんな問題を抱え、その問題解決のために、何をどう変えるのかが、さっぱりわからないことも多い。

私は企画を作ったご本人とお話しすることも多い。

「問題が何で、何がどう変わるかがよくわからないのですが……。現状のままでいいということですか?」
「確かにビジネスは低迷していますが、今の体制やビジネスのやり方は問題ないと考えています」

こうして作った企画は、企画とは言えない。企画の本質とは「何かを変えること」だ。

・どんな問題があるのか?
・その原因は、具体的に何なのか?
・その原因を、具体的にどのように解決するのか?
・その結果、具体的に何がどう変わるのか?

要は「何をしたいのか?」「どうしたいのか?」を明確にするのが、企画の役割である。

■「何をしたいのか」に答えられないビジネスパーソン

多くのビジネスパーソンは真面目に目の前の仕事に取り組んでいる。しかし「何をしたいのですか?」「どうしたいのですか?」と聞くと、ほとんどの人は考え込んでしまうのが現実である。問題意識と仮説を持たないまま、目の前の仕事を、言われたとおりに一生懸命に行っているのだ。

一昔前までは「やること」が明確だったので、これでもよかった。求められるのは「効率」。言われたまま頑張れば報われた。たとえてみれば、登るべき山は明確であり、その山に一番乗りを競って頑張っていた。だから言われたとおり頑張る人材が評価され、現状に問題意識を持つ人材はむしろ敬遠された。

今は世の中がますます複雑になっている。そもそも何をやればいいか、皆が困っている。だからまず、どの山に登るか、そしてどう登るかを、決める必要がある。

この「どの山に登るか?」が問題意識で、「どう登るか?」が仮説である。

問題意識と仮説を決めるのが、企画なのだ。

では、企画はどのように考える必要があるのか?

■「どこかで見たような企画」は失敗する

どこかで見たような企画を考える人がいる。あるいは成功したライバルのアイデアをそのままパクって企画に仕上げる人もいる。たしかにかつては、パクリ企画でも、相手よりも頑張れば、そこそこうまくいくこともあった。

しかしいまや、パクリ企画が成果を挙げたという話はほとんど聞かない。顧客が求めることは、いまや多様化している。いまの顧客は既にどこかで見たことがあるものには目もくれない。現代では、パクリ企画が成功するわけがないのだ。

ではどうするか? 筋がいい企画を立てることだ。

筋のいい企画とは「みんなが欲しいけれども、ありそうでないもの」だ。そんな企画は、人をワクワクさせ、人を動かし、成果を生み出す。「そんな企画を考えるのは至難の業だ」と思うかもしれない。しかし考え方を変えれば、できる。

■「正しい答え」より「正しい問い」

私たちは学校で問題を与えられ、正しい回答をするように教育されてきた。「問題は与えられるもの。答えは探すもの」と思っている。だから多くの人は「正しい答え」を探そうとする。これを変えるのだ。

今は、そもそも何をすればよいのかが、わからない時代だ。こんな時代に必要なのは「そもそも何が問題なのか?」という「正しい問い」を立てる力だ。

・お客様は何で困っていて、どんな痛みを抱えているのか?
・そもそもウチの会社には、どんな課題があるのか?

つまり「正しい答え」の前に「正しい問い」なのだ。誰もが困っていて誰も解決できない問題を解決する企画が、人々をワクワクさせる。

「正しい問い」を立てないまま「正しい答え」を探しているから、どこかで見たような企画を立てて、失敗しているのである。

さらに企画の勝負は、ほんのわずかな差で決まる。

■最小限の手間で、「半歩の差」をつける

ある登山者2人が山を登っていると熊に出くわした。相手は凶暴なグリズリー熊。獲物の2人を見つけると、徐々に速度を上げてこちらに向かってきた。

一人は即座にリュックを降ろし、登山靴を脱いでランニングシューズに履き替え始めた。それを見てもう一人がこう言った。

「何しているんだ? 熊はキミよりずっと速いよ」

彼は靴を履き替える手を止めずに、こう答えた。

「熊よりも速く走る必要はないよ。キミより速く走れればいいんだからね」

これはMITのジョン・D・C・リトル教授が1984年に論文で紹介した逸話である。このブラックな逸話は、私たちに大切なことを教えてくれる。

勝つか負けるかはほんの半歩の差で決まる。登山靴のままとりあえず駆け出すように、その場で必死に頑張るのも、一つの方法だ。しかしリュックを降ろして、靴を履き替えたように、少しだけ考える時間を持ち、相手に半歩先んずれば、消耗戦を避けて勝つことができる。

常に相手よりも半歩先んずれば、百戦百勝だ。

相手よりも半歩先んじるのが、よい企画である。

手間は惜しんではいけない。

しかしムリに頑張って、百歩の差をつける必要もない。

私たちビジネスパーソンにとって、勝負は1回だけではない。勝負は何十回も何百回も繰り返される。だから全ての勝負で百歩の差をつけようとするのではなく、常に半歩の差をつけることを目指すべきなのだ。

企画を成功させる人は、最小限の手間で、常に半歩差で勝ち続ける人なのである。

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永井 孝尚(ながい・たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント
1984年に慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。マーケティングマネージャー、人材育成責任者として同社ソフトウェア事業の成長を支える。2013年に日本IBMを退社後、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表に就任。執筆の傍ら、幅広い企業や団体に新規事業開発支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供しマーケティング戦略の面白さを伝え続けている。さらに仕事で役立つ経営戦略を学ぶための「永井塾」を毎月主宰。主な著書にシリーズ60万部『100円のコーラを1000円で売る方法』、7万部『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(以上、KADOKAWA)、10万部『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)、『売ってはいけない』(PHP新書)。最新著書は『超実践マーケットイン企画術 7つのテンプレートで「お客様のニーズ」がつかめた』(PHP研究所)永井孝尚オフィシャルサイト

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(マーケティング戦略コンサルタント 永井 孝尚)

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