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AI時代こそ“教養”が必要なワケ

ASCII.jp / 2024年3月28日 7時0分

Guzel Maksutova | Unsplash

 教養とはなんだろう?

 などという問いかけはいささか漠然としすぎているが、とはいえ「これが教養だ」と明確に答えられる人は限られているに違いない。では、果たして教養とはどのようなもので、どんなときに役立つのだろうか?

 この問いに対し、『世界のエリートが学んでいる 教養書必読100冊を1冊にまとめてみた』(永井孝尚 著、KADOKAWA)の著者は次のように述べている。

 問題の本質を構造的に捉えるために必要なのが、教養だ。私たちが日々遭遇する多くの問題は、自分の知識や経験だけで考えても、的確な答えは出てこない。教養を身につければこれが変わる。教養とは、過去の賢人たちが蓄積してきた膨大な知識の宝庫だ。だから教養を身につければ、見えなかった問題と対応策が見えてくる。逆に自分の経験と知識だけで考えるのは、完全武装した強大な敵と丸腰で戦うようなものだ。(「はじめに」より)

 たとえば「少数精鋭。平均年収1500万円」だという会社があったとしたら、「こんなに給料がいい会社は滅多にないから、入社しないと後悔する」と感じる人は多いだろう。しかし、統計知識があれば考え方は変わってくるという。

 平均には算術平均・中央値・最頻値があり、社長の高い年収が算術平均を引き上げていて、最頻値(大多数)は300万円の可能性もある、と予想できる。(「はじめに」より)

 もうひとつ例を挙げよう。

 もしもチームの意見が割れているとしたら、「平等に、多数決で決めよう」と考えたくなるのも当然だ。だが多数決は、必ず不満な人が出て大きな問題になりやすい。一方、異論を抑えた折衷案では成果が出ないことも多い。しかしルソーの一般意志の概念を理解していれば、むしろ異論を持ち寄って徹底的に議論し、全員が納得する組織としての合意」をつくるべきだとわかると著者はいうのだ。

 このように、教養があれば考え方にも幅が出るわけである。

AIや検索を使うためにも“教養”が必要になる

 とはいえ、いまや検索するか、あるいはAIに聞いてみれば、すぐに知識が得られる時代でもある。そのため、「検索すればわかる教養などわざわざ学ぶ必要もない」という意見も出てくるかもしれない。しかし著者は、そういう主張は勘違いだと反論する。

 たしかに知識は検索やAIで得られるが、私たちは脳内にある膨大な知識を瞬間的に組み合わせながら考えている。脳内にある知識が教養なのだ。脳内にはない検索エンジンやAIの知識は、考える際に使えない。「検索すればいい」とよく言われるが、検索するには正しく質問する必要がある。正しく質問をするのにも教養が必要だ。では教養は、どうすれば身につくか。  それには教養の名著を読むことだ。教養の名著は過去に活躍した賢人たちの知識の結晶だ。それらは「知的に面白く、かつ生きる上で役に立つ」からこそ、時代を超えて読み継がれてきたのである。(「はじめに」より)

 非常に説得力のある考え方ではないだろうか。つまり私たちにとっては「考える」ことが重要な意味を持ち、考えるための素地として教養が不可欠なのだ。

 しかし、教養を学ぶことは決して楽ではない。入り口らしい入り口がなく、しかもその先にあるハードルは高いからだ。また著者によれば、教養の世界では「文系と理系の断絶」が起こっているという。分野を超えて横断的に俯瞰し、まったく違う分野のつながりが見えると、教養を学ぶことが俄然おもしろくなるにもかかわらず。

 もうひとつの問題は、教養の名著が難解なことだ。哲学ではカントの『純粋理性批判』、ヘーゲルの『精神現象学』、ハイデガーの『存在と時間』は「三代難解書」と呼ばれている。ダーウィンの『種の起源』やアインシュタインの『相対性理論』も難解だ。これらの幅広い教養書を、一気通貫でわかりやすく理解できる本が、世の中にはない。そこで私は考えた。「ないのならば、自分で書いてしまおう」(「はじめに」より)

 この発想がすごいが、ともあれ著者は2年におよぶ時間をかけてこれを実現してしまった。「西洋哲学」「政治・経済・社会学」「東洋思想」「歴史・アート・文学」「サイエンス」「数学・エンジニアリング」という6構成で、各分野の「これは必読」と思われる名著100冊を厳選。押さえておきたいポイントを平均6ページでまとめているのである。そのため読者は、自分が興味のある項目から読み始めることもできる。

時間をかけて築いた教養は必ず武器になる

 688ページもあるので、なかなかに重たく、読んでいるとそれなりに手は疲れる。読破するには時間もかかりそうだ。また2700円(税別)という価格は、「買うには高すぎる」と感じさせるかもしれない。

 でも、少しだけ違った視点から考えてみてほしい。2700円で100冊が紹介されているということは、1冊につき27円だ。まったく高くない。1冊を平均6ページで読めるのだから、コスパもタイパも抜群である。仮に1日1冊分ずつ読んだとしても、3ヵ月ちょっとで読破できる。そう考えると、なんとなく読んでみたくなるのではないだろうか? その「なんとなく」という思いに、じつは大きな意味があるのではないか。

 そして重要なポイントは、本書を読んだからといって「原著が完全にわかった」とは言い切れない点だ。なにしろこれは、原著から仕事や人生の役に立ちそうな部分を抽出し、「ザックリ言うと、〇〇〇」とまとめたものにすぎないのだから。

 あくまで多忙なビジネスパーソンが教養を身につけるきっかけをつくる道具である。だから興味を持った本は、原著に挑戦してほしい。原著から学べることは、本書よりもはるかに広く深い。そうして時間をかけて築いた教養は、必ずやあなたの武器となる。(「はじめに」より)

 いわば本書は教養を身につけるための「入り口」であり、この先にも、知的好奇心を刺激してくれる奥深い森が広がっているということだ。

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  • 世界のエリートが学んでいる 教養書必読100冊を1冊にまとめてみた永井孝尚KADOKAWA

 

筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。 1962年、東京都生まれ。 「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。 著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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