「口」の中の状態でバレる、歯で死ぬ人生き残る人
プレジデントオンライン / 2020年2月9日 11時15分
■歯科医で生活習慣病を防ぐ
“歯医者は、歯が痛くなったら駆け込むところ”、まだこんなふうに思っている人がいるとしたら、早急に考えを改めたほうがいい。
「当院では歯の治療をするだけでなく、患者さんに血液検査や唾液検査、尿検査、体組成測定などを受けてもらって全身の健康状態をチェックし、運動や食事についても指導します。口腔内の健康を維持することで、全身の健康が維持できるからです」
こう話すのは、歯科医師で米国抗加齢医学会認定医の森永宏喜氏だ。
「歯科医とは、全身の健康と若さを保つための“門番”だと私は思っています。特に自覚症状がなくても定期的に歯科を受診することで、生活習慣病やうつ病、認知症などの兆候にいち早く気づき、食い止めることができる。逆にいえば、生活習慣病で病院に通っている人はもう病気になってしまっていますが、歯科を訪れる人はまだ体は元気なことが多いので、歯科治療で体の病気の悪化を食い止めることができるのです」
しかし歯の健康と、全身の健康がなぜ関係してくるのだろうか。
■最終的には歯が抜けてしまう病気
「それは主に歯周病が関係しています。歯周病というのは、何百種類もの菌が歯と歯茎の間の歯周ポケットに入り込み、歯を支えている骨を溶かしてしまい、最終的には歯が抜けてしまう病気。放置しておくと歯周病の病巣に開いた血管を経由して、全身に歯周病菌の毒素が運ばれていく。それが体のあちこちで慢性炎症を起こすのです」
この“炎症”がくせものだ。炎症は急性であれば症状は重いが、比較的すみやかに収束する。だが歯周病菌が引き起こすのは、本人も気づかぬうちにじわじわと続く慢性炎症。この慢性炎症がいつのまにか高血圧や動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病、がんなどの重篤な病を引き起こすと森永氏はいう。
「中等度の歯周病は、進行の目安になる歯周ポケットが4ミリから5ミリくらいの深さになります。そういう歯が20本あった場合、その面積を合計すると、手のひら1枚分ぐらいになる。つまり手のひら1枚分の潰瘍、つまり組織が傷ついている炎症の発生源が口のなかにあるということを意味します。もしも胃にそんな大きさの潰瘍があったら大変ですよね」
歯周病の病巣にいる菌は、直接血管内に侵入しやすい。消化管を伝わって胃を通過し、腸まで達する場合もある。最近「腸は第二の脳」といわれるほど、脳と密接な関係にあることがわかってきている。腸内環境が悪化すると、脳内の神経伝達物質の生成が妨げられ、うつ病や認知症を招くという。
「口腔内の歯垢は細菌の塊です。まずは歯磨きなどで口の中の歯垢をできるだけ落とし、それでも残った歯垢が固まって『歯石』になってしまったら歯科で除去してもらうのが基本中の基本となります」
日本人成人の約8割が罹っているという歯周病だが、歯周病は初期の段階ではほとんど症状がない。歯が揺れる、噛むと痛いなどの自覚症状が出たときには、すでにかなり重症になっていることが多い。だからいまは特に不調を感じていない人でも、歯科の門を叩くことで、将来まで続く健康が手に入るというわけだ。
「歯が痛くないのに歯医者に行くのは抵抗がある」という人は、最新の治療方法を知らないため、歯科医院に苦手意識を持っていることが多い。だが現在は歯をガリガリ削ることは昔よりは少なくなっている。
「虫歯の疑いで歯に着色している箇所があっても、食生活が適切にコントロールできていて、定期的に来院できる方であれば、そんなに慌てて削りません。なぜなら歯を削って人工物に置き換えるということは、特に年齢が若い方の場合、必ずまた再治療が発生するから。つまり削って人工物にした場合、大抵はその詰め物がダメになって、より大きな詰め物になります。詰め物がダメになると、次はかぶせ物になる。
しかしそれも数回でダメになって、最後は歯を抜くことになる。抜いたらそこに部分入れ歯なり、ブリッジなり、インプラントなどを入れますよね。しかし部分入れ歯は両脇の歯にバネをかけて装着しますから、バネをかけた歯に負担がかかり、そこから歯周病が悪化していく。そのスパイラルはなるべく手前で止めたい」
昔はレントゲン写真や過去の経験などで虫歯の進行度合いを判断していたが、いまはダイアグノデントというレーザーを使った測定機器などを使い、数値で経過を追うこともできるようになったこともあり、削ることに慎重な歯科医が多いという。
■クリーニングの一歩先のケア方法
「ほかにも最新の治療を紹介すると、『リアルタイムPCR』という検査で歯周病菌を特定し、それぞれの菌の種類と数もわかるようになりました。歯周病は、さまざまな菌の複合感染で起こります。ところがその菌のなかでも特に口腔内で悪化を促進するものがある。それがレッドコンプレックスと呼ばれている3種類の菌(Pg菌、Td菌、Tf菌)です」
これまでは大学の研究室など設備が整ったところでないと菌の特定はできなかったが、いまは口腔内からとったサンプルを専門の機関に郵送すれば分析結果が送り返されてくるようになった。菌の種類が違えば治療法も百八十度変わるというほどではないが、ターゲットの菌を特定し、それに合わせて飲み薬や塗布剤を変えたほうがより効果的なことは間違いなく、治療後に再検査することで効果も客観的に評価できる。
また最近の歯科医院では、歯周病対策として、薬液ジェルを歯に塗布することを勧められることも多い。しかし、難点は唾液ですぐに流れてしまうことだ。その点、マウスピースに薬液ジェルを入れて装着する3DS(デンタルドラッグデリバリーシステム)という方法なら、薬液がしっかり浸透するうえに、1回10分、1日2回だけなので、それほど負担にならない。
「これらの治療を施している歯科医院はまだ全体の1割以下で、健康保険も利きません。ただ非常に重症の方の場合は、これをやるとかなり患者さんの労力が減りますね」
また昔は歯の詰め物をつくるときは、まず印象材と呼ばれる粘土のようなもので型をとり、そこに石膏を流して模型をつくり、そこから歯科技工士がかぶせ物のもとをつくって、それが金属であれば鋳造するというステップを踏んでいた。しかし加工のステップが多ければ、それだけ誤差が生じやすく歯にフィットしづらくなる。
「最近はデジタルデンティストリーといって、口腔内スキャナーでデータを取り込み、歯科用CAD/CAMの技術でかぶせ物を削り出すことができるようになりました。治療の苦痛も減り、完成までの期間も大幅に短縮されましたし、材質もセラミックや特殊な樹脂などですから、金属アレルギーの人にとってはうれしいニュースではないでしょうか」
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米国抗加齢医学会認定医
日本アンチエイジング歯科学会常任理事。東北大学歯学部卒。1992年、千葉県鋸南町に森永歯科医院を開業。著書に『アンチエイジングは“口の中”から!』(ロングセラーズ)など。
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ライター&エディター
ビジネス書の編集者として出版社に勤務したのち、2001年に独立。女性誌、男性向け月刊誌、ニュースサイトの記事を書くほか、書籍の構成も手がける。
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(ライター&エディター 長山 清子)
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