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橋下徹「日本政府はウエステルダム号の5人をなぜ見捨てたか」

プレジデントオンライン / 2020年2月19日 11時15分

カンボジア南部シアヌークビルで、クルーズ船「ウエステルダム」号から下船する乗客。=2020年2月15日、カンボジアシアヌークビル - 写真=AFP/時事通信フォト

新型肺炎問題で寄港拒否が相次いだクルーズ船問題。この件で橋下徹氏が最も憤るのは、日本人5人が乗船していたオランダ船籍の船ウエステルダム号への日本政府の対応である。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(2月18日配信)から抜粋記事をお届けします。

(略)

■日本は、いざというとき本気で自国民を守ろうとしないのか……

ダイヤモンド・プリンセス号への日本政府の対応や船の状況が連日報道されているが、さらに僕が気になったのは別のクルーズ船「ウエステルダム号」への対応と状況だ。ウエステルダム号は船内感染の疑いのため、太平洋の沿岸国5カ国から入港を拒否された。

8日に那覇港に寄港予定だったが、日本政府も6日に受け入れを拒否した。

そこでウエステルダム号は進路を変え太平洋をさまよいながら、最終的にカンボジアのシアヌークビル港に13日に寄港することができた。

実は、このウエステルダム号には、日本人5人が乗船していた。

僕はこの報道を聞いて、心底悲しくなった。やっぱり日本政府は、日本という国家は、いざというときに本気で自国民を守ろうとしないのか、と。

確かに最終的には、日本人乗客はシアヌークビルから日本に帰国した。しかしそれは結果オーライの話であって、はじめからカンボジアがウエステルダム号の入港を認めていたわけではない。どこにも寄港が決まっていない中で、日本政府は日本人が乗っているウエステルダム号を太平洋に放り出したのだ。

日本政府は横浜のダイヤモンド・プリンセス号の対応でいっぱいいっぱいになっていたのだろう。そこにさらなる感染疑いのある大型クルーズ船がやってきたら、もうお手上げだ。だからとにもかくにも日本の港に寄港させたくない、という日本政府の気持ちはわかる。

先にも述べたが、危機対応の鉄則は、自分が抱える危機の範囲を小さく狭くすることなので、ウエステルダム号を日本で抱えないという判断は適切だ。

しかし、乗客である日本人、自国民の保護は全く別の話だ。ここは日本政府、国家として絶対に譲ってはならない行動原理だ。

■外務省はクルーズ船での「安否確認」をなぜしなかったか

海外で紛争や災害、大規模事故が発生すると、在外日本大使館が真っ先にやることは日本人の安否の確認だ。今回のウエステルダム号は、太平洋沿岸国に寄港を拒否されているという異常事態にあり、まさに紛争、災害、大規模事故に匹敵する状態ではないか。

寄港を拒否するにしても、日本政府がまずやらなければならないのは、ウエステルダム号内の「日本人の安否確認」だ。いつも日本人の安否確認を真っ先にやっている外務省が今回それをやっていなかったのであれば、日本人の安否確認の作業が形式的なものになってしまっていたのではないか。また船のことなので自分たちの所管ではないと考えてしまったのか。

(略)

新型肺炎感染に対応する全省庁横断組織の立ち上がりが遅かったのも災いした。

本来は、このようなときにこそ、安倍政権はもちろん与野党含めた国会議員が、「ウエステルダム号内に日本人はいるのか!?」という意識を持たなければならないし、一納税者である僕は、国会議員にそのような意識を絶対に持ってもらいたかった。

(略)

官僚は、論理、法律、公平性、安定性が行動原理の核となるが、政治家の行動原理の核はパッション=熱だ。今の日本の国会議員に、「日本人を何が何でも守る」というパッション=熱が本当にあるのか。

(略)

政府の役人は目の前の対応でいっぱいいっぱいになり、ウエステルダム号の中の日本人確認まで思いが至らなかったのかもしれない。しかし、国会議員が700人以上もいる中で、「ウエステルダム号の中に日本人はいないのか? 確認したのか? 日本人がいるなら、是が非でも助け出せ」という声がまったく上がらなかったというのであれば情けないことだし、一国民としてあまりにも悲し過ぎる。それは日本の国会議員たちに、「日本人を守る」という意識が血肉になっていない証だ。普段、口にしている「国民のために」というのは、上っ面の言葉にしか聞こえない。

ウエステルダム号の寄港を拒否したのは危機対応上、ある意味やむを得ない。しかし、そうであれば、まずは船内の日本人の安否確認を早急にすべきだった。そして日本人が存在するということであれば、それこそ自衛隊に救出活動を指示すべきだった。

法的根拠はあいまいかもしれないが、新型肺炎対策では法的根拠があいまいなまま、かなりのことをやってきている。ウエステルダム号からの日本人救出の話で、厳格な法的根拠の話を急に持ち出す必要も理由もない。災害対応に準じて自衛隊に救出指示をすればいいだけだ。

まあ後付けであーだこーだ言うのは簡単なことだけど、今後の参考のために、ウエステルダム号から日本人を救出するためにはどうすればよかったのか、あえて後付けで考えてみる。

■自衛隊が自国民を海上で救出、那覇港へ戻ってくる姿を見たかった

日本の自衛隊が一番活動をやり易いのは、日本の領海内においてだ。ゆえに、ウエステルダム号を日本の領海内まで呼び込んで、自衛隊に日本人を救出してもらう。陸上自衛隊出身の佐藤正久参議院議員は、海上でのレスキューはいくらでもできるし、ヘリコプターを使えば何の問題もないと言っていた。そのような訓練を積んでいるのがまさに自衛隊なんだろう。

それこそ、ヘリコプター艦載機の「いずも」にでも出動してもらい、ウエステルダム号の近くに横付けし、ヘリコプターによって日本人5人を救出し、そして那覇港に戻ってくる姿を見たかった。

(略)

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

繰り返し言う。国家・政治家がやるべき究極の使命は、「自国民保護」だ。

日本の領海内なら、日本の主権を行使できる。しかし、公海上だとただちに日本の主権を行使できない。国際ルールでは、船の船籍がある国(旗国)が主権を行使する。ウエステルダム号は、オランダ船籍でアメリカの会社が運営する船だ。

であれば、日本政府はアメリカ政府とオランダ政府と話をつければいいだけで、ここは西側諸国同士として話をつけやすかったと思う。日本の外務省の頑張りどころだ。

そしてウエステルダム号から日本人5人を、ヘリで救出する「だけ」では、やはり批判を浴びるだろう。だからそこは政治的配慮、知恵が必要だ。日本人5人を救出するのと引き換えに、ウエステルダム号が必要としている物資を、たっぷりと供与してあげればよかった。まさに「政治」だ。

自衛隊がウエステルダム号から日本人を救い、那覇港に戻ってくる。そんな様子を国民がしっかりと見ることによって、日本政府への信頼感が高まる。それが国家というものだ。

ところが、今回、日本政府は、ウエステルダム号内の日本人を太平洋に放り出した。ウエステルダム号がどこに寄港できるかわからないなかで、日本人5人を太平洋にほっぽり投げたのである。

この罪深きことを国会議員は認識しているのか!

国会議員は口を開けば「日本国民のために!」といつも言うが、ちゃんちゃらおかしい。上っ面だけじゃなく、本気でパッションをもって日本国民を守る気概を示せ!

(略)

(ここまでリード文を除き約2800字、メールマガジン全文は約1万900字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.188(2月18日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【フェアの思考(6)】今後のための検証・肺炎感染「クルーズ船」に日本政府はどう対処すべきだったか?》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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