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なにが起きても「それが人生、仕方ない」で済ませるフィンランド人の考え方

プレジデントオンライン / 2020年3月9日 9時15分

写真=KESKI/Jukka Rapo/Finland Promotion Board

フィンランド人の暮らしや考え方はシンプルだ。フィンランド大使館で広報を務める堀内都喜子氏は、「人間関係もあっさりとしており、互いに深くは立ち入らない」という——。

※本稿は、堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■会社に定時や朝礼はない

フィンランドのデザインや建築を語る時、よく感じるのはシンプルで機能的。派手な美しさを追求したというよりも、スッキリとした自然な美。そして使っていて便利だったり、頑丈だったりもする。それはフィンランド人の暮らし方や働き方にも感じることができる。

家に行くと、それほど広くはない部屋に必要最低限の家具が置かれ、スッキリとしている。物もそれなりにあるのだが、収納をうまく使い、余分なものは置かない。子どもがいても、いろいろとおもちゃが広がっているのは子ども部屋だけ。他の部屋はシンプルなままだ。

職場も、今は極力ペーパーレスになったこともあり、書類で山積みの机を見ることは少ない。たとえ個室でなくとも一人ひとり、スペースにゆとりがあり、色遣いや家具の統一感も考えられていて、気持ちのいい空間が作られている。

またシンプルで心地いいのは空間だけではない。その働き方やライフスタイルもまたシンプルだ。朝起きて、さっと簡単な食事を済ませて出勤。通勤時間は平均20分ほど。通勤手段は、首都圏であれば地下鉄や路面電車、バスなどあるが、それ以外は主に車だ。最近は、通勤時間を運動にあてるため、自転車や徒歩の人も中にはいるが、冬が長いのでやはり天候を考えると車が一番便利だ。

思い思いの時間に出社して朝礼などもなく、お昼もササッと食べて、残業はせず、夕方に仕事を終える。その後は、家に帰って趣味やスポーツをし、夜はたっぷり眠る。

■子どもがいる家庭も一品料理やパンで済ませる

外食や夜出かけることも多くない。そもそもヘルシンキ市などの大都市の中心地に住んでいれば別だが、家の近くにショッピングセンターなどの商業施設やスーパーがあることは少ない。コンビニやレストランもなく、外食は値段も高いため、特別な理由のある時にしかしない。

子どもがいる家庭は、送り迎えや家事に追われるが、日本ほどきっちりと料理を作ったり、お弁当を作ったりする習慣はない。一品料理や、パンなど、シンプルすぎると感じるほどの食事で済ませる人も多い。子どもの離乳食においては、自分で手作りすることは少なく、瓶詰の市販のもので済ませるのがほとんどだ。

職場でも、シンプルで心地いい服を洋服だって、2〜3日同じ服を着ていても何も言われないし、見た目よりは季節に対応し、機能性の高い服が好まれる。確かにマリメッコなど日本でも知られるブランドはあるが、おしゃれで可愛い、もしくは格好いいファッションの人はほんのひと握りだ。おしゃれ好きからすると、時にはそれは寂しくもあるのだが、シンプルでとにかく心地いいことは否定できない。

■スーツやネクタイは着用しなくていい

たとえ仕事の場面でも、女性の化粧や、ヒール靴を求められることは少ない。特に冬になれば外はマイナス10度、20度になり、路面もツルツルだ。スカートやヒールで外に出ることは不可能だし、毎回着替えや履き替えの靴を持ってくるのもあまり現実的ではない。逆に、日本と同じく家では靴を脱ぐ習慣があるフィンランドでは、オフィスで心地いいサンダルや裸足で過ごしている人も見かけられる。

フィンランドのオフィス風景
写真=Jarmo Mela/Finland Promotion Board

化粧にしても、服装にしても周りからのプレッシャーはなく、清潔感があれば、あとは本人が心地よく、自分が好きなようにして構わない。髪形やネイル、アクセサリーも自由だ。男性もそれは同じで、スーツやネクタイは必ずしも必要ではない。

以前、日本に出張でやってきたフィンランド人が、日本のお客様の前ではスーツを着る必要があると知り、「スーツを着るのなんて結婚式以来かも。クローゼットの奥から引っ張り出してきたよ」と恥ずかしそうに着ていたのは忘れられない。

もちろんホテルや航空会社、医療系などは制服や身だしなみが問われるが、ビジネスファッションのルールは、日本よりもはるかにゆるい。教師、公務員、営業職であっても、ジーンズをはじめカジュアルな服装も、髪の色も、刺青の有無も気にされることはなく、それぞれの個性として受け止められている。

■人間関係もシンプルで心地よく

フィンランド人は人に頼ることが少し苦手で自立した人たちだが、助けを求められて冷たく突き放す人たちでもない。自ら手を差し伸べて助けてくれることはなくとも、頼られればできるだけそれに応えようとする。だから親切の安売りをしたり、感情豊かに表現したりすることはないが、慣れると信頼できる人たちだと感じられる。

以前、私が知人を亡くし、落ち込んでいた時、一緒に泣くわけでもなく、慰めの言葉をたくさん並べるわけでもなかったが、「それが人生」と冷静にひとこと言い、泣いてる私を放っておいてくれた。最初は冷たいなと思ったが、そう言ったのは彼女だけではなかった。フィンランドの友人がみんな冷静に受け止めて「残念ね、お悔み申し上げます」に続いて「それが人生」と言い、過度に感情を表すわけでもなく、変に励ますのでもないのが、不思議でもあり、最終的には心地よくもあった。

オフィスのキッチンスペース
写真=Jarmo Mela/Finland Promotion Board

他にも、誰かが失恋した時、誰かが子育てで悩んでいる時、病気がわかった時、どうしても都合が悪くて家族の冠婚葬祭に参加できなかった時、仕事をクビになった時、「それが人生、仕方ないね」とあまりにも本人も周りもあっさりしていて、戸惑う時がある。

■一歩引いた関係が心地いい

この戸惑いはなんだろうと考えると、日本は共感を示すことを強く求められているからではないかとの結論に行きつく。本人と一緒になって、怒り、悲しみ、悩み、考える。だが、フィンランドはどちらかというと「そっか」と静かに受け入れて、余計なことはあまり言わない。

そういった、一歩引いた人間関係は、おもてなしのコンセプトにも現れている。フィンランドは、相手に選択肢を与え、自由な時間と空間を与えることが最高のおもてなしであると考えている。慣れないと、とまどいを感じるかもしれないが、その背景にある考えを知ると、心地いい。ベタベタ密着した関係よりも、深呼吸ができる、スペースのある人間関係が求められている。

だから、何か話した時に、「うん」と聞いてはいても、大きく感情を表したり、言葉をかけたり、変に同情することもない。でも、言葉はなくとも否定されているとは感じないし、そのあっさり感もなかなか心地いい。

■話を聞いていないように見えるが…

ただ、このコミュニケーションスタイルは、日本人にとっては慣れるまでが結構大変だ。日本だと口数は少なくとも、相槌(あいづち)を打つことで「聞いているよ」と表現しているが、フィンランドはその相槌すらとても少ないか、ほとんどないのだ。「本当に聞いているの?」と疑問に思うこともある。でも、フィンランド人からすると、きちんと目を見ているし、「あなたの話を聞いていて、自分の話す番が来ることを待っているだけなのに」と思っているそうだ。

ミーティングルーム
写真=Jarmo Mela/Finland Promotion Board

ただ、自分が話し終わったとしても相手が何か言うとも限らないのがフィンランド人だ。彼らは沈黙を好む人たちでもあるからだ。日本人もどちらかというと沈黙を好み、あまり多くを語らない。そのせいか、フィンランド人は「ビジネス交渉や、プレゼンでも、日本人が相手だととてもやりやすいよ。ずっと話していなくてもいいし、日本の人たちも静かに最後まで聞いてくれるから」と言う人が多い。

■褒められて顔を曇らせたフィンランドの友人

堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)
堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)

日本でプレゼン後に質問がなかなか出てこない時も「フィンランドと同じだね。質問がないということは、良かったってことかな」などと言って、満足している。

また、フィンランド人は褒められることも、自慢することも少し苦手だ。ビジネスにおいても、いいものがあるのにアピールするのが今までは下手だとあちこちで言われていた。最近は時代が変わり、アピール上手になってきたような感じはするが、相変わらず強く褒められると居心地が悪くなるようだ。

以前、本を出版したフィンランドの友人が、北米の人たちに「素晴らしい!」と絶賛されていたのだが、どんどん友人の表情は曇っていき、うつむいてしまった。後になってその理由を聞くと「こんなに褒められたら気持ち悪い。どうしていいかわからない」と言っていて、思わず笑ってしまった。

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堀内 都喜子(ほりうち・ときこ)
ライター
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』(集英社新書)など。

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(ライター 堀内 都喜子)

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