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あのクルーズ船の「特殊清掃」を任された業者が、次に抱えている仕事

プレジデントオンライン / 2020年3月23日 17時15分

写真提供=ダイヤモンド・プリンセス号に出入りする特殊清掃業者

主に孤独死・自殺・殺人現場などの室内清掃をする「特殊清掃」に注目が集まっている。新型コロナウイルスの除染現場での需要が急増しているのだ。ジャーナリスト・僧侶の鵜飼秀徳氏は「横浜に停泊したダイヤモンド・プリンセス号など、さまざまな現場からクリーニングの依頼が来ている。ただ、新規参入の中には除菌やノウハウのない業者も多い」という――。

■ダイヤモンド・プリンセス号の「特殊清掃」を任された業者の告白

新型コロナウイルスの感染拡大防止と除染において、ある業界の技術にひそかな注目が集まっている。「特殊清掃」と呼ばれる業者である。いま、彼らは多数の感染者を出したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号(以下、DP号)の洗浄作業を実施するなど、さまざまなコロナウイルスの除染現場でフル稼働中という。

DP号は乗客全員が下船し、3月23日現在、横浜・大黒埠頭に停泊中だ。目下、急ピッチで船内の清掃・消毒作業が実施されている。清掃作業の元請け企業は、米国ベルフォア社。2011年の東日本大震災での活動など世界各地で災害復旧作業を専門に扱うグローバル企業である。DP号を運営するプリンセス・クルーズ社のジャン・スワーツ社長は2月下旬、「本船の隅から隅まで清掃と消毒を行なっていただけるパートナーを探しています」とコメント。米国、欧州各国から清掃スタッフが入り、24時間態勢で清掃作業が続けられている。

船内のタオル類、寝具、マットレス、シャワーカーテン、ゲーム機器などのおもちゃ類、本、パズル、カード類はことごとく処分され、新しいものと交換される予定だという。

国内からも、除菌作業・特殊清掃作業を行なっている企業や派遣会社などからスタッフが数十人、大黒埠頭に駆けつけた。

欧米の清掃業者およそ150人とともに24時間態勢で全長290m、総客数1337室、16階建てという巨大船を完璧に清掃・除菌する。

■孤独死・自殺などの室内清掃をする業者:2011年100社→現在6000社

特殊清掃はその名のとおり、単なるハウスクリーニングではない。孤独死、自殺、殺人現場などの室内清掃・遺品整理を実施する業者のことだ。もとは殺人が多い米国で、特殊清掃の概念が生まれたという。

特殊清掃
写真提供=岩橋ひろし氏

こうした変死体の場合、発見までに死後かなりの日数が経過していることも少なくない。

特に夏場の、遺体の発見が遅れた現場は凄惨である。遺体そのものは既に運び出されているものの、室内は体液や毛髪などが残されたままである。腐敗臭が漂い、家財道具にはその強烈な匂いが染み付いている。特殊清掃は室内の清掃、除菌、消臭はもちろん、時には畳やフローリング、クロスの張り替えなどのリフォーム技術も要求される。

特殊清掃を手掛けるには、十全な感染症対策が求められる。たとえば、孤独死をした人物がウイルス性肝炎などを患っていた場合、それを知らずに作業をすると、スタッフが2次感染してしまう恐れがある。したがって、そうしたリスクを伴う現場にはゴーグル、特殊清掃用のマスク、全身防護服を着用して入る。

さらにオゾン発生器のほか特殊な殺菌・消臭の薬剤も使用する。つまり、スタッフの感染のリスクを最小限に抑え、次に部屋を使う人が安全に安心して使える高度なクリーニングのノウハウが彼らにはあるのだ。それは日々、壮絶な現場に向き合ってきた経験の積み重ねともいえる。

この特殊清掃業界は近年の少子高齢化、核家族化、を背景にして急成長してきた。

厚生労働省などによれば2011年には100社程度であった特殊清掃業者数は現在6000社ほどにまで増加している。DP号からの依頼は、まさに「特殊な清掃」のノウハウを期待されてのことだった。

■「守秘義務があるので、DP号の船内での特殊清掃のことは……」

筆者が現地で出入りしている業者のユニフォームのロゴを確認したところ、国内の特殊清掃業者であることがわかった。複数の会社に取材をかけてみた。日本特殊清掃隊として同船の除菌作業に参画していたのは静岡県富士市の特殊清掃業「リスクベネフィット」。代表・惟村徹氏が取材に応じた。

「ダイヤモンド・プリンセス号での船内活動の具体的なことは、守秘義務があるので言えないことも多いですが、入船前には半日ほどかけて、手袋の着脱のしかたから何から何まで、防疫の教育がなされました。かなり、しっかりとした防疫体制が組まれているなという印象です。われわれは日常業務である特殊清掃を通じて、感染症に対する知見があります。しかし、もっとも必要とされているのは、ウイルスと対峙することへの心構えや覚悟、の部分かもしれません」

特殊清掃
写真提供=ダイヤモンド・プリンセス号に出入りする特殊清掃業者

リスクベネフィット社では新型コロナウイルス感染者を出した商業施設の除染作業も、すでに2例実施した実績をもつ。今回のDP号の除染を通じ、さらに経験値を高めていく構えだ。

■特殊清掃業者「新型コロナにかかったら、かかった時に考えよう」

同じく日本特殊清掃隊に加わっているレリック(愛知県東海市)の代表・神野敏幸氏もこう心境を明かした。

「CDC(米疾病予防管理センター)とWHO(世界保健機関)、厚生労働省の3者が決めた除染手順に則って、船内ではバイロックスと呼ばれる特殊な薬剤を使い、クリーナーで徹底的に洗浄します。恐怖がないといえば嘘になります。『仮に新型コロナウイルスにかかったら、かかった時に考えよう』というくらいの気構えで船に入っています」

DP号は今後も客船として運用が続けられるだけに、一刻も早い原状回復とクルーズ再開が求められている。それだけに、日本の特殊清掃業界にのしかかる期待や責任は大だ。

■特殊清掃ビジネスに「新型コロナ特需」が生まれた

特殊清掃業者の活躍の舞台はDP号だけではない。各地の特殊清掃業者では、新型コロナウイルス関連の「特需」が生まれつつあるという。

福岡県久留米市に本社がある「友心まごころサービス」では、高齢者施設やパチンコ店などから、施設内の除菌に関する依頼が急増しているという。

パチンコ台
写真=iStock.com/tupungato
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato

友心まごころサービスは代表の岩橋ひろし氏が2011年に開業した、特殊清掃業界の草分け的存在である。同社のある福岡県では、新型コロナウイルスの感染者数が3月21日現在で5人。首都圏や関西圏に比べて感染数は少ないが、社会不安は広がっている。飲食やホテル、アミューズメント産業などへの経済的影響も出始めている。

同社への依頼は特殊清掃現場で使用する薬剤の提供が多いという。

岩橋氏はいう。

「アルコールの液剤は品薄が続いていますが、われわれは別の除菌薬剤の供給ルートを持っています。薬剤の成分は安定型次亜塩素酸ナトリウム。インフルエンザウイルスやノロウイルスなどの不活化に高い効力があり、新型コロナウイルスの不活化にも期待ができ、人体への害はありません。パチンコ店や高齢者施設から『岩橋さんの会社で使っている薬剤を提供してほしい』という依頼が相次いでいます。いま、われわれが業務用で使っていたものを、小売りできるように生産体制を整えているところです。博多・中洲の歓楽街などでも客足が遠のいています。『コロナ対策をしている』ということを、いかに早期に打ち出せるかが、カギになってくるでしょう」

■除菌や防疫の技術ないのに「コロナ除染、多数実績あり」

ただし、懸念材料もある。先述のように特殊清掃業者数は現在6000社ほどにまで膨れ上がっている。先述の惟村氏や岩橋氏らによれば、除菌や防疫のノウハウもない業者も少なくなく、業界全体が玉石混交状態という。

「自社サイトで『コロナ除染、多数実績あり』などと過剰に謳っている業者が出始めていますが、本当かな? と疑って見ています。きちんとしたノウハウを持たないのにウイルスが蔓延する現場で作業をすると、逆に感染拡大の要因をつくってしまう」(惟村氏)

ではどうやって見極めればよいのか。

惟村氏は「一定程度(数年以上)の特殊清掃業歴があるかどうか」「本業として特殊清掃をやっているかどうか(コロナ騒ぎに乗じていきなり商売を始めていないか)」がポイントという。

いずれにせよ、特殊清掃業界が新型コロナウイルスの感染拡大防止の「縁の下の力持ち」として存在感を示しつつあるのは、確かなようだ。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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