「とりあえず通勤してくれ」コロナ時代には通用しないダメ上司3タイプ
プレジデントオンライン / 2020年4月20日 9時15分
■「不要不急とは何を意味するのか」と様子見だった
新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)で世の中はてんやわんやである。「ギリギリで踏みとどまっている」としていた政府からようやく緊急事態宣言が出され、不要不急の外出の自粛、リモートワークの要請が出された。それでもかなりの人がいまだに出勤し、リモートワークをしていた人も「家だと集中できないから」と外出する。住宅地の商店街は妙に人が多い。
もちろん、企業に通勤しなくてはいけない業種や、職場や立場の人が多くいる。どうしても通勤しなくてはいけない職種や立場があって、その一人一人の仕事で社会が支えられているのは自明だ。出社を責めるつもりは毛頭ない。
ここにきて浮き彫りになってきたのが、決められない大人の多さである。政府の意思決定の遅さは今に始まったことではなく、もうほとんど何も期待もしていないけれども、企業もどっちつかずの対応が当初目立った。早急に意思決定して動いた企業も多くあった一方で、大多数は「不要不急は具体的に何を意味するのか国の指示がないと決められない」と様子見だった。
挙げ句、国の出したガイドラインでは、不要不急と言いながらほとんどの買い物や活動を認めている。現行法では外出禁止の強制力を持たない。罰則規定がないから緊迫感というものが全くなかった。多くの企業が「体温を測り各自健康に留意して」などと愚にもつかぬ覚え書きを出し「できる範囲で」協力した。その結果、感染者はうなぎのぼりに増加し、危機感を持った政府はここにきて「職場への出勤者を最低7割減」の強い要請を企業に出した。
■在宅勤務時代の「横並び、先送り、やったアピール」上司とは
そして問題となるのが、コロナ災禍という転換期にいるのに社内の体制を決められない上司である。この人種はここかしこに存在し、多くの困難を周囲に与える。彼らの行動は以下の3つの戒律から構成される。
戒律1:「ファーストペンギン」には絶対にならない
決められない上司はよそにお手本を探す。昔流行した言葉で言うならば「ファーストペンギン」には決してならない。他社、他部門がハンコによる押印承認を廃止しないのならば、自分たちだけが違う行動をとることや異議を申し立てることは決してしない。横並びが調整能力を構成する大事な軸だからである。
新しい仕組みを自分が率先して作るなぞはめっそうもない。それは戒律違反である。今までのモデリング(※)の結果、最重要行動は周りに従うことだと長年学習し、さらに強化されている。部下がそのために通勤電車に乗ろうと、「規則だから仕方ない」のだ。
※モデリング:心理学でいう何らかの対象物を見本にして真似をし、自分の行動を強化すること。アルバート・バンデュラ(1971)によって提唱された。
この種の決められない人が企業の中枢にいると、企業も他社の行動に足並みをそろえようと必死になる。他社の状況は大事な情報だけれども、意思決定の本丸ではない。しかし、決められない人々、その種の人々が中枢にいる企業や個人にとっては、他者や他社と一緒であるという事実は重要な、外してはいけないポイントなのだ。一人で違うことをやったら、誹(そし)りを受けるのは1人だけれど、皆でやったら分散するからである。
戒律2:先送りを好む
決められない上司は先送りを好む。調整できないことはやらない方が得であると、学習してしまっているからである。リスクをとって新しいことを意思決定するのは戒律に反する。失敗して自分の業績の汚点となるといけないから、ともかくおとなしくつつがなく過ごし、嵐が通り過ぎるのを待とうする。
「コロナは夏になると終息する」とか「日本人は感染しにくい」といった信憑性が低い予測や情報に飛びつき、何も意思決定せずに現状維持を決める上司や、「Web会議では本当に大事な情報は話せないから、とりあえずこのままにして次回会ったときに決めよう」と在宅での仕事の進行を妨害する上司の行動はこれにあたる。
これらの行動を心理的に後押しするのが、「双曲割引の意思決定バイアス」と呼ばれる心理である。現状では成功はむずかしいが、未来にはきっと劇的に状況変化をしているだろうから、その時にやった方が得策だと自分を納得させるのだ。そして、未来に状況が良くなっている保証は全くない。
戒律3:やったアピールのエビデンスを残す
決められない上司は、小さな「やったアピール」を忘れない。調整は文字通り、さまざまな部署が少しずつ我慢したり、主張したりして1つの方向に向かうことである。これには誰が何をどれだけ我慢したか、もしくは得したかを細かくエビデンスとして示すことが不可欠である。細かい「やったアピール」は調整能力が高ければ高いほど必須アイテムなのである。
子どもの面倒と慣れない家事とでただでさえ手一杯のところに、部署内のオンライン飲み会を提案してくる上司。隣の部長がオンライン飲み会によく参加していることに刺激を受けたらしい。上司の無駄な説法が続く。静止画像で対応したいがそうはいかない。オンライン故に終わりが見えない。
疲れ果てた翌日、上司が自らオンライン飲み会を主催し、部内コミュニケーションをとっているという旨の報告をしているのを小耳に挟む。「やったアピール」のためのエビデンス作りに巻き込まれると、部下にとってはこの緊急時にやることだけが増えて迷惑この上ない。
■決めずに従う人間ほど出世する時代だったのが…
なぜ、このように決められない大人が大量発生しているのだろうか。
組織行動の学者の目から見るとシンプルな話で、原因はガイドラインなしに意思決定することに対しての訓練をせずに昇進してきた管理職が多いからである。
人間は置かれている環境に適応しようと自らの行動を変える生き物である。人々が似た傾向を持つのならば、それは「そうした方が得な環境」が影響していると考えた方が自然である。つまり、日本企業では決めないこと、リスクを取って意思決定しないことの方が、社内の居心地をよくし、本人の昇進にとっても有益で合理的な行動だったのである。かくして決められない上司が大量発生した。
危機対応時に求められるのは、基準を自分で作りだし、失敗した責任を被るリスクを取り、トライアンドエラーを繰り返し、朝令暮改といわれても環境に応じて断固として意思決定をしていくことである。これらをすることなしに上位職に上り詰めた人々が現在の危機対応をしていると考えると、最近の右往左往具合も納得がいくだろう。
残念なことに、多くの企業においてガイドラインなしにリスクを持って意思決定できる能力を持った人は、主要な昇進ラインから外れている場合が多い。彼らの価値を見いだす上司に恵まれないからである。
■コロナ災禍にこれまでの調整能力は通用しない
長い間、日本企業のエリートビジネスパーソンに不可欠とされてきたことは、意思決定能力ではなくて調整能力であった。新しいことに対してリスクを計算しながら決定し、実行するというよりも、周囲との調整の中で自分の立ち位置を見いだし、その場所を遵守することの方に重きが置かれてきた。
減点主義の人事評価システムの下で高評価を得るためには、ハイリスクハイリターンの行動をするよりも、失敗せずにコツコツと評点を積み上げていくことの方が有益だ。上からガイドラインを示され、その中での最大公約数的な行動をすることこそが合理的な行動で、調整のうまさが出世の秘訣であった。
ところが、コロナ災禍への対応はこの種の調整能力をほとんど必要としない。方針を決めることが最重要で、調整は二の次である。求められるのは、ガイドラインなしにリスクをとりながら急激に変化する場面に際して意思決定し対応していく能力である。調整ではない。調整を主とするととてつもなく時間がかかる。全体にとって極めて不利益な事態が発生する。
簡明な例が、ステークホルダー間の調整を繰り返し、緊急事態宣言が後手に回った政府だろう。調整の結果、玉虫色の混乱を引き起こすだけの決定がなされ、スーパーには人だかりができ、多くの飲食店や商店は存続に東奔西走している。
■こんな上司がいたら転職を考えた方が良い
不幸にもあなたのそばに決められない上司がいたとしたら、この時期は大きなチャンスだと思った方がいい。現在は非常時である。非定常に世の中が推移する。決められない上司が得意の調整をすることで事態が好転するような局面ではない。そして、コロナが終わった後は、より予測が難しい、より不連続に推移する世の中になるだろう。
求められるのは調整ではなくリスクを背負った意思決定である。その時のために備えるべきだ。これからの日本社会は、長年調整能力だけで世渡りしてきた上司が太刀打ちできる環境にはならない。
では、何をすべきか。決められない上司が直面している問題を自分なりに意思決定してみることである。実際に口に出し、敵を作って実行する必要は必ずしもない。エア意思決定を上司の立場でしてみる。シミュレーションしてみるのだ。
「前例がそうだから」とされていることを全て掘り起こしてみると良い。果たしてそれが現在適切なのか。自分だったらどう決定するか。シミュレーションを重ねると良い。意思決定の確からしさは訓練によって精度を増す。直裁に言えば、意思決定をした経験値こそがその質を高める。
そして何よりも大事なのは、自分軸を持つことである。全ての意思決定は、自分なりの判断基準があり、自分なりの未来予想図があってこそ成立する。もしも、コロナによるリモートワークや自宅待機などで通勤時間が省けたのならば、自分軸は何なのか時間をとってじっくり考えると良い。
最後に、もしも、この後に及んで決められない上司が社内の大半を占め、権勢を振るっているのならば、コロナが猛威を振るっているこの時期にこそ爪を研ぎ、その後の転職を考えた方が良いかもしれない。
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法政大学ビジネススクール 教授
モルガン・スタンレー証券会社を経て、サンダーバード国際経営大学院にて国際経営学修士、慶応義塾大学大学院経営管理研究科にて、経営学修士。同博士課程修了、経営学博士。専門は組織行動。著書に『女性マネージャー育成講座』(生産性出版)、『人脈のできる人 人は誰のために「一肌脱ぐ」のか?』(慶應義塾大学出版会)、新刊『女性マネージャーの働き方改革2.0 ―「成長」と「育成」のための処方箋—』などがある。
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(法政大学ビジネススクール 教授 高田 朝子)
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