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コロナ対策そっちのけで「憲法改正」を訴える安倍首相のうさんくささ

プレジデントオンライン / 2020年5月5日 19時15分

5月3日、新型コロナウイルスの影響により、例年、憲法記念日に開かれる集会はオンライン中継で行われた。会議室から中継された改憲派の憲法フォーラムには、安倍晋三首相がビデオメッセージを寄せた - 写真=時事通信フォト

■安倍首相が「2020年改憲」を断念した日だった

5月3日は、憲法記念日。この日は毎年、護憲派、改憲派が全国各地で集会を開き「憲法を守ろう」「改憲の実現を」と訴える日だ。だが、今年は、新型コロナウイルスの感染拡大で、大規模な会合が行われず、動画投稿サイトなどで中継する形で行われた。

異例づくしの憲法記念日は、安倍晋三首相にとっては屈辱の日でもあった。3年にわたって「2020年施行」を目指してきた安倍氏の改憲スケジュールが実現しないことが事実上確定した日でもあったのだ。

■ビデオメッセージでひっそり口にした「敗北宣言」

安倍氏は3日、改憲派の民間団体が開いた「憲法フォーラム」のオンライン集会にビデオメッセージを寄せた。「フォーラム」がオンライン開催となったのは初めてだが、安倍氏がビデオメッセージを寄せるのは毎年恒例のこと。ここで改憲に向けた決意を語り、改憲派を小躍りさせてきた。

記憶に新しいのは2017年。安倍氏はフォーラムにビデオメッセージを寄せ、「2020年を、新しい憲法が施行される年にしたい」と表明。20年に東京五輪・パラリンピックが開かれることを引き合いに20年を「五輪と改憲施行の年」と位置づけたのだ。以来、「20年施行」は改憲勢力、護憲勢力のせめぎ合いの中心点にあった。

今年、安倍氏はビデオメッセージで何を訴えたのか。まず感染拡大阻止のため大会をオンライン中継で実施することにした主催者に感謝を表明。その上で、緊急事態条項の新設や、憲法9条に自衛隊を明記する必要性を訴えた。ここまでは翌4日の朝刊各紙にも掲載されているのでご存じの人も多いことだろう。

問題はここからだ。安倍氏はスピーチの後半、3年前の自身のスピーチに触れ「3年前のビデオメッセージで私は『2020年を、新しい憲法が施行される年にしたい』と申し上げましたが、残念ながら実現にはいたっておりません」と語った。安倍氏は今年のビデオメッセージで「20年施行」の敗北宣言を行ったのだ。

■第1次安倍政権以来、改憲は全く進んでいない

改憲は、①改憲原案を衆参両院の3分の2以上の賛成で発議、②60日以後180日以内に国民投票、という2段階で進む。その間、短く見積もっても1年半から2年はかかる。

衆参の憲法審査会が全く動いていない今、もはや「20年施行」は事実上不可能な状況になってはいたが、問題提起した安倍氏が、正式に「残念ながら実現にいたっていない」と白旗をあげた政治的意味は大きい。安倍氏も無念だっただろう。

安倍氏と改憲は、切っても切り離せない。尊敬する祖父・岸信介氏は政界引退後も自主憲法制定に人生をささげたが、志半ばで他界した。その無念を自分が晴らそうという思いが安倍氏にはある。2006年、最初に首相となった時から改憲をかかげ、12年、首相に返り咲いてからも改憲を目指す決意を隠さなかった。

第2次安倍政権誕生後、衆参両院選挙や自民党総裁選では、ことごとく憲法改正問題が大争点となったが、いずれも安倍氏や彼が率いる自民党は勝利。改憲に向け、国民から一定の信を得たことになる。にもかかわらず、憲法改正はほとんど前に進まなかった。第1次安倍政権から計算すると14年。明らかに安倍氏の戦略ミスがあったのではないか。

■「なぜ改憲したいのか」がいっこうに見えない

安倍氏が改憲を目指していることは誰も知っている。しかし、彼が憲法のどこを変えようとしているのか、というと曖昧になる。例えば、初めて首相の座についた2006年ごろは「美しい国」を掲げ、憲法全体を抜本的につくり直そうという大風呂敷を広げた。

2013年の参院選のころは、憲法の改正要件を定めた96条の改正を前面に出して「お試し改憲」と批判された。その後、憲法に自衛隊を明記する改正を最重視する考えを表明。そして、今はコロナ禍をテコに緊急事態条項を創設することに力点を入れつつある。このことは2月4日に配信した「新型コロナウイルスを改憲論議に利用する安倍政権のあざとさ」を参照していただきたい。とにかく、改正したい条文の優先順位がころころ変わって節操ないのだ。

安倍氏が改憲に意欲を燃やすのはわかるが、どういう理由で改憲をしたいのかわからない。これが国民の本音ではないか。「改憲した首相」として自分の名を歴史にとどめたいことはわかるが、改憲して日本の形をどうしたいのかがわからない、と言い換えた方がわかりやすいかもしれない。そういう姿勢が透けてみえるだけに、国民の理解も進まないのだろう。

■世論調査が突きつける「安倍首相のうさんくささ」の中身

4月28日、共同通信社が発表した憲法に関する世論調査は興味深い。改憲の必要性について肯定的な回答は「どちらかといえば」も含めると61%だった。それに対し、「安倍政権下での改憲」については賛成40%で、反対58%だった。

国民の61%は改憲に対して肯定的だが、安倍氏の改憲に賛同するのは40%にとどまる。安倍氏に向けられる「うさんくささ」が、この21ポイントのギャップに表れている。

とはいえ、安倍氏は改憲をあきらめたわけではない。コロナ対応が夏ごろには一段落するとして、秋ぐらいからギアを入れ来年の通常国会で国会発議まで持ち込みたいというシナリオは捨てていない。そうすれば来年9月に行われる自民党総裁選で4選論が浮上する可能性もあるし、4選を求めないとしても「改憲に道筋をつけた男」としての評価は残る。

■来年9月の総裁任期までリベンジを目指すが…

安倍氏が現段階で目指す改憲のポイントは、3日のビデオメッセージで語った通り「自衛隊」と緊急事態条項になる。特に「緊急事態」は、コロナ禍の記憶が残る国民の理解を得やすいとみて前面に出していくことになるだろう。

5月4日、緊急事態宣言を延長する記者会見で、記者団から「憲法記念日のビデオメッセージで緊急事態条項の新設に意欲を示されたが、コロナの感染収束が見通せない中で、改憲議論にコロナの問題を持ち上げるのはどうなのか」という「直球」の質問が出た。

安倍氏は「既に自民党は4項目のイメージについて提案をさせていただき、その中で緊急事態宣言がある。今の事態だから申し上げているのではなくて、ずっと申し上げているということです」と、短く答えて、次の質問に移った。素っ気ない態度は、本音を見透かす質問を受けて、うろたえているようにも見えた。

いずれにしても「20年施行」を断念した安倍氏は、来年9月の総裁任期までの間にリベンジを目指す。ただし、タイムリミットが迫っているのに加え、コロナ対応で支持が低迷する今の安倍氏にとって、その道はきわめて険しいのは間違いない。

(永田町コンフィデンシャル)

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