アフターコロナ中国で景気が大きく回復しているのは嘘か、本当か
プレジデントオンライン / 2020年5月18日 11時15分
■中国とアメリカ、見通し悪くもない
新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより、各国が相互依存している世界がいかに脆弱であるかがあらためて証明されました。アフターコロナの世界は、繁栄してきた資本主義、都市構造の根本的なあり方を一変させる可能性があります。そして、コロナ後の覇権を握るのは誰なのでしょうか。
まず、新型コロナウイルスのアウトブレイクが最初に起こった中国に関して。感染症の流行を隠蔽していたなどと国際社会から批判が集まっています。しかし、世界中にウイルスが蔓延しパンデミックに陥った今、中国はコロナ禍で苦しむ国々に“マスク外交”としてマスクや人工呼吸器を提供したり、大勢の医師や専門家を派遣。中国がまるで信頼できるパートナーであるかのような印象を与えています。その姿勢は、コロナ以前からあったもので、国力を強めて米国の覇権を奪い、中国主導の国際秩序を築く「100年のマラソン」の延長線上にすぎないのです。
リーマンショック後、4兆元にもおよぶ財政出動を行い、世界経済を救ったことが中国に自信と自負をもたらしました。今回も“共産主義国らしい”といわれる、強硬なロックダウン(都市封鎖)を実行し、数字上は感染者数の拡大の封じ込めに成功したように映っています。さらに生産現場の早期の立ち上げやPMI(製造業購買担当者景気指数)は2020年2月の35.7から大きく持ち直し、20年3月は52.0と景況拡大と悪化の分かれ目である50も上回りました。
輸出先の市場の購買意欲が戻ってこないと中国経済の回復も難しいとの意見もありますが、中国国内の所得水準を持続的に高め、貿易主導型の経済から国内の消費主導型の経済に舵をきっていくでしょう。延期されている全国人民代表大会では、大規模な経済対策を打ち出すことが予想され、中国にさらなる自信を与えそうです。
また、コロナショックでサプライチェーンの中国依存が露わにもなりました。今後各国は、サプライチェーンを中国以外にも分散し、国内へ生産拠点を回帰させる動きは強まるでしょう。
金融市場においては、世界を支えているのはアメリカであることをあらためて実感することになりました。政府と米連邦準備制度理事会(FRB)が一体となった経済危機への対応策により株価が戻りつつあります。トランプ政権による2兆ドル規模の財政政策に加えて、FRBは踏み込んだ金融政策として、購入する社債対象をいわゆるジャンク債(投資不適格債)まで基準を緩めることに決めました。この財政政策、FRBの金融政策により金融危機は回避できたとの見方が強いです。
■新型コロナ対策を誤れば、大統領選挙で不利になる
ただ、危機が去ったと考えるのはまだ早く、今後も、金融危機回避に向けた中央銀行の取り組みは続くはずです。
また、今回の対コロナの「戦時下」における「小さな政府」の限界を露呈しています。トランプ政権が支持基盤としている保守派は自己責任や自助努力を重んじる「小さな政府」を志向しており、失業者が増え、政府の支出が拡大することは信条に反するのです。ニューヨーク州のクオモ知事が、連邦政府は新型コロナ対応を地方政府に任せきりにしていると指摘していますが、そもそも、共和党は「小さな政府」を掲げており、そういった政権です。対外的にも孤立主義の共和党は、各国への影響力を弱めています。
再度、アメリカが世界を牽引するに、共和党にも、新しい「新保守主義」の様相を強め「大きな政府」の必要性が出てくるでしょう。新型コロナ対策を誤れば、20年11月の大統領選挙で不利になるリスクがあります。
他方、欧州はコロナ対策で、迅速で強力な医療や経済対策をめぐって、足並みの乱れや対立が表面化しています。アフターコロナの世界は、欧州では格差、分断が深刻になりそうです。新型コロナウイルス以前から、中国の景気減速や米中貿易摩擦などで、欧州の製造業は失速していました。それでも、なんとか内需やサービス業は堅調に推移していましたが、そこに、新型コロナの影響でロックダウンを余儀なくされたことで、一気に内需とサービス業が冷え込んだのです。
国際通貨基金(IMF)が「大封鎖」(The Great Lockdown)と題して20年4月14日に発表した世界経済見通しの中で、GDPについてドイツは2020年がマイナス7.0%、21年5.2%、イタリアが20年マイナス9.1%、21年4.8%と発表しており、落ち込みと回復においてユーロ圏内で差が出ていることがわかります。アフターコロナの世界では、欧州の分断と格差が進むことになりそうです。
■日本は米中対立の狭間で生き抜くことになる
最後に、日本について言及します。日本は米中対立の狭間で生き抜くことになります。今回のコロナショックで、日本の上場企業の純資産合計は数~数十兆円の赤字になることが予想されます。今のところ、日経平均はリーマンショックよりやや悪い株価純資産倍率(PBR)の0.8倍台である1万5000円が底値付近であるとの見方が強いです。
フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の最新の試算によると、上場企業の純資産が約550兆円、PBR1倍となる日経平均の水準は約2万円です。ここから、日本企業の赤字が発生し、PBR0.8倍とした場合、赤字が約30兆円だとすると1万5127円、50兆円だとすると1万4545円と試算しています。ただし、これはコロナによる影響が1年続いた場合であり、2年続いた場合は違ったシナリオを描く必要が出てきます。
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テクニカルアナリスト
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。
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(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子 構成=プレジデント編集部 撮影=横溝浩孝)
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