どうしてなのだろう。本当に好きな相手とは両想いになれない理由
プレジデントオンライン / 2020年6月14日 11時15分
■男女ともに理想のパートナー像はハイスペック化
人柄や経済力、容姿……。人が結婚相手に求めるものはさまざまで、それらは時代とともに変化することもあります。実際、国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」の過去5回(1992~2015年)を比較すると、興味深い変化が見て取れます。男女とも、結婚相手に求める条件がハイスペック化しているのです(図①)。
男性が結婚相手に求める条件のうち、増加率が最も高かったのは、「経済力」でした。女性に「家事・育児の能力」を求める男性は減りそうですが、これも増えています。また、「容姿」も増加傾向にある。つまり、より完璧な女性を求める傾向が強まっています。
背景として考えられるのは、シングルライフの充実です。家に1人でいても、ネットフリックスでエンタメを楽しめるし、ウーバーイーツでおいしい食事も運んできてもらえます。人恋しくなれば、SNSで承認欲求を満たすこともできる。しかし、結婚すれば、自己完結で楽しめる世界から出なくてはいけません。結婚するなら、そうした代償を払う価値のある女性でなければ割に合わないというわけです。
■女に頼る男と、男に頼らない女
男性の懐事情も無視できません。賃金はなかなか伸びず、多くのシングルは収入をなんとかやりくりしている状況です。共働きしない女性と結婚すれば、趣味のお金すら捻出できそうもない。ならば、きちんと稼げる女性を選ぼうという発想になるのもうなずけます。新型コロナウイルスの影響で経済が停滞すれば、この傾向は強まるでしょう。
一方で、女性が結婚相手に求める条件もハイスペック化しており、「経済力」「容姿」「家事・育児の能力」を求める人はいずれも増えています。要因として挙げられるのは、男女間の賃金格差が縮小していることです(図②)。
これまで未婚女性は経済的に不利な立場にいました。だから結婚相手に求める条件として容姿より経済力を重視していました。しかし、賃金格差が縮小して自立できるようになれば話が変わります。いままで妥協してきた容姿も求めるようになったし、家事や育児も求めます。男性と同じようにシングルライフが充実してくれば、経済力も含めてハードルを上げるのは当然です。
注意したいのは、ハードルを上げているからといって、女性の結婚願望が減退したわけではない点です。同調査で女性に「理想のライフコース」を尋ねたところ、「非婚就業コース(結婚せずに仕事を一生続ける)」を理想としている人は5.8%にすぎませんでした(図③)。仕事を続けるかどうかは別にして、圧倒的多数はいつか結婚することが理想の人生だととらえています。
ただ、理想と現実のあいだにはギャップがあります。理想ではなく実現しそうな「予定のライフコース」を尋ねたところ、非婚就業コースを選んだ女性が21.0%いました。ハイスペック男性との結婚を理想としつつ、そのような男性はそう簡単に見つからない。1人で生きていくことを織り込んでいる女性は少なくなく、今後さらに増えるのではないでしょうか。
■金欠のイクメン現代の夫像
さて、結婚相手に求める条件として、「家事・育児の能力」を重視する女性が増えていることはすでに指摘しました。では、実際にイクメンはどれくらい増えているのでしょうか。
ここ数年で、男性の育休取得率は急激に上がっています。16年度に3%台を突破(図④)。17年度は5.14%、18年度は6.16%です。
ノルウェーの育休改革を分析した研究で、育休は伝染することがわかっています。実はノルウェーでもかつては男性が育休を取るのは勇気がいることでした。育休を取ることで周囲から冷たい目で見られないか不安だったのです。しかし、制度改革後に一部のお父さんが育休を取り始めると、それでも不利に扱われないことがわかって次々と育休取得が広がりました。育休を取った男性が同僚あるいは兄弟にいた場合、そうでない場合と比べて育休取得率が11~15ポイント高かったのです。
ここ2年で日本の男性の育休取得率が急上昇した理由は複合的です。ただ、何が理由であるにしろ、伝染していく最初の一歩はすでに踏み出されたと考えていい。このまま順調に広がり、10年後には育休取得率が30%を突破していたとしても驚きません。
社会の動きやデータを見ても、ここから育休取得率が上昇することはあっても、下がる要因は見当たりません。たとえば日本生産性本部が17年に実施したアンケートでは、男性新入社員の約8割が育休を取得したいと回答しています。その世代は10年後、30代前半になります。彼らの少なくとも一部は実際に育休を取ったり、上司としてさらに若い世代の育休に理解を示したりするはずです。
育休取得率に育休を取得した期間は反映されていませんが、今後は期間も長期化するのではないでしょうか。2020年4月から男性国家公務員に1カ月以上の育休取得を促す制度が始まりました。また、育児休業給付金の支払率も、現在の67%から80%に引き上げられると見込まれています。育休を取得しても手取りが大きく減らないなら、フルで取得したほうが得だという空気に変わっていく可能性が高いでしょう。
男性の経済力は、新型コロナの影響で今後も期待できないでしょう。しかし、イクメン度に関しては、条件を満たす相手が着実に増えそうです。
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東京大学経済学部・政策評価研究教育センター教授
2006年米ウィスコンシン大学経済学博士(Ph.D)取得。東京大学准教授などを経て、19年より現職。専門は、「家族の経済学」と「労働経済学」。著書に『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚・出産・子育ての真実』。
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(東京大学経済学部・政策評価研究教育センター教授 山口 慎太郎 構成=村上 敬 図版作成=大橋昭一)
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