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米国で高まるチャイナ不満…香港問題で中国は、アメリカに「絶対勝てない」

プレジデントオンライン / 2020年6月12日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BluIz60

■バイデンも意外と中国に強硬的だった

日本での米国論評ではドナルド・トランプ大統領がジョー・バイデン元副大統領に対して中国に対して強面の対応を行うとする向きが多い。また、万が一バイデンがトランプに勝利した場合、親中的な外交安全保障方針に転換する可能性を恐れる声も少なくない。多くの日本人有識者がバラク・オバマまでの歴代大統領と比べて、トランプ大統領の中国に対する言動の厳しさから、そのような印象を持つことは自然なことだろう。

しかし、米国の政治的プレーヤーの対中姿勢は大きく転換しつつあり、バイデンが中国に対して弱腰であるとする見方は必ずしも正しいものとは言えなくなっている。

現在、中国に対してトランプとバイデンのどちらが強硬なのか、これは2020年大統領選挙のテーマの1つとなっている。そして、共和党側・民主党側ともに相手に対して一歩も引かない姿勢を打ち出している。

米国大統領選挙では、CMが選挙キャンペーン上重要な意味を持つ。特に自陣営のポジティブな要素を伝える宣伝だけでなく、相手陣営のネガティブな要素を強調する広告は極めて有効なツールとして活用されている。いわゆるネガティブキャンペーンである。

■バイデンはトランプの中国擁護発言にチクリ

トランプ陣営の選挙キャンペーン団体であるAmerica First Action Super PACはバイデンの過去の40年間の親中的な発言を取り上げた“Forty Years."というCMを開始、バイデンの親中姿勢を徹底的に批判している。バイデンは動画の中で「中国の台頭は望ましい発展だ」と明言した過去の発言がバッチリと引用されている。

ところが、その親中姿勢で批判されているバイデン陣営もトランプの中国擁護発言をやり玉に挙げた広告を投入し始めている。動画内ではトランプが、新型コロナウイルスが蔓延している状況の中で、中国の対応を称賛するコメントや米国を蔑ろにした中国への救援物資の提供などの事実が何度も引用されている。そして、中国に対して米国の調査団派遣などの強硬な対応を主張してきたのはバイデンだ、とされている。

■「自分のほうが中国に対して強硬だ」

メディアの取材に対し、バイデン陣営の上級顧問を務めるジェイク・サリバン氏は下記のように回答している。

「2つのことを行うつもりだ。それはトランプ氏の中国へのアプローチにおける壊滅的な一連の失敗の責任と、厳しい主張と弱い行動の間の巨大なギャップを説明することだ」

つまり、トランプもバイデンも相手の対中姿勢を批判し「自分のほうが中国に対して強硬だ」と主張し合う選挙戦の展開となっているのだ。この背景には米国民の中国に対する感情の著しい悪化がある。トランプ・バイデンの双方にとって中国に対する反中ナショナリズムの波にうまく乗ることは選挙戦を左右する重要な要素なのだ。したがって、トランプだけでなくバイデンも今後更に強固な反中発言を繰り返すことは容易に予想される。

■軍事大国化しつつある中国は、米国の覇権を脅かす存在に

そして、米国の反中姿勢は共和党・民主党の双方のコンセンサスに基づくものだと見るべきだ。

一昔前まで米中関係は共和党・民主党のいずれであっても良好なものだったと言えるだろう。1980~2000年代初頭は当時世界第2の大国であった日本に対して東アジア内の対抗勢力を育てる意図も含みつつ、米国人の誰もが豊富な労働力や魅力的な国内市場の誘惑に誘惑されていた。ジョージ・ブッシュ(父)、ビル・クリントン、ジョージ・ブッシュ(子)、そしてオバマ政権の前半期までは党派に関係なく中国を露骨に敵対視する政治家は少なかった。

しかし、2020年現在、経済成長を遂げて軍事大国化しつつある中国は、米国の覇権を脅かす存在となっている。従来指摘されていた中国の知的財産権の窃盗や不公正な貿易慣行が問題視されただけでなく、国家安全保障上の最も重要な脅威の1つとして中国が明確に定義された。

■香港問題で米国は激しく批判

米国の政治家は自らの覇権を脅かす存在として認知した相手に関し、党派を超えて容赦ない対応を行うことに特徴がある。共和党・民主党の対外政策のアプローチの方法は異なるものの、競争相手として潰すと決めた相手に対して情けをかける甘い国ではない。特に中国のように軍事的脅威が伴う相手に関しては尚更である。

もちろん、米中は経済的な相互依存関係を有するため、米中の双方の経済圏に世界が二分されるデカップリング論を安易に採用することは難しい。しかし、東アジア・東南アジアにおける両国の外交的・軍事的緊張は高まることはあっても低下することはないだろう。

香港問題で中国が強硬姿勢を見せる中、米国は中国を激しく批判するとともに、ウイグルに関する制裁法案を上院・下院で通過させている。これらの対中強硬姿勢はトランプ政権だけでなく、米連邦議会の超党派の試みとして進められている。

■南シナ海での作戦量を増加させる米軍

中国に対する厳しい外交姿勢を示しているネオコン勢力は共和党・民主党の両党内に存在しており、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)は天安門事件の亡命者らを支援する取り組む有力者の一人でもある。共和党だけでなく民主党側も中国の民主化問題に関しては強硬姿勢を示す傾向を持っており、この流れは大統領選挙の結果いかんにかかわらず止まることはないだろう。

また、南シナ海における米中両国の軍事活動が活発化している点も重要だ。米軍はトランプ政権の4年間の軍事費増加を図ってきており、対中抑止のための安全保障環境の立て直しを図っている。その最前線が南シナ海であり、同海域における「航行の自由作戦」である。虎の子の空母機動部隊が新型コロナウイルスの影響で活動量を低下せざるを得ない中、米国は中国に隙を見せないように南シナ海での作戦量を増加させている。その米軍の動きに呼応するように、中国海軍も演習の活発化などを実施しており、同海域では偶発的な紛争が発生する可能性も高まっている。

■米国全体が対中政策に軸足を移し続ける

仮にバイデン政権になった場合、民主党は共和党と比べて軍事費の抑制傾向を強めるものと想定されるが、トランプ政権が進める中東からの東アジアに兵力を移転させる方針に大きな変更があるとは思えない。むしろ、対イラン、対ベネズエラ(キューバ)などへの圧力に伴う軍事的・外交低な負荷が低下するとともに、欧州との関係改善を通じた同盟国資源の活用など、中国シフトをさらに推し進める環境が構築されることになるだろう。米ロ関係や米サウジ関係の悪化が懸念されるものの、米国全体が対中政策に軸足を移し続けることは間違いない。

2016年トランプ大統領が米国大統領に就任した当初、メディア上では同大統領は第3次世界大戦を招くというでたらめが盛んに喧伝された。しかし当時は、米国は軍事費削減の影響で十分な戦力を稼働させることができない状態であり、国内世論も対中強硬政策を支えるほど十分に熟成された状況ではなかった。つまり、米国は中国に対して事を構えることなど全く不可能な状態であった。

■むしろバイデンだと米中軍事衝突の可能性高まる

2020年現在、米国大統領選挙で中国へのタフさを競い合うとともに、米軍と中国海軍が東アジア・東南アジアでの動きを活発化させている。

筆者はトランプ大統領の再選が頓挫し、バイデン政権が誕生するほうが米中両国の軍事衝突の可能性が高まると予測している。政治的な妥協を容易に決断して見せるトランプ大統領の柔軟性が失われることは極めて大きなリスクだ。

中国側が露骨な政治的野心を見せる中で、米国民主党が持つ教条的な人権主義の傾向は中国との間で歯止めの効かない対立を生み出す可能性がある。そして、米中の軍事力が拮抗(きっこう)することに伴って小規模な紛争を招くことも否定できない。

2020年大統領選挙は世界の大きな岐路になるものとなるだろう。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。

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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)

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