あなたvs体内時計「病気の発症には時間が深く関わる」
プレジデントオンライン / 2020年6月20日 11時15分
■「午前11時の白湯」が痛風にいい理由
地球上に住むほぼすべての生物はさまざまなリズムを刻んでいる。地球の自転によりもたらされる1日(サーカディアン)のリズム、月の満ち欠けによる1カ月のリズム、地球が太陽の周りを公転することによる1年のリズム。
現在最も研究が進んでいるのが、サーカディアンリズムだ。明治大学農学部の中村孝博准教授が説明する。
「人の体の中のあらゆる細胞には時計遺伝子が存在し、日中に活動状態となり、夜は自然と眠くなるような一日周期のリズムを司っています。時計遺伝子が中心となり、昼夜に合わせて体温やホルモン分泌など体内環境を変化させる機能を『体内時計』と総称します」
体内時計は2017年のノーベル生理学・医学賞の受賞理由にもなった。私たちの体のそれぞれの生理機能が、最も働くべき時刻にピークを迎えるように整えてくれているが、時にそれが“病気の発端”になってしまうのだ。
一日の血圧の動きを図「体の機能のリズム」に示した。これと似た流れで、死亡率が高くなっていることがわかるだろうか。この死亡率は主に循環器系の突然死を反映している。
「循環器系の発作は、その時間に循環器機能が活発になるサーカディアンリズムと関係しています」(中村准教授)
体内時計は起床時間が近くなると血圧を上昇させ、目覚めた直後から活動できるようにするのだが、それが高血圧症などの持病を抱える人にとってはアダになるということだ。朝は心筋梗塞、夕方は不整脈の発作が起きやすい。朝や夕方はなるべくゆったりした気持ちで過ごそう。健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏は「起床後にコップ1杯の水」を勧める。
「朝は脳梗塞や心筋梗塞発症リスクが高まります。睡眠中に水分が失われて血液がドロドロしやすく、体が起きるに従って、穏やかだった血液の流れが強まり、血管が詰まりやすくなることが一因。水を飲み血液の流れをスムーズにするといいでしょう。できれば白湯にして体を温めるほうが良いです」
同様に午前11時も白湯を飲みたいタイミング。血中尿酸値が最大になりやすいときで、尿酸が多い状態が続くと痛風を引き起こす。
「忙しく活動する人が多い時間ですが、意識して水分摂取を」(望月氏)
このように「病気発症」と「時刻」は関係がある。図の「体の機能のピーク時刻」と「疾患の発症時刻」を頭に入れて簡単な習慣を取り入れたり、服薬のタイミングを見直したりすることで病の発症や症状悪化を防げるだろう。
■アレルギー性鼻炎は朝6時が症状のピーク
実は最も古くから知られている例が「喘息」だ。午前1時から明け方にかけて発作が起こりやすいため、その時間帯に薬の血中濃度が高く保たれていることが必須になる。多くの喘息患者は「夕食後に服薬」と指導を受けている。日中に服薬すると、本当に効いてほしい真夜中には薬が体内で代謝され、消失してしまうためだ。
ほかにも、身近な疾患であるアレルギー性鼻炎の服薬も、就寝前がいい。
「アレルギー性鼻炎は朝6時が症状のピーク(昼間に活動して夜に休息をとる一般的な生活パターンの場合)。そのためアレルギー性鼻炎治療薬である抗ヒスタミン薬を服用するなら、朝よりも就寝前に服用するほうが鼻水や鼻づまりなどの症状改善に効果的であることがわかっています」(中村准教授)
一方で皮膚にアレルギー症状が出る場合は、22時がピークに。体が温まると症状が悪化しやすいため、入浴は22時前後を避けるのが望ましい。
「特に21~22時はアレルギーに反応する感受性が高まりやすい。普段から症状が出やすい人は、その時刻にカレーやアルコールなどの刺激物を避けたほうがいいでしょう」(望月氏)
また、鼻水や咳などの不快な症状を抑えるために市販の風邪薬を服薬する場合も「夜の服用」がお勧め。体温は午前2~5時に最も低くなり、その間に風邪のウイルスが増殖しやすい。服薬による症状軽減で、ウイルスに負けない体力を温存できる可能性がある。
■ずれやすい「体内時計」は光を使って自分で調整
昼だけでなく夜のリズムも大切だ。昔から「寝る子は育つ」といわれるが、大人になったら、“規則的に同じ時間”によく眠ることが鍵になる。
「傷の修復を促す『成長ホルモン』の血中濃度は、通常は寝ている時間の午前2~4時にピークを迎えます。そのときに深い眠りであれば、より多く分泌されます。深夜に起きている人は、起きている時間分、成長ホルモンの分泌がずれます。どういった生活パターンでも、同じ時間に睡眠をとっていることが重要。不規則なシフトワーカーの人は、週の半分以上の生活を送るほうをベースに考えて」(中村准教授)
健康を維持する最大のポイントは、体内時計を規則的に刻ませることだ。
中村准教授は「特に現代では常時光を浴びやすく、体内時計が狂いやすい」と警鐘を鳴らす。生物が持つ体内時計は、光に最も大きく影響を受ける。
「脳の視交叉上核という場所に存在するのが体内時計の司令塔(中枢時計)。中枢時計は正確に24時間を刻んでいるのではなく、人では平均して24時間よりも少し長い周期になる。つまり毎日、時計の針を24時間に合わせる調節が必要で、それは光(主に太陽光)によって行われる。中枢時計は光を感じると、さまざまな臓器に存在する時計遺伝子(末梢時計)へ、神経やホルモンを介して“時刻情報”を伝えています。そして末梢時計はそれぞれの器官の生理機能のリズムをつくっているのです」
そのため、夜間にコンビニの明かりを浴びたり、スマートフォンやパソコンから発せられる青い光(ブルーライト)を見続けたりすると、中枢時計の針が狂ってしまう。反対に夜を中心とした生活なら、昼に太陽の光を避けるなどしないと、規則的なリズムがつくれない。
また、時々夜勤が交じる生活なら、夜勤の翌日もなるべく日中に起きていること。睡眠時間が短くてつらいが、その日の夜に早寝をすることで睡眠を補うといい。すると夜中の成長ホルモン分泌時間に一層深い眠りとなり、体が回復しやすくなるという。
〈規則的なリズムは健康の兆候であり、不規則な身体機能や不規則な習慣は不健康状態をつのらせる〉とは、西洋医学の父と称されるヒポクラテスの言葉。
時計遺伝子は体内の臓器やホルモンがうまく機能するように、常に複雑な調整を続けている。そのリズムに沿って、心身に快適な環境を生み出そう。
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ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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