橋下徹の「最新」FACTFULNESS発想法
プレジデントオンライン / 2020年7月1日 11時15分
■【橋下流→その1】「真実はわからない」という前提で物事を見る
インターネットが発達するにつれて巷には情報が洪水のごとくあふれており、インテリたちは「フェイクニュースに騙されるな!」「情報リテラシーを養え!」「真実を見抜け!」と言っています。そのようなハウツー、ノウハウも流行しており、今回のこの企画もその一環ですね(笑)。
結論から言います。今の情報化社会で真実を見抜くなんてことは完璧にはできません。また、どれだけ偉そうに言っているインテリでも、そんな能力がある人はまずいないでしょう。みんな多かれ少なかれフェイクニュースに踊らされている。僕もそうです。
じゃあ、こんな時代にどのように生きていけばいいのか。それはたった一つ。「真実はわからない」という前提で自分の思考を組み立てることです。前提にできることは公知の事実のみ。公知の事実とは、ある意味万人が認めている事実や、ある専門領域の専門家の間でほぼ統一見解としてまとまっている事実のことをいいます。自分の知識が増えてきたり、社会的ポジションが上がってきたりすると、ついつい自分には情報リテラシーがあると過信してしまい、自分の見解が絶対的に正しい真実だと思い込んでしまう。自分の心の内に留めておく分にはそれでもいいのですが、公に表現する場合にはそれはまずい。常に真実はわからないという前提でロジックを構築し、この場合だったらこう、この場合だったらこう、といくつかの前提事実を想定して場合分けする思考回路にしておかなければなりません。
特にある分野の専門家が自分の専門領域でないことに言及しているときには要注意です。ある専門領域でそれなりのポジションを築いている人に対しては、ついついその人が言っていることを全面的に信用してしまうものですが、専門領域外のことは素人だという前提で、その見解を聞かなければなりません。
■「一斉休校」の判断は是か非か
最近の例では、新型コロナウイルス肺炎騒動の当初において、小中高を一斉休校にすることの是非がネット上で盛んに論じられました。感染拡大の危機感が高まった今の段階では一斉休校に反対する人は少なくなりましたが、感染拡大の危機感が低かった当初は一斉休校に反対の声も強かったのです。
一斉休校の是非を論じるにあたって、子どもたちの間での感染のリスクが高いか、低いかを論点とする議論が激しく行われました。この点に関しては、感染症の専門家の間でも意見が分かれていました。そんな中、「子どもたちの間での感染リスクは非常に低い」というWHOの報告書が出てきたんですね。そうすると一斉休校反対派は、この証拠をもって、「ほら! 子どもたちの間では感染のリスクが低いんだから一斉休校にする必要はない!」と論じたわけです。一斉休校になれば確かに小学校低学年のお子さんを持つ親御さんは大変なご苦労をする。そういう背景もあって一斉休校反対論が強く叫ばれました。
もちろん賛成論の中では、子どもたちの間での感染リスクが高いことを理由とするものも多かった。しかし、当時は専門家の間でもまだ見解が分かれていて、これを公知の事実とするわけにはいきません。つまり、子どもたちの間での感染リスクが高いのか、低いのかをどれだけ論じ合っても意味がないのです。こういう専門家がこう言っている、このような専門家団体がこのように言っているという根拠をいくら示しても、「いや、まだ確定していないでしょ?」という反論で終わってしまうのです。
未知のウイルスについて、まだその実態がよくわからない場合にはどう対処するのか?
それは「わかるまではとりあえず様子を見てみよう」というのが僕のロジックでした。様子を見るということは、一斉休校にして様子を見るということです。それは万が一のリスクを避けるため。そして、だんだんウイルスの実態について明らかになってくれば、それに合わせて休校措置を解除する、すなわち再開するということです。このロジックにおいては、新型コロナウイルスが子どもたちの間で感染するリスクが高いかどうかということは議論しません。
WHOの報告書の後、すぐさま米中の共同研究チームが子どもたちの間での感染を認めるような報告を行っています。
この段階では真実はわからないことを前提に、とりあえず一斉休校をやって様子を見るロジックが妥当だったでしょう。そして一斉休校の間に様子を見て、最終的に日本政府の専門家会議が、学校空間が感染を爆発的に広げるドライビングフォースにはならないという見解を出した。
ここまでくれば、この専門家会議の見解を一つの公知の事実として扱ってもいいんじゃないかと僕は思います。
新型コロナウイルスが子どもたちの間で強く感染するのか否か。ネットにはいろいろな見解があふれていましたが、公知の事実となるまでは「わからない」ということを前提にロジックを組み、「わかって」きたらそれに合わせてロジックを修正するというのがフェイクニュース対処法の極意です。
もちろん、定められた期限の中で実態がよくわからないままどうしても決定しなければならない環境においては、公知の事実になる前の段階で一定の決め打ちをしなければなりませんが、それはある種の「勘」に頼らざるをえません。それはトップの究極の判断という特殊な環境においての話であり、フェイクニュースに踊らされないためにはどうするべきかというレベルにおいては、実態が明らかになって公知の事実になるまでは、真実はわからない、という前提を貫くべきです。
■【橋下流→その2】ただ「リツイート」するのはやめる
インターネット上にこれだけ情報があふれ返っている現代社会においては、公知の事実と明らかなフェイクニュース以外は、「これは正しい」「これは間違っている」などと情報を逐一選別できると考えること、また選別しようと考えること自体、無謀であると言わねばなりません。
あふれ返る情報から正しい情報を完璧に選び抜くということに神経質になることよりも、間違った情報に踊らされる可能性があることを認識しながら、情報の中に積極的に飛び込んでいったほうがいいと思います。過度な恐れは、チャレンジを阻むものです。
ただし、間違った情報に踊らされ、他人を傷つけたり、そのことで賠償請求を受けたりするリスクは絶対に回避しなければなりません。では、どうすればいいのか。簡単です。「むやみに情報拡散をしない」、それだけです。
もちろんネットにあふれている情報を「引用して」持論を展開することは表現行為として大切なものです。TwitterなどのSNSは、そのような表現行為をするうえで大変便利なツールだと思います。
問題は、自分の意見を言うためではなく、面白そうな情報をそのまま世間に広める目的で、単純に拡散する行為。Twitterでいえば、いわゆる「コメントなしのリツイート」にあたりますが、これは絶対にやめるべきです。
法律上も、「コメントなしのリツイート」(単純リツイート)だと名誉毀損などに問われやすくなっています。安易に単純リツイートすることは控えるべきです。他方、「引用リツイート」で自分の意見を述べる行為は、表現の自由として最大限保障されるものです。この最低限のマナールールを頭に入れて、あとは物怖じせず、積極的に情報の海に飛び込んでみたらいいと思います。
(ここまでリード文を除き約3000字、メールマガジン全文は約5800字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」2020‐06特別増刊》(6月30日配信)の前半部分を抜粋したものです。全文を読みたい方はメールマガジンで! 今号のテーマは《【橋下徹の最新FACTFULNESS発想法】なぜ、「賢い人」「インテリ」ほど、間違えてしまうのか》です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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