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1カ月で900本の記事を編集し、40本の原稿を書く男の文章作成術

プレジデントオンライン / 2020年7月1日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

「文章を書くこと」の苦手意識をなくすにはどうすればいいのか。ネットニュース編集者として、1カ月で900本の記事を編集し、40本の原稿を書いている中川淳一郎さんは「いくつかのコツやポイントをおさえておけば、それっぽい文章は比較的簡単につくることができる」と説く。その極意とは──。

■カネを稼ぐには文章を書く必要がある

ホワイトカラーの労働者にとって、「文書/文章をつくる」ことは仕事の基本要件のひとつである。正直、これらを生み出す業務によって収入の5割は成り立っているのではなかろうか。

いや、「5割」の根拠は明確なものではないのだが、「いつでも、わかりやすい書類をアウトプットできる」ことは、ビジネスパーソンにとってかなり大きな強みになるのは間違いない。「説得力のあるプレゼン技術」「卓越したコミュニケーション能力」「相場を読み切る力」「いま現在のはやりを見極める審美眼」「奇想天外なアイデア」なども確かに重要ながら、そうしたスキルを実務に落とし込むにあたっては、文書作成能力が不可欠になる。ビジネスのあらゆる場面に書類が付いて回るという現実は、言い換えるなら「カネを稼ぐには文章を書く必要がある」ということにほかならない。

現在、私はネット記事を月に800~900本ほど編集し、自らも著者として40本ほどの原稿を執筆している。また、それら以外に広報関連の企画書も書いている。今回は、そんな私がいかにして「文章」「文書」を作成しているのか、ポイントやコツをまとめてみようと思う。

■その文章のなかでもっとも言いたいことは何か

文章を書くにあたり、まずやるべきは「『その文章のなかでいちばん言いたいことが何か』をひとつだけ決める」ことだ。一例として、私がこれまで書いた文章のなかから「いちばん言いたいことを伝える」という執筆意図がわかりやすい原稿をひとつ、紹介しよう。2017年6月、日刊ゲンダイに寄稿した舛添要一氏の著書『都知事失格』(小学館)の書評である。

記事が新聞からウェブへ転載される際に付けられたタイトルは「読めば読むほど著者が嫌いになる不思議な良書」だ。この文章で私が特に言いたかった箇所を引用してみる。

〈弁が立つだけに、一瞬同情しかけそうになるものの、突然自慢や他人への攻撃がその後入り、その同情心が失われるという、まさに「自爆テロ回顧録」である。具体的な自慢をするにあたり、まず青島幸男、石原慎太郎、猪瀬直樹がいかに仕事をしなかったかを糾弾し、「東京都知事で北京とソウルに行ったのは18年ぶり」「美術にここまで詳しい政治家はめったにいない」と自らを誇るのだ〉

当時の舛添氏の状況を補足しておくと、公用費をセコく使ったことが批判され、都知事を辞任した後にあたる。同書において舛添氏は、言い訳を徹底的に並べ立てながら、そこに自慢話や武勇伝をちりばめ、さらには自分にとって「敵」と認定した者をたたいている。その様が実に面白いのだが、読めば読むほど舛添氏が嫌いになっていくという妙な側面のある本だった。舛添氏としては「オレ様があのまま知事であり続けたら、どれだけよかったか。お前ら、この本を読んで思い知っておけ!」と言いたかったのだろう。だが、まったく逆の効果をもたらすような内容だったのである。

だから、書評の最後にこう書いた。

〈本文の最後で「衆愚政治のツケは、都民が払う」と書き、小池百合子氏に投票した都民を見下すが、あなたももともとはテレビ芸人だから政治家になれたわけでしょうよ。読めば読むほど舛添氏が嫌いになる不思議な良書である〉

■「3つの具体例」で説得力を高める

この975文字の文章では、記事のタイトルにもなっている「読めば読むほど舛添氏が嫌いになる不思議な良書」という点をもっとも伝えたかった。あとは書き手の欲として「自爆テロ回顧録」というキャッチーな言葉も言いたかった。われながらいいフレーズだと思ったのだ。文章を書く際には、このように自己満足的な一語を入れたりすると筆がノることも多い。「お、なかなか斬新なことが書けたぞ」と、ちょっとした高揚感にも浸れる。実際、記事の担当編集者からも「言い得て妙ですね」とホメてもらえた。

加えて、自分の伝えたいことを補強する具体例も重要だ。最低でも3例は入れたい。

たとえば、先日書いた「マスク着用の奇妙なルール」というテーマの原稿では、私が奇妙に感じている「屋外を歩いているときはマスク着用を強要されているような気分になるのに、飲食店のなかではマスクを外しても許される空気がある」ということをフックにして文章を展開していった。

記事中では続けて「マスクの着脱について、人々のあいだに独自ルールが生まれてきたのではないか」といった話を書いたのだが、具体例として以下の事柄を挙げた。

・片耳からマスクをぶら下げていれば「マスクをする意思あり」と示すことになり、糾弾の対象にはならない
・顎にズラしてつけていても同様
・マスクを外して歩いている場合、向こうからマスクをつけている人が来たら慌ててつけ、つけていない人が来たらつけないまま

かくして人々は、マスクを巡り勝手にさまざまなルールをつくっていく……という様子を書いたわけだが、ここで述べている「奇妙なルール」のような具体例は、読者に「あるあるwww」と思ってもらわなくてはならない。そのためには、文章のなかで矢継ぎ早に複数のエピソードを持ち出して、テンポよく説得していく(納得してもらう)必要がある。

■それっぽい文章が書きたければ「分類」も効果的

具体例を挙げるのと同様の効果を生むのが「分類」だ。この要素を盛り込むと、書き手の伝えたいことがより明快になるだけでなく、文章の仕上がりが「それっぽくなる」という利点がある。要は「きちんと考察したうえで端的にまとめられた文章」感がアップするということだ。先述のマスク記事では「マスクをつけるべき場所・つけなくても大丈夫そうな場所」という分類をした。

【主な「マスクをつけなくちゃいけないプレッシャー」がある場所】
・外を歩いているとき
・公園で遊んでいるとき
・映画館など娯楽施設にいるとき
・電車・バスなど公共交通機関
・スーパー、コンビニ、百貨店、衣料品店を含めた各種小売店
・病院
・会社で会議をするとき
・オフィスビルに入り、エレベーターに乗って、自分のデスクに座るまで
【主な「ここはマスクをしないでもいいよね」な場所】
・飲食店(あくまでも客だけ)
・そこそこ空間的に余裕があるオフィス
・自転車に乗っている人々

こうしたことを書くと「それ、違うだろ!」「他にもあるだろ!」と言いたくなるかもしれないが、これはそもそも私の専門分野ではなく、あくまで実感を書いただけなのでツッコミは甘んじて受ける。

■「箇条書き」を挟むと要点が伝わりやすい

ただし、私が2009年に上梓した『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)で述べた「ネットでウケるネタ9項目・ネットで叩かれやすい10項目」は研究の末に書いたものなので、自信はある。書中では「断言しよう、ネットでウケるネタは以下のものである」と強気の文言で前置きをして(1)~(9)までを紹介した。

この分類して箇条書きしていく「箇条書き論法」は同書で使って以来、いろいろな原稿で多用しているのだが、その理由は、読者がこれらを「重要なポイント」「著者がもっとも主張したい事柄」と認識してくれるからである。実際、ブログなどに書き込まれた『ウェブはバカと暇人のもの』についての書評では、この2つの箇条書きが多数引用されていた。書評を書いてくれる人は「これはぜひシェアしたい」「自分にとって役立った」と思えるポイントを引用するのが一般的だ。私がまとめた「ネットでウケるネタ9項目・ネットで叩かれやすい10項目」の箇条書きも、役に立ったと思ってくれたのだろう。

だが、この「箇条書き論法」には若干、目くらましの面もある。読者に対して、過度に「これが重要なのだな」と思わせてしまうのだ。だからこそ、本当に重要な事柄を述べるとき以外は、あまり使わないほうがいいやり方といえるだろう。

■好きな文体は積極的にまねてみる

また、好きな文体や筆致があるなら、それをまねてみるのもいい。私の場合、作家の椎名誠氏と漫画家の東海林さだお氏の文章にかなり影響を受けている。この2人の著書は何度も、徹底的に読み込んできたので、エッセイやコラムを書くときは言い回しをまねることも多い。

ビジネスに関する書類では、会社員時代の上司・T氏のつくる書類をまねてきた。特徴は、伝えたいことが明快な言い切り調の文体と、以下のようなわかりやすい構成だ。

【1】今回の狙い
【2】導きたい結論
【3】そのための手法の考え方
【4】具体的手法案
【5】得られる成果
【6】想定できるリスク

項目を立てて、そこに箇条書きでアイデアやポイントを書き連ねながら、流れるように企画の趣旨を説明していく。このまとめ方を、私は今でも踏襲してビジネス書類を作成している。

現在、私は古巣の広告代理店・博報堂で業務委託として“週一社員”をしているため、こうした企画書を頻繁に書くようになったのだが、改めて「T氏スタイル」の有効性を痛感している。とにかく文章は、わかりやすくするのが吉だ。

■タッチタイピングの技術は生産性に直結する

あと、意外に重要なのが、キーボードを見ることなく、カタカタと軽快に文字を打ち続けられる「タッチタイピング」のスキルだ。正しいタッチタイピングができると入力スピードは確実に速まるので、作業時間の短縮につながる。入力ミスも減るので、企画書を書いたり、議事録をまとめたりする際のストレスも軽減もされるに違いない。

私のようなライター・編集者といった職業でこの技術がとりわけ役立つのは、インタビューなど取材時の音声を文字化する「テープ起こし」の作業をする場面だ。一般的にテープ起こしは、取材後に音声を聞き直しながら作成していくもの。ただ、私は取材後に改めて音声を聞き返すのが面倒なので、現場でインタビューをしながらノートパソコンのキーボードを素早く打ち続け、相手の発言をほぼそのまま、その場で文字にしてしまう。そうすれば、取材が終わったときにはテープ起こしがすでに完成していることになる。

とはいえ、私が絶え間なくキーボードをたたいている姿がハッキリ見えてしまうと、相手は「ちゃんと自分の話を聞いているのだろうか」などと不安になったり、集中力が途切れたりする可能性もある。そうしたことを考慮し、私はパソコンを机の上ではなく腿の上に乗せ、画面ではなく取材相手の目を見ながら打ち続けるようにしている。

■インタビューと同時進行でテープ起こし

実際にやってみるとよくわかるのだが、テープ起こしはタイピングが遅いと1時間のインタビューをすべて文字化するのに3時間以上かかってしまうこともある、なかなか負荷の高い作業だ。テープ起こしに時間と労力が費やされてしまい、なかなか原稿の執筆に取りかかれないこともある。対して、現場でインタビューしながらテープ起こしまで終えてしまえるようになれば、もっとも集中すべき原稿執筆にすぐ取りかかることができる。

私はアメリカで過ごした高校時代、主に秘書志望の女性が受講する「タイプライティング」という授業を取っていたこともあり、タッチタイピングの鍛錬を積んでいた。そのため、ライターになってから一度も、取材終了後に音声を聞き直す形でテープ起こしをしたことがない。すべてインタビューと同時進行で済ませてきた。どうせインタビュー記事の場合は取材相手に原稿を確認してもらうことが多いのだから、言い回しやニュアンスのちょっとしたズレ、名称の聞き違いといった細かな部分はそのときにチェックしてもらえばいいのだ。また、現場に同行した編集者が録音していることも多いため、取材後に何かをどうしても確認したくなったときは、それを聞き返せばよい。

■文章作成を「至福の時間」にしてしまう

文章を書く作業は、慣れないとなかなかペースがあがらないものだし、どんなに内容や作業手順をテンプレ化してもイチから文章を創造しなければならない箇所は出てくるので、苦手意識を持つ人がいるのも理解できる。

ここまで、私なりの「文章/文書作成のコツ」を述べてきたが、実はテクニック的な事柄以上に重要だと考えている要素がある。それは「文章を書いている瞬間を、いかに楽しめるか」ということだ。

執筆のお供にコーヒーとクッキー
写真=iStock.com/lechatnoir
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lechatnoir

といっても、別に難しいことではない。文章を書くとき、たとえばおいしいお菓子とコーヒーを脇に置き、それらを味わいながら作業にあたるようにすればいいのだ。「文章をつくるときだけは、普段あまり食べないようにしている高級スイーツを摂取しても可」など、好きなことと執筆作業をセットにしてしまうのである。私の場合はビールとつまみなのだが、文章作成とセットになることで、至福の執筆時間を堪能できている。

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【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・文章を書くときは、その文章全体で「いちばん言いたいこと」をひとつ決めてから書き始めるといい。
・文中に「具体例」を3点以上盛り込み、テーマに関連した「分類」を箇条書きするようにすると、要点が読者に伝わりやすくなる。
・好きな作家の筆致など、好きな文体があれば真似てみよう。
・タッチタイピングの技術を磨こう。
・自分の好きなもの/ことと執筆をセットにしてモチベーションを高めよう。

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中川 淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
ネットニュース編集者/PRプランナー
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎)

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