コロナ以後に台頭する「資本主義4.0」で、日本が圧倒的に有利なワケ

プレジデントオンライン / 2020年7月6日 9時15分

ポストコロナ時代は、前世紀後半から続いてきた「新自由主義・グローバル資本主義」が後退し、「資本主義4.0」がはじまるーー。※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NicoElNino

これから世界はどう変わっていくのか。大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストは「ポストコロナの時代に、資本主義は第4ステージ(「資本主義4.0」)に入る。この資本主義4.0と日本の資本主義は親和性が高い。日本は圧倒的に有利だ」と指摘する――。

※本稿は、熊谷亮丸著『ポストコロナの経済学 8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか?』(日経BP)の一部を加筆・再編集したものです。

■8つのグローバルな構造変化が起きる

筆者は、人類の感染症との闘いは長期化することに加えて、ポストコロナの時代は、それ以前と全く異なる世の中に変わると考えている。

ポストコロナの時代は、

①「グローバル資本主義」からSDGsを中心に据えた「ステークホルダー資本主義」への転換
②格差拡大を受けた、反グローバリズム・ナショナリズム台頭のリスク
③米中対立が激化し、「資本主義vs共産主義」の最終戦争へ
④グローバル・サプライチェーンの再構築
⑤不良債権問題が深刻化し、潜在成長率が低下
⑥財政収支が軒並み悪化し、財政政策と金融政策が融合に向かう
⑦リモート社会(非接触型社会)が到来し、企業の「新陳代謝」が重要となる
⑧中央集権型から分散型ネットワークへの転換

という8つのグローバルな構造変化が起きると予想している。すなわち、「新常態(ニューノーマル)」と呼ばれる全く新しい世界が始まるのだ。以下では、この「8つのグローバルな構造変化」の中身と対応策をピックアップして見ていくことにする。

■「新自由主義・グローバル資本主義」は下火に

ポストコロナの時代に予想される第1のグローバルな構造変化は、資本主義の変容、すなわち「利益至上主義からSDGsを中心に据えた資本主義へ転換」である。

2000年代に入り加速した、株主の近視眼的な利益だけを過度に重視する「新自由主義・グローバル資本主義」が大きな転換点を迎え、中長期的により持続可能性が高い、従業員や顧客、取引先、地域社会、地球環境、将来世代などさまざまな側面にバランスよく目配りをした「ステークホルダー(利害関係者)資本主義」が主流になると考えている。

一口に資本主義といっても、米国に代表される「アングロサクソン型」、ドイツに代表される「ライン型」、「日本型」といったさまざまなタイプが存在するが、ポストコロナの時代には、こうした資本主義のさまざまなタイプが、ひとつの方向に収斂していく。現状、各国が抱える課題はさまざまだが、その行き着く先には、多様なステークホルダーが対話を通じて持続可能性の高い価値を創造する、新たな資本主義の姿が想定される。

そのなかで、中核的な役割を果たすことが期待されるのが、SDGs(Sustainable Development Goals)である。SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された、2016年から2030年までの「持続可能な開発目標」を指す。

SDGsの最大の特長は、「未来のあるべき姿(理想像)」を掲げた上で、「バックキャスティング」的な思考で、そこから逆算して、現在なすべきことを考える点にある。この思考法は、現在を起点に、現在の延長線上に想定される未来を考える「フォアキャスティング」的な思考とは根本的に異なっている。

そのため、SDGsで掲げられた17のゴールと169のターゲットは、社会的課題の解決に取り組む多くの企業にとって、経営の羅針盤のような役割を果たすことになる。

■カネより人間中心の「資本主義4.0」へ転換

先ほど、資本主義は大きな転換を迎えていると述べたが、この構造変化は、数百年単位の時間軸で捉えるべき性質のものだ。

資本主義の歴史を極めて単純化すると、「資本・株主・お金」と「労働・従業員・ヒト」という2つの座標軸で整理できるのではないかと考えている(図表参照)。すなわち、「『資本』と『労働』のどちらを重視するのか?」という枠組みのなかで、資本主義は過去数百年間、揺れ動いてきたのである。

【図表】資本主義の歴史

歴史的に見ると、資本主義の発展段階は図表のように4つに分けることができる。

第1ステージ(「資本主義1.0」)は、資本が労働より重視された時代だ。18世紀に「産業革命」や「囲い込み運動」を経て、資本主義が成立した当初は、資本家の力が強く、労働者は極めて劣悪な労働環境を強いられた。

資本主義の第2ステージ(「資本主義2.0」)が始まるのは、1833年に英国で「工場法」が成立した頃だ。この頃から、とりわけ欧州諸国において、資本主義は資本家よりも労働者の権利保護を重視する方向へと徐々に舵を切っていく。

その後、1970年代末頃から、資本主義は第3ステージ(「資本主義3.0」)に入る。米国のロナルド・レーガン政権(「レーガノミクス」)、英国のマーガレット・サッチャー政権(「サッチャリズム」)に代表される「新自由主義」全盛の時代が始まったのだ。新自由主義とは、簡単に言えば「政府より市場のほうが正しい資源配分を行うことができる」という考え方である。ここでは、資本家の短期的な利益が重視され、労働者は再び厳しい立場に追い込まれた。

2000年代に入ると、いわゆる「グローバル資本主義」が隆盛を極め、「資本重視」の流れがより一層加速した。いわば、弱肉強食を基本原理とする、強欲むき出しの時代である。

しかしながら、ポストコロナの時代を展望すると、資本主義は第4ステージ(「資本主義4.0」)に入ると予想される。それは、「資本(お金)」ではなく、「労働者(ヒト)」が付加価値の源泉となる新たな時代だ。こうした変化は今回のコロナショックが起きる以前から既に生じていたが、ポストコロナの時代に環境や格差是正への配慮が強く求められる様になると、より一層拍車がかかることになるだろう。

■「資本主義4.0」を日本は受け入れやすい

「資本主義4.0」に向けた胎動は着実に生じている。

第1に、最近のマイナス金利は世界中でお金が余っていることを意味している。つまり、従来と比べて、「資本(お金)」の価値が大幅に低下しているのである。

第2に、人工知能(AI)の発達も、資本主義に大きな変化をもたらすことになるだろう。単純労働の多くが人工知能によって置き換えられることになれば、企業の付加価値の源泉は間違いなく労働者の対人関係能力や創造性、価値判断能力などに移行するからである。こうした新たな資本主義の枠組みの下で、伝統的に従業員を大切にしてきた日本企業は、再度フロントランナーへと躍り出る潜在能力を秘めている。

そもそも日本と西洋とでは、宗教・文化・哲学の違いを背景に、労働観や資本主義の観念も大きく異なっている。

西洋の宗教は一神教で、哲学もデカルトに代表されるように、主客二元論で論理的である。あえて誤解を恐れずに言えば、キリスト教の「原罪」の影響で労働はもともと「苦役」だった。エリート主義・事実上の身分制を是認する考え方から、専門的・スペシャリスト的な職種制を採用し、これはグローバル資本主義――すなわち「資本主義3.0」と親和的であった。

これに対して、日本の宗教は多神教で非常に平等な社会だ。西田幾多郎の哲学に代表されるように、主客一体で実践的な性格を持つ。例えば、天皇陛下自らが田植えや植樹をなさるように、労働は「神事」とされる。また、「天岩戸」の神話で八百万の神が対応を協議したように、協力と熟議の伝統がある。すなわち、日本の労働市場はエリート主義的な職種制ではなく、現場主義でゼネラリスト的な傾向がある。この仕組みは、各人が創造性を発揮することが期待される、ポストコロナの時代の資本主義(「資本主義4.0」)と親和的だといえる。

■日本に求められる「立ち位置」「価値観」「哲学」の明確化

今後、世界的な資本主義の構造転換や、反グローバリズム・ナショナリズム台頭のリスク、米中対立の激化などが予想されるなかで、日本は「自国の立ち位置」を明確化する必要がある。

熊谷亮丸著『ポストコロナの経済学 8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか?』(日経BP)
熊谷亮丸著『ポストコロナの経済学 8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか?』(日経BP)

日本は長年にわたり、国際法を遵守する姿勢を貫いてきた。近代的な国際秩序の基本構造は、1648年に締結されたウェストファリア条約によって成立した。ウェストファリア体制の根幹をなすのは、「すべての主権国家は対等、平等である」という理念だ。これに基づいて、国際社会では、主権国家に対する内政不干渉の原則などが尊重されている。

現代でも、国連憲章第1章に「すべての加盟国は武力による威嚇又は武力行使を慎まなければならない」と謳われている。こうした基本的な価値観や哲学は何としても遵守しなければいけない。

それらを踏まえて、「ポストコロナ時代の日本の立ち位置」を以下のように提言したい。

①民主主義、基本的人権の尊重、法やルールの遵守、自由貿易の推進といった、わが国のベースにある価値観や哲学を守り抜く
②反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズム、ポピュリズムの台頭には断固として反対する
③感染症対策などの分野では、グローバルな結束や国際的な連帯のリード役となる。例えば、WHO(世界保健機関)の改革で主導的な役割を果たす
④米中両国の対立激化やブロック経済化などの回避に向けて、米中両国の仲介役を果たす。中国に対しては、産業補助金、強制的な技術移転、データ利活用のルール、サイバーテロ、不公正な貿易慣行、知的財産権の保護などの面での是正を強く求める。米国に対しても、保護貿易主義の是正などを求める

日本はいわゆる軍隊を持たず、資源も乏しい。こうした国が、国際社会で影響力を保つには、やはり「論理」に頼るしかない。「日本という国は、いつもバランスの取れた正しいことを言っている」という小さな称賛の積み重ねから生じる「ソフトパワー」こそが、日本の国力の源泉になるのである。

ポストコロナの時代に、わが国は米国の顔色ばかり窺うかがうのではなく、自国の立ち位置や、寄って立つ価値観や哲学を明確化することこそ重要だと筆者は考えている。

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熊谷 亮丸(くまがい・みつまる)
大和総研 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト
1989年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。同行調査部などを経て、2007年大和総研入社。2020年より現職。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(旧興銀より国内留学)。ハーバード大学経営大学院AMP(上級マネジメントプログラム)修了。政府税制調査会特別委員などの公職を歴任。経済同友会幹事、経済情勢調査会委員長。テレビ東京系列「WBS(ワールドビジネスサテライト)」コメンテーターとしても活躍中。

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(大和総研 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸)

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