トランプの逆襲が始まった…中国のお友達「バイデン」への徹底攻撃を開始した
プレジデントオンライン / 2020年7月14日 9時15分
■コロナ禍においてトランプ陣営の戦略は瓦解
7月冒頭、共和党重鎮であり選挙戦略のプロであるカール・ローブ元大統領顧問がFox Newsの番組America's Newsroomのインタビューで、トランプ陣営は8月の共和党大会前に選挙戦略のリセットを行うべきだと主張した。曰く、「2期目の大統領は、自らに対する世論調査やメディアの評価が間違っていると主張するだけではなく、再選後に何をするのかを示すことが必要である」。筆者もこの点についてカール・ローブ氏の主張に強く同意する。
トランプ陣営の選挙メッセージ戦略は、今年コロナ禍が発生するまでは明確なものであった。トランプ大統領は非常に困難な選挙公約を掲げたものの、その主要公約の達成率は極めて高く、大減税、規制廃止、国際条約脱退、最高裁判事の保守派指名などの実績を上げてきた。
トランプ大統領は、好調な経済情勢とマイノリティの低失業率を演説で常に強調し、政権運営実績をPRすることを中心に据えた現役大統領らしい選挙戦を展開してきた。また、娘婿のジャレド・クシュナー氏に音頭を取らせ、アフリカ系有権者に狙いを定めた刑務所改革などの政策イシューに取り組んだことも特徴的であった。
しかし、トランプ陣営の選挙キャンペーンはコロナ禍において大きく変更せざるを得ない事態に陥った。都市封鎖が実施されたことにより、失業率が上昇したこと(特にマイノリティ)は、「経済実績」を訴える戦略を一瞬で瓦解させてしまった。
また、白人警官によるジョージ・フロイド氏の殺害事件に端を発する抗議・暴動は、トランプ大統領の有色人種内でのイメージを引き下げた。そのため、トランプ陣営は、選挙メッセージの立て直しが急務となっており、その有効性の見極めを行うために複数のメッセージを新たに作りふるいにかけている。では、トランプ陣営が展開している代表的なメッセージ戦略をみてみよう。
■I.経済重視でコロナショックからの速やかな回復を目指す
トランプ大統領がバイデン元副大統領に対して世論調査の数字で上回っている項目は「経済」分野だけとなっている。たしかに、増税・規制強化を平然と口にするバイデンに対して経済運営面から厳しい評価を下す有権者も少なくない。バイデン陣営は包括的な経済政策パッケージを打ち出すことはできておらず、今後も有効性がある政策を提示できる可能性は高くない。
そのため、トランプ大統領がコロナ禍からの経済復活の流れを描き切ることは大きな反撃の一手となるだろう。2020年4月トランプ大統領は、コロナ禍からの経済回復を「ビッグバン」と表現した。トランプ政権が継続することが「ビッグバン」が起きる条件だというPR戦略である。ただし、経済を重視する戦略は、コロナウイルスの第2波が西部・南部に拡大することで想定よりも遅れる可能性も出てきている。
■II.民主党州政府における社会問題が連邦政府に波及すると訴える
現在、米国が抱えている社会問題は、主に民主党州知事・市長が存在する地域に集中している。現代の社会問題は都市問題が中心であり、人口が集中する地域で発生しがちなものだからだ。
「不法移民、都市封鎖、暴動などの問題は、米国を破壊する政治をやめて、法と秩序を取り戻す必要がある」。「法と秩序」のフレーズはトランプ大統領が直近で最も強調しているメッセージの1つである。このメッセージは「民主党が州政府だけでなく連邦政府を手に入れた場合、現在の無法と混乱は連邦全体に拡大する」という意味も内包している。
このような連邦政府(共和党)VS.州政府(民主党)という構図を作り出し、その対比を描く戦略は必ずしも功を奏していない。しかし、社会混乱が更に拡大した場合、米国民のサイレントマジョリティがそれを支持する可能性は十分にある。
■III.最高裁判事指名リスト公表で立場を明確化
トランプ大統領は2020年9月に最高裁判事指名リストを公表することを約束している。2016年の大統領選挙時には、トランプ大統領は最高裁判事に保守派を指名することを約束し、キリスト教福音派ら保守系団体からの求心力を確保することに成功した実績がある。トランプ大統領はバイデンに対して同様のリストを公開することを迫っており、バイデンは女性・有色人種を推薦するという方針を打ち出している。
今後、バイデンがリベラル過ぎる候補者を発表した場合、その反動からトランプ大統領への強烈な支持熱が復活することが想定される。また、バイデンは米国民から全ての銃を没収すると主張していたベト・オルーク下院議員の選対本部長を自らの選対本部長に採用し、オカシオ・コルテスを環境政策策定グループの共同議長に任命して過激な環境政策を推し進めようとしている。
バイデンは元々中道派とみなされていたが、今後バイデンを過激なリベラルと見なす動きが加速していくことになるだろう。バイデンの左傾化が鮮明になることで、共和党支持者が再びトランプ支持への熱を取り戻すことは既定路線だと言える。
■IV.バイデン氏の急所をつく「対中ナショナリズム」
トランプ陣営は「The Toast of China」(中国のお気に入り)という動画を作成し、バイデンが中国に対してどれほど甘いのかを有権者に伝えるために巨額の広告費用を投下した。40年間のバイデンの対中融和実発言並べ、米国からの中国への雇用創出を招いたことを批判している。
世論調査機関Pew Research Centerによると、中国に対する嫌悪感は共和党・民主党に関わらず極めて高水準に達している。トランプ大統領は就任以来オバマ政権下の軍事費抑制で疲弊した米軍を再建し、中東からの撤退を推し進めることを通じて、米軍の対中シフトを急速に進めつつある。2020年7月、南シナ海での米中同時期の軍事演習には複数の空母機動部隊を派遣し、アジア太平洋地域での米軍のプレゼンスを示す形となった。
一方、バイデンにとっては息子のハンター・バイデンが中国での投資事業の利権に浴し、バイデンの外交スタッフのメンバーがペンシルバニア大学のバイデンの名を冠する研究所で中国から資金を受け取った疑惑が存在していることは極めてイメージが悪い。バイデンのウィークポイントを効果的に突くために、対中ナショナリズムは有効な手段の1つと見做されている。
■Ⅴ.国民側の英雄たる「挑戦者」としてのイメージ作り
トランプ大統領が置かれている最大の問題点は、現職大統領であるがゆえに、トランプ自身の最大の強みであるアウトサイダー・挑戦者であるというイメージが削がれてしまっていることにある。つまり、国民が倒すべき明確な敵が設定されておらず、有権者の善悪の基準がトランプ大統領自身への好悪となってしまっているのだ。
そのため、自らの政権実績をPRする方針を見直し、自らをエスタブリッシュメント(既得権)に対する挑戦者と描きなおすことは効果的な対応策の1つとなるだろう。
7月現在、トランプ陣営はこのアウトサイダーとしてのカラーを再強調する戦略は採用していない。しかし、ブッシュ政権の高官ら(43 Alumniと呼ばれるエスタブリッシュメントのお友達グループ)がバイデンを支持したことは、トランプ大統領にとって好機と見なすこともできるだろう。政権の外に放逐されているスティーブ・バノン前主席戦略官との関係を回復し、自らをワシントン政治と対峙する国民側の英雄と位置づけ直すことも一考に値するはずだ。
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早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。
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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)
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