東京で再爆発!第2波到来でマスクは品薄になるか。いま準備すべき意外なものは
プレジデントオンライン / 2020年7月13日 11時15分
■今は一般向けマスクが「少なくとも数千万枚余っている」状態
「6月に入っても、倉庫に120万枚も余ってしまっていて……ようやく60万枚まで減らしました」
そう言って苦笑するのは、中国からショッピングサイトなどで雑貨類を販売する貿易商社の中国人営業部長だ。新型コロナウイルスの感染拡大で爆発的に需要が増え、一時は一般向けの使い捨てサージカルマスクが10枚入りで3000円近く、単価300円弱にまで暴騰した。
ところが、7月に入った今はあの喧噪はどこへやら。一般向けマスクの末端価格は、「10万枚から50万枚購入するなら単価は12円、1万枚から10万枚なら14円か15円、10枚入り1箱か2箱なら17円から18円」(同)。一時は早朝から行列ができていた大手ドラッグストアも、今や「単価10円を切らないと買ってくれない状態」(別の交易業者)である。
マスクが普通にスーパーなど店頭に並ぶようになって、一般ユーザーにとってはひと安心。「私個人で把握しているだけでも、現在は数千万枚余っている状態」(医療コンサルタント)だが、コロナ禍が完全に終わったわけではない。今、しきりに言われているのは「第2波」の到来だ。3月、4月のパニックめいた状況が、また繰り返されるのだろうか。国外でも南北アメリカをはじめとして、感染者数でいえば増加の一途。需要は衰えてはいない。
■“その筋”っぽい人も医療用マスクを買い付けに
しかも、一般向けのサージカルマスクと異なり、医療用マスクは、米化学大手3M社の中国工場が今や中国による事実上の“国有化”状態とあって、今もひっ迫状態は変わっていない。「冗談ヌキで、3M社のN95マスクなんかは宝探しのような状態。手術の際は30分に1枚の使い捨てするものなのに、今でも1枚600円で買い手はつく」(同)。
「ブローカーらが見るサイトがあるんですが、先日まではそこに『あした成田にN95が1000万枚着くらしいぞ』といった情報が書き込まれると、億単位の札束を積んだ現金輸送車がブツを押さえるべく成田の近隣に何台も出向いてきて、そこには普通の人も、“その筋”っぽい方も群がっていました(笑)。しかし、最近は来るといっても来ないから、小競り合いしながら皆あきらめている」(前出・交易業者)
では、ここで少し時間をさかのぼって、新型コロナ発生以降の国内外のマスク市場に、いったい何が起こっていたのかをたどってみよう。先行きを推測するには、まずこの間の波乱万丈の経緯を見ておく必要がある。いったん医療用マスクは除外して、一般向けのサージカルマスクのみに絞ってゆく。
■「中国製はイヤ」と、他国の箱に入れ替えて仕入れる
年初から中国・武漢を発端に国内で感染が急拡大、マスクの需要も同時に急増した。「2月以降に中国とWHOがマスクと消毒液スプレーの輸出を止めた。中国国内の工場は、生産能力の高いところから順番に中国政府やWHOに押さえられていきました」——前出の医療コンサルタントがそう語る。「日本の大手メーカーのOEM工場もいくつか押さえられ、輸出できなくなりました」(同)。
2月といえば、日本では月初からダイヤモンドプリンセス号乗客の集団感染が連日報じられていた頃。北海道内の自治体や医療機関が計5万枚以上のマスク、4万セット以上の防護服を中国に寄付したのはその中旬頃だ。欧州は「まだ対岸の火事のような状態」(同)だったが、米国からは3月に感染が急拡大する直前の2月の終わり頃にバイヤーたちが中国入りして、3月初めには工場を押さえ始めたという。
「米国では中国製を嫌がるユーザーが多く、『箱を他国のものに替えてくれ』というオーダーもあった」。そこで、他国の企業や第三国をいくつか経由し、中国産とわからぬように空輸した。経由地は様々だが、多くは韓国や日本の成田空港だった。
■「1.5倍出す」とその場で現金を出してかっさらう
「フランス人が買い付けたマスクを、身元不明の米国人が輸送中の空港のその場で3~4倍の現金を出して横取りした件が問題になりましたが、ああいうことはしょっちゅう。中国国内の工場でも頻繁に起きていました。単価100円で1000万枚、日本円で億単位のマスクを注文していた工場から急に『送れなくなった』と連絡が入り、よくよくきいてみると現金を持った米国人が、その場で1.5倍の価格ですべてかっさらっていったということでした」
「間にいくつもの企業や国をはさんで、最終的なバイヤーがイスラエルというのも目立ちました」。当初は商社を通じて自国のマスクを売りに来ていた欧州諸国やロシアの政府・企業も、自国への感染拡大とともにこの叩き合いに参戦。まさにルールなき分捕り合戦が日々ワールドワイドに繰り広げられていたわけだ。
高値で売れるとあれば、当然参戦者は増える。「2月から3月にかけて、中国で工場がものすごく増えた。浙江省温州市では、普段は靴を製造する約3000社がマスク工場に衣替えしたり、安徽省・広東省・河南省・河北省などでもマスクを作り始めました」(前出の貿易会社営業部長)。工場以外でも、個人で自宅に生産ラインを作って家族で作る人も。となると、製品全体の質の低下は避けられない。
■2月、3月でも「ちゃんと買っていれば不足することはなかった」
3月中旬あたりから、中国はスペイン、オランダ、トルコなど遅れて感染を拡大させた国々にマスクやPCR検査キットなどを送り付けた。いわゆる“マスク外交”だが、すでに「中国国内では、無免許の工場で作られた粗悪品が大量に出回っていた」(営業部長)ため、各国からは「基準に達しない」「欠陥がある」として次々と返却された。習近平国家主席の顔に泥を塗られた格好の中国政府は、無免許で製造していた工場を大量に没収したという。
日本人のバイヤーが中国に現れ始めたのは2月半ば以降だったが、現地の工場と直に契約して自社ブランドのマスクとして販売する本格的な案件が立ち上がったのは、ようやく3月半ば以降だった。「すべてにおいて、他国より1カ月遅れる。もう1カ月早く中国入りしていれば、諸国に先んじてマスクを調達できていたはず。大手商社のうち何にでも手を出すほうの2社は早くから世界中で動いていたが、プライドの高い別の社は『マスクなんて』と二の足を踏みながら、結局は後から参戦していた。そうした大手商社出身の日本人ブローカーも多く参戦してきます。やたら昔の自慢話が多いのが特徴(笑)」(交易業者)。
日本国内でマスク不足が目に見えて顕著となったのは2月以降だが、先の交易業者によれば「平時と比べてどんなに高値でも、業者が市場価格をちゃんと理解して買っていれば、国内であそこまでマスク不足に陥ることはなかったはずです」という。
■現金の叩き合いの渦中に「前金を払わない」厚労省
日本人全般の買い付けが拙劣だ、と交易業者は言う。「日本人バイヤーは歓迎されない。わずか1000枚単位の発注まであるから工場には嫌われるし、しかも安くないと買わない。ドラッグストアなど小売業のバイヤーが、『サンプルを確認した。モノはいいのはわかった。でもコロナ前にはこれくらいの価格で売ってたのに、これ(高値)ではユーザーに逃げられるかも……』と怖がって買わなかった。だから日本国内で流通しなかった。何をやっているんだか」(同)
詐欺や不払いが頻繁に横行したことが、行儀のよい日本の買い手を委縮させていたとはいえ、それはどこの国でも同じ条件である。
「厚生労働省も上から目線で前金を払おうとしないから、業者が立て替えなければならない。平時ならともかく、現金で叩き合いをやってるさなかに、支払いが納品完了後1カ月なんてアホですか。マスクや防護服、手袋を買いそびれたのは、そこが理由です」(前出・貿易商)
ただ、中には「困っている人がいるから」と、薄利でも市場価格で買い取り、自治体に納品したり、ネット通販で数百万枚売った日本の会社もあったというが。
平時より高値だと、それだけで疑心暗鬼になるユーザーも問題のようだ。「日本の消費者は、原価も知らないのに『1箱3000円』とかだと、ボッタクリだとか言ってもう買わない。で、ちょっと安いのが入ったらドラッグストア前に行列をつくる。コロナ前のマスクの原価は2~3円ですが、コロナ後は20円~30円。10倍ですよ。安けりゃいいというだけで、適正価格というものをわかろうとしない」。価格が高騰する主因は市場原理であって、悪徳業者のボッタクリとは限らないというわけだ。
■マスクの価格崩壊のきっかけは「自粛」だった
もちろん、マスクが世界的な品薄だったことは間違いない。が、マスクそのものが市場から消えたわけではない。コンプライアンスの過剰な順守意識と、「よい品をより安く」という建前に縛られた日本の買い手と売り手の感覚、あるいは長年の間に染みついたデフレマインドが、荒っぽい買い付け戦争への参入を阻んだ一因であろう。
さて、一般向けマスクのひっ迫状況は唐突に終わりを告げた。「5月の連休明けに一気に下がり始めた。価格崩壊が起きた。こうなるとは予想がつかなかった……」(営業部長)。
きっかけは、4月7日発出の緊急事態宣言による自粛入りだ。「一般向けサージカルマスクの輸出を3月いっぱい止めていた中国が、ひと段落して4月に解禁。自粛入りで皆が外出しなくなったことでマスクの使用枚数が激減し、価格が一気に下がった」(同)。テレワークに入る前は、企業が社員に配るためにまとめて購入していたが、それがなくなった。日本の業者は比較的質のよいマスクを税込み単価25円~27円くらい、質の悪いのでも23円あたりで仕入れていたが、それが冒頭のような10円そこそこ、半値まで下落したのだ。
「政府も最初は買っていましたが、4月の段階で、すでに一般向けマスクは『もういらない』状態でした」(交易業者)
4月1日に配布が発表され、6月にようやく家庭に行きわたった“アベノマスク”の貢献度については懐疑的だ。「『受給関係を改善させ、マスクの価格を下げた』みたいにいう人もいますが、連休明けにはまだ出ていなかったし、関係なかったのでは。何せ発想が異次元過ぎて……中国のちゃんとした工場に頼めば、虫や髪の毛が入ったりは絶対にしません。よほど(安く買い)叩いたんでしょうねえ」(コンサルタント)。
■すでに今、足りていないのは「手袋」
「今やほとんどの国民が着用している中国国内でも、価格がピーク時の20分の1に下がった。今後、日本は、一般用マスクに関しては安定して供給されていくと思う。値上げすることもないでしょう。数が膨れ上がった中国のマスク工場も、半分以上は倒産したのでは。その倒産会社の在庫が格安でさばかれ、日本に入ってきている。日本で主流の白いマスクは、ブルーを好む中国では売れないから、それこそ『カネをくれれば出す』状態。」(営業部長)
今後、第2波が来ると仮定した場合、一般向けマスクは品薄になる可能性はあるのか。ここについては、コンサルタント、営業部長、交易業者のいずれもが、「日本でなら、今年の冬から来春にまた風邪や花粉症が流行っても、困ることはないでしょう」と口をそろえた。
では、他に先々足りなくなりそうなものは? と問うと、医療現場の必需品がやはり主だ。「医療用マスクのほか、ビニールやラテックス製の使い捨て手袋が品薄状態。大手商社が探し回っているとききました」(営業部長)、「手袋は海外からベトナムタイ、中国の工場に20億枚とか1000億枚の注文が入ってきている」(コンサルタント)。手袋を買うのは欧米やドバイから来るバイヤーが主で、「すでに高値のため、アフリカ諸国は購入が難しいようです」(交易業者)。
■日本人Gメン・ビジネスパーソンに必要な“荒ぶる買い付け”
「医療用の防護服はメーカーが限られているが、すでに欧米先進国は購入済みで、新たな需要増はなさそう。ただ、アルコール性の消毒薬は品薄が心配」(医療コンサルタント)。日本国内で重篤な患者が減ったとはいえ、医療現場は引き続き油断ならないわけだ。
このまま第2波もなく無事にフェイドアウトしてくれるのが理想だが、いざ何か物資不足となった場合、日本のGメン・ビジネスパーソンには日本の全国民のために、世界の魑魅魍魎に引けを取らぬ、荒ぶる買い付けを展開してほしい。
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プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。
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(プレジデント編集部 西川 修一)
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