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イスラエル独自のエリート教育、その成り立ちと本質

プレジデントオンライン / 2020年7月26日 11時15分

新井 均『世界のエリートはなぜ「イスラエル」に注目するのか』(東洋経済新報社)

■イスラエル独自のエリート教育、その成り立ちと本質

近年、イスラエルに世界の注目が集まっている。ITに限らず自動車、医療、農業など様々な分野で優れたイノベーションが数多く創出されていることが注目されている。

私自身も今や米MITに比肩されるほど有名になったイスラエル工科大学(テクニオン)とは深い関係があり、イスラエルが持つ高い技術力には常々注目してきた。そんな中で、イスラエルの大飛躍の秘密を紐解く本を見つけたので紹介したい。

元研究者である著者は、自らもイスラエル技術を利用してビジネスを起こした経験を持ち、既に13年間にもわたってイスラエルと付き合ってきた。陰陽両面の実体験としてイスラエルを熟知しており、ここ数年のイスラエルブームに乗った者とは経験値が異なる。その経験を通して見たイスラエルの強さの源泉は、「独自のエリート教育」にあると考え、その成り立ちと本質を見事に解明している。

「タルピオット・プログラム」と呼ばれるこのエリート教育は、優れた資質を持つ18歳の若者、わずか50名を全国から大変な手間をかけて選抜し、通常なら4年間かかる大学教育の内容を3年間で集中して学ばせ、エリート技術者を育てるのである。この選抜課程とプログラム内容の章を読むだけでも、日本との違いに読者は驚くであろう。

■テクノロジーという「質」で勝負

このプログラム本来の目的は、安全保障にある。日本と異なり政情が不安定な中東では、安全保障は常に国と国民にとって最大のプライオリティである。国土の大きさ、人口、兵力という「量」では、敵対するアラブ諸国に圧倒的に劣るイスラエルは、テクノロジーという「質」で勝負するために、エリート技術者を育成し、兵役として軍事技術開発に従事させる。

このエリートたちは、その期待された目的を果たすだけではなく、兵役を終えた後に、その優れた技術力とチームワークを生かしてベンチャーを次々に立ち上げ、この国の飛躍的な経済成長のドライバーとなってきたのである。

日本でも起業家育成に向けて、投資プログラム、ピッチコンテスト等様々な国の施策がなされるようになった。これら「表に見えるもの」はわかりやすい。しかし、その中で活躍すべき人間の意識が変わってゆかねば、成果を出すことは難しい。イスラエルの起業家バラク・ベン・エリエゼルは、「腕から血を流していれば誰でも怪我だとわかるが、内出血はわかりにくい」と言う。

教育の問題は、まさにこの「わかりにくい内出血」なのである。日本の停滞の一因は、高度経済成長期とほとんど変わらぬ教育を施し続けているという「内出血」にあるのではないか。本書を通し、日本の読者が現状から脱皮するための道筋を、ぜひイスラエルから学んでもらうことを希求するものである。

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千本 倖生(せんもと・さちお)
レノバ会長
1942年生まれ。京都大学工学部卒業、米国フロリダ大学博士課程修了。84年第二電電(現KDDI)を共同創業。慶應義塾大学大学院教授を経てイー・アクセス、イーモバイルを創業。2015年より現職。

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(レノバ会長 千本 倖生)

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