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「ニュータイプ女性アナ」なぜテレ朝・弘中綾香はみんなに好かれるのか

プレジデントオンライン / 2020年7月30日 15時15分

テレビ朝日の弘中綾香アナウンサー=2018年6月2日、東京都港区 - 写真=読売新聞/アフロ

「女子アナ」らしからぬ女性のアナウンサーがいる。テレビ朝日の元プロデューサー鎮目博道氏は「その代表格がテレ朝・弘中綾香だ。その姿勢は、命懸けで『女子アナ』を目指してきた人とは正反対。そこがウケている」という――。

■弘中綾香は「ニュータイプ女性アナ」である

「上智大学が今年からミスコンを廃止する」という報道が、先日話題になった。上智大学のミスコンは、数々の有名「女子アナ」を輩出している。上智に限らず、さまざまな大学のミスコンが「女子アナ」の登竜門となり、ミスコンイコール女子アナという式が成り立っているイメージは強い。

そのミスコンが、次第に逆風を受けることが増えた。上智大学のミスコン廃止は、言ってみればその象徴的な出来事かもしれない。廃止まではいかないまでも、ルッキズム(外見至上主義)やフェミニズム的見地から、ミスコンは批判の矢面に立たされることが多くなってきている。

そして、ミスコンとまるで歩調を合わせるようにして、いわゆる「女子アナ」のあり方がいま変わろうとしていると私は思う。これまでのタイプには当てはまらない、いわば「ニュータイプ女性アナ」が生まれつつある。私はその代表選手は、テレビ朝日の弘中綾香アナウンサーだと思う。

局アナでありながらラジオ番組に出演したり、歯に衣着せぬその毒舌ぶりが話題になったり、そしてジャニーズJr.主演のドラマへのレギュラー出演までもが決まった弘中アナ。しかし私が弘中アナのことを「ニュータイプ」だと思う理由はそこではない。

■「で、私は何をすればいいんですか」

私はテレビ朝日のOBなので、実は弘中アナと仕事を一緒にしたことが、ほんの少しある。一度はとあるニュース番組の特集コーナーの担当デスクとして。多分彼女の「アナウンサーとしての初食レポ」だったのではないか。現場には行っていないから弘中アナは知らないだろうが、彼女の出演したVTRの制作責任者のようなことをやらせてもらった。この時のことは後ほど書く。

もう一度は、ABEMAで私がプロデューサーとして制作を担当した番組で。MCを彼女にやってもらったわけだが、この時の印象で私は、弘中アナが「ニュータイプ」だと思うようになったのだ。この時の印象は非常に強烈だった。

まず、目がまったく笑っていなかった。打ち合わせの時の話だ。「魚のような」というとかわいそうだが、特に何の感情もないという目をして「で、私は何をすればいいんですか」と、抑揚のない感じでわれわれ制作側に聞いてきた。

一瞬、この子は機嫌でも悪いのか、と思ったくらいだ。普通「女子アナ」はそこまで無愛想な感じで局のプロデューサーなどに接してくることは少ない。

■言ってみれば「年老いた職人のよう」

演出担当が番組の概要を説明すると、説明をしっかり聞きながら、質問をしてくる。それはまさに、こちらの意図を確認し、文字通り「自分が何をすればいいのか」をひとつひとつ確認する作業だった。

嫌だと思うことは、嫌だ。分からないと思うことは、分からない。はっきりそういうことが言える人なのだな、と私は思った。機嫌が悪いのではない。仕事だからビジネスライクに「やるべきことのスペック」を確認しているのだ。

言ってみれば、年老いた職人のようだ。「仕事のプロ」に完全に徹している姿勢だった。

そして、いざ番組を収録してみると、彼女は見事に求められた仕事の水準をこなしてみせた。非常に一緒に仕事をやりやすい人だ。プロだから、仕事はきちんと高水準でやる。でも、別に仕事にそれほどの思い入れは持っていなさそうだし、ましてやよく知らないおじさんおばさん連中に媚びる必要性はまったく感じない。そんな人なのだろうと思ったし、それで全然いいのにな、と思った。他の「女子アナ」も、だ。

■従来の「女子アナ」は3つのタイプがある

まったく違う話になるが、私は「女子アナ」という言葉は嫌いだ。だからさっきからカッコをつけて「女子アナ」と書かせてもらっている。

アナウンサーとは別物としての「女子アナ」。それは、言葉のニュアンスとして、「若くてかわいい女の子」が、自らの「かわいい外見」とか「フレッシュな若さ」とか「はつらつと頑張る初々しさ」のようなものを売り物として、主に男性の視聴者を喜ばせるために存在しているということを表している。

本来アナウンサーに性別は特に関係ないし、女性のアナウンサーであるということを示すなら、「女性アナウンサー」で良いはずだが、なぜか「女子」なのだ。

そして、かつて「女子アナ」には3つのタイプしかいなかったのではないかと私は思う。1つ目は、文字通り「女子アナ」に徹するタイプ。「男性受け」を一番に考え、自分の中の「女性性」を最大限に発揮していく。「かわいくてセクシーで、知的な面もある美人です」というタイプだ。大多数の「女子アナ」は、このタイプだと思う。

そして2つ目は、1つ目のタイプの弱点を補った「女性にも受けがいい」タイプだ。「かわいくてセクシーで、知的な面もある美人」みたいなタイプは、残念ながら女性受けは最悪である場合が多い。

■「女子アナ」を積極的に受け入れも、拒絶もしない

だから、「健康的」とか、「面白くてさばけている」とか、「ご飯が好きなのでちょっと太っちゃいました、テヘ」みたいな、女性やお年寄りにも好感を持って受け入れられる要素が加味されているのだ。日本テレビの水卜麻美アナウンサーなどは、こちらのタイプだろう。「性格が良さそうで、息子のお嫁さんにしたい良妻賢母タイプ」とでも言えばいいだろうか。

決して水卜アナの性格がどうこう言うわけではないし、水卜アナのことはまったく存じ上げないが、このタイプの「女子アナ」をやれるということは相当賢いし計算高いということだ。1つ目タイプの進化系、と言ってもいいだろうし、1つ目のタイプより上手、と言えるだろう。

3つ目は、「女子アナと呼ばれるのを拒否するタイプ」だ。「自分の外見や若さ、女性性などを売りにして仕事をするのは嫌だ」ということで、ひたすらアナウンススキルを磨いたり、専門分野を持とうと勉強したり、「仕事人」として性別を超えたところで判断されようと頑張る真面目なアナウンサーだ。

ルッキズムに反対し、フェミニストである場合も多い。元TBSの小島慶子さんなんかがこのタイプだろう。女性の一部からは非常に支持されるが、男性の人気は残念ながらそれほど高くないかもしれない。

で、この3つのタイプのいずれにも当てはまらない「ニュータイプ」が、いま登場し始めていると思う。その代表が弘中アナだ。彼女たちは、「女子アナ」であることを積極的に受け入れもしないが、拒絶もしない。そもそも、アナウンサーであること自体、たぶん別にどうでもいい。そんなことに特にこだわりはないのだ。

■偶然アナウンサーになった悲劇と飛躍

弘中アナは、Yahoo!ニュースのインタビューで、女子アナ志望ではなかったし、ミスコンにも参加せず、アナウンススクールに通ったことすらなかったと明かしている。総合職でテレビ朝日に入りたかったので、アナウンサーになる気はなかった、という。

かつての「女子アナ」たちが、アナウンサーになるためには「やれるすべてのこと」を必死でやり、命懸けで女子アナを目指したのとは正反対だと言ってもいいだろう。

先ほど、とあるニュース番組の特集コーナーで、「たぶん弘中アナ初の食レポ」のVTRの演出を担当したことがあると書いた。実はその「食レポ」はびっくりするほどヒドい出来栄えだった。食べ方、感想、インタビュー、その他。新人であることを考慮しても、こんなにヒドい食レポは、後にも先にも見たことがない。

今でも印象に深く残っているのは、「実は○○(食べ物の名前)、食べたことがないので、初めて食べるんですよ」とリポートしているのに、それを食べた直後に「これまでに食べた○○の中で一番おいしいです」とリポートしていたことだ。かなり驚いた。

きっと食レポとか興味もなければ、ちゃんと見たこともなかったのだろう。この子アナウンサーとして大丈夫なのか? と正直思ったものである。きっと「アナウンサーに興味がなかったのに、偶然なってしまった」直後ゆえの悲劇だったのだろう。

でも、いま彼女は素晴らしいまでに完璧に「女子アナ」としての役割をこなしている。間違いなくいまテレビ朝日で一番の人気アナウンサーだし、局を超えた人気ランキングでも2位になったりするほどの人気っぷりだ。

■ひとつの肩書や職業に固執しない生き様

いまテレビ朝日は彼女に人気におんぶに抱っこで、はっきり言って「便利に使い倒しすぎ」と思えるほど弘中アナをこき使っている。ドラマのレギュラーに起用したりすれば、間違いなく「勘違いしている」などのバッシングも起きるはずだ。

レビ朝日ホームページ
画像=テレビ朝日ホームページより

それでも仕事が嫌になってしまわないのはなぜか? なぜ、アナウンサーという職業にさほどのこだわりがないと思われる人物に、アナウンサーとして素晴らしい働きができるのか?

私は、その理由は「自分が有名になりたいから」ということではないかと思う。彼女たち「ニュータイプ女性アナ」が目指すところは、ちょっと古い言葉なので恐縮なのだが、「インフルエンサー」になることなのだろう。

自分が有名になれば、自分のやりたいことが自由にできる可能性が高まる。「セルフブランディング」として考えれば、「女子アナ」として仕事を頑張って人気者になり、有名になることは非常に効果的なのだ。

そもそも、彼女たちの世代の女性には、ひとつの「肩書き」なり「職業」なりにこだわる人は少なくなってきているのではないか。

■自然体の自分を受け入れてくれる人を大切にすればいい

芸人のたかまつななさんの話をこの間きいていてやはり感じたのだが、彼女は「自分がやりたいこと」を実現するために芸人としてデビューし、企業家として会社も興し、NHKに就職して制作者にもなった。そしてNHKを辞めて新しい道を歩もうとしている。

彼女にとって大切なのは、自分が有名になり、自分がやりたいことをやって社会をよくすることで、肩書きや仕事にそれほどのこだわりはないのだ。

それはたぶん、弘中アナをはじめとする「ニュータイプ女性アナ」にとっても同じことだ。そもそもテレビは斜陽なレガシーメディアだし、もはや肩書きとして大したことのない「女子アナ」という職業に拘泥して人気争いをすることにさほどの重要性や魅力は感じていないのではないか。

ただ、「女子アナ」としてきっちりと仕事をすることで、確実に知名度は上がり、インフルエンサーとしてのポテンシャルは上がっていくわけだから、「女子アナ」を一生懸命やっているわけだ。

だから、かつての「女子アナ」のように、オッサンや男どもに媚びる気はない。仕事は頑張るが、セクハラパワハラ臭い飲み会にプライベートで付き合うようなことはしない。といって、女子アナと呼ばれることを拒否する「フェミニスト的な立ち位置」を取る気もない。

「自然体の自分を受け入れてくれる人は、ファンとして大切にすればいい」だけだ。「かわいい」が理由でファンになってくれる男性を拒む必要もないし、「毒舌が面白い」が理由でファンになってくれる女性を拒む必要もないのだ。

■「ノンキャリア組」が「ニュータイプ」を支える新図式

そう考えると、「局の女子アナ」は非常に悪くないポジションだ。局にいるかぎり、かなりの高収入は保証される。有名にしてもらえて、たくさんお金がもらえるのだ。副業も今やかなり自由になってきているから、それなりに自由にやりたいことはできる。ある程度アナウンサーをやって「アナウンサーは向かないな」あるいは「飽きたな」と思ったら、異動希望を出せば、番組制作や報道取材の現場に行く道も開かれている。

人気さえ獲得しておけば、局をやめた後も、フリーアナウンサーの道もあるし、アナウンサーではない分野で知名度を生かしてそれこそインフルエンサー的に活躍していくこともできる。

これから先は、ミスコンやアナウンサースクールに頼らない「ニュータイプ」が一定程度増えてくると予想できる。「ニュータイプ」にとって、ミスコン参加歴はむしろマイナスに働く可能性もある「危険要素」だし、アナウンサースクールはそもそも意味がない。

生来のキャラクターや地頭の良さといった「実力」で彼女たちはスターダムにのし上がっていくだろう。彼女たちには、「アナウンススキル」といったものはそれほど求められない。そして、そういう「少数エリート」を、ミスコン→アナウンサースクールといった従来コースで必死に頑張り、「女子アナ」の座にたどり着いた大多数の「ノンキャリ組女子アナ」が「アナウンススキル」で支える構図になるのではないか。

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鎮目 博道(しずめ・ひろみち)
テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、多メディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro

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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)

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