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「日本政府はもっと借金しろ」そんなMMT論者のツケはだれが払うのか

プレジデントオンライン / 2020年8月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/malerapaso

日本政府は年70兆円の収入しかないのに、160兆円の予算を組んだ。差額の90兆円は借金だ。このままで大丈夫なのだろうか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史氏は「国債を発行して、政府に積極的な財政出動を求めるMMT(現代貨幣理論)が幅を利かせているが、トンデモ理論だ。円暴落・ハイパーインフレというシナリオがあり得る」という——。

■コロナ禍でお湯の熱さに気づいた「ゆでガエル」

この1カ月強の間に、日本経済新聞電子版、週刊朝日、週刊現代などが「預金封鎖・新券発行」のリスクを取り上げた。コロナ対策の結果、2020年度の「税収+税外収入」が70兆円(予算段階)なのに160兆円もの歳出で、90兆円もの借金が生じるのだから、心配する人が出てきても当然だろう。

しかしコロナ禍で「預金封鎖・新券発行」のリスクが生じたわけではない。コロナ騒動で借金の深刻さに、皆が気づいただけだ。30年間、毎年巨額の借金を積み増し、国の累積債務残高はすでに1114兆円に達した。しかし、幸い何も起きなかった。私たちの生活には影響は出ていない。

そのせいか、皆が「ゆでガエル」状態になっていたのに、コロナ禍で、湯の熱さに気がついたのだ。

7月22日の日経新聞によると「20年の一般政府の債務残高はGDP比で268%まで上昇する見込み」だそうだ。ハイパーインフレで「預金封鎖&新券発行」を行わざるを得なかった第2次世界大戦直後の数値よりひどい。

日経新聞のいうように「米国の141%、ユーロ圏の105%と比べ突出して厳しい」のだ。GDPと税収はほぼ比例して増える。したがって「対GDP比の財政赤字が世界最悪」とは、日本は「税金で借金を返す」のが世界で一番難しい、「終戦直後より難しい」ということになる。巷で預金封鎖の懸念が出てきても不思議はない。

■「当面の平穏」で蔓延する財政楽観論

2010年代初期には多少なりともあった財政への危機感が、昨今は無くなってしまったのは、2013年からの異次元緩和で危機が先送りになり、長期金利が低位安定したがゆえに「当面の平穏」が保たれたことが大きい。

さらには、「当面の平穏」時に事態が少しも改善されず、ますます悪化していったのは、「財政は大丈夫だ」との「楽観論」が世で幅を利かせたせいだと思う。そのせいでマスコミ、政治家が財政再建に努力を全くしてこなかった。この罪は大きい。

太平洋戦争末期、「日本は神国だ。負けるはずはない」の楽観論で終戦が遅れ、多くの犠牲者を出したのと同じだ。楽観論がきちんと世間で、否定されていれば、こんな「インパール作戦」(※)のようなことは起きなかったと思う。

※筆者註:インパール作戦とは、第2次世界大戦のビルマ戦線に於いて、敗戦が明確なのにもかかわらず作戦の危険性を指摘する声をかき消し、最後の最後まで作戦を実行してしまった歴史的敗北の作戦で、極めて多くの犠牲を出した。「無謀な作戦」の代名詞。

私は、この機に至っては、ハイパーインフレが起こり、その鎮静策として「日銀をつぶし新たな新中央銀行を設立する」しか解決策はないと思っている。日銀破綻は今の円紙幣が紙くずになることを意味し、国民には地獄である。

若いビジネスマンが大きな岩を丘の上に苦労して運ぼうとしている
写真=iStock.com/Nastco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nastco

■危機を助長した奇妙奇天烈なMMT(現代貨幣理論)

この見解に対し、よく「フジマキは過激だ」と非難されるが、「日銀がやっていることが余りに過激」なので当然の帰着として「過激な結論」となるのだ。それが30年近くマーケットの最前線で戦ってきた実務家フジマキの見解だ。

その過激な事態が起きても、財政楽観論者や政府・日銀はコロナ禍のせいにして責任逃れをするだろう。それでは、将来何十年かして、又、同じ間違いを起こしてしまう。これから起こるであろう過激な事態は「財政赤字が極大化し、その危機を異次元緩和で先に飛ばした結果」起こるのだ。

危機の先送りの結果、日銀がメタボ(=バランスシートの拡大。縮小して健康体に戻る手段を喪失)になり、財務内容が極めて劣化したことで起きる事実をきちんと分析、記録しておかねばならない。

コロナはきっかけにすぎない。MMT(Modern Monetary Theory・現代貨幣理論)をはじめとする奇妙奇天烈な楽観論が、この危機を助長したのである。

■MMTは「トンデモ理論」だ

将来、同じ間違いを二度と起こさせないために、楽観論がいかに「トンデモ理論」かを今、ここで論じておこう。楽観論の最たるものの一つが、MMTというおこがましい名前をつけた「ブードゥー経済学」(※)だ。

※筆者註:ブードゥー教はいけにえの儀式など、呪術的な性格からあやしげなものの代名詞。

「自国通貨建てで借金をしている限りインフレが加速しなければいつでも借金を大きくしても大丈夫」という理論(?)で、米国人のステファニー・ケルトン教授教授が提唱し、米民主党大統領候補だったサンダース上院議員や民主党左派の人たちが、経済政策のバックボーンとして据えていたものだ。

財源が無いのに大きな政府(=財政出動)を唱える人たちにとって「渡りに船」の理論だったからだ。なにせ「財源を考えないで何でもできる。バラマキをして国民の歓心を得ることができる」からだ。

しかし人気が高まったとしても奇策は奇策であり、異端は異端だ。フリーランチなど無い。この理論は「未来(M)は、もっと(M)大変(T)理論」(福本元毎日新聞論説委員)と揶揄(やゆ)されるくらいで、私に言わせれば「トンデモ理論」もいいところだ。「未来はもっと大変」とは将来、財政破綻かハイパーインフレが起こるということ。

■MMTは民間療法を妄信するのと同じ

「MMT理論なぞとんでもない」と思っているのは私だけではない。米国では主流派経済学者やFRB(連邦準備制度)などの政策当局はことごとくが反対している。

アラン・グリーンスパン(元FRB議長)、ローレンス・サマーズ(元米財務長官)、ケネス・ロゴフ(ハーバード大学教授)、オリヴィエ・ブランシャール(元IMFチーフエコノミスト)フランソワ・ビルロワドガロー〔フランス銀行(中銀)総裁〕、クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁・前IMF専務理事)等、錚々(そうそう)たる重鎮たちが「将来、制御しがたいインフレになる」と反対しているのだ。

サマーズ米元財務長官も米紙への寄稿で、「同理論は誤り」と指摘した上で、債務が一定の水準を超えれば超インフレにつながると警告したそうだ(2019年3月15日日本経済新聞夕刊「ウォール街 ラウンドアップ」)。また2019年3月13日にシカゴ大学が公表した調査結果では「米経済学者40人のうち1人もMMT賛同者はいなかった」そうでもある。

もちろん、権威ある人たちが言っているから「MMTはトンデモ理論だ」で、この論考を終わりにするつもりはない。列挙した見識ある人々の説よりも、実務経験も無く、経済論や金融論を系統立てて勉強したことも無く、ただ過去に本が売れて有名だというだけの理由で、その人の主張を妄信する日本人が多いことを危惧するのだ。科学的に検証された医学よりも民間療法を妄信するのと同じだからだ。

■国も家計も、借りた金は返さなければならない

MMTは余りに常識に反している。MMT信者は「家計と国家は違う」と言うのだろうが、国家といえども借金は返さねばならない。返さなくてよいのならば、無税国家が成立する。法人税も消費税も所得税も徴収する必要が無い。歳出は借金で賄えばよい。

世界で貧国もなくなる。国民の80%が劣悪な貧困状態にあるハイチでさえも借金を無限にしまくって財政出動すれば国が豊かになる。しかし、そんなわけはないのだ。

ハイチにそれができないのは借金したくても貸し手がいないからだ。借金は貸し手がいなければ成立しない。今現在貸してくれる人がいる日本のような国でさえも、返済能力に疑義が生じれば、貸し手は蒸発する。投資資金が返ってこなくなるのだから当然だ。借金総額が多くなれば返済不能リスクは当然大きくなる。「相手が国であろう」と変わりはない。

■すでに国は「自転車操業」を続けている

国の借金である国債にも当然満期がある。10年国債であれば、10年後に借金を返さねばならない。今の日本政府は単年度赤字だからその返済原資がない。したがって国債の満期が来れば返済原資を新たに借りねばならない。自転車操業だ。

令和2年第2次補正後の国債発行額(財投債と復興債を含む)は253兆円というとんでもない額だ。コロナ対策費が急増して今年の赤字を賄うために90兆1000億円もの新規国債を発行する。その他に今年度中に満期がくる108兆円という返済原資を借換債発行で調達しなければならない。

誰かがこの253兆円分の国債を買ってくれなければ、今年度に満期がくる借金が返済できずに財政破綻となる。自転車操業の資金繰りは民間であれ、国であれ、恐怖である。

今の日本の財政を家計に例えれば、年収700万円の収入の家庭が今年は1600万円を支出する。今年末に借金額は年1億2000万円に達する。満期がくる借金の返済分を含めて、今年、2530万円の調達が必要だが、このような家計に融資をしてくれる銀行なぞ、まず無い。自己破綻だ。

しかし国相手なら、銀行は(今のところ)貸し続けて(=国債を新たに購入)くれている。国には家計には無い徴税権があるからだ。いざと言えば、大増税をして、それで借金を返してくれると思っているからだ。だから、253兆円はなんとか消化できている。

■MMTは「禁じ手中の禁じ手」そのもの

と言いたいところだが、最近の邦銀は保有国債残高を急速に減らしている。(=融資を引き揚げている)国への融資を回収し始めているということだ。

少なくとも、返済見込み0%では国に融資をする気はない。借金額が過大になってくれば、徴税で借金を返してくれるか、だんだん心配になってくるから当然だ。たしかに銀行は入札で国債を購入してはいるが、それは、すぐに日銀に転売し、鞘(さや)を稼ぐためである。日銀トレードと言う。

そこで、借金総額が膨大になった国が253兆円もの国債を消化するためには、ある意味、国と運命共同体である中央銀行の存在が不可欠になる。満期国債の償還原資と新たな借金を確保し、財政破綻を回避するためだ。

すなわちMMT理論では、借金を膨らませている段階で、国債を買い取る中央銀行の存在が、必須条件となっている。しかし、これは過去ハイパーインフレを起こした結果、世界中で禁止されている「禁じ手中の禁じ手」である財政ファイナンス(政府の赤字を中央銀行が紙幣を刷ることによってファイナンスする)そのものだ。

MMT理論は、「財政ファイナンス禁止という先人の知恵への挑戦」なのだ。「財政ファイナンス」とは、各国がどこかで集まって「禁止しましょう」と相談して作り上げた禁止条項ではない。各国が、先人の知恵を生かしておのおのが作り上げた禁止条項なのだ。

MMTは世界中の先人たちの知恵を否定することに成り立っていることになる。MMTが正当性を証明するためには、財政ファイナンスを行っても、何ら問題が生じないことを証明しなくてはならない。

■「日銀頼みの国の大借金」円暴落の危険性

黒田晴彦日銀総裁や麻生太郎財務大臣は、私が国会議員時代に質問をした際、「日銀が今やっていることはMMTではない」と否定されている(私は詭弁(きべん)だと思う)。彼らは「日本をMMTの実験場にしてはならない」とも答弁した。しかし、提唱者のケルトン教授自身が「MMTは日本で実験中」と言っている。

その日銀は、世界で超メタボとなり、健康体に戻れるチャンスは極めて低い。また(日銀にとっての)ジャンクフードの食べ過ぎで、いつ債務超過に陥ってもおかしくない。字数の関係で、その可能性の高さは、今日は論じないが、私は日銀が純資産でいられる状態は「風前の灯」だと思っている。

日銀が債務超過になったとき、その発行する通貨の価値が保たれるのだろうか? 債務超過の結果、円が暴落すればハイパーインフレ一直線となる。やはりMMTが前提としている「財政ファイナンス」は先人の教えの通り「禁じ手中の禁じ手」だったことになる。そしてMMT理論が「トンデモ理論だった」ことも証明される。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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