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安倍政権と朝日新聞、「国民の不安」を煽っているのはどちらなのか

プレジデントオンライン / 2020年8月3日 18時15分

官邸に入る安倍晋三首相(手前)=2020年8月3日、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

■「緊急事態宣言のようなブレーキをかけたほうがいい」

新型コロナウイルス感染者ゼロだった岩手県で7月29日、初めて感染者が確認された。PCR検査で、盛岡市の40代男性と宮古市の30代男性の2人から陽性反応が出た。

岩手県は、鳥取県で4月10日に感染者が確認されて以降、3カ月半以上にわたって全国で唯一、感染者が確認されなかった。これまで達増(たっそ)拓也(たくや)知事は「感染者第1号になっても県はとがめません」と呼びかけていたが、31日には定例記者会見でこう述べている。

「3月、4月より深刻な状況。第2波とも呼べる流行の大きい波が来ている。政府には緊急事態宣言のようなブレーキをかけたほうがいいと注文した」

「第1号をとがめない」という意見には賛成だ。だが、緊急事態宣言を求めるのはいかがなものか。たしかに全国的に感染者が増加し、新聞やテレビは「連日の1000人越え」と伝えている。しかし浮足立ってはならない。トップである知事が落ち着いていないと、県民の不安は募り、事態が悪化するばかりである。

■感染力はそれなりに強く、だれもが感染する可能性がある

岩手県によると、盛岡市の40歳代男性は7月22日~26日にかけ、関東地方のキャンプ場に県外の友人3人と滞在した。その際、友人と車やテントに宿泊した。友人1人が28日に陽性となり、男性も県内でPCR検査を受けたところ、感染していることが分かった。のどに痛みがあり、せきも出ていた。

一方、宮古市の30歳代男性は27日に「地域外来・検査センター」を受診。その後、PCR検査を受け、29日に陽性が判明した。

新型コロナウイルスは今年1月に中国湖北省武漢(うーはん)市でオーバーシュート(感染爆発)を起こした後、WHO(世界保健機関)が3月11日にパンデミック(世界的流行)との認識を示し、現在もウイルスは世界中で感染の拡大を続けている。

振り返ってみると、新型コロナウイルスはコウモリなどの動物から人の世界に入ってきて1年もたっていない。まだまだ、人にとって経験したことのない未知のウイルスであり、私たちの大半は「獲得免疫」がない。従って感染力はそれなりに強く、だれもが感染する可能性はある。

そこで言いたい。岩手県で感染者が確認されたからといって慌てる必要はまったくない。これまで岩手県で感染者がゼロだったのではなく、きめ細かな疫学調査と検査の体制が整っていなかったために、感染が十分確認できなかったと考えた方がいい。

■マスクを着けていないと、外出もできない状況になった

WHOや厚生労働省は20年ほど前から、H5N1型の鳥インフルエンザウイルスが変異して毒性の強い新型インフルエンザが発生すると、「世界で7400万人、日本国内で17万~64万人が感染死する」と警告してきた。しかし、日本は危機感が鈍く、通勤ラッシュの満員電車の中でマスクも着けずに平気で咳やくしゃみをする人が多かった。

ところが、である。いまは新型コロナウイルスが感染拡大した結果、マスクを着けていないと、外出もできない。外も歩けない。状況が大きく変わり、振り子が反対方向に大きく振れている。

以前にも書いたが、1万分の1ミリという極小のウイルスは、野外では風に吹かれてあっと言う間に拡散してしまい、感染など成立しない。緊急事態宣言中に神奈川や千葉の県知事が「海に来ないでほしい」などと呼びかけていたが、海岸は陸風海風と常に強い風が吹いていてウイルスはすぐに消える。野外でのマスクは実におかしな話だ。熱中症の危険もある。

要は過剰反応なのである。感染に対して神経質になれば、オキシトシンなどのホルモンの分泌を妨げ、私たちが本来持っている「自然免疫」を弱めてしまう危険性もある。

新型コロナウイルスのような新興感染症に対しては、感染の拡大を食い止めて重症者や感染死をなくす努力は必要不可欠である。だが、ニュースが毎日伝える感染者の増減に一喜一憂していたのでは、精神的にも肉体的にももたない。

■読者の不安を刺激しながら、政府批判につなげたいという思惑か

8月2日付の朝日新聞の社説は、「コロナ全国拡大 危機回避へ具体策を」との見出しで、「新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない」と書き出す。さらにこう指摘する。

「東京から地方へ。若者から中高年へ。接待を伴う飲食から一般の会食や職場、家庭へ――。感染経路が不明の例も増え、事態は新たな局面に入ったと見るのが自然ではないか」

書き方は実にうまい。しかし、立ち止まって考えたい。「事態は新たな局面に入った」と指摘するが、前述したように新型コロナウイルスは私たちにとって遭遇経験の少ないウイルスで、大半の人に獲得免疫がない。だから緊急事態宣言などで感染拡大を抑えても、感染は必ず再び拡大する。欧米の感染再拡大を見れば、よく分かるはずだ。

一般的に新興感染症は6割の国民に獲得免疫ができてはじめて終息する。これが集団免疫の考え方である。この朝日社説を執筆した論説委員も分かってはいるはずだが、読者の不安を刺激しながら、政府批判につなげたいという思惑がうかがえる。

■政府を批判しつつ、自治体はかばう巧みな書き方だが…

そう考えて続きを読むと、案の定である。朝日社説お得意の安倍政権批判が待ち構えている。

朝日社説は「この間政府は、検査を幅広く行った結果が数字を押し上げているが、医療体制は逼迫していないと説明してきた。だが人工呼吸器を必要とする重症者は7月半ばから増加に転じた。病床の準備には時間がかかるうえ、病院経営のさらなる圧迫につながることなどから、専門家や医療現場からは政府の認識の甘さを指摘する声が相次ぐ」と指摘する。

都道府県などについては「多くの自治体は対応に追われる。沖縄県は独自の緊急事態宣言を出し、県民に不要不急の外出や県をまたぐ往来の自粛を求めた。東京都は酒類を提供する飲食店などに営業時間の短縮を、大阪府も地域・業種を絞って休業や時短を要請する」と書いたうえで、こう主張する。

「地域における流行や医療の状況を踏まえ、試行錯誤を重ねながら最適解を見いだすことが大切だ。今年春から初夏にかけての第1波の時と同じく、あるいはそれ以上に、知事を始めとする自治体の力量が問われる。いわゆる3密の回避など、感染リスクを避ける行動を一人ひとりが心がけ、実践していく大切さは言うまでもない」

政府を批判し、一方で自治体をかばう。ここも実に巧みである。朝日社説らしさでもあるが、どうもこのあたりが沙鴎一歩には鼻につく。

■私たち「国民の不安」を煽っているのはどちらか

朝日社説は書く。

「一方、政府の動きはいかにももどかしく、頼りない」
「緊急事態宣言の解除後、検査や保健所の態勢強化にどこまで本気で取り組んだのか。今後どんな戦略を描いているのか。強行した『Go To事業』をどうするのか。自治体からは休業要請などとセットで出す協力金について、国の補助を求める声があがる。どう応じるのか」

確かに「Go Toキャンペーン」は拙速だったところがある。しかし、経済・社会活動の振興と防疫の両立はきわめて難しい。一方的な批判ではなく、建設的な対案が必要だろう。

続けて朝日社説は「こうした疑問にしっかり向き合わず、説明から逃げる姿勢が、社会の不安と不信を深めていることに気づくべきだ」と主張する。しかし私たち国民の不安を煽っているのはどちらだろうか。政府批判が前提となっていては、せっかくの社説も読み応えがない。

■PCR検査と抗原検査をうまく組み合わせて実施すべきだ

次にPCR検査について書いた読売新聞の社説(8月1日付)を読んでみよう。見出しは「PCR検査 拡充が感染抑止につながる」で、書き出しは「新型コロナウイルスの感染者が1日1000人を超える水準で推移している。これ以上の広がりを抑えるためPCR検査の拡充を急ぐべきだ」とある。そしてこう主張する。

「政府が感染状況を把握し、対策を立てるのにも重要である」
「感染が流行し始めた頃は、検査が追いつかず、国民の間に不安が広がった。現在、検査能力は1日約3万5000件まで増えたが、まだ十分とは言えまい」
「できる限り検査体制を強化し、必要な人がスムーズに検査を受けられるようにしてほしい」

どうやら読売社説はPCR検査の拡充に賛成のようだ。実際のところ、日本ではインフルエンザの簡易迅速診断キットがかなり普及したために、PCR検査の拡充に力を入れてこなかった。PCR検査の費用の高さも拡充の障害となった。

簡易迅速診断キットはウイルスに反応するタンパク質を調べる抗原検査で、被検者が結果を確認できるまで数日かかるPCR検査とは違い、30分ほどで感染の有無が判別できる。ただし、偽陽性や偽陰性が出る割合が高い。

PCR検査も抗原検査もそれぞれ利点と欠点がある。この2つの検査をうまく組み合せることが肝要だと、沙鴎一歩は考えている。PCR検査だけに頼る感染予防対策はかなり偏っている。被検者が検査結果を正しく捉えることができないと、不安を増大させ、混乱を招いてしまう。

■ビル・ゲイツ氏は「PCR検査は全くの無駄だ」と明言

読売社説もPCRの問題点を「もちろん機器や要員には限りがあり、希望する人全員を対象にすることは現実的には難しい」と指摘したうえで、こう書く。

「そのため、政府は、PCRより素早く結果を得られる簡便な抗原検査を組み合わせるなど、効果的な検査戦略を練るべきだ」

「簡易な抗原検査との組み合わせ」というのは沙鴎一歩の主張と同じだが、見出しからすると読売社説の主張の根底にはPCR検査の拡充があるのではないか。つまり拡充によって感染の状況を把握できれば、結果的に国民の不安が解消できるという論理である。

最近、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏がPCR検査についてCNNテレビなど複数のメディアのインタビューでこう答えていた。

「判明までに平均4.27日と時間がかかり過ぎる。感染者がこの間に感染を広げる恐れがある。PCR検査は全くの無駄だ」

判明までの時間だけでなく、PCR検査を受けた直後に感染する可能性もある。ビル・ゲイツ氏のように「無駄」とまでは言わないが、結果が陰性でも安心には結びつかない。そのことを周知していく必要がある。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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