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トランプに会った人が、例外なく彼のファンになってしまう理由

プレジデントオンライン / 2020年10月29日 15時15分

写真=AFP/時事通信フォト

※本稿は、横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■だれもが「謙虚によく聞いてくれる」と口を揃える

時に期待値が低かったばかりに、その後、評価を上げる人がいる。どん底からスタートしたために、それ以上、評価が下がらなかった、というパターンだ。

トランプは異常に人当たりがいい。トランプにブリーフィングを行った人たちは、意外にも「謙虚によく聞いてくれる」と口を揃える。「独善的な人間である」というイメージが染みついているので、そのギャップに驚く。その効果は大きい。

2020年6月に発売されたジョン・ボルトン元国家安全保障問題担当大統領補佐官の著書にも、「トランプはホワイトハウスに入る前は非常によく話を聞いてくれ、イランに対する考え方の理解も同じであった」と第一印象が綴られている。

私は2000年6月ごろにニューヨークのレストランでトランプを紹介してもらったことがある。初めてトランプが大統領選予備選に立候補した年だ。このときは共和党でなく、少数政党のアメリカ改革党の予備選に名乗りをあげていた。

出会ったのは、パワーランチ(昼食を取りながらミーティングや会議を行うこと)で有名なフォーシーズンというレストランだった。入り口を通ると真っ赤な絨毯が目にとまる。正面にはマホガニーのクローク台があり、左にある階段もマホガニーだ。

2階に上がるとバーがある。左に回るとちょっとした回廊で右側が全面窓で左にはシャガールの巨大な絵が飾ってある。その奥には真ん中に噴水があり、噴水の周りにテーブルがある。水音が適度に雑音をかき消す設計になっているため、隣の席の声は届かない。クリントン夫妻もお気に入りの、ニューヨークの力を象徴するようなレストランである。

■自分の価値を知り、凝った演出を厭わない

私は、当時のボスで、世論調査の分野で著名なディック・モリスと妻アイリーンとランチをとっていた。そこに、「ハーイ、ディック」とやってきたのがトランプだった。ディックは「友達のクミだ」と紹介してくれたので、立ち上がって挨拶して握手をした。

そのときは、トランプにとって2番目の妻マーラ・メイプルズと一緒だった。彼女は私が階段を上がったときに、バーでシャンパンを飲んでいた。長身で長いブロンドの髪。そのうえ、脚の長さを際立たせるようなショートパンツとブーツ姿で圧倒的に人目を引いていた。私も思わず見とれてしまった。

モリスとトランプは同じニューヨーク出身で同じ歳。そしてモリスの父親がトランプの父親の弁護士という間柄だ。あとで聞くと、2人はトイレですでに顔を合わせていた。モリスが「お客さんをびっくりさせたいから、テーブルに来てくれ」と頼んだら、気持ちよく応じてくれたのだという。自分の価値を知ったうえで、凝った演出を厭わない。テレビ越しには不遜に見えても、会えば真逆というタイプは好感度が高まりやすい。

■会えば人を虜にするカリスマ性

当時、トランプは「You're fired!(お前はクビだ!)」の決めゼリフで有名なテレビ番組を持っており、私は有名なビジネスマンであり司会者でもある人物と会えたことが純粋に嬉しかった。50代のトランプは体が大きく、その身のこなしにはエネルギーが満ち溢れていた。トランプが動くとお客さんたちはみんな彼を目で追っていた。

48年間、バイデンが上院議員をしている間、トランプは航空会社を買収しては倒産させ、カジノをつくっても倒産させ、大学を設立して訴えられ、トランプタワーを建てまくった。自分がプレーしたいゴルフ場を造り、泊まりたいホテルとレストランを造る。そしてテレビで「お前はクビだ!」と叫んで人気を博していた。

結婚を3回しているが、2人は外国人でモデル、1人はアメリカ人の司会と女優をこなすタレントだ。子供は5人。孫にも恵まれた。3回目の大統領選挙で当選を果たしたが、以前は民主党支持者だったこともある。やりたい放題であるが、失敗と成功から成功のコツを学んでいる。

会えば人を虜にする。そのカリスマ性は今回の大統領選挙を見る限り、まったく色あせていない。

レッドカーペットの魅力
写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen

■いくら叩かれても支持率を下げない

トランプの暴露本は売れに売れるが、選挙にあまり影響を与えないと言われ続けている。トランプ支持を隠そうとしない「トランピアン」の支持は底堅い。むしろ、暴露本はトランプの注目度を高めて隠れトランプを増やす。

トランプ政権で大統領補佐官を務めたボルトンの回顧録は彼の体験からなる。姪のメアリー・トランプが書いた『世界で最も危険な男』はトランプの姉マリアンとの会話に基づく。その会話のテープもある。

アメリカ政治に影響を与えてきたジャーナリストのボブ・ウッドワードは緻密な取材から2018年に『炎と怒り』を出版し、最近ではトランプへのインタビューをもとに『Rage(怒り)』を出版した。いずれもファーストハンド(一次情報者)か、それに相当するほどの情報源をもとに書かれた本である。

メアリーの著書では、姉マリアンが「トランプのペンシルベニア大学への編入は替え玉受験」と語っていたという。ウッドワードの最新作では、「トランプは初期のころからコロナは危険なウイルスであることを知っていた」と記されている。いずれも叩かれてはいるが、トランプの支持率を下げる決定打にはなっていない。いわゆる、「トランプの人間性とはそういうものだ」と思っている人が多いという証しだろう。

■アンチが増えるほどトランプは力を発揮する

内部告発者も後を絶たない。

2019年にはトランプがウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談した際に、軍事援助の見返りに翌年の大統領選有力候補と目されていたバイデンとその息子に関する調査を依頼したという「ウクライナ疑惑」が大きな話題を呼んだ。下院の弾劾裁判まで通過したこの疑惑では、複数の内部告発者がメディアにリークしていた。民主党が支配する下院では弾劾決議は可決されたが、共和党が支配する上院では可決できずに終わってしまった。

ほかにも、共和党支持者が反トランプを訴える運動がある。「リンカーン・プロジェクト」や「Defending Democracy Together(ともに民主主義を守ろう)」などが代表例だ。「リンカーン・プロジェクト」は、共和党の大物のスタッフがつくりあげた運動だ。父ブッシュ、子ブッシュ、ジョン・マケイン上院議員、アーノルド・シュワルツネッガーらが名を連ね、なかでも2018年に亡くなったマケインと、その妻と娘は反トランプの急先鋒として知られた。

横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)
横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)

ブッシュ親子の政権で国家安全保障に携わった元高官たちは「バイデンを支持する」との宣言を出した。そこには、知日派として知られるリチャード・アーミテージ元国務副長官やマイケル・グリーン戦略国際問題研究所(CSIS)副理事長の名前もある。チャック・ヘーゲル元国防長官や元大使の肩書きを持つ人物も名を連ねる。

取りまとめをしているのは、子ブッシュ時代のイラク戦争の理論武装を行ったビル・クリステルだ。クリステルが運営する「Defending Democracy Together」のサイトで、その主張を知ることができる。

共和党の元大統領、元候補者という中枢中の中枢がトランプに反対の声をあげている。彼らにとっては、今まで築き上げてきたアメリカを、トランプに破壊されているように思えるのだ。

だが、アンチが増えるほどトランプは力を発揮する。残念なことに今のアメリカでは、共和党内のトランプ支持は90%前後だ。共和党にも隠れトランプはいるのである。

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横江 公美(よこえ・くみ)
政治アナリスト
1965年、愛知県名古屋市生まれ。明治大学卒業後に松下政経塾に入塾(15期生)。95年にプリンストン大学で、96年にはジョージ・ワシントン大学で客員研究員を務めた後、2004年に太平洋評議会(Pacific21)代表として政策アナリストの活動を開始。11~14年まではアメリカの大手保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」でアジア人初の上級研究員として活躍。16年から東洋大学グローバル・イノベーション学科研究センターで客員研究員を務め、17年からはグローバル・イノベーション学科教授を務める。アメリカ政治に関する著書多数。現在、民放ワイドショーでもコメンテーターとして活躍中。

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(政治アナリスト 横江 公美)

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