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欧州最高の知性が警告「コロナ危機は今後10年間続くかもしれない」

プレジデントオンライン / 2020年11月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/otosipsak

新型コロナウイルスはこれからの世界経済にどんな影響を及ぼすのか。「欧州最高の知性」と称されるジャック・アタリ氏は「過去の経済危機とは性質が全く異なる。少なくとも今後10年間、われわれはこの危機の後始末に追われることになるかもしれない」という――。

※本稿は、ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■過去の経済危機とは性質がまったく異なる

新型コロナウイルス感染症による医療面の津波を押しとどめるための解決策は、われわれが知る通り、ワクチンと治療薬の開発だ。その間、大規模な都市封鎖を避けるには、マスクの着用、検査の実施、感染経路の追跡調査、感染が疑われる者の隔離を行うことになる。

一方、経済危機という津波をどうやって押しとどめればよいのかは、よくわかっていない。というのは、これは人類が自己決定により招いた危機であり、過去の経済危機とは性質がまったく異なるからだ。つまり、これは金融経済ではなく実体経済の危機なのだ。その大きさは計り知れない。いまだにほとんどの人がこの危機のあまりの深刻さと多面性について把握できていない。

■奈落の底に落ちる前の、ほんのひと時の安息でしかない

今回、自分たちの想像を絶する未知の出来事に遭遇した政治指導者たちは、最初は概して現実を認めようとせず、その後も事態の深刻さを否定した。そして、一切の物事を停止し、危機が自然に過ぎ去るのを待ちながら傍観した後、元の状況に戻さなくてはと狼狽しているのだ。

このような態度では危機を乗り越えることはできないだろう。この間、危機に見合った抜本的な改革を準備できないのなら、それは現実を一時停止させているに過ぎない。ようするに、それは奈落の底に落ちる前の、ほんのひと時の安息でしかない。

事実関係のメカニズム、そして事実を客観的に示すあらゆるデータを把握することは骨の折れる作業だと思われるかもしれない。だが、こうした作業は、われわれの元に訪れつつある課題の驚くべき大きさを理解するうえで欠かせない。

少なくとも今後10年間、われわれはこの危機の後始末に追われることになるかもしれない。その代償を知っておくために、しばし説明にお付き合いいただきたい。

■中国のGDPは6.8%減になっていた

第一に、2020年1月初旬どころか2月過ぎになっても、多くの先進国の政治指導者たちは大型パンデミックの存在を信じようとしなかった。これは季節性インフルエンザのようなものに過ぎないと軽視した彼らは、対策のために経済活動を減速させることなど考えてもいなかった。

すべては1月末、中国で始まった。武漢市(人口1100万人)と黄岡市(人口750万人)では、自動車の製造会社とその下請け企業、半導体の工場、化学工業や金属精錬工業の企業は、春節の休暇を終えて操業を再開するはずだったが、なぜか閉鎖されたままだった。武漢市と黄岡市だけでなく多くの都市で、一言の説明もなく春節の休暇が延長された。

世界のノートパソコンの4分の1を生産する重慶市では、休暇が2月9日まで延長された。浙江省、江蘇省、広東省〔ともに太平洋湾岸の工業地域〕でも、すべての工場の操業が2月9日まで停止された。しかし、「必要不可欠」と見なされる生産活動と、一部の戦略的企業の操業は維持された。

たとえば、広東省のほとんどの工場は閉鎖された一方で、ファーウェイ(華為技術)社の広東省東莞市にある工場群は操業し続けた。2月、失業率は過去最悪の6.2%にまで上昇したが、心配する者は誰もいなかった。3月、中国の工場は操業を再開した。2月末、中国の第1四半期のGDPは前年同時期比6.8%減になっていたが、誰もそのことに注意を払っていなかった。

人けが絶えた中国湖北省武漢市の駅に立つ旅行者(中国・武漢)=2020年1月23日
写真=AFP/時事通信フォト
人けが絶えた中国湖北省武漢市の駅に立つ旅行者(中国・武漢)=2020年1月23日 - 写真=AFP/時事通信フォト

■「中国の地域的な問題」と捉えられていた

世界各地で、人々はこれらのことをとるに足らない地域的な問題だと捉え、中国はこれらの問題をあっという間に解決するはずだから、世界経済の見通しには何の変化もないだろうと考えていた。

しかしながら、西側諸国の一部の識者は、中国の一部の地域がたとえ一時的にせよ、工業生産を停止したことは、それ自体、経済的にきわめて深刻な事態だと受け止めた。というのは、(生産停止による)供給と(中国人の所得減による)需要が同時に危機に陥ったからだ。

彼らの心配に耳を傾ける者はほとんど誰もいなかった。当時の私の発言も聞き流された。彼らは次のように付言した。「パンデミックはおそらく非常に深刻であり、中国がこれを早期に抑え込むことはできないだろう。韓国と台湾がこのパンデミックにいかに備えているかに目を向けるべきだ」。

■多くの国が「隔離戦略」を採った

パンデミックにはるかにうまく対応した韓国、台湾、ベトナムなどの国・地域では、工場は閉鎖されず、生産活動はあまり鈍化しなかった。鈍化したとすれば、外需が減り、自国の生産活動に必要な物資の供給が外国から途絶えたためだ。

他方、中国、ヨーロッパ、アメリカ、そしてその後に世界中の多くの国が採用した隔離戦略では、労働者ならびに消費者の密集が禁止された。したがって、これらの国では社会の機能を維持するのに必須の立場の人々しか就労できなかった。

それらの職業部門を列挙すると、医療、軍、警察、警備業、道路管理業、運送業、食料品販売業、農業、食肉処理業、食品加工業、漁業、エネルギー産業、衛生管理業、水事業、テレコミュニケーション事業、IT事業、宅配業、そして、最低限の公共交通機関と公共事業だ(職人のように、少人数で働く職業も就労を続けられたかもしれない)。

これらの職業部門では、国によって就業者の30%から40%ほどが働いている。だが、社会は彼らの働きに対して充分な感謝の念を示していない。

先述以外の業種の工場、作業場、工事現場、商店は閉鎖された。学校、大学、レストラン、美容室、バー、ホテル、画廊、映画館、劇場、コンサート会場、スタジアム、会議場、航空機、クルーズ船、スポーツクラブも閉鎖された。

これらの業界で直接的および間接的に働く人々は失業を強いられる。ガソリンスタンドのように顧客の足が遠のくことによって閉鎖に追い込まれる場合もある。また、一部の書店のように、営業を続けられる業種でありながら閉店を強いられる場合もある。

■すでに「大卒者の30%」がテレワークだったアメリカ

今回の危機では、遠隔作業が可能な人々には世界各地でテレワークが導入された。テレワークで就労可能な人口は一般に考えられているよりも多かった。たとえば、官民の管理職、非営利団体の職員、国会議員と地方議員、そして大学教員の大半もテレワークが可能だ。

ビデオ通話
写真=iStock.com/nensuria
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nensuria

かなり以前から大勢の人々がテレワークで働いているアメリカでは、大卒者の30%はしばしば自宅勤務を行う。デンマークをはじめとする北欧諸国の就業者の場合、週2日はテレワークで働くことが多い。彼らの勤務評定は、出勤日数や労働時間数よりも、むしろ成果に基づいて行われる。このような雇用体系により、北欧諸国の女性の就業率は他のどの国よりも格段に高い。

すでにテレワークが導入されているメディアやコールセンターなどで働く人々は、テレワークによる就労をさらに増やすことができる。ヴァーチャルエンターテインメントの分野で働く人々は、新たなコンテンツの制作作業を除けば、すでにテレワークを始めており、今後も増えていくだろう。

■「高齢者が生き延びるために若者を働かせない社会」だ

国によって異なるが、テレワークが可能なのは就業者全体の20%から40%だろう。裕福な国ほど、この割合は高くなる。よって、テレワーク就業率の最も高い国がアメリカなのは驚きではない。

ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)
ジャック・アタリ著、林昌宏・坪子理美訳『命の経済 パンデミック後、新しい世界が始まる』(プレジデント社)

当然ながら、テレワーク就業の可否は社会階層と強い相関関係にある。

テレワークの推進は、一部の企業に大きな成功をもたらした。たとえば、ウェブ会議サービスを提供するカリフォルニアの企業、Zoomビデオコミュニケーションズ社だ。2019年12月から2020年4月にかけて、この会社が提供するサービスの利用者は30倍に急増した。

フランスでは都市封鎖の期間中、就業者の25%は職場へほぼ毎日出勤し、4%はテレワークと出勤を併用し、20%はテレワークで終日働き、45%は就業を完全に停止した。就業を停止した者は、部分的失業制度〔休業期間中、従業員は賃金の一定割合を受給できる〕によって一時的に保護されるが、この制度を実際に利用できたのは就業者の6%だった。本書の執筆時、テレワークに従事している人々の41%はイル=ド=フランス地域圏〔パリを中心とする地域圏〕に暮らし、ノルマンディー地域圏〔フランス北西部〕にいるのはわずか11%だ。

ようするに、このような対応は、密集経済を停止させ、孤立経済を生み出す。これは多くの者が自発的に独房で暮らすような社会であり、引退した高齢者が生き延びるために若者を働かせないようにする社会だ。

孤独に埋没して衰退するこうした社会が、経済、文化、政治、エコロジーに、現在そして将来にわたっておよぼす影響は計り知れない。

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ジャック・アタリ(Jacques Attali)
経済学者
1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問、91年欧州復興開発銀行の初代総裁などの、要職を歴任。政治・経済・文化に精通することから、ソ連の崩壊、金融危機の勃発やテロの脅威などを予測し、2016年の米大統領選挙におけるトランプの勝利など的中させた。林昌宏氏の翻訳で、「2030年ジャック・アタリの未来予測』(小社刊)、『新世界秩序』『21世紀の歴史』、『金融危機後の世界』、『国家債務危機一ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?」、『危機とサバイバルー21世紀を生き抜くための(7つの原則)』(いずれも作品社)、『アタリの文明論講義:未来は予測できるか」(筑摩書房)など、著書は多数ある。

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(経済学者 ジャック・アタリ)

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