なぜ西松屋はいつもガラガラなのに、がっちり儲かっているのか
プレジデントオンライン / 2020年11月10日 11時15分
■「郊外、1000坪、車を直付けできる店舗」を目指している
——コロナ危機にあっても業績を伸ばす一方で、「ガラガラ店舗」が話題です。これは狙い通りですか。
【常務執行役員店舗運営本部長・坂本和德氏(以下、坂本)】お客さまにストレスを感じさせることなく、気持ちよくお買い物をしていただきたい。このことを第一に考え店舗運営を行っています。
西松屋が考える「買い物しやすい店舗」を具体的に言うと、郊外に1000坪ほどの広い立地で駐車場付きの独立店舗を構え、入り口の前に車を直付けできるような外観を持った店です。
これによって小さいお子さま連れで身動きが取りづらいお客さまも店内に入りやすく、短時間で移動できる動線が確保できます。駐車場もできるだけ一台あたりのスペースを広く取ることで、駐車が苦手な方でもストレスを感じさせないようなレイアウトにしています。
郊外に出店が多いのは、人が密集している都市部は家賃も高く出店コストがかさむため、それを回避した結果です。交通の便が良く、ニューファミリーが多い郊外に独立した店舗を広く構える。そうすることで低価格で商品を提供でき、お客さまにも気持ちよくショッピングしていただけるのではないかと考えています。
■従業員は2名が基本、作業内容は極限まで簡素化
——店内ではお店の方もほとんど見かけない気がするのですが……?
【坂本】同時間帯に従業員2名というのが基本体制です。働く側のストレスが少なくなるようなオペレーションを心がけており、基本的には、お客さまにお声がけをするような接客はしません。新人の方でもすぐに熟練のパートさんと同じレベルの仕事ができるように、作業内容を極限まで簡素化しているため、心身に大きな負荷がかかるような仕事は少ないと思います。
また、洋品の商品陳列にも独自の工夫があり、全ての衣料品がハンガー陳列です。お客さまはいちいち広げる手間や畳む手間がいりませんし、サイズや柄が確認しやすい。こういった点でもストレスのない買い物ができる工夫をしています。
これは、店員にとっても畳み直す手間がなくなるので、作業効率のアップにつながっています。
1000店舗あると比較的、家の近所に店舗があるので、通勤に関してもストレスがありません。自転車通勤されている方も多いようですね。
■西松屋は「社会インフラ」だと思っている
——「赤ちゃん本舗」が118店舗(10月時点)に対し、西松屋は1006店舗(10月20日時点)と約10倍の店舗数です。ネットショッピングの時代に、リアル店舗を増やし続ける狙いはなんですか。
【坂本】妊婦の方から生まれたての赤ちゃん、そして小学校高学年まで、お子さまとその家族を支えるすべての商品を低価格で、1店舗で買いそろえることができる。いわゆるワンストップショッピングを目指しているわけですが、そういった一小売業という枠を超え、西松屋は子育て世帯を支援する“社会インフラ”としての使命を持っていると考えています。そういった意味でも、店舗数は増やし続けていきたいですね。
われわれは1店舗あたりの商圏人口を10万人と位置づけています。
なぜそんな少ない商圏人口で店舗が出せるかというと、10万人のうち、リピーターとなって何度もご来店いただけるお客さまが多いからです。だからこそ、10万人商圏で店舗が維持できるんですね。
■「いつでも低価格」が信頼につながる
——顧客が何度もリピートする最大の理由はなんだと思いますか。
【坂本】商品面でいうと、「エブリディ・セイム・ロー・プライス(ESLP)」が一番です。季節商品が晩期になった際にはクリアランスセールはしますが、基本的にいつでも低価格であることが、西松屋への信頼につながります。
半袖Tシャツは1枚399円。それがお客さまの頭にインプットされている価格なのに、次いらしたときに499円になっていたら、「あのときはセールだったからか」と思われてしまう。一度399円と決めたら、ずっと399円を維持する。低価格の信頼性をお客さんに持っていただくことが大切だと思っています。
これは私の予想の話になりますが、ほとんどのお客さまはご来店いただく際、あらかじめ買うものを決めた上で西松屋にお越しいただくと思うんです。なおかつ、子育て世代は時間がありませんよね。ですから、お客さまにはできるだけ短い滞在時間で気持ちよくお買い物をしていただけるよう、商品の選び方や陳列、動線というものを突き詰めて考えているんです。
■サイズは豊富にそろえ、柄や色はシンプルに徹する
——商品のセレクトも厳選されているということですが、そのことで取り扱う商品の幅を狭めてしまうことにはなりませんか?
【坂本】たとえばオムツやミルク、お子さんの冬物のアウターといった、「品種」はできるだけ増やしていきたいですし、それはお客さまに対して多くの商品を提供するという考え方になると思います。
ただ、品種の中に似たような商品をたくさん増やしていく、ということは避けようと思っています。たとえばアウターなら、デザインがあまりに豊富にあると選ぶのに迷ってしまいますよね。サイズの展開はしっかりとしますが、柄や色、形といった部分はできるだけシンプルにそろえていこうと考えています。
少し話が逸れますが、私は電機メーカーから西松屋に転職して驚いたことがあります。というのもそれまでいた日本の電機業界というのは、付加価値をたくさんつけることで製品の単価を高くし、そこで利益を生み出していったわけですが、西松屋は正反対の考え方を持っていたんです。
西松屋は、オリジナル商品の開発時にも付加価値は極力なくす。もし必要なのであれば最低限の機能に絞り、その分、お客さまに商品を低価格で還元していくことに価値を見いだしている。そんな姿勢が、店舗運営においても貫かれていると言えるかもしれません。
■アパレルとは違う存在だと思っている
——失礼ながら、西松屋さんはH&MやZARA、GAPといった子ども服を扱うアパレルブランドのようなおしゃれ感はないイメージです。それもまた戦略でしょうか。
【坂本】店内にマネキンを置いたりするようなトレンド感ある、いわゆる一般のアパレルとは店のつくりもまったく違いますし、そこを追求しても仕方ないと僕は思っています。
やはり西松屋は社会インフラとして、必需品を扱う、なくてはならないお店である、ということを訴えていきたい。コロナによる自粛期間中に営業を継続したのも、やはり社会インフラとしての当社の役目を果たすためでした。
赤ちゃんのミルクやオムツは毎日必要なものです。これが近所で手に入らないとなったらますますお母さんはストレスがたまるでしょうし、不安にもなる。衛生用品も、大人用のものを赤ちゃんには使い回せなかったりします。ですから、コロナのような非常に厳しい状況にあっても、そういった生活必需品をご提供し続けることが必要だと考えました。
これも想像ですが、自粛期間中にお子さんをどこへも連れて行けず、遊び場が限られていた中、西松屋に行くと広い通路があり、子どもがのびのびとしている。それにおもちゃもお菓子も置いてあり、お母さん自身のストレスも買い物で発散できる。
最も厳しい状況にあった4、5月は、そんなふうに楽しんでいただける店にもなっていたのではないかと思います。
■子ども関連市場で「シェア10%以上」を目指す
——少子化時代であり、ネットショッピングの時代です。今後の戦略を教えてください。
【坂本】当社の売り上げは今期の年間見通しで言うと1560億円ですから、まだ2000億円にも達していない会社です。子ども関連市場は、諸説ありますが、ザッと見積もって2兆円ほどとされています。
確かに少子高齢化によって子どもの数が減っていくことは間違いありません。しかしそうは言っても、2兆円の市場が10年でなくなることはないでしょう。まずはしっかりとシェアを広げたいと思います。今の7、8%のシェアを2025年までに10%、それ以降もさらなるシェア拡大を目指します。
ネットショッピングに関しては、リアル店舗が強い企業がネットも強くなっていくのではないかと考えています。リアル店舗とネットとの間でシームレスなサービスが提供できれば、ネットでも買われるでしょうし、リアル店舗にもご来店いただけるのではないでしょうか。
ネットで頼んだ商品を送料無料で受け取れるようなサービスなど、今後は1000店舗というインフラを活かしたサービスをさらに充実させていきたいと思っています。
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編集者・ライター
1983年生まれ。TV制作会社を経て出版社に勤務。その後フリーランスとなり、書籍やフリーペーパー、映画パンフレット、広告、Web記事などの企画・編集・執筆をしています。ネタを問わず、小学生でも読める文章を心がけています。
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(編集者・ライター 小泉 なつみ)
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