「俺が何とかする!」中学受験で急増“父能研パパ”の圧が子供を潰しかねない
プレジデントオンライン / 2021年3月26日 9時15分
■リモートワークの父親が急にわが子の中学受験に口出しを開始
新型コロナウイルス禍で行われた2021年中学入試。首都圏(群馬県を除く1都5県)での受験者数は推定約6万4000人(エデュケーショナルネットワーク調べ)で前年の約6万3000人を上回った。首都圏の小6生の5人に1人が受験した計算だ。
このコロナ禍での中学受験は「自宅リモート学習元年」となったわけだが、保護者も塾も手探り状態の大変な1年だった。その影響か、保護者から中学受験関連の相談を受ける私の元に寄せられた家庭内トラブルの相談件数も例年以上に増えた。
ポイントは、その相談内容だ。目立ったのは、父親が引き起こした「在宅問題」。今まで中学受験にほぼ無関心だった父親がリモートワークになった途端、わが子の勉強や生活態度などに口を挟んできたために、母子に煙たがれたケースである。
■子供の横に張り付いて「勉強を手取り足取り」が逆効果
大手中学受験塾のベテラン室長もこう述べる。
「(子に接することが多い)母親が中学受験する子供に過干渉となるのはある意味、仕方ない面もありますが、今年度はコロナでリモートワークになった影響もあって“過干渉の父親”が増加した印象を持っています。リモート勤務で時間があるせいか、塾に基本的な質問をしてくる父親が増えたんです。Zoomでの保護者会ですでに説明した基本的事項であっても『自分自身が確認したい』とダメ押しのように聞いてくる父親が多かったですね」
張り切って塾に電話をしまくる父親の例は、他の塾の先生たちからも聞いている。ベテラン室長は続ける。
「近頃は、子供にベタベタするというか距離感が近すぎる父親が増えています。わが子の力を信じようともせず、横に張り付いて手取り足取り。自分の思いどおりに動かそうとしているようにも見えます。これは能動的に動く力を子どもから奪い取る行為になりかねません。また、父親自身もかつて(高校・大学受験など)受験を頑張ってきて勉強はコツコツやるしかないと知っているはずなのに、わが子になったら、『効率的な学習方法を教えて』と。あるわけないことくらい、ご自分が一番、分っているはずなのですが……」
■「俺が何とかする!」空回る“父能研パパ”が子の学習意欲を減退させる
突然のリモートワークで中学受験に意識が向いた父親が「俺が何とかする!」とばかりに張り切りすぎ、逆に子供の学習意欲を減退させる悪循環はコロナ禍受験の大きな特徴のひとつである。こうした父親は、大手塾の名前にひっかけて「父能研パパ」と揶揄される。わが子の勉強管理を完璧にする「エクセルパパ」と同様、場合によっては子供の成長を止め、潰してしまいかねない存在だ。
このベテラン室長は「よくない父親の害悪」について、以下のように語る。
「自分が10代だった頃の価値観で学校を評価する父親ですね。当時とは全く違う受験環境であることを受け入れず、自分で描いた進路をわが子に押し付ける父親は少なくありません。さらに、危険なのは“交換条件”を出す父親です。『偏差値◯◯になったら、あそこの学校受けていいよ』という言葉に代表されます。わが子の奮起を促す狙いでしょうが、受験には悪手となるので、やめていただきたい。なぜなら、偏差値◯◯が上限となってしまうから。本来は『受験で得る様々な力の獲得』が受験の目的ですが、偏差値◯◯が目的になるため、結果的にそれ以上伸びず、合格できないことがある。父親の余計なひとことが成長を止めてしまうのです。『わが家はこの学校を目指して頑張ろう!』がシンプルで一番いいんです」
時代背景的に考えて、彼ら父親は子育てや子供の受験に積極的に関わっていなかっただろう。よって、父親はマネできるモデルケースを知らない。それでも「父親も子育てに関与すべし」という昨今の空気に対応すべく、戸惑いながらコロナ禍で行動したのだが、それが完全に裏目に出たということだろうか。
■「思い返せば『圧をかけた』だけの父親でした」
大手企業の営業職で関西在住のKさん(40代前半・男性)は、今年、一人娘の中学受験を経験した。Kさんは「思い返せば『圧をかけた』だけの父親でした」と反省の弁を口にする。
Kさん宅が娘の受験を決意した理由は、地元公立中が荒れていたこともあるが、自宅から徒歩10分の場所にある私立中高の教育方針に感銘を受け、そこに娘を6年間預けたいと思っていたことが大きい。
通塾開始は小4の2学期。志望校は中堅私立中高一貫校だったが次第に「有名(難関)校へのチャレンジ」という目標に知らぬ間に置き換わったそうだ。背景には、指導する進学塾にとってはそのほうが「チラシに載せられる(=宣伝になる)」という大人の事情もある。
「『模試の結果は気にしないように』と娘に言いながらも、いざ成績表を見ると、『こんな間違いしているのか』とつい、叱ってしまいました。ウチの子はなかなか自主的に動かず、『ここで勉強しておかないと!』という気持ちになるのが遅いので、これではダメだと、夕食後や、休日の過ごし方について、何度も注意しました。それで、できるだけ自分も同じ“姿勢”を見せるために、娘の勉強部屋で仕事したり、問題を作ったりしていました」
Kさんは、いつのまにか塾にお金を投資しているような気になり「難関中学合格」こそが、その「リターン」であるとの思考法になっていく。
ただ、娘が頑張った甲斐あって、小6夏の模試では偏差値56にジャンプアップ。ところが、秋の模試では46で夏前に逆戻り。その後、娘は一時、嘘の結果を申告したり、「成績表を見ないで」と懇願したりしたそうだ。悪い流れである。
■成績が下がると「塾なんかやめろ」娘を罵倒した最悪の親
Kさんは当時を振り返る。
「私は本当に最悪の親でした。娘を煽りに煽って、成績が下がると感情的になって『塾なんかやめろ』『中学受験させない』と罵倒する最悪なループに陥りました。いつのまにか、当初掲げていた方針『6年かけて、娘をじっくりと育ててくれる学校に行かせたい』が『何が何でも難関校』にすり替わって、家族全員が苦しくなりました』
しかし、Kさんはここで考えを改めたそうだ。
「模試の結果に泣いている娘の背中はショックでした。仕事をしていても、娘の落ち込む姿が頭から離れず、悶々としていました。『中学受験に臨ませた親が悪いのだろうか……』
それで、考えたんです。娘の横に張り付くことが自分の仕事だと思い込んでいたんですが、逆だと。父親として、いい距離で応援していくべきじゃないかと」
それ以来、勉強は本人に任せ、夫婦で通学圏内の受験可能性のある学校の説明会に全て足を運び、先生方の話をじっくり聞いて回る。すると親子で「もう、ここしかないやん!」という熱望校に巡り合ったという。
■「番号あったで!」娘は第一志望の学校に見事合格
「娘の成長を感じたのはその後です。自分自身で志望校対策を考えて、苦手な項目について分析して、しかも、それを正答できるようになったんです。『え? 自分だけで、しっかり考えてやれるようになったんだ?』とうれしい驚きがありました」
そして、娘は第一志望の学校に見事合格した。
「合格発表の掲示板を見に行く際、私の顔がこわばっていたのを見て、娘は『もしかして緊張してる?』と元気付けてくれました。娘が先に階段を駆け上がり、掲示板を見るなり、さらりと、しかも堂々と『番号あったで!』と言った時は大きな成長を感じました」
最後にKさんはこう結んでくれた。
「娘はもしかしたら、もともと、ひとりでこの試練を乗り越える能力があったのかもしれません。それなのに、私が勝手に“受験”という縛りと圧に負けて、『きっとウチの子はダメに違いない』というマイナス思考に凝り固まったのです。
結局、私は父親としての役割を忘れ、ただ右往左往していただけでした。その反省があるので余計に、娘が自分の意思で学校を選び、そして、その目標に向かって試行錯誤しながら合格を勝ち得たことを本当にうれしく思っています。『私、この学校に通えるんだね!』という娘の言葉は忘れません」
Kさんのような父親はコロナ禍で確実に増えた。Kさんの家庭は幸い合格を手にできたが、家族の受験態勢が完全に崩壊し、子供は勉強のやる気を失い、結果も全落ちとなる残念なケースもある。
中学受験は親にとっても子にとっても試練だ。だが、子の成長を促す大きな起爆剤となりうるとともに、親にとっても親としての成長を感じるライフイベントでもある。中学受験に挑む“家族の物語”は千差万別である。その道は平たんではないが、道に迷った時は「何のために受験するのか?」という初心に戻るといい。その都度、親の本当の意味での役割を夫婦で話し合っていくことが大切なのだ。
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作家
執筆、講演活動を軸に悩める女性たちを応援している。「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)の著者。近著に『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)、近刊に『神社で出逢う私だけの守り神』(企画・構成 祥伝社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(取材・文 いずれも双葉社)など。
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(作家 鳥居 りんこ)
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