必ず結果を残すリーダーが「部下のモチベーションは上げなくていい」と断言する理由
プレジデントオンライン / 2021年4月4日 11時15分
*本稿は、石倉秀明『これからのマネジャーは邪魔をしない。』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■「モチベーションが高い=成果が出やすい」は幻想
「部下のモチベーションが低くて……」と悩むマネジャーがたくさんいます。
ビジネス書においても、「モチベーションを上げる方法」などといったものがよく見られます。モチベーションの低いメンバーを叱咤激励(しったげきれい)したり、モチベーションの研修などを受けさせたりしているマネジャーも多いでしょう。
「モチベーションが必要ない」と言うつもりはありません。ただ、「モチベーションを上げることがマネジャーの仕事になってはいけない」と思うのです。むしろそれが、逆にチームのメンバーのモチベーションを下げる原因になってしまうことには注意が必要です。
そもそも「モチベーションを上げると、成果が上がる」というのは幻想以外の何物でもありません。
■モチベーションに関する2つの勘違い
モチベーションに関する勘違いは2つあります。
②モチベーションが高いと成果が出る
これはどちらも間違いです。
まず、ひとつ目の「モチベーションは高いほうがいい」というものですが、この前提が間違っています。マネジャーは、チームのミッションを達成することが「仕事」です。メンバーのやる気があるか、モチベーションを高く維持できているかどうかは、本来マネジャーがマネジメントすることではありません。
実際、「モチベーションは高いものの、結果を出さない人」と「モチベーションは低いけれど、結果を出してくれる人」のどちらがいいでしょうか。おそらくほぼすべての人が後者を選ぶはずです。
モチベーションが低くて行動していないのであれば、行動していないことを指摘することが正しいのです。いえ、他人のモチベーションをなんとかしようと考えることがそもそも間違いです。
モチベーションが低いこと・高いこと自体にフォーカスを当てるのではなく、事実として、「与えられた役割をこなせているか」「与えられた目標を達成できたか」にフォーカスし、マネジメントすることです。
■成果がなければ、モチベーションは上がらない
次にもうひとつの勘違い、「モチベーションが高いと成果が出る」についてです。
「部下がやる気を持って仕事に取り組んでくれなくて、成果が出ないんです……」と感じている人は多いかもしれません。
「モチベーションが高い=成果が出やすい」というのは一見正しい論理に聞こえるかもしれません。モチベーションが低い→適切な行動をしない→成果が出ない、という認識をされているのです。
しかし、この考えは間違っています。正しい因果関係は、シンプルにすると次の形になります。
先ほどの認識と真逆ですが、これが真理だと思います。
■結果が出るからモチベーションが高まる
要するに、マネジャーがどんなに声かけをしてチームのメンバーのモチベーションを上げたように思えたとしても、それが成果に結びつかなければ、そのモチベーションは続きません。むしろ、うまくいかないことが続けば、自分自身の能力を疑ったり、会社を離脱したりすることも起こり得るでしょう。
逆に、成果が出続けていれば、少なくともそれでメンバーのモチベーションが下がっていくことはありません。
多くの人は、モチベーションが高くなると結果が出るという方程式で考えるため、モチベーションを上げようと努力します。しかし、実際には結果が出続けるから、メンバーのモチベーションが保たれます。考え方がまったく逆なのです。
たとえば出版社の書籍編集者なら、手がけた書籍が10冊連続で数千部しか売れなかったらかなり萎(な)えるでしょう。「もう(編集者を)やめようかな」と思うかもしれません。逆に、毎回何万部も売れれば、モチベーションが続くはずです。
結局、どれだけ好きな仕事で、やりがいを持って働いていたとしても、結果が出なければモチベーションは保てないのです。
■マネジャーは成果の出し方を教え、サポートする
マネジャーはモチベーションを上げようとするのではなく、成果の出し方を教え、サポートするほうがよほど部下のためになります。
実際、私はメンバーのモチベーションなど気にしたことがありません。
とくにプライベートな理由でモチベーションが下がっていても、他人はそこまで介入できませんし、介入する必要もありません。マネジャーは親でもなんでもありませんので、自分で解決しなさいという話です。
一時期流行ったアドラー心理学では、他者の問題と自分の問題を分けて考えます。他者の問題はコントロールできないので介入しない。それが正解だと思います。
■「成果」をマネジメントする
モチベーションのマネジメントは手放して、成果をマネジメントする。ならば、いったいどのように成果を出させればいいのでしょうか。
こう言うと、「結局やる気がなくて行動していないから成果が出ない。行動の指摘をしても部下が変わらないから悩んでいるんだけど……」とおっしゃる方もいます。再びモチベーションを起点にする考え方に戻ってしまうのです。
その場合は、まず部下と一緒に行動してみることです。そして、その行動がなぜ重要なのか、なぜ有効なのかを部下が理解できるよう、伝えます。その次は、部下に自分でやってもらう。
できるようになったら、また、別の行動を一緒にする。それを繰り返し、リアルタイムでフィードバックし、小さなことでも承認する。すると、部下はだんだん自然に仕事のコツを摑(つか)み、自分で成果を上げられるようになり、結果としてモチベーションも上がっていきます。
■結果を出させてやるのが「いいマネジャー」
結果が出始めると、その人は、今度は自分なりの工夫を加えるようになります。それでさらに成果が得られると、ひとりでチャレンジし続けるという好循環が回り始めます。
何も難しいことはありません。個人的な能力にさほど関係ない部分をきちんと仕組み化したり、結果を出すためのポイントをしっかり教えたりしてあげれば、ほとんどの人が「求められる目標」は達成できます。それが自信につながり、モチベーションも向上します。
プロ野球選手を見ても、どの選手もプロとしてのポテンシャルは備えていますが、誰もが活躍できるわけではありません。能力=結果ではないのです。
結果を出すと一言で言っても、個人の能力以外の要素が山ほどあります。たまに部下の能力の低さを嘆く上司がいますが、実際は「個人の能力以外のところ」に問題があることも多いのです。
「与えられた戦力で結果を出すのがマネジャーの仕事である」と肝(きも)に銘(めい)じてほしいものです。
■勝てるポイントや構造がわかれば、成果は出せる
結果を出そうとしても、ポイントが何かわかっていない人はたくさんいます。結果を出している人であっても、結果が出ている理由をわかっていないことは珍しくありません。
私がDeNAの人事部にいたとき、よく採用面接を担当しました。面接で、これまで営業で結果を出してきた人に「なぜ結果が出たんですか?」と尋ねても、明確に答えられる人はあまりいませんでした。「ほかの人と何が違いましたか?」と尋ねてもダメです。
そういった人に、「1.5倍の成果を上げてくださいと言われたらどうしますか?」と尋ねると、「1.5倍働きます」といった回答しか返ってきません。結果を出せる人であっても、ほとんどが感覚で仕事をしているわけです。
そうではなく、勝てるポイントや結果が出せる構造を理解できていると、何度も再現でき、部下やメンバーに伝えることができます。
■成果を出すためのポイントがわかっているか?
私がリクルート時代の営業の仕事でよく行っていた「テレアポ」で考えてみましょう。多くの人は「営業トークのうまさ」に着目するのですが、実はテレアポでのアポ獲得率と営業トークのうまさは関係なかったりします。
受注を得るには商談が必要です。その商談を設定するために電話をかけるのですが、じつはかけた数よりも「担当者と話せた数」のほうが重要なのです。担当者と話せる確率が上がっていかないと、テレアポは意味がありません。その根本を改善できるかどうかが問題なわけです。
しかも営業トークはもともと備えている能力やセンスが求められますので、真似したとしても、そうはうまくいきません。
■「誰でも変えられる部分」を改善する
一方、「能力やセンスとは関係ない部分」を変えたほうが、誰もが結果を出せるようになります。それがリスト管理などです。
そういう誰でも変えられる部分をしっかり変えてあげると、インパクトのある結果が出るようになります。
営業トークの改善で得られる結果は、それに比べれば小さなものにすぎません。たとえば、受注率が数%改善しても数十件商談して受注が1件増える程度で、それでは結果のインパクトとして小さいものです。
事実、私は営業トークを教えたことは一度もありません。その人に3つほどポイントを覚えてもらうだけで、ロールプレイングもやらない。
そもそも、その人が社会人になるまでの二十数年間で形成されたコミュニケーションの方法や意識が、ロールプレイングくらいで劇的に改善するはずがありません。それでも、私がマネジメントした営業メンバーで、目標を達成できるようにならなかったメンバーはいませんでした。
■できなかったことが、できるようになるのが「育成」
私の考える育成とは、「できなかったことが、できるようになっていく」ことです。
たとえば、新人の編集者にいきなり「本を作れ」と命令しても作り方がわからないはずです。上司や先輩と一緒に何冊か担当するうちに、テーマや著者を決めて、企画書を作って、編集会議を通して……といった一連の流れが理解できてきます。
そうなったならば、「テーマや著者を決める」という最初の作業をやってもらい、アイデアが出てくるのを待つ。だいぶいい内容になってきたら、次はきちんと企画書にまとめてもらう。
育成とは、そういうことの繰り返しでしかありません。それが最終段階まで到達すると、「本を作れ」と言うだけで作れるようになるわけです。
■スタートからゴールの間に「結果点」という中間点を作る
これはある組織コンサルティング会社の考え方ですが、スタート地点から求めているゴールまでの間に、「結果点」という中間地点を作っていくやり方です。その結果点を、部下のレベルに合わせて、どこに置くかが上司の力量と言えます。
結果点が遠すぎると進め方がイメージできないため、ほとんど動けなくなります。逆に結果点が近すぎると、簡単すぎて成長がありません。現状できていることの次の結果点を設定してあげることが重要です。
そのためには、部下がどこまではできて、どこで詰まっているかをしっかり理解しておく必要があります。だからこそ、行動をマネジメントするのではなく、成果をマネジメントしないといけません。成果を見て、詰まっている原因を改善するのです。
たとえば、毎日100件電話しているのに商品が売れないメンバーがいたとします。その時、150件に増やすよう指示したところで何も変わらないでしょう。そんな時は、つまずいている点を見つけてあげることが大事になります。
②営業トークが間違っている、営業マニュアルから外れたやり方をしている
……など、つまずいている部分に気づくはずです。
それを見極めて、頑張れば到達できそうな結果点を定めてあげる。それができたら、また次の結果点を定める。その繰り返しで成果を上げられるようになるはずです。
きちんと成果を上げること、ミッションを達成することにフォーカスしたマネジメントをすれば、必然的に育成はなされていくのです。
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キャスター取締役COO
1982年生まれ。群馬県出身。株式会社リクルートHRマーケティング、株式会社リブセンス事業責任者、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)EC事業本部営業責任者、新規事業・採用責任者を経て、現職。キャスターは、700人以上のメンバーがほぼ全員リモートワークで働く、日本では断トツNO.1、世界的にもほぼ最大級の会社。2019年7月より「bosyu」の新規事業責任者も兼任し、個人が誰でも自分の「しごと」を作り出し、自由に働ける社会を作ることにも挑戦している。著書には『コミュ力なんていらない──人間関係がラクになる空気を読まない仕事術』(マガジンハウス)、『会社には行かない──6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』(CCCメディアハウス)、『これからのマネジャーは邪魔をしない。──多様な働き方時代のマネジメント・シフト』(フォレスト出版)がある。
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(キャスター取締役COO 石倉 秀明)
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