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「2020年に一番売れた車」トヨタ・ヤリスのデザインが"絶妙"としか言えないワケ

プレジデントオンライン / 2021年5月11日 9時15分

トヨタが2020年2月に発売したコンパクトカー「ヤリス」 - 写真提供=トヨタ自動車

トヨタのコンパクトカー「ヤリス」が好調だ。2020年の登録台数は15万1766台で1位。今年3月には欧州カー・オブ・ザ・イヤーも受賞した。なぜ人気なのか。モビリティジャーナリストの森口将之さんが解説する――。

■前年1位のプリウスを上回る勢い

トヨタ自動車が2019月10月に発表し、翌年2月に発売したコンパクトカー「ヤリス」の評価が高い。日本自動車販売協会連合会が発表した、軽自動車を除く乗用車の2020年の登録台数は15万1766台で、実売が11カ月間だったにもかかわらず乗用車第1位の座を獲得した。

ちなみに2019年の年間登録台数のトップは同じトヨタの「プリウス」で、12万5587台だった。コロナ禍にもかかわらず数を伸ばしたわけで、ヤリスの勢いを感じる。

ヤリスは日本とともに欧州を主要マーケットとして開発された車種である。その欧州でも販売は好調で、2021年1月はすべての乗用車でトップになった。

逆にこれまで欧州の乗用車でトップになることが多かったフォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」は、現地では2019年にモデルチェンジを実施しているが、同じVWから電気自動車(EV)の「ID.3」が導入されたこともあり、かつてのような支持は得られず、続く2月はフランスのプジョー「208」がトップになっている。

ただし日本での登録台数については、少し注釈が必要だ。ヤリスにはハッチバックのほか、SUVの「ヤリスクロス」、スポーツモデルの「GRヤリス」があり、最初に挙げた統計はこの3車種の合算になっているからである。

■ヴィッツよりも有利な販売のやり方

GRヤリスは3ドアしかないうえに、走行性能を向上させるために全幅がかなり広く、ハッチバックのヤリスと同じパワートレインを積んだ廉価版も存在するものの、上級グレードではマニュアルトランスミッションで、しかも400万円級の高価格車である。生産工程も手作りに近く、販売台数は期待できない。

一方、ヤリスクロスはハッチバックよりややボディサイズが大きいものの、コンパクトなSUVだ。価格や燃費についてもさほど差がないことから、具体的な数字は出ていないものの、2020年8月の発売以来かなりの販売台数を稼いでいる。

つまりヤリスの登録台数は、本田技研工業(ホンダ)で言えば「フィット」と「ヴェゼル」、日産自動車では「ノート」と「キックス」の合算に通じるものであり、それが大きく数字を伸ばした理由であると指摘する専門家もいる。

しかもヤリスは、日本では「ヴィッツ」に代わるモデルであった。ヴィッツもそれなりに売れていたが、同車はトヨタが持っていた4チャンネルの販売ネットワークのうち、ネッツ店の専売車種であり続けてきた。一方のヤリスは、当初から全チャンネルでの販売としており、販売面で有利だったことは間違いない。

■欧州でも通用するコンパクトカーだと証明された

一方欧州におけるヤリスと言えば、3月にさらなるニュースがあった。2021年の欧州カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)で、前に紹介したVWのID.3など欧州の競合車を退けて受賞したからだ。一方、筆者も選考委員を務めた日本のCOTYは、スバル「レヴォーグ」であり、ヤリスは3位だった。

デザインや走り、さらに環境問題に厳しい目を持つ欧州でベストセラーカーになったうえに、COTYまで受賞したことは、ヤリスが欧州でも通用するコンパクトカーであることを証明する結果になった。

欧州でのヤリスはハイブリッド車が主力であり、圧倒的な燃費性能は環境性能の高さとしてアピールしたようだ。さらにGRヤリスの存在も効いていると思っている。

GRヤリス
写真提供=トヨタ自動車
「GRヤリス」RZ“High performance”(プラチナホワイトパールマイカ) - 写真提供=トヨタ自動車

■走りの良さや楽しさも評価されたのではないか

筆者はGRヤリスを含め、ヤリスシリーズ全車種の試乗経験がある。GRヤリスについて簡単に言えば、ただ速いだけでなく、ハンドリングも優れており、しかも通常は相反関係にある操縦安定性と操る楽しさを高次元で両立させた、素晴らしいスポーツモデルだと評価している。

しかもヤリスは2017年から世界ラリー選手権(WRC)に参戦し、翌年から3年連続でマニュファクチャラー(製造者)あるいはドライバーのタイトルを獲得している。ヤリスは開発過程でWRCでの経験が生かされており、GRヤリスの参戦はコロナ禍で幻に終わったものの、WRC参戦を前提として開発された。

COTYは欧州も日本も、モータージャーナリストが中心となって選考される。走りの良さ、走りの楽しさが重視されることが多く、レースやラリーへの挑戦は好印象につながる。しかも欧州ではラリー人気が高い。欧州COTY受賞は、走りの良さや楽しさ、WRCに取り組む姿勢も高く評価されたと考えている。

■躍動感や疾走感を強調したデザイン

ではデザインについてはどうか。このクラスではヤリス以上に評価が高い車種があることも事実である。

たとえばホンダのEV「ホンダe」の、モダンでありながら優しさを感じる造形や色彩は、世界3大デザイン賞のひとつと言われるドイツの「レッド・ドット・デザイン賞」で、2020年にプロダクトデザイン(自動車)部門のベスト・オブ・ザ・ベスト、スマートプロダクト部門のレッド・ドット賞を獲得した。

欧州でヤリスとベストセラーの座を争うプジョー208も、EV仕様を用意するなど環境対応は抜かりなく、このブランドらしい運転の楽しさや乗り心地の優しさを備えていることに加えて、プジョーのコンパクトカーの伝統を受け継ぎ、なおかつ親しみの持てるデザインが評価されている。

こうした中でヤリスのデザインを見ると、走りの良さを造形でもアピールした、躍動感や疾走感を強調したものに映る。少なくともホンダeやプジョー208とは、明らかに違う方向を向いている。

それをもっとも明確に示しているのはハッチバックで、前後のフェンダーを張り出したのに対し、キャビンはコンパクトに絞り込んでいる。引き締まった肉食系動物を思わせる。広さよりも元気さを重視した造形だ。

ちなみにハッチバックのボディは、日本向けと欧州向けでは異なる。日本向けは全幅を5ナンバー枠内に収めるべく、前後フェンダーの造形を工夫しているのだ。こうした手法はスズキ「スイフト」も取り入れているが、それでもフェンダーが張り出しているように見える。デザイナーは苦心したはずだ。

■「SUVらしい顔つき」のヤリスクロス

ヤリスクロスではSUVらしいブラックのフェンダーアーチを加えたためもあって、フェンダーの張り出しはハッチバックほどではない。むしろ目立つのは、水平に近いエンジンフードと高めに置いたヘッドランプだ。これだけでぐっとSUVらしい顔つきになっている。上下に伸びたグリルの間延び感を抑えるべく、間にボディカラーのバーを入れたところを含めて巧妙な処理だ。

ボディサイドでは、ハッチバックより大径のタイヤと前述のフェンダーアーチで力強い足回り、サイドシルのプロテクターで余裕のある最低地上高をアピールする手法は他のSUVにも見られるものの、フェンダーアーチとプロテクターはリアに行くほどせり上がっていて、ここでも躍動感を表現している。そして幅広くなった後半に埋め込んだシルバーの車名入りプレートは、質感を高めている。

ヤリスクロス
写真提供=トヨタ自動車
「ヤリスクロス」HYBRID Z(2WD)(ブラックマイカ×ホワイトパールクリスタルシャイン) - 写真提供=トヨタ自動車

GRヤリスも、単にドアを2枚にしてフェンダーをワイドにしただけではない。重心を下げるためにカーボン製としたルーフは、ハッチバックより45mm低いうえに、弧を描いている。ヤリスクーペと呼んだほうがふさわしいフォルムなのである。

■昔のスポーツカーのような「丸型2眼メーター」

インテリアでは、ハッチバックの中級グレード以上に装備される、双眼鏡を思わせる小ぶりな丸型2眼メーターが目立つ。昔のスポーツカーのような眺めで、2つの丸の中に速度などをデジタルで表示する。ここからも走りをイメージしていることが伝わってくる。

面白いのは、ヤリスクロスではこのメーターが逆に下位グレードに使われ、上級グレードは一体型のデジタルメーターとしていることだ。ちなみにハッチバックの下位グレードは同じ一体型パネルの中にアナログメーターを置く。

GRヤリスも同じ一体型パネルの中にアナログメーターを並べるが、スポーツモデルだけあって速度計の目盛りはそれ以外のヤリスの180km/hから一気に280km/hまで拡大されている。

インパネやドアトリムは共通部分が多いものの、上級グレードではカラーコーディネートを違えて差別化を出している。個人的に好感を抱いたのはドアトリムだ。オープナー、グリップ、パワーウインドーのスイッチがひとつのユニットに集約した個性的な造形で、実際に使ってみると手の移動距離が少なくて楽だった。

シートはハッチバックとヤリスクロスは共通で、下位グレードでは背もたれとヘッドレストが一体のハイバックタイプになる。GRヤリスは逆に最上級のRSハイパフォーマンスのみ、サイドの張り出しが通常より大きいスポーツシートとなる。

■統一感を保ちつつ、個性を際立たせている

ヤリスのウイークポイントをひとつ挙げるなら、キャビンがさほど広くないことだ。ハッチバックでも後席に身長170cmの筆者は座れ、SUVのヤリスクロスはさらに広いが、ホイールベースがハッチバックと共通の2550mmなので、広さや使いやすさはヴェゼルやキックスが上回る。

でもコンパクトSUVに広さを求める人には、ダイハツ工業が開発生産する「ライズ」がある。また欧州では、コンパクトカーの後席はひんぱんに使わないことから、広さはさほど重視しない。ヤリスのパッケージングは欧州的とも言える。

3台のデザインを比べながら思うのは、共用部分でシリーズとしての統一感を出し、同時にコストを抑えつつ、適材適所で独自のディテールを与えることで、個性を際立たせていることだ。絶妙という言葉を思い出す。

それとともに、どこから見ても走りそうなフォルムから、豊田章男社長が常々口にしている「愛車」の2文字が浮かんだ。

愛車とはマイカーを指す言葉で、カーシェアリングやレンタカーとは違う。カーシェアやレンタカーは移動のために使う人が多いのに対し、マイカーはデザインや走りを楽しむ、趣味のパートナーとしての色が濃くなる。ヤリスの躍動的なフォルムは、そんなシーンを想定しているのではないかと思っている。

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森口 将之(もりぐち・まさゆき)
モビリティジャーナリスト
1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、出版社編集部を経て1993年にフリーランスジャーナリストとして独立。国内外の自動車や公共交通、道路事情などを取材し、雑誌・テレビ、ラジオ・インターネット・講演などで発表。2011年には株式会社モビリシティを設立し、モビリティやまちづくりの問題解決のためのリサーチ、コンサルティングを担当する。

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(モビリティジャーナリスト 森口 将之)

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