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台風にも耐える「新型風力発電」で、日本の電力事情は激変する

プレジデントオンライン / 2021年5月25日 15時30分

秋田県由利本荘市の洋上風力発電イメージ - 写真提供=秋田由利本荘洋上風力合同会社

欧州などに比べて、日本は太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電の普及が遅れている。だが、ここにきて脱炭素政策「カーボンニュートラル(CN)」への動きが加速し、再エネ発電への期待が高まっている。再エネ発電の「実力」を再エネ発電専業で国内唯一の東証一部上場企業、レノバの木南陽介社長に聞いた――。(後編/全2回)

■240人の山林地権者に年間約1億円の賃料支払い

——再生可能エネルギー発電事業では地元との共存共栄を目指されていますが、どのような例がありますか。

【木南】岩手県北部の軽米町にある山林に約130メガワットの太陽光発電所が稼働中です。東京ドーム約100個分の広大な山林に太陽光パネルが設置されています。人口8000人余りの過疎地です。そこに400億円を超える投資をし、再エネ発電所をつくりました。2019年から運転を始めました。その結果、太陽光パネルのメンテナンスのために地元の方を雇用したほか、山林の賃借料を支払っています。240人の地権者の方に年間約1億円の賃料をお支払いしています。

一人当たりでは年間数十万円ですが、町長によると町内所得は建設が始まってからの5年間で約1.5倍に増えたようです。また町にも400億円の発電設備にかかる固定資産税が毎年5億円程度入るようになりました。未利用の山林からCO2排出量ゼロで電力が生まれ、雇用と所得を増やし、町の税収も増えたのです。軽米町始まって以来の大投資でした。CO2も削減でき、地元にお金も入るという一石二鳥です。

■全国で2030年頃を目指して10GW程度の洋上風力発電が準備中

——3月に決まった荒廃農地の利用に関する規制緩和で農地への太陽光パネルの設置も増えるでしょうから、同じような例が増えてきますね。

【木南】政府は2030年時点で太陽光発電は88GW(標準的な原発で約80基分)に増えるという予測を出していますが、私は太陽光発電のポテンシャルはまだまだあり、100GWぐらいまで増えると見ています。

——再エネ発電で今期待されているのは洋上風力ですね。再生可能エネルギー海域利用法が2019年に施行され、政府が洋上風力発電を後押しし始めました。2020年12月に政府は洋上風力発電の導入目標として2030年までに10GW、2040年までに30~45GWという目標を掲げました。現在はほとんどゼロといえる洋上風力発電をそんなに増やせるのでしょうか。日本は欧州のように遠浅の海が少ないという指摘もありますが。

【木南】現時点で少なくとも言えることは全国で10GW程度の洋上風力発電のアセスメントが始まっているということです。それだけのポテンシャルはいまでもあります。それらがすべて2030年までに稼働するのは難しいでしょうが、10GW程度の洋上風力発電が2030年頃には具体化する可能性はあります。

■欧州、中国に次ぐ洋上風力発電の導入国になる可能性

【木南】その後の2040年までに30~45GWという目標については私の大雑把な見通しですが、25GW程度は水深40メートルほどの海底に支柱を立てる着床式、それ以上は海面に浮かべる浮体式になるのではないかと思います。もしも2040年の政府の目標である最大45GWが実現すれば欧州、中国に次ぐ洋上風力発電の導入国になる可能性があります。

——日本の洋上風力発電は始まったばかりで発電コストなどが高くて、経済性がなかなか確保できないのではないですか。

【木南】欧州の例をみると、20年前に発電コストが40円/kwhだった着床式風力発電が今では10円/kwhを切っています。浮体式も10年前には30~40円/kwhだったのが今では20円/kwhを切りました。これは羽根の大型化や工事の習熟度が上がったおかげで、コストは急速に下がってきたのです。

洋上風力で先行した欧州に経験やノウハウをこれから洋上風力発電に本格的に取り組む日本は活用できると思います。

レノバの木南陽介社長
撮影=安井孝之
レノバの木南陽介社長 - 撮影=安井孝之

■台風に耐えうる規格「クラスT」の風車も登場

——日本では台風が数多く接近するので、風力発電が損傷する恐れがあるという指摘もあるようですが、大丈夫でしょうか。

【木南】日本が台風などの日本固有の気象条件に合わせて国際電気標準会議(IEC)に提案し、2019年にIECが新設した「クラスT」と呼ばれる国際第三者認証があります。クラスTを取得した風車は台風に耐えうる規格として国際的に認められています。すでにヴェスタスの一部の風力発電がこの規格を取得し、GEの大型洋上風力発電も最近取得したようです。こうした風力発電を設置すれば台風に見舞われても壊れることはないでしょう。

——先行している欧州の経験知を日本で活用するのは難しくはないですか。

【木南】工事のインフラ整備がポイントになりますが、洋上風力発電の建設や維持管理のための拠点港湾が2020年に指定されました。秋田港、能代港、鹿島港、北九州港の4港です。洋上風力発電の建設には重厚長大な資材、機材を使いますので頑丈で広い埠頭が必要です。秋田港などの4港が洋上風力の建設に向けて整備され、そこを拠点に工事が繰り返されることになります。

洋上風力発電の建設経験は日本では少ないのですが、拠点ができたことで、そこで繰り返し経験を積むことができ、習熟度が増します。これがこうした工事には効いてきます。

■太陽光発電の工事費は8年間で半分ほどに下がった

——コスト削減に関して、どれぐらいの期待があるのですか。

【木南】はっきりしたことは言えませんが、例えば太陽光発電の経験を踏まえると工事の習熟度によるコスト削減効果は大きいです。太陽光発電のコスト削減では太陽光パネルの価格が8年間で約75円/kwから約25円/kwに下がり、3分の1になりました。太陽光パネルのコストダウンも大きいのですが、工事費も8年間で半分ほどに下がっています。

様々な場所で設置した経験知をもとにして当初多めに見積もっていた工事費が工事を繰り返すことで下がってきたのです。洋上風力も大型化と工事を繰り返すことで10年、20年で大きくコストが下がっていくことが期待できます。

——かつて日本にも風力発電をつくる会社はありましたが、その後撤退しました。東芝とGEが提携し、風力発電事業に参入しようとしているところです。政府は洋上風力発電部品の国内調達率を2040年までに60%に高める目標を掲げており、成長産業にしようとしていますね。

レノバの木南陽介社長
撮影=安井孝之
レノバの木南陽介社長 - 撮影=安井孝之

■炭素繊維、ベアリング、ギアボックス……風車は日本のお家芸

【木南】世界シェアはシーメンス・ガメサとヴェスタスの欧州勢が6割ほどで、その残りをGEや中国メーカーが競っています。これまで日本では洋上風力発電の建設がほとんどなかったのでシーメンスなどは日本に興味を持っていませんでした。

ところが日本政府が2040年に最大45GWを目指すと表明したので、日本にビジネスチャンスを見出したようです。日本国内に工場などのサプライチェーンを整備しようという動きが出てきました。東芝とGEが提携するのもそうした動きの一環でしょう。

日本には風車部分に使う炭素繊維では東レや三菱ケミカルなどの強い素材メーカーがあり、風車の主要部品であるベアリングやギアボックスなども日本には競争力を持つメーカーがあります。どれぐらい洋上風力発電が建設されるかという目安ができたことで、風力発電事業に乗り出そうという企業が出てくることを期待しています。

■日本は石炭火力プラントの輸出をやめるべき

——レノバは今後の成長分野として洋上風力事業のほかに海外事業に力を入れていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。

【木南】いまや欧米や中国では発電所新設時のコストをみると、石炭火力発電よりも再エネ発電が安くなっています。一方、日本と東南アジアでは再エネ発電比率が低く、再エネ発電のコストも高いままです。そのため東南アジアの急激なエネルギー需要の伸びを石炭火力発電で対応しようとしていますが、それで本当にいいのでしょうか。

それでは東南アジアのCO2排出量が増えるばかりです。レノバは現地企業との共同事業として、ベトナムで144MWの陸上風力発電を建設中で今年10月に運転を開始します。そのほかにもアジアでの再エネ発電プロジェクトを複数進めていく計画です。

ベトナムクアンチ省の陸上風力事業
写真提供=レノバ
ベトナムクアンチ省の陸上風力事業 - 写真提供=レノバ

CNの実現に向けて石炭火力発電をやめようとしているのが世界の流れです。日本は石炭火力プラントの輸出をやめて、東南アジアの再エネ化に力を入れるべきではないかと思います。レノバは国内だけではなく再エネ発電で海外に進出し、東南アジアのCO2排出削減に貢献するとともに日本の有望なインフラ輸出企業として成長したいと考えています。

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木南 陽介(きみなみ・ようすけ)
レノバ 社長
京都大学総合人間学部で環境政策論と物質環境論を学び、1998年にマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンに入社。2000年に「リサイクルワン」を創業し代表取締役社長に。2012年に再生可能エネルギー事業に参入し、2013年に社名を変更し「レノバ」となり、創業以来、社長として経営のかじ取りを担う。

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(レノバ 社長 木南 陽介 聞き手・構成=安井孝之)

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