「SNS上での悪口に傷付きやすい子」の心を強くする"魔法の質問"
プレジデントオンライン / 2021年5月31日 9時15分
※本稿は、工藤勇一・青砥瑞人『最新の脳科学でわかった! 自律する子の育て方』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■メタ認知能力が高い人ほど、目標達成能力が高い
教育の本質的な目標は自らの力で自分を成長させられる術と、幸せな状態をつくり出せる術を学んでもらうことです。その両方の実現に不可欠な「状態」が心理的安全性であり、不可欠な「スキル」がメタ認知能力です。メタ認知(metacognition)という概念は、認知心理学の領域で生まれたものです。
メタとは「高次の」という意味ですから直訳すれば「(自分の)認知自体の認知」。簡単にいえば「自分を知ること」です。メタ認知能力が高い人ほど自分の特性や癖を正確に把握できるため、目標達成能力や課題解決能力が高いと言われています。
メタ認知の明確な定義は研究者によってマチマチではありますが、私なりに定義するメタ認知とは「自己を俯瞰的に捉え、自己について学ぶ機能」のことです。
■自分を俯瞰的に捉え、自己について学ぶ
ポイントは2つあります。
ひとつはやはり自己の捉え方です。自分の内面、つまり自分の思考パターンや行動パターンをはじめとする自分の脳の特性や、自己変容の軌跡などに意識を向け、それらを俯瞰的に捉えることがメタ認知において絶対不可欠です。世間でもメタ認知についてさまざまな解釈が存在しますが、共通しているのは自分自身を対象化し、もうひとりの自分がそれを見ているような感覚で自分を捉えるということです。
しかし、自分を俯瞰視するだけではメタ認知の「スキル」としては物足りません。
それが2つ目のポイント。「自己について学ぶ」です。自己と向き合い、そこで得た情報を脳の中に記憶痕跡としてしっかりと書き込んでいくことが、メタ認知の本質的な意義であり役割ではないかと思うのです。メタ認知の定義に自己学習を含まないケースもありますが、教育現場にメタ認知スキルを導入していくのであれば、私は含むべきだと思います。
■自分と向き合う習慣がない人ほど、誰かのせいにする
メタ認知能力を高める第一のステップは、自分と向き合う機会を増やすことです。自分のことを対象化して認知する行為を専門用語で内省といいます。人は内省をする機会を持てば持つほど、脳のなかで物理的変化がおき、確固たる「自己」という情報が造形されていきます。
日本の教育の最大の問題は「子どもたちの当事者意識を育む」視点が欠けていることです。うまくいかなかったら誰かのせいにする。
不満があったら誰かを責める。責任を押し付ける対象がよくわからないときはとりあえず社会や時代のせいにする。このような他責の発想も結局、自分と向き合う習慣がないために、「自分の責任かもしれない」「自分にできることがあるかもしれない」といった発想が湧いてこないのです。
他責は生まれ持った性格などではなく、単に長年の脳の使い方による「癖」です。当事者意識の正体とは、外部から入ってくる情報を処理する際に内部情報(自分に関する情報)も同時に発火できるような情報伝達構造に脳がなっているか、ということです。
その神経細胞同士を結ぶ回路は、つながったり、切れたり、太くなったり、細くなったりと常に変化していくものですから、子どもが当事者意識を持った大人になれるかどうかの分かれ道は、結局のところ「どれだけ自己と向き合ってきたのか」の経験値によるところが大きいのです。
■「自分なりの物差し」をつくるサポートが大切
自分と向き合う機会が少ないと、必然的に自己に関する情報は外部情報に偏ることになります。先生や親からの評価やクラスメートからの評価、SNSでの評価。こうした第三者による評価はポジティブな作用をもたらすこともあるので一概に悪いわけではありませんが、「自分ってこうだよな」と内省をする暇もなく「あんたってこうだよね」という情報ばかり浴び続けていれば、それが脳のなかでの唯一の「自分の情報」になってしまうことは十分ありうる話なのです。
相田みつをさんの言葉で私が好きな次の名言があります。
「他人の物差し、自分の物差し、それぞれ寸法が違うんだな」
まさにその通りで、他人の物差しで自分を知ることは大切な情報ではあるものの、自分の物差しで自分を見ることもできるのが人間なのです。外部評価に依存する形で自己が形成されていくと、結果的に周囲の意見に流されたり、人から何を言われるかを気にしすぎて積極的に行動が起こせない脳になってしまいます。非常に不安定な状態であり、それをこじらせると「自分を見失う」ということにもなりかねません。
それを防ぐためにも子どもたちに自分と向き合う機会を与えていく過程で、その子の好きなもの嫌いなもの、大事にしていること、こだわり、得手不得手、やりたいこと、喜びを感じることなど、本人なりの物差しをつくっていけるようにサポートをしてあげることが大切です。
それは別に難しい話ではありません。ベースとなる考え方は、
・大人の物差しを子どもに押し付けない
・子どもの物差しを否定しない
実はこれだけの話なのです。
■「その日に起きた嬉しかったこと」を子どもに尋ねる
子どものメタ認知能力と自己肯定感を高め、同時にウェルビーイングを実現する手軽な手段として私がおすすめするのが、「その日に起きた嬉しかったこと」を毎日子どもに尋ねることです。非常にシンプルですが、効果は抜群です。
家庭でやるならご飯を食べるときに家族で報告し合うのでもいいでしょう。それなら親御さんもメタ認知の訓練ができますし、脳内に蓄積しがちなネガティブな情報を少しずつ入れ替えていくいい機会にもなります。毎日かっちり時間を決めてやる必要はありません。何気ない会話のなかに織り込んでいくことができれば十分です。
■ポイントは「毎日」やること
ポイントはできるだけ毎日やることです。内省の回路を太くするためには場数が必要であるのですが、そもそも人の記憶は本人が思っている以上に曖昧です。時間軸が長くなると大半の情報は忘却され、印象深い記憶(専門用語で「ピークエンドの情報」)ばかりが残ってしまう特性があります。
人は強い感情と紐づく記憶ほど海馬に定着しやすいため、どうしてもピークエンドの情報は「怒られた」「失敗した」「恥ずかしい思いをした」といったネガティブな体験が多くなってしまう傾向があり、日常にあった小さな幸せを忘れてしまいがちです。だから振り返りは記憶がフレッシュなうちにしたほうがいいのです。
そうした細かい情報にちゃんと気づき、そのときの感情をセットにして思い出し、共有する行為を通して、自分に関するポジティブな情報が少しずつ書き込まれていきます。しかも人に話しているうちに自分のなかでの興味関心の矛先や、大事にしている価値観、幸せを感じやすいポイントなどが少しずつメタ認知できるようになります。
■「なぜ?」「どうして?」はいらない
もうひとつ重要なポイントは、聞き手は相手の言葉をそのまま受け止めてあげることです。
私が主催するワークショップでも相手が言ったことに対して「なぜ?」「どうして?」「なにが?」とロジックを要求する人がたまにいます。もちろん自分の反応性を言語化していく作業もメタ認知のトレーニングとして大切ですが、子どもにとっては高度な技術ですし、脳の回路も一朝一夕でできるわけではありません。
そもそも人の感覚や感情は非言語的な反応ですから、必ずしも理由があるとは限りません。理由が言語で説明できないからその反応を軽視するのではなく、非言語的な反応性を大切にすることで、「良いな」「素敵だな」「楽しいな」「好きだな」といったポジティブな感情が芽生えやすい脳に変わっていきます。
実際、人の脳には前側の島皮質(Anteria Insula)と呼ばれる、感情の強度を主観的にモニタリングする部位があります。日常生活ではあまり使われる場面がない部位なのですが、嬉しかった出来事を大小あれこれと思い出すことを毎日繰り返していれば、その領域もUse it or lose it の原理で強化されていきます。すると小さな幸せであっても気づきやすい脳になるのです。
自分の内面を言語化するトレーニングは、内省が得意な脳に変わったあとからはじめれば十分です。まずは「なんでかよくわからないけど、そう感じた」という事実を受け入れることです。
■「反省会」をやめたらストレスが減った
最後に、以前私の講演に参加された男性から聞いた後日談をさせてください。
その男性はやり手の経営者で、家庭では職場と同じノリでお子さんと毎日反省会をすることが習慣だったそうです。課題意識を強く持ちながら毎日を過ごし、日々行動を改善していく典型的なビジネスパーソン発想です。
強制的にやっていたため子どもは幸せそうにはみえず、それに対して男性もモヤモヤした気持ちは抱いていたものの、「課題解決能力を身につけることは子どもの将来に絶対に役立つ」と信じて続けていたそうです。
しかし、私の講演を聞いて男性は考え方を改めたそうです。
毎日の振り返りで子どもが成長できたことや嬉しかった出来事などに意識を向けるようにしたところ、本人も子どももストレス要因がなくなり、家庭内の会話も増え、なにより幸せな気分で毎日眠りにつけることが嬉しい、と報告をいただきました。みなさんもぜひやってみてください。
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DAncingEinstein代表
高校中退後、渡米。UCLAにて神経科学部を飛び級で卒業。帰国後、脳神経科学の知見を人材開発や教育現場に生かすべく起業。世界初のNeuroEdTeck(R)という分野を開拓しつつ発明活動も行い、いくつもの特許を取得している。NewsPicksなどで露出が増えており、いまもっとも注目をあつめる、脳科学者の急先鋒。
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(DAncingEinstein代表 青砥 瑞人)
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