有名人をみて「頭が悪い、年収が低い、容姿が醜い」と落ち込む前にやるべきこと
プレジデントオンライン / 2021年7月20日 9時15分
※本稿は、中野信子『脳を整える 感情に振り回されない生き方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「人類の歴史」は「妬みの歴史」
「妬み」の感情は、脳の「前頭前野」という部分で処理しています。知識や言語体系を生み出す部分でもあり、人間の脳では、この前頭前野の領域がほかの動物よりも多くを占めています。
よく「自分の頭で考える」といいますが、それは脳の前頭前野を働かせることとほとんど同義です。人間がここまで進歩し、社会を発展させてきた原動力は、まさにこの部分の働きにあるといえるでしょう。
前頭前野で生み出される妬みの感情は、いわば銃や刃物のようなものです。相手を傷つけるために使うと危険ですが、うまく使えば、とても便利な「道具」になり得ます。
例えば、誰かを妬んだときにその気持ちを克服しようとして、己を成長させることができます。自分にはないものを持つ者に追いつこうと試行錯誤し、新しい発明をすることもできるでしょう。そうして妬みをエネルギーに変えることで、人類はここまで成長してきたともいえます。
その意味では、人類の歴史は、いわば「妬み」とその克服の歴史ともいえるのではないでしょうか。
妬みは一般的に嫌な気持ちなので、すぐにでもなくしたいと思うかもしれませんが、人間である以上はなくなりません。むしろ道具として、うまく活かすことを考えるほうが、いいことをたくさん生み出す可能性が高まるでしょう。
■「書き出し、自分を知る」妬みの感情に振り回されない方法
自分が誰かに妬みの感情を持ったときは、「相手のどんな部分に妬みを感じるのか」を、突き詰めて考えてみてください。
自分よりも頭がいい、年収が高い、容姿が美しい……。たいていの場合、妬みの要因となるものが複数あるはずです。気分はあまりよくないかもしれませんが、ひとつずつあきらかにしていきましょう。
ポイントは、それらを紙に書き出すこと。頭だけで考えていても、気持ちが乱れるばかりで、妬みの感情はなかなか解消に向かいません。
紙に書き出すことができたら、次はその妬みのリストを見て、「自分はどうすれば満たされるか」を考えてみてください。自分が本当にほしいもの、自分がありたい状態を思い描くのです。
それは相手と同じ土俵に立ち、相手を超えることかもしれません。あるいは、相手が持っていない能力を磨くことかもしれません。自分のやるべきことが明確になれば、妬みの感情があなたのエネルギーへと昇華されていきます。
妬みの感情に振り回されず、むしろ徹底的に向き合うことで、妬みをいいかたちで転換していく道筋を描くことができるはずです。
■他人と比較してはいけない
自分とほかの誰かとを比べてしまうとき――自分がその誰かについて知っていることと、相手が自分自身について知っていることの量には、かなりの差があります。誰しも自分のことと同じように、他人について細かい事情がわかるはずがありません。
自分自身については、これまでどれだけがんばってきたのか、どんな逆境があり、それをどう乗り越えてきたのかをよく知っています。そんな主観によって自分と他人とを比べてしまうから、心が騒いでしまうのです。
でも、その相手だってそれは同様です。
あなたには見えない苦労や努力を、どこかで必ずしているのです。毎日24時間、あなたは相手のことを見ているわけではありません。まったく同じ種類の経験ではないでしょうが、ただ「なにもせずうまくいっている」わけではないはずです。
このように、誰かと比べて落ち込むときは、相手についての情報量が決定的に不足していることを忘れてはなりません。
人はうまく自分の価値を測ることができないため、つい身近にいる他人や、遠くにいる有名人などと自分を比べてしまいます。しかし、自分以上に知ることはできない他人と比べて落ち込んでいても、自分自身は前に進んでいけません。
そのことに気づく必要があります。
■「自身不足は情報不足」自分の売りを把握するメリット
つい他人と比べて自信を失いがちな人は、「自分と他人はこんなに違う」という事実を確認する意味でも、あらかじめ自分の「売りポイント」を明確にしておくといいかもしれません。
要は、「己を知る」ということです。自分の経験や実績、自分のいいところなどを、「売りポイント」として語れるように洗い直しておきましょう。
実際に文字で書き出していくと、思考を客観視できて案外いろいろなポイントが見つかるはず。他人がどう思おうと、自分が自信を持てるならどんな些細なことでも構いません。どんどん書き出してみてください。
こうしてふだんから「売りポイント」を意識していると、少しずつ自信を養うことができます。
誰かに酷いことをいわれたとしても、「あなたがどう思おうと自由だけど、わたしはこれを誇りに思っているので、それをけなされるのは困る」と、きっぱり言い返せるようになります。
そんな経験の積み重ねによって、少しずつ自信が育まれていくはずです。
■最も危険な「友達の顔をした嫉妬魔」
他人に対してあまり妬みを感じなかったり、忘れてしまったりする人は、自分が妬まれていることにも気づけないものです。でもこれは、無防備なところに刃物を向けられているような状態であり、危険な状況といっていいと思います。
面と向かってなにかをいってくる人はまだましなほうかもしれません。いちばん怖いのは、友だちの顔をしながら深く妬んでいる人です。
その人は自分に対して好意を持っているけれど、同時に妬ましい気持ちも持っている。人間はそんな複雑な感情とともに生きているわけです。
他人の妬みを解消する確実な方法はありませんが、いくつか試してみたい手段はあります。
いちばん楽なのは、関係を遠くしてしまうこと。近しい間柄であるがゆえに、勝手に比べられて、妬まれてしまう場合が多いからです。
人心の扱いがうまい人なら、相手のほうにこそ、妬んでいる気持ちを後ろめたく思わせられるかもしれません。また、これはかなり難しいのですが、もしそこに上下関係があるなら、「その気持ちを大事にして成長してね」などと、相手にアドバイスすることもありでしょう。
いずれにせよ、誰かが自分を妬んでいるかもしれないと想定し、ふだんから身を守る方法を考えておくことが大切です。
■優劣をはっきりさせてしまうのもあり
他人の妬みを回避するための方法は、ほかにもふたつほど考えられます。
ひとつめは、自分のダメなところを見せること。
相手は、おそらくあなたのキラキラした部分だけを見ている可能性が高いため、「こんなダメなところもありますよ」と、欠点もちゃんと見せておくのです。すると相手は、「なんだ、欠点もあるんだ」と安心して、妬みがやむことがあります。
ふたつめは、逆に「あなたとわたしはこんなに違う」とはっきりさせること。
人は「近い距離にいる」「同じ地平に立っている」と思う相手に、妬みの感情を抱きやすくなります。そこでもし、自分に優れた面があるなら、それを相手にはっきり認識させておくこともひとつの手です。
ふたつめの方法は少し高度なテクニックですし、伝え方を間違えると嫌みになったり、怒りを買ったりする場合もあるので、相手の性格を考慮しつつ様子を見ながら試すことをおすすめします。
■嫌いな人との時間を学びに昇華する
自分が嫌いな人というのは、多くの場合、自分が理解できない性格や価値観を持つ人、もしくは反対に、自分とかなり似ている面を持つ人です。
嫌いな人と会うことは、脳をとても疲れさせます。ですので、ほとんどの人はそんな場面を極力避けようとします。もちろん、可能な場合には、わたしもそうすることがしばしばあります。
でも、仕事や生活のなかで、どうしても嫌いな人と会わなければならない場面もある。そんなとき、ただがまんしてストレスをためるのではなく、逆に自分にとって大切なことを学ぶ機会なのだととらえてみましょう。
自分とまったく違うタイプの人なら、きっと自分にはない考え方を学べるでしょう。「なぜわたしはこの人がこんなに苦手なのか?」と観察することで、自分についての理解も深まります。また、自分と似た面を持つ人なら、「他人から自分はどう見えているか」を知るための貴重な機会になり得ます。
嫌いな人と会って嫌な気分になるだけでは、自分だけが損しているようなもの。嫌いな人と会う時間を、積極的に自分のための学ぶ機会に変えてしまいましょう。
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脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。
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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)
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