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「自力で新製品を創出すべきだが…」お客だった中国企業に脅かされる韓国企業の大ピンチ

プレジデントオンライン / 2021年10月18日 11時15分

2021年10月8日、韓国・ソウルのサムスン電子本社にあるサムスン電子のギャラリーを訪れる韓国人男性。サムスン電子は10月8日、第3四半期の7~9月期の営業利益が73兆ウォン(612億米ドル)となり、前年同期比で9%増加したと発表した。 - 写真=EPA/時事通信フォト

■業績好調の韓国大手企業に“陰り”が

10月に入り、韓国の大手財閥系企業であるサムスン電子や、同社と並ぶメモリー半導体の世界的大手メーカーSKハイニックスの株価が不安定に推移している。デジタル家電や液晶パネルなどを製造するLGエレクトロニクス(LG電子)の株価も同様だ。

これらの企業は、新型コロナウイルスの感染が再拡大する中で、世界の需要を迅速に獲得して業績につなげた。具体的には、テレワークや巣ごもり需要の増加を背景に、パソコンや高性能サーバー向けの半導体やテレビなどのデジタル家電需要が急速に増加した。特に、韓国企業が世界的シェアを持つDRAMや液晶、および有機ELパネルの需給は一時逼迫した。

しかし、足許では一部のメモリー半導体などの需給バランスに落ち着きの兆しが出始めた。そのため、サムスン電子などの業績拡大ペースの鈍化を警戒する主要投資家が増えている。また、中国経済の減速懸念や世界的なインフレ懸念など韓国経済にマイナスの影響を与える要素も多い。徐々に韓国経済の先行き懸念は高まる可能性がある。

■サムスン電子の株価を左右する投資家の心理

サムスン電子の業績は好調だ。10月8日に同社が発表した7~9月の決算(速報)では、連結ベースの営業利益が前年同期比で27.9%増加の15兆8000億ウォン(約1兆4800億円)に達した。主な要因は、メモリー半導体事業の成長などだ。なお、10月下旬に同社は正式な決算を発表する。

好調な決算見込みにもかかわらず、サムスン電子の株価は不安定に推移している。その意味は、世界の主要投資家が同社の収益環境が不安定化するとの懸念を強めていることだ。その一因が、パソコンの一時的なデータ保存に用いられるメモリー半導体であるDRAM価格の下落だ。

足許、主要先進国では感染再拡大が落ち着きはじめ、徐々に動線の修復が進んでいる。それによって、テレワークや巣ごもり需要が支えたパソコンの需給が落ち着き始めた。その結果、DRAMなどメモリー半導体の需給逼迫がやわらぎ、パソコンメーカーはメモリー半導体を確保しやすくなっている。そのため、DRAMの価格が下落し始めた。それは、世界のDRAM市場で約42%のシェアを持つサムスン電子と約29%のシェアを持つSKハイニックスの業績にマイナスの影響を与えるだろう。

■米中の経済不安が韓国企業に波及している

パネル価格も調整し始めた。巣ごもり需要などに支えられた大型テレビの需要が一服したことなどを背景に、液晶と有機ELパネルの両方で価格が下落している。主なテレビ需要地である米中経済の先行き懸念の高まりもパネル価格にマイナスだ。

米国ではガソリン価格の上昇などを背景とするインフレ懸念の高まりや、今後の財政支出への不透明感から、消費者心理が不安定化している。中国でも貧富の格差の拡大や経済の成長率が鈍化するとの懸念を背景に、節約をより重視する消費者が増えているようだ。

その状況下、サムスン電子やSKハイニックスなど韓国IT先端企業の事業運営の先行き不透明感が高まっている。韓国株式市場の時価総額に占める両社の割合は大きく、韓国総合株価指数(KOSPI)の値動きも不安定だ。なお、DRAMと異なり、最先端のロジック半導体や車載向けの半導体の不足は2022年末、ないしは2023年の年初頃まで続く可能性がある。

サムスン
写真=iStock.com/KreangchaiRungfamai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KreangchaiRungfamai

■重要顧客だった中国が一転して“ライバル”に

競争の激化懸念も韓国主要企業の業績懸念を高める要因だ。

メモリー半導体やパネル分野で、共産党政権による産業補助金などの支援によって、中国企業は韓国企業にとっての重要顧客から競争上のライバル(脅威)に変わり始めた。NAND型フラッシュメモリー分野では長江存儲科技(長江メモリー・テクノロジーズ、YMTC)が製造技術を高めている。パネル分野では京東方科技集団(BOE)が米アップル向けに有機ELパネルを供給している。また、スマホ分野でも中国のシャオミなどが世界シェアを獲得している。

米国の制裁によって、ロジック半導体などの分野において中国の大手ファウンドリー(半導体の受託製造企業)である中芯国際集成電路製造(SMIC)の先端分野の生産ラインの立ち上げは遅れている。新しい需要創出に不可欠な最先端の製造技術を中国が自力で生み出すことは難しいといえる。

しかし、すでに実用化された汎用型の製造技術に関して、中国企業は急速に実力をつけている。それは、日米などからの技術移転や高純度の半導体部材や製造装置の調達によって大量生産体制を迅速に整え、輸出を増やしてきた韓国経済にとって大きな脅威だ。逆に言えば、自力で新しい製品を創出できるか否かが、韓国企業に問われている。

■中国に追い上げられ、台湾との差は開くばかり

他方で、最先端の製造技術の分野では、サムスン電子が成長分野として一段と重視するファウンドリー分野で台湾積体電路製造(TSMC)がロジック半導体の回路線幅を小さくする微細化技術を強化し、最先端の製造技術の向上を推進している。一時的な需給の変化があったとしても、中長期的に世界経済のデジタル化関連投資は増加基調を維持し、最先端のロジック半導体需要は増えるだろう。

複数の事業を抱えるサムスン電子がファウンドリー特化のTSMC以上のスピードで最先端の製造技術を開発することは容易ではない。やや長めの目線で考えると、サムスン電子などの韓国企業は、汎用品分野では中国勢に追い上げられ、韓国政府が重視する半導体産業では最先端の製造技術の点でTSMCとの差が拡大する恐れがある。

■韓国経済の回復ペースが鈍化する2つの要因

今後、徐々に韓国経済の回復ペースは鈍化する可能性がある。それは、外需と内需に分けて考えると分かりやすいだろう。

まず外需に関して、目先、世界のDRAMやパネル需要が追加的に減少する可能性がある。それは、韓国の経済成長を支えてきた輸出の減少要因だ。

半導体業界の専門家からは、2022年にDRAM価格が15~20%下落する可能性があると指摘が出ている。サムスン電子が液晶パネル事業の撤退時期を先送りしたこともあり、世界的にパネルの需給が緩み、価格に追加的な下押し圧力が加わるとの見方もある。そうした展開が鮮明となれば、韓国経済の成長を牽引してきた半導体などの輸出の増加ペースは徐々に鈍化するだろう。

また、中国では不動産デベロッパーのデフォルトリスクが一段と高まっている。本格的なデフォルトの発生は不動産市況の悪化につながり、中国の景気減速が一段と鮮明になるだろう。それは、韓国の対中輸出の減少につながる恐れがある。汎用型の半導体、自動車、デジタル家電などの対中輸出が減少すれば、韓国国内での設備投資にもマイナスの影響が及ぶ可能性がある。

■世界経済の減速リスクは高まっている

次に、内需に関しても先行きの不確定要素が増えている。特に、“エネルギー危機”と言われるほどに天然ガスや石炭、原油の需給が逼迫し、世界的なインフレ懸念が高まっていることは大きい。それは、エネルギー資源や化成品などの基礎資材を輸入する韓国の内需を圧迫するだろう。

インフレ懸念を抑えるために韓国銀行は追加利上げを重視しているが、追加利上げの実施は家計の資金繰りにマイナスの影響を与え、内需を追加的に圧迫する恐れがある。感染再拡大の影響も軽視できない。足許、輸出を中心に韓国経済は相応の堅調さを維持しているが、徐々に景気は減速する可能性がある。

重要なことは、メモリー半導体やスマホなどの世界シェアが高いサムスン電子などの株価は、世界経済の今後の展開に関する主要投資家の見方を機敏に反映することだ。サムスン電子など韓国主要企業の株価の不安定感の高まりは、世界経済の減速リスクが高まっていると考える投資家の増加を示唆する。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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